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商会襲撃事件

「それで、ポルツァーノ商会に行ってた騎士の行方が判んないと」

ビトゥフの城塞の一室に設けられた法務官の事務所で部下達の報告を聞いていた法務官のダニエルだが街の兵士を総動員して、騒動に関係しているであろう騎士の行方を追ったが、全く痕跡がなかった。


「ええ、自宅には戻ってませんね」

昨日、ポルツァーノ商会にはダニエルが赴き、聞き取り調査をしたのだが、積み荷に金銀が混ぜられていた理由が判別せず、騎士の足取りも不明。一方、件の騎士の自宅に向かった部下も、騎士の妻と子供達から事情を聴いたが、朝方騎士団の館に出勤して以降、帰宅していないと聴かされた。


「あー、参ったねぇ。参った参った」

口では“参った”と言いながら、法務官はコートを手持ち、出かける準備を始めた。

「どちらへ?」

「金銀を仕込んだ場所を探しにいくよ!最初は商業地区から」




「で、大体さ。荒鷲の騎士団はルサンチマン的な行動に支配されてるけど、そもそもは、ヴィルノ族を破滅から何度も救ってきたわけじゃん」

「へい…」

法務官のダニエルがいつもの癖で、移動中も喋るので部下3人は適当に相打ちを打っていた。


「で、最近の退廃的な行動に対する罰を彼等にだけ課すのではなくてな」

正直、異世界で確立した概念を使うので、転生者ではない部下からすれば右から左だが、黙ってると余計に喋るので、判った振りをしていた。


「勿論、必要悪なんて便利な言葉なんて使わんさ。道徳的に奴隷の扱いは責められるべきで……。って、また工事中かい」

商業地区には入れたが、商会が建ち並ぶエリアに向かう道が工事中の看板に何度も出くわし近付けずにいた。


「ちょっとー!おーい!」

遠くに工事の作業員っぽい男を見掛け、ダニエルは叫んだ。

「法務官なんだが、公務で急いでるんだ。通っても良いか?」

作業員の男が声に気付き、ダニエルの方を見たが直ぐに顔を背け、物陰に隠れた。


「何だ?」

勝手に通ろうかとダニエルが一歩進むと、目の前でどっかの商会が爆発し、ダニエルと部下3人は数メートル程吹き飛ばされた。


「うんあ!?」

部下3人がクッションになり、ダニエルは怪我をしなかったが、耳が良いせいで耳鳴りが酷く平衡感覚が麻痺し、立ち上がろうとしたが、どっちが地面だが空なのか判らず、建物の壁を掴みながら何とか片膝をつくことができた。


作業員が消えた物陰や、通行止めの看板の向こう側で人が爆発の有った商会に集まるのが見えた。

「立てるか?」

部下達も似たような状況で、何とか立ち上がろうとしていた。


「現場に向かうぞ」

そうは言ったものの、まだフラフラしていたダニエルは一歩踏み出すことも叶わなかった。




「うあ…誰か…」

爆発が起きた商会では1階のロビーに設置されたフロント部分が吹き飛び、カウンターで接客や手続きをしに来た商会員の対応をして居た商会の職員達が、木製の事務机等と一緒に壁際に吹き飛ばされ。運が良い者は爆圧や、飛んで来た物や人がぶつかり即死したが。


「た、助け…」

運悪く助かった者は耳がイカれ、状況が飲み込めないまま、近付く人に助けを求めた。


「急に、忘れ物の鞄が…」

意識を失う前に何が起きたか告げようとしたが、頭を吹き飛ばされて絶命した。


「急げ!衛兵が来る前に終わらせるんだ!」

商会に雪崩れ込んだ男達は、皆一様にポンプアクション式の散弾銃を持ち、中折れ帽を被りトレンチコートを着込み、絵で描いたような50年代のマフィアスタイルだった。


十数人の男達は生きている者を手当たり次第に散弾を浴びせ、奥の倉庫へ押し入った。

「伏せろ!」

襲われている商会の職員も、ただやられているつもりはなく。倉庫に積み上げられた商品を倒しバリケードを作り、銃で応戦してきた。


「誰だアイツら!?」

何で襲われているのか心当たりが無いが、職員達は必死に単発式の前装式ライフルやリボルバー式の拳銃を襲撃者が入ってくる入り口方面に発射し続けた。


「回り込むぞ」

倉庫は吹き抜けになっており、建物の3階分の高さに屋根が有るので、襲撃者の一部は側面に回り込み、積み上がった商品をよじ登るつもりで走りだした。



「っ!」

建物の正面側から新たな銃声が聴こえ、職員達に緊張が走った。

「事務所の方だ……」

建物の2階は事務所、3階には商会長の部屋があった。


「えい、クソォ」

職員の1人が小銃の装填を終え、襲撃者に向け発泡しようと物陰から顔を出したのだが。


「伏せてろよ」

回り込んだ襲撃者の1人が右手の指先に着けた火で火炎瓶に点火し、顔を出した職員に投げ付けたのだ。

「兄貴ぃ!」

目の前で職員が炎に包まれ、他の職員が叫んだ。


「撃てぇ!」

側面に回り込んだ襲撃者が一斉射撃を開始し、職員達はその場に倒れた。

「良いか!合図があるまでタイマーは仕掛けるな!」

襲撃者達は大きな鞄を倉庫の真ん中に置くと合図を待った。




2階の事務所でも惨劇が繰り広げられていた。

逃げる事が出来ない場所に居合わせた職員達は机の下に隠れたり、部屋の入り口にを家具で塞いで必死の抵抗をしているが、襲撃者達はドアが破れなければ壁を破り、職員を1人、また1人と射殺して回っていた。


「いや、止めて!」

相手が女だろうが襲撃者はお構い無しだった。

また、明かり取りの為に各部屋には窓があるため、職員の中には窓から飛び降りる者も居たが、建物の正面は襲撃者が固めており、顔を出した所を撃たれていた。


「3階へ急げ!」

襲撃者の大半は書類を漁っていたが、一部は3階の商会長の部屋を目指していた。


「あああぁぁぁ!」

腕に覚えが有る職員が剣を抜き、3階へ向かう襲撃者に斬りかかった。

「ぬぅあ!」

先頭を行く襲撃者が振り下ろされた剣を散弾銃で捌き、前から2番目の襲撃者が散弾銃を構えた。

「おまっ!」


職員が銃弾を叩き落とそうと剣を構えたのだが、再び斬りかかってくると感じた2番目襲撃者は、先頭の襲撃者の顔面の近くに銃口が有る状態で引き金を引いた。


「ぅあ!」

小銃弾やスラッグ弾と違い、1射辺り10発近い弾丸が襲ってきたので、職員は弾丸を防ぎきれず、その場に倒れ込んだ。

「うがぁぁあ!何しやがんだ!畜生!」

「…………」

先頭の襲撃者が振り返り、文句を言ったが相手が何を言っているのか聴こえなかった。


「ああ"!何だてめぇごらぁ!」

「………」

「………」

どうやら鼓膜が破れたようなので、しょうがなく、1人が1階に連れていき、他の襲撃者は3階に上がって行った。


「倉庫は確保しました。馬小屋と奴隷の宿舎は現在調査中です」

地下の金庫室が爆破され、1階のロビーに振動と砂煙が吹き込んできた。

「記録はどうだ?」

襲撃者のリーダーが床に倒れた職員の死体を足で転がしながら状況を確認した。

「2階で幾つか売買記録を見付けました、3階の商館長の部屋にも人をやって、記録と商館長を捜させてます」


リーダーが拳銃を抜き、死体の眉間を撃ち抜いた。

「急がせろ、表に法務官のダニエルが居るのを見た奴が居る」




「ダニエル様、一旦下がりますよ!」

「いいや!これ絶対事件だから行くもんね!」

リーダーの杞憂とは裏腹に、法務官のダニエルは巨漢の部下に引きずられ、商会から離れていた。



「離れろ!」

商館長の部屋に通じるドアが内側から施錠されていたので、襲撃者達はドアの蝶番とドアノブを撃ち抜き、扉を蹴破った。


「ああ、わああぁぁ!」

「きゃあぁぁ!」

部屋の片隅に商会長と妻が居たので、襲撃者達は2人に何十発も散弾を叩き込んだ。

「トニー、金庫を調べろ。他は書棚だ」





「だから、ダニエル様は動かないで衛兵に任せてりゃ良いんですって!」

3人居る部下の内、まるでアメフト選手のような巨体を誇る部下に担がれたダニエルは相変わらず反対方向へ運ばれていた。

「大して怪我なんかしてないし、衛兵だって直ぐに来ないでしょうが!」

路上に出てきた野次馬を掻き分けつつ、ダニエルの家に向かうが、道が混んでて中々進めずにいた。


そんな状況だったが、再び商会の在る方角から激しい爆発が起き野次馬と部下達は商会の方を振り返った。

「っちょっと、見えない見えない!」

地面に下ろされたダニエルは立ち上がる砂塵と建物が崩れる音を聴いた。


「あー、これ絶対誰かの陰謀だよ…」

行方不明の騎士に続き、商会が1つ潰れた事件が降りかかってきたので、ダニエルは頭を抱えた。

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