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グエラ将軍

丸太に木の杭を十字に結び付けた距馬の隙間を抜け、兵士の後を追いショーンが塹壕に降りると、中に居た兵士達は端に寄り、通路を開けた。

「こちらです」


案内されるまま、細い塹壕を通り抜けスロープを抜け地表に出ると、大砲が4門備え付けられた砲塁の目の前に出た。

「どっからコレを?」

見た感じ、4門とも青銅製だが形にバラつきがなく、また土嚢の隙間から椎の実型の砲弾が見えたので、昨日今日造った即席の兵器ではないことが見て取れた。


「…」

(やれやれ、だんまりか)

答えは期待はしていなかったが、大砲が造られたのは少なくとも個人ではなく大型の工房。それも最低でも機械を使える場所でなければ、どうしても形にバラつきが出る。FELNを支援する組織が大きいことは大いに想像できた。


先導する兵士は堡塁の脇を通り、300メートルほど草原を歩いたところで大きなテントに案内された。

「将軍お連れしました」

テントの中には人狼の男2人、女1人、人間の男1人が地図を広げた長机の前に立っていたが、ショーンが入ってきたことに気づき、全員テントの入り口に立つショーンを見た。

「さて、ショーン・ランバート軍曹を名乗ったわけだけど…。何か証拠でも?」


最初に口を開いたのは、人狼の女だった。

「証拠…ああ、有る。というか、俺のファミリーネームはランバートじゃない、ライバックだ。ランバートは親父の従妹の夫のファミリーネームだ」


女が他の3人の方を向き、「合ってる?」と聞いた。

次に人間の男が口を開いた。

「ドイツから復員する前の晩にパオロとポーカーしたよな?幾ら勝った?」

「いや、俺はあの時ポーカーはしてない。パオロとポーカーをしてたのはロンとフランツだし、あの時ロンがイカサマしてるのが判って2人でロンを湖に突き落としてたろ」


全員の目が泳ぐ中、人狼の男が次の質問をした。

「ノルマンディーで脚を撃たれてたよな?」

「いや、俺はかすり傷と捻挫ぐらいだったぞ」


どうも、さっきから質問の内容がズレているが、“わざと違う質問をしてホントの事を言わせている”

とショーンは感じていたが、女が「彼を外に出して」と言うと4人が集まり、ショーンがテントの外に出ると同時に溜息が聞こえてきた。


「…なんで……」

「だって…………」

どうも、質問の内容が違っていたらしく、中の4人が揉め始めた。

「しょうがないだろ、50年……」


「なあ、誰がグエラ将軍なんだ?」

“そういえば、誰なんだ?”と疑問に思い、一緒にテントから出た兵士に尋ねてみた。

「いや、俺も知らなくて」

「…まあ、写真とかねえからな」


写真がないと、結構不便なものだ。

ショーンはテントの中の声に聞き耳を立てるのをやめ、塹壕の方に目をやった。


「おい!」

さっきまでテントに居なかった、人猫の若い男にショーンは手首を掴まれた。

「今度は何だい!?」


「……パリで休暇中に金貸したよな!?…返せ!」

背は高いが、まだ10代後半といった幼い顔立ちの男に凄まれたが、正直似合わなかった。

「…パオロ?」

「…早く……返せや!」


手首を掴む手に力が込められた。

「あー。5フランだったな」


ショーンは正直に答えたのだが、人猫の男に投げ飛ばされ地面に仰向けの状態で倒れた。

「ぁ!?」

「利子付けて、金貨1枚で許してやる」

「…っちょと高くなーい?」


ショーンが右手を上げると、男は左手で掴み、ショーンを立ち上がらせた。

「当たり前だろ。前世の50年プラス今世での18年分の利子だ」

起き上がったショーンとグエラはお互いにハグした。


「変わんないな…」

ショーンとグエラは離れ、お互いの姿を確かめた。

「見た目は変わっちまったがな。ところで…、老けてんなお前。何歳だ今?」

「もう30だ」

「俺よりも12も早く生まれ変わったのか…。今まで何してた?」


テントの中に入るように促しながら、グエラはショーンに質問した。

「鉱山の管理人の家に生まれて、12までそこに居たけど家出して、チェスワフ部族長に拾われて冒険者をしてたんだ。フランツと君がヴェトナム戦争時代に部下だったデイブって男と基本的に行動してるよ」

グエラが驚いた表情をし、耳を立たせた。

「チェスワフ部族長と知り合いなのか!?すぐに会える立場か!?」

「…いや、そこなの?」


デイブはともかくとして、フランツが転生している事に食いつくかと思いきや、チェスワフ部族長の事に食いついたので、ショーンは呆気にとられた。

「フランツが居ることはポルツァーノ氏から聞いてたからな。それより、ヴィルノ族の部族長と交渉が出来るパイプ役が欲しいんだ。今回の蜂起の事があるし」


ポルツァーノ氏から何を聞いたか気になるが、取り敢えず保留にして用事を先に済ませることにした。

「それなら部族長より上の人から手紙を受け取ってるよ。誰だと思う?」

テントの中に在る、会議用の椅子に2人は腰掛けた。

「手紙…ああ、そうだったな。手紙を持って来たんだったな…。佳代さんの今の父上ピウスツキ卿か?」

外したのでショーンは短く笑い。勿体ぶりながら隣の椅子に座ったグエラに懐から出した手紙を見せた。


「なんと、魔王様の妹君のニュクス様からだ」

場が和やかになるかと思ったが、テントの中の空気が凍り付き、一同の表情が曇った。


「…なんでお前が魔王の妹からの手紙を持ってるんだ」

”ただ、身分が上の人からの手紙だから驚いただけだろう”と、ショーンは思い。事の経緯を面白おかしく説明しだした。

「いやさ、最初は1週間ぐらい前かな?クヴィル族のミハウ部族長の孫が誘拐されたからって言うんで、捜索隊に参加したんだけど。その時に昔の冒険者仲間の息子と一緒に魔王様の指揮下に入って神聖王国の兵士相手に戦ったんだわ。で、そのすぐ後に魔王様のもう一人の妹のイシス様に依頼されて今朝まで一緒に神聖王国やナチ相手に大暴れしてたんだわ」


周りの兵士が剣を抜いたので、ショーンは自分の剣に手を掛けた。

「待て!」

グエラが剣を抜いて近づこうとした周りの兵士を大声で制止した。


「…見ての通りだ。俺達は魔王と組む奴は誰だって許さんつもりだ。……だが、何で…。何でお前が魔王の傘下に?この世界がおかしいのは魔王が原因でもあるんだぞ」

良くも悪くも、歴代魔王達は強権をふるい。人狼だけでなく、周りの、時には世界中の魔王やその配下の人種を巻き込んだ争いを繰り返してきたのだ。

今回、FELNの一派として蜂起したグエラ達の目的は“魔王とそれに迎合する部族長、騎士団の排除”だとはショーンは知らなかった。


「…正直、俺とフランツやデイブは魔王なんかと距離を置いて、関りを持たないつもりだったんだ。だから、ギルドから“警護”任務を言い渡された時も適当に済ましてしまおうと考えてたんだ。だが、最初に接触したフランツが“そこまで悪い奴じゃない”って言いだしてな。正直、俺とデイブは半信半疑だったけど、魔王様は“獣人症”を発症した若造を助けたばかりか、怪我した冒険者や騎士団の応急手当までしてくれたんだ。それと、ロンが魔王様の身辺を警護してたが、同じく“いい人だって”…」

「ロンが!?」


アルトゥルこと、ロナルド・ハーバーの名前を出したところ、全員が色めき立った。

「ああそうだった、言ってなかったな。ロンも転生してて、今は魔王様と“憲法”を作るとか、“民主国家”樹立するつもりでいる」

「憲法ったぁ、アイツらしい大風呂敷を広げたもんだなあ」

昔から、デカいことを言っては、それを達成するタイプだったが、まさか一気に“民主国家”を作ろうとしている事に、グエラは半分呆れた。


「多分、手紙の内容もそれに関するんじゃないかな?佳代さんも君が街を破壊する前に渡したいって言ってた物だし」

ショーンから手紙を受け取り、グエラは慎重に蝋を剥がした。


「…やれやれ。って事はロンと佳代さんは夫婦揃って魔王様に入れ込んでるわけか」

「あ!」

グエラが中の便箋を出そうとした瞬間にショーンが叫んだので、グエラは慌ててショーンの顔を見た。


「どうした!?」

何か魔術的な仕掛けをしてある手紙だったのかとグエラは身構えた。

「いやさ…、佳代さんに“ロンが転生してる”事を伝えてなかった……」

「あー…。そういえば、蜂起前に手紙をやり取りしたけど、“夫を捜してる”って返事の中に書いてあったぞ」


“うっかりしてた”と、ショーンは思ったが、今更伝える手段もなかった。

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