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トマシュの失恋?

「あれ?」

騎士団長のランゲは魔王に会うためにエミリアを探したが何処にも居なかった。


「ちょっと、君?」

「はい、なんでしょう?」

埒が明かないので、ランゲは目についた人狼のメイドに声を掛けた。


「エミリアさんと魔王様はいらっしゃいませんか?身辺警護について打ち合わせをしたいのですが」

「御2人は街に出ていかれました」

「え?」

不穏な動きがあるので、外出を控えてもらおうとした矢先に、魔王が外出中だと聞き、ランゲは慌てた。

「この事は誰か知っているのか!?」

「え、…はい。マリウシュ様とミハウ様が」


部族長2人の名前を聞き、ランゲはミハウの部屋に走った。

「ミハウ部族長!一体どういうおつもりで!?」


部屋に入ると、ミハウは机に項垂れながら水を飲んでいた。

「あー…、大声を出さんでくれ。二日酔いなんだ」

「魔王様を何で外に出したのですか!?危ないことは」


頭にランゲの声が響いたので、ミハウは右手を上げて、発言を制した。

「問題ない、転生者のポーレ族の兵士を2人付けさせた。元軍人で身元もしっかりしてるから大丈夫だ」

「…本当でしょうね?」 


護衛は付いてるとは言われたが、今一不安なのでランゲは冒険者ギルド長のエーベル女史にも護衛の応援を頼むことにした。





「まだ顔が赤いけど、大丈夫?」

ひた()ひた()い」


痛みのお陰で小恥(こっぱ)ずかしさは収まったトマシュだったが、代わりに口中を火傷して痛い思いをしていた。

「ちょっとお皿持ってて」

トマシュが皿を受け取ると、イシスは両手を僕の顔にかざした。

「動かないでね」


口の中の痛みが段々と消えていくのがわかった。

「口を開けて………。大丈夫みたい、治ったよ」

「え!?」

恐る恐る、トマシュは舌を使い。火傷の状況を確認した。

「スゴいや!虫歯も治ってる!」

右下の奥歯に出来ていた虫歯も綺麗に治っていた。

「ついでだから治したんだけど、そんなに…スゴいのかな?」

「スゴいよ!普通、虫歯一本を治すのに半日は掛かるしお金も金貨一枚は要るよ!」

それが一瞬で五本も治ったので、トマシュは興奮しきりだった。


「そうなんだ」

「そうだよ、冒険者でも他人の怪我を治せる人は、それだけで有名人だよ!」

イシスが困った表情なのか、右の人指し指で頬を掻きながら苦笑いした。

「子供の頃から、兄妹で怪我を治してたから」



「クヴィル族及び同朋のポーレ族に部族会議での議決を達する!」

イシスの耳と尻尾がビクリと反応した。

「ビックリした………※公示人か」


※議会等で決まったことを広場等で示達する人


「普段だったら部族会議が終わった直後に公示するけど、何か有ったのかな?」

先月は魔王様を召喚するので住民から寄付を募ると公示された位だったので。トマシュは“貧乏人には関係が無い話だったから”と聞き流していた。


「もしかして、カエが色々と民会で喋ったからかな………」

「カエ?って誰?」

「昨日、会ってるよ。“元”兄の人格」

トマシュが怪訝な顔をし、右耳を倒した。

「桶のお湯をカエに浴びせたでしょ?」

「え!?アレは君じゃ?」


イシスが少し困った顔をした。

「うーん、実は私と貴方と“直に”会うのは今日が初めて………なんだ」

返答の意味が理解できずに、トマシュは首をかしげた。


「まさか。昨日、君と会ったときの匂いと今の君の匂いは同じじゃないか!」

それに、“兄”とか言っているが、匂いは女の人の匂いなので、トマシュは益々困惑した。

「その………三兄妹で1人の身体を使っている………って言えばわかるかな?」

「何で?」

「3人で死霊術で遊んでたら、魂がくっついちゃって………」

「なんじゃそりゃ?」


“糸で遊んでて、こんがらがった”みたいなノリでさらりと凄いことを言ったのでトマシュは軽い目眩を覚えた。


「元々が三つ子だから魂の型がほぼ同じだったのもあるみたい。で3人共、一度は死んだんだけど。神様から“仕えないか?”って言われて、カエが勝手に返事して今に至るわけで」

神様に仕えている人を魔王様として召喚すると、ヤツェク長老が言っているのを聞いてはいたが、今更ながら大丈夫なのかと、トマシュは心配になった。



「魔王様からの要望である!兵士に志願したい16歳から30歳の自由人と半自由人の男性は、所属する部族長に名乗り出ること!!今後の目標は、“夏を目処にポーレ族の領地に攻めいった人間の討伐を行う”との事である!!」


(夏に討伐を行う?とうとう戦になるのか…)

鎧や槍は借り物で、商人から買い取るだけの貯金をトマシュは用意できていなかった。

「なお、“軍装一式の用意は不用。全て軍から支給の形を取る”との事である!!」

(マジで!?)

「イシス、僕みたいな見習の兵士も支給されるの?」

「え!?あ………。ちょっと待って」

「君達、見習い兵士は除隊させるつもりだ」

「え?」

イシスの瞳が両方とも茶色に変わり、声のトーンが少し低くなって、喋り方も昨日みたく落ち着いた感じになった事から、例の“元”兄の人格に切り替わったのをトマシュは理解した。


「ちょっと待って下さい。他に仕事が無いんです!」

「まあ、待て。ミハウ部族長の孫のエルノを講師に迎えて、魔法学校を設立するつもりだから、ソコに入ってもらう。ソコで魔法を覚えれば仕事には困らんだろ?」


先の事よりもトマシュは今が大事だった。

「魔法を学べるのは嬉しいのですが、どうしてもお金がいるんです」

「何故?」

「母さんが病気で………」

ホントは呪われてるのだが、伯母には病気って事にしとけと言われてるのと、イシスには知られたくないのでトマシュは誤魔化した。

「他に家族は?」

「父さんは僕が5歳の時に死にました。冒険者だったんですが遺跡に潜っている時に。兄弟は居ません。僕は独りっ子なんで」

「そうか………」

魔王が腕を組もうとして胸に弾かれたが、再び腕を組み直した。

「考えて置くが、お前は戦には出さんし、一度兵士を辞めてもらう」

魔王の瞳が一瞬で紫色に戻った。


「っと」

イシスが周りをキョロキョロと見渡した。

「こんな感じで、人格を切り替えているんだ」

「君との会話とか、他の2人にも聞かれてるの?」

「一応、他の2人に聞かれない様に、記憶に蓋が出来るんだ。と言っても、カエは私の記憶を勝手に見てるみたいだけど」

本当にデリカシーが無いんだから。と、イシスが小さく愚痴った。


「ねぇ、帰りで良いから、お母さんに会わせてくれない?」

「何で?」

「病気を治すから、そうすればトマシュも学校に行けるでしょ?」

「君が魔王様でも無理だよ。魔法は効かないんだから。それに………」

トマシュは言葉を詰まらせた。万が一、母親を他人に見せて変な噂が立つのが怖いのだ。

それ故に、親友のアルトゥルとライネにも母親の状態を見せてはいなかった。



「お待ちどうさん」

アルトゥル、ライネのペアが戻ってきて、この地区の相場調査は終わった。

(おいら)のメモが、焚き付けや燃料で、ライネのメモは雨具や履き物っすよ」

イシスは2人からメモを受け取ると、しげしげと眺めだした。


一方、先に合流したエミリア、カミルのペアはと言うと。

「フンフン」

鼻歌混じりに、串に刺さった肉を食べているエミリアをカミルがニヤ付きながら眺めていた。

(さっきの僕もこんな感じだったんだろうな………。気を付けよ)

鼻の下を伸ばすカミルを見て、トマシュは何かを学んだ。


「ありがとう、コレで薬と家具の相場も判ったし、今度こそ鍛冶屋に行きますか」

(あれ?)

トマシュはイシスと買い物しかしてない事に気付いた。

「イシス、ちょっと」

歩き出したイシスの横から話し掛ける。

「何?」

「僕達、あんまり調べて無いけど良いの?」

「問題ないよ、薬屋さんの帳簿を覗き見たから」

(え!?)

そんなそぶりは一切無かったが。


「何時の間に?」

「お姉さんが瓶に薬を移してたときにね、カウンターの向こう側に先月の売上が書かれた帳簿に、仕入れ台帳が置いてあったんだ。多分、私達が入って来るまで帳簿を付けてたんじゃないかな?」

(油断も隙もないなあ。覚えておこ)




次の内門を抜け工房地区の広場に到着した。

「結構、活気は有るんだね」

「冒険者が多いのと、北の山脈を越えると人間が居るので、武器の需要もあります」

「戦が始まる前は交易商人向けの馬具や農家が使う農具の鍛冶屋の方が多かったなあ」

ライネが呟いた。

「もしかして、ライネはここの出身?」


“そう言えば、未だ言ってなかったな”と、ライネが説明を始めた。

「戦が始まる2年前にファレスキから移り住んだんだ。親父が馬具専門の鍛冶職人だったから招聘されてね。この通りを少し下ると工房が有るよ」


イシスが背伸びをし、ライネが指差した通りの先を見た。

「ワザワザ他の街から、か。この大きさの街なら腕利きの鍛冶屋が他にも居そうだけど何で?」

「さあ?親父は仕事の事は教えてくれないんで」

「ライネの父ちゃん、魔法具を創れるからじゃね?」

実際、ライネの父は鍛冶職人としての腕を買われ、ミハウ部族長に商品を売る店まで用意して貰っていた。尤も、ライネ本人は頓着無かったが。

「この街は、まだ出来て間もないので、外部から職人を集めているんです」

「そうなんだ」


エミリアがメモを出し、イシスと話始めた。

「剣となると………」

「規模はどうかな?万単位は………」

「ちょっと、待って下さい。カミル!ちょっと来て」

慌てて二人の所に走り寄るカミルを尻目に、ライネとアルトゥルが近づいて来た。


「なあなあ、魔王様とはどうなんよ?」

「何が?」

「随分と親しげだからさ、何か聞いたりしてない?公示人が言ってた事とかさ」

(おいら)の予想だと、俺達3人は16歳未満だから武器の支給は無いんだろ?」

ニヤニヤしているアルトゥルの期待を裏切る事になると、トマシュは心苦しく思いつつ、教えられた事を素直に話した。


「武器の支給どころか、除隊らしい」

「んなぁ!?」

「あ、そう」

アルトゥルとは対照的にライネの反応は軽かったので、アルトゥルとトマシュは(ボンボンめ!!)と心の中で悪態を吐いた。


「“あ、そう”じゃ無いよ!仕事はどうすんのよ。オレやっとこさ試験をパスして見習い兵士になれたのに!」

「一緒にパーティー組んで遺跡に行こうぜ」

1人だけ危機感がないライネのボケに、アルトゥルは食って掛かった。


「オレは魔法使えねえし!」

「試験って何をするんだ?」

「うお?」

気付いたら、脇にイシス………ではなく、カエが居た。


「えーと、作文と計算」

「読み書きできるのか、だったら魔法も直ぐに扱えるから好都合だな。トマシュにはもう言ったが16歳未満の者は魔法学校に入ってもらう。その後は兵士になっても良いし、家業を継いで貰っても構わんよ」


「学費は?俺は払う余裕なんか無いよ?」

アルトゥルの家は兄弟姉妹が35人も居るから生活がカツカツなのだ。

「鍛冶ギルドのビスカ代表が各商業ギルドから援助すると約束を取り付けてくれたから、払わんで良いぞ」


(あれ?ビスカ代表って…)

トマシュはライネの方を見ると、ライネは顔をそらした。

「マジで!?」

「という訳で、暫くしたら除隊だから、そのつもりで」

タッタッと足音を残しながら、カエがエミリアの所に戻っていった。


「ライネよ~」

「わっわっ!」

アルトゥルがライネの首に腕を回し、拘束した。

「おめぇ、最初から知ってたろ?」

「へ?何の事かなあ?」


ライネが目を逸らしたので、アルトゥルがトマシュに目で合図し、腹をつつかせた。

「何でライネのお父さんが出てきたのかなあ?」

「そうだよ、倅のお前が知らねえ訳ねえだろ!」

「っちょ、待って!」


実は鍛冶ギルドのビスカ氏はライネの父親だったのだ。

「俺は未だ何も聞いてないよ!だから離して!っちょ、くすぐったいっての!」


どうやら、本当に知らないようなので、アルトゥルは拘束を解いた。

「しっかし魔法か、何を教えて貰えるんかな?」

「そもそも魔王様はどんな魔法を使えるんかな?」

「さっきだけど、イシスに治癒魔法で虫歯を治して貰ったな」

「誰?」

トマシュは魔王の方を軽く指差す。

「魔王様の名前」

多重人格の話をすると、ややこしくなるからトマシュは黙っておく事にした。

「うわ、マジかよ。俺なんか金がないから、引っこ抜くつもりだけど、頼んだら治してくれっかな?」


“ワザワザ異世界から呼び出した魔王様に虫歯を治してくれと頼むのってどうなんだろ?”と、ライネとトマシュは首をかしげた。


「なんだ?虫歯ぐらいなら、初級の治癒魔法で治せるんだ。自分で魔法を覚えて治さんか」

また、カエが至近距離に現れた。

「そんなー」

「だいたい、貴様らが簡単な魔法すら使えない方が可笑しいんだ。私は子供の頃、虫歯は奴隷に治して貰っていたし、戦では魔法が飛び交うと言うのに」


魔王が居た世界の想像がつかず、3人は顔を見合わせた。

「そう言われても、ライネだってお父さんが鍛冶職人だから魔法を知ってるけど、半自由人の俺とか金貨を何枚か積んで教えて貰うしかないっすよ」

「後、俺は親父から直接教えて貰った訳じゃなく、工房の親方衆が弟子に教えてるのを盗み見したんで」


ライネの一言にカエは一瞬間が抜けた表情になった。

「何故?」

「“正式に跡を継げるようになるまで、教えるか!”ってのが親父のやり方ですよ。魔法が使えるかどうかで、稼ぎに影響しますし。不用意に子供に教えて門外不出の技がバレても困るんで」


後は、単純に“危険だから”だった。

トマシュの両親もそれなりに魔法を使えると、トマシュは聞いていたが、トマシュ本人は“危ないから”と両親から魔法教えて貰った事はないし、周りの大人が使っているのも見たことがない。


「しかし、アレだよな?」

「どったの?」

毎度の事ながら。アルトゥルがお年寄りの様に、いきなり“アレ”とか言うので、トマシュは苦笑いした。


「魔王様なんだけど、エミリアやカミル伍長と話してる時は大人っぽいよな」

「むしろ、年寄臭くないかな?18歳の割りに」

確かにイシスとは違い、カエの人格は年寄染みていた。

イシスが子供っぽいだけかも知れないけど、3つ子なのに不思議だった。


(あー、でも。昨日のカエは子供っぽかったしなあ………)

思い出せば、昨日目の前に現れた魔王の目は鳶色…。カエの人格だった。

「子供が居るって話だし、それのせいかね?」

「え!?」

子供の事を聞いていなかったトマシュはライネの顔を見た。


「知らんかったの?」

「昨日の民会で質問されたときに“旦那が居て、子供産んでる”とか、答えたんだってさ」


(あー………、18歳だし居ない方が珍しいか)

そう自分に言い聞かせながらも、トマシュは何か釈然としなかった。

「はぁ………」



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