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肉屋

「何だ君たちは?」

駐屯兵達は捕虜にした4人を薬屋の倉庫に集めてから彼等に聞いた。

「………」

捕虜達は男2人に女2人の若い人狼のグループで、銃を持っていたが、民間人の様に思えた。


「名前と出身は?猟師の様だが、どこから来た?」

小隊長の質問に、4人とも顔を伏せ、沈黙を続けた。


(参ったな、連れていく訳にもいかんしな)

小隊長は両替屋から薬屋に回った1人に耳打ちした。

(かと言って、殺すのも…アレですしね。………閉じ込めときます?)

今居る倉庫は天井に開いた明かり取りの窓の他、鍵が掛かる扉しかなく。仮に縄がほどけても脱出は難しいように思えた。

(しかたねえな)


小隊長は、部下の中からもう1人を手招きした。

「お前ら2人は見張りで残っててくれ」

「大丈夫ですか?」

人数を分けることに部下は不安を覚えた。

「銃声を聞き付けて、反乱軍が集まってるかもしれないからな。少人数で神殿まで行った方が目立たないだろう」

目的の神殿まで距離が近いこともあるので、小隊長は“さっさと偵察して、さっさと戻る”つもりだった。




「何だ………静かだな」

デイブ達は宿場町が見える場所に辿り着き様子を見たが、包囲をされている割には静かだった。

しかし、2人が双眼鏡を取り出し様子を見ると、ビトゥフが在る南西側には整然と土嚢と大砲が並び、その手前には幾重も塹壕が掘られていた。


「第一次世界大戦かよ」

「まあ、武器はヘボくても、俺達は銃弾飛び交う戦場しか知らんし」

双眼鏡を宿場町に向けると、南東側で倉庫や街壁が燃え落ち、白い白煙が立ち上って居るのも確認できた。

「何か燻ってんね」

すぐ近くの倉庫に星条旗が掲げられていた。

「でも、あの辺一帯は占拠した反乱軍が管理してるから、延焼はしねえだろな」


ケシェフから宿場町に入る時に使う北東の門を見ると、未だに宿場町を治める領主の旗が翻っていた。

「間に合ったみたいだけど、完全包囲はしないのか」

ドミニカの話しから、完全包囲されていると思っていたが、反乱軍は街の南東側から西側に兵を置き、半包囲の状態で攻勢を止めていた。

「道理で逃げて来た人が多い筈だわ」

街道ですれ違った人が多かったので疑問に思っていたが、一部の住民は逃げ出せるだけの余裕はあったのだ。


「ハーバー夫人の心配は杞憂だったか」

反乱軍側が宿場町の南側を確保してから攻勢を止めていたので、今のところは惨劇は起きていないが、何時まで持つかは判らないだろう。

「行くか」

「ああ」





「また何か来ましたよ」

南の神殿に立て籠る駐屯兵の前に、再び白旗を上げた人猫の兵士と、もう1人丸腰の人狼の兵士が出てきた。


「指揮官と交渉がしたい!入れてくれ!」


外を見ていた兵士が「どうします?」と指揮官に判断を仰いだ。

「そうだな………」

指揮官は今判っている情報を脳内で反芻した。


・敵は恐らくFELNの一派

・星条旗を掲げいることや、人猫の兵士の話から、恐らく元アメリカ人の集まりか、影響下にある

・数はおよそ200名

・前装式の銃と擲弾を使うが、剣や弓を使う様子はない

・大砲を持っており、此方に狙いを付けている


・此方は逃げ遅れた住民500名に駐屯兵が100名程度

・しかし兵士の半分は負傷し、マトモに戦えるのは30名程度


正直、投降してしまった方が良さそうだが、住民の身の安全は本当に保証されるのか?

当然だが、逃げてきた住民の半分は女子供で。仮に武装解除した後に乱暴をされないと何故判る?住民全員が納得して出る事を選択できるか?

現に、一部の住民の間に自決用の毒薬が出回っていると部下から報告があり。老人達は納骨堂の入り口で武器を持ち壁を作り、母親達は子供に辛い思いをさせないようにと、普段は神殿が子供達に配る甘い菓子類に毒薬を入れているのだ。


馬鹿な事をさせない為に、部下と神官に見張らせているが、この極限状態が何時まで続くか判らない。


「交渉をする、奥の神官長の部屋を借りれるか頼んで来る。お前達は負傷者を目のつく所(・・・・・)に出したまま(・・・・・・)にしといてくれ」

「出しっぱですか?」


部下が聞き返したが、「何なら壊れた武器を出しといてくれ」と言い残し、指揮官は奥に消えていった。



「っと!」

神殿へ偵察に向かう兵士の前に、反乱軍の一団が居た。

数は人馬が2人、人猫8人、人狼が10名といったところだった。

「何やってるんですかね」

反乱軍の兵士が6人掛で丸太を持ち、頑丈なドアを突き破ろうとしていた。

「彼処は…奴隷を扱っている商会の倉庫か」


鉄で補強された頑丈な倉庫だったので手間取っている様子だったが、とうとう扉が内側にひしゃげ。反乱軍の兵士達は手早く歪んだ扉を引っ張りだし、侵入口を確保した。


「Go!Go!Go!」

水平2連式の散弾銃を構えた反乱軍の兵士が中に突入し、3発発砲音が響き、商会の従業員が引きずり出されてきた。


「あー、やっぱりそう言うことか。ざまねえな」

倉庫から引きずり出された従業員が殴られるのを見て、駐屯兵達は助けようとしなかった。町の有力者とコネがあり、奴隷を使った汚いやり取りを見てきたので、同情は湧かなかったのだ。


「ん?隊長、誰か来ます」

部下の1人、建物に近付く大男に気付いた。

「誰だ?」

小隊長の位置からは見えなかったが、部下の位置からは2メートルを優に越える太った男がハッキリと見えた。

「肉屋のクオーレです」

距離があって、顔は見えなかったが、あんな特徴的な大男を見間違える訳はなかった。




「クオーレ…一体何の真似だ!FELNの連中とつるんで!裏切るのか!?」

クオーレに首根っこを掴まれた男が叫ぶが、クオーレは無視し男を持ち上げた。




「商会長です」

手足を縛られた男が倉庫の2階部分から突き出た、荷物の上げ下ろしに使うクレーン結ばれ逆さ吊りにされた。

「何だ!?何するんだ!」


手の先が地面に着くか着かないか程度の高さに吊るされた商会長が叫ぶが、クオーレは反乱軍の兵士が用意した長机に鞄を置き、中から肉の解体に使う道具を取り出し並べた。


「何する気だ」

「おいおいおい」


クオーレが商会長の服をひっぺがし、反乱軍の兵士に指示を出すと、商会長は50センチほど上に引き上げられた。




「さて、此処に居た奴隷を何処に移動させたのかね?」

ペチペチと商館長の頬を解体用の大きな牛刀で叩きながら、クオーレは大人しい口調で尋ねた。

「そんな事知ってどうする!一々覚えとらん!」

クオーレが無言で平手打ちし、商会長の身体がブラブラと揺れた。

「アッガ…あ」

「口答えは許しませんよ。私は“ドン”を待たせるのは好きではないので」

平手打ちの衝撃で、商会長の右耳の鼓膜が敗れ、耳の中が切れたのか血が滴り落ちた。


「倉庫の事務室と商館に帳簿がある!それに全部書いてある!」

「おお、そうですか。後、もう一つだけ質問をよろしいですか?」

未だにフラフラと揺れ動く商会長の頭を掴み、震えを止めてからクオーレは顔を近付けた。


「人馬が居た筈です。それも5人!彼等の事を何か知っていますか?何処で手に入れましたか?」

「あ、あいつらは」

商会長は言葉を選びながらゆっくりと話し出した。


「20年前だ、奴隷狩りの禁止令が出る直前に捕まえた人馬だ。繁殖用に使っていたが、魔王が出した勅命のせいでそれも出来なくなったから売っちまった」

「ほうそうでしたか…」


クオーレは牛刀を長机に置いた。

「聞きたいことは以上です。今、楽に(・・)しますよ」

クオーレは屠殺用の鉄杭を握り、商会長の眉間に刺した。


クオーレ・サラザール 渾名“ブッチャー”


ポルツァーノ一家の幹部(カポ)


前世からポルツァーノ兄弟に部下として暗躍し、今世でも一家の片腕として働いている

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