表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/223

狙撃手と駐屯兵


市場で狙撃され、両替屋に入った駐屯兵2人が裏口のドアを蹴破り、狭い路地を走り抜けた。

「薬屋だったな?」

「ああ、間違えねえ!」


2人は発砲炎が市場の反対側に在る薬屋からだったことに気付き、一気にケリを付けるつもりでいた。

薄暗い3階建ての建物の間を通り抜けると、急に明るくなり両脇に肩ぐらいの高さに積まれた石レンガの壁が現れた。

比較的富裕層が多いこの地区で良く在る低い壁で区切られた裏庭で、陽光の差し込み表の騒ぎが“悪夢では”と一瞬錯覚を覚えた。


「此処だな」

薬屋の裏門が見えたので駐屯兵は歩を緩め、慎重に門に近付いたが、直ぐに異変に気付いた。

「鍵が壊されてる」

乗り越えれば良い程度の高さしかない壁と門扉だが、門扉に取り付けられた南京錠が庭に投げ棄てられていた。

「窓も見ろ」

建物の裏口の脇に在る窓も抉じ開けられ、鎧戸が一部壊されていた。


駐屯兵2人は互いに目を合わせ頷くと、弩弓を石レンガの壁に立て掛け、剣を抜き慎重に庭に入る。

門扉を開けると、パニックになった住民が慌てて逃げ出した時に落としたのか、何故かシチュー等を作る大鍋に服やら枕が詰められた状態で地面に倒れているのが見えた。


横目でソレを眺めつつ裏口の取っ手を引くと、簡単に裏口が開いた。

(上に行くぞ)

先頭に立つ駐屯兵が2階へ続く階段を指差し、2人は薄暗い薬屋に入った。


ここでも住民がかなり慌てていたのか、籠や鍋といった入れ物にあまり価値がない日用品が詰め込まれていた。


「っ!」

頭上から声が聞こえ、駐屯兵達は身構えた。


『止まれ!顔を見せろ!』

声が聞こえて来たが、屋内に居る駐屯兵達への呼び掛けではなく。屋外に向けての呼び掛けだった。




「ええい、くそ」

顔に青タンやたん瘤だらけになった、もう一組の駐屯兵達も2人一組に別れて狙撃手に近付いていたが、途中で2人見付かってしまった。


最初に狙撃された時のように距離があり、狙撃手の姿が見えなければ逃げる所だが。不用意に開けた場所である、建物の2階に在るルーフバルコニーに出た際に、偶々ルーフバルコニーに移動して来た狙撃手と鉢合わせたのだ。


「手を上げろ!」

ゆっくりと駐屯兵2人は手を上げた。

「…女?奴隷じゃないな?」

狙撃手が人狼の少女だったので、手を上げた駐屯兵は驚いた。


「跪け!」

ゆっくりと時間を掛けながら2人は跪つき。周囲に他の反乱兵が居ないか気配を探った。

「何で反乱に参加した?」

「黙れ!武器を床に置け!」


反抗はせず、しかし仲間が援護出来るように、わざと時間を掛け2人は腰に着けた剣帯を外し、弩弓も足元に置いた。

「同じ人狼同士だろ?それに、お前も俺達と同じヴィルノ族だろ?」

「黙れ!」

反乱兵の少女の服は、ヴィルノ族の狩人が着る鷲の刺繍が入った服で、銃を構えて無ければ狩人としか思わないだろう。


「他に武器は?」

「これだけだ」

「なあ、嬢ちゃんさ。君が銃を持つ必要はねえだろ」

弩弓と矢、そして剣を床に置いたのを反乱兵の少女は確認し、丸腰か駐屯兵2人を眺めた。


「……娼館を使った事は?」

「ぇ?」

「何だって?」

少女の質問に2人は呆気に取られた。


「ソレか、奴隷に乱暴したことは?」

少女の質問の意図を理解した1人が質問に答えた。

「イヤねえよ。そもそも、童貞だし…」

「え?」

20代後半の先輩兵士の一言に後輩が目を丸くした。


「バカ野郎、オメエ!人狼と人間じゃ“形”がちげえし、やり方が違うから萎えるんだよ!言わせんな、この野郎!てか、テメエはどうなんだよ!」

この兵士は転生者だが。正直、少女に無理矢理相手をさせる娼館も嫌で、毎日悶々とした日々を送っているが。先に上げた理由も有り、女性とは接点を持って来てなかった。


「いえ、私は結婚してますけど。子供はまだですし、仮に子供が出来ても娼館を使う気は無いです」

人狼や人猫と言った多産の人種では、異人種の奴隷が居る娼館は未婚者に限らず、既に子供が居る既婚者が主に使っていた。既婚者が娼館を使うことが咎められない理由は、避妊具が無い関係上、一般的に子供が出来ないとされる異人種の娼婦で適度に発散させねば、アルトゥルのカミンスキー家の様にあっという間に子供が38人も出来てしまうからだ。


「ん?でも、お前。結婚して2年経つけど、まだ子供居ねえじゃねえか」

「ソコは、その。やっぱり人間と違うので、その途中で………」

こっちの兵士も転生者なのだが、やはり人間だった時と何かと勝手が違うので、子供を作る気にはならず、未だに子供が居なかった。

「てか、どうでも良いでしょう!私と妻との問題なんですから!」

だが、“結婚して暫く経つのに孫はまだか?”と両方の両親から文句を言われているので、あまり触れたくない話題であった。


何か聴いてはいけない事まで聴いてしまったが、聴きたい事は聴けたので、少女からすればこの2人はもはや用済みだった。

「武器を置いてそのまま帰って」

「………はぁ?」

駐屯兵2人は拘束されると思い、少女が近付いてくるか仲間が他の狙撃手を無効化するのを待っていたが、“帰れ”と言われ、ただただ困惑した。


「貴方達は悪い人じゃ」

銃声と「うわっ」と叫び声が聞こえ、少女と駐屯兵2人は音がする方を見た。


薬屋の窓から硝煙が漂い出て、音からすると何人かが取っ組み合いをしているのが判った。

「う、動くな!」

少女が手前側に居た兵士に銃口を向けた。

「何もしねえよ!」


2人は本当に何もする気は無かったが、少女の背後からコッソリと回り込んでいた小隊長が飛び出てきた。

「きゃっ!」

「よし、動くなぁ!」


「ルーシー!」

隣の建物のルーフバルコニーに別の少女が名を叫びながら飛び出てきた。

少女と駐屯兵2人のやり取りを観ていたが少女に危険が及んだので、思わず物陰から飛び出てしまったのだ。


「この、退きなさい!」

出てきた小隊長と別の少女との射線上に重なっていると銃を撃てないので、ルーシーは小隊長を振り払おうとしたが、相手は訓練をした正規兵で、少女の力では振り払えなかった。


「隊長!狙われてます!」

「このっ!」

部下から教えられ、小隊長はルーシーを押し倒し、もう1人の少女からは見えないように身を屈めた。


「あ、うそ」

ルーシーが殺られると思ったもう1人の少女が銃口を上に向け、走り出そうとした。

「よいしょ!」

「きゃ!」


しかし、6人居た駐屯兵の内、最後の1人が少女の後ろに回り込む事に成功し、少女の首根っこを掴んだ。

「1人確保!」

床にひき倒された少女が銃を抱え固まったのを眺めながら駐屯兵が叫んだ。


「2人確保!」

薬屋からも声がし、最後に小隊長が「1人確保」と叫んだ。


「あのさ?」

「ひっ!」

プルプルと銃を抱えて全く抵抗しなかったのが不思議で、駐屯兵が声を掛けた。

「銃使わないの?」

銃と駐屯兵の顔を何度か交互に見返し、少女が小さい声で話した。

「その…さっき撃ってから…まだ装填して無くて…」


「え、そう言うこと?」

てっきり、神殿で撃ってきた熟練狙撃手かと思ったが、どうも違うようなので、駐屯兵は頬を掻いた。

半日休めた………ぜ


コロコロ)o.....rz

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ