戦火の拡大
真っ暗闇の中。ビトゥフの北西、街道沿いの宿場町周辺に反乱兵が集まっていた。
(用意は良いな?)
反乱兵達はライフル片手に、街道の反対側。街の南側に散開した状態で少しずつ近付いていた。
(OKだ)
彼等は反乱に参加した後、FELNから銃等を貰い、今はこうして襲撃の中核を担うまでになった。
(やれ)
指揮官の合図で数人が火縄の付いた躑弾を木製の壁の中に投げ入れた。
「始まりました」
街から火の手が上がるのを確認し、別の反乱兵達が藪から顔を出す。
「March!」
指揮官の号令で太鼓が鳴り響き、笛が鳴り、反乱兵達は横一列に行進を開始した。人種や性別は様々で一番多い人狼の他、鉱山や荘園で働かされていた他種族の元奴隷と、多様性に溢れる集団だったが、統制が取れていた。
「敵襲!」
宿場街では、神殿の鐘や街壁に建つ矢倉の鐘が撃ち鳴らされていた。
「敵は何処だ?」
「裏手の食糧庫の方だ!」
ビトゥフの南西で反乱が拡がっていたが、まさか北東に在るこの街が襲撃を受けるとは衛兵達は思っても見なかったが。
「赤隊は裏手へ!青隊は援護を!緑隊は要所を!黄隊と白隊は壁に張り付け!良いか!訓練通り落ち着いてやれ!」
街を護る衛兵を指揮する指揮官は、定期的に実戦形式の訓練を行っていたので、衛兵達は不意討ちを受けたにも関わらず速やかに臨戦体制に入った。
「裏手は陽動かも知れん!弩弓を用意しろ」
街道側の矢倉では当直の兵士が大型の弩弓に矢を乗せ、ウインチで弦を巻き取る作業が行われていた。
「……待て、何か聴こえないか?」
「何が?」
突然1人が曲に気付き、手を止めた。
「聴き覚えがある…異世界の曲だ」
「ホントだ」
「何だ、道化師か?」
やけに軽快な笛と太鼓の音に兵士達が気を取られていた瞬間。暗闇に、まるで雷光の様な光が一斉に走った。
「砲撃だ!」
「Now!」
前進する歩兵を援護する為に、数十門の前装式の大砲が火を噴き、鉄製の砲弾が次々と放たれ、市街地に落ちた。
砲撃の反動で後退した大砲を押し戻し、砲兵が大急ぎで砲口に火薬と椎の実型の砲弾を押し込む。
「修正、-200」
砲兵指揮官の指示で、各大砲に付いた砲兵が大砲の角度を下げ飛距離を落とした。
「Now!」
「全員無事か!?」
矢倉に砲弾が直撃し、弩弓が吹き飛ばされた。
「あーー…」
兵士の1人が砲弾が木製の壁を突き破った際に飛び散った木片をもろに被り、左半身が血まみれになっていた。
「何だ今のは!」
「大砲だよ!俺が転生する前の世界の兵器だよ!」
仲間の人数が足りないことに転生者の兵士が気付き、街側に出来た穴から顔を出すと、他の兵士の亡骸が眼下の路地に横たわっていた。
「っ!伏せろ!」
次の砲撃音が聞こえ、伏せると同時に砲弾が街壁を突き破った。
「うわぁあ!」
「掴まれ!」
矢倉を支える支柱が折れ、矢倉が街の方へと倒れた事で路地に投げ出された。
「頭を出すな!狙い撃たれるぞ!」
街の裏手では、援護に駆け付けた赤隊が反乱兵と交戦を始めていた。
「弓隊、放て!」
本当なら壁の上から狙い撃ちたいところだが、反乱兵の射撃が正確で、とてもじゃないが登ることが出来ず、壁越しに矢を放つのが精一杯だった。
「Take cover!」
「ん?」
姿は見えんが、英語が聞こえてきたので。一部の転生者達が反応した。
「英語だ」
「訛りが有るな」
暫くすると、火の着いた躑弾が再び投げ込まれ街壁に火が着いた。
「畜生。おい!水魔法を使える奴を連れてこい!」
弾け飛んだ躑弾は黄燐と灯油を含ませた木綿が入っており、壁以外にも。飼料用の藁や、食糧庫等に火が着いていた。
「うあ!」
迂闊にも、壁に近付いた兵士が銃弾に倒れた。
「あ、クソ。担架だ!急げ!」
丸太を並べただけの簡単な造りの街壁なので、反乱兵が持つ前装式ライフルでも簡単に貫通するのだ。
「行ってくる」
若い兵士が槍を仲間に預け、撃たれた兵士の元へ走った。
「待て!おい、一等兵!あークソ」
それを見た軍曹も槍を預け走り寄った。
「何処を撃たれた?」
撃たれた兵士は嗚咽混じりの叫び声を上げながら下腹部を押さえていた。
「手をどかせ、傷口を見せろ!」
「嫌だ!死にたくない!助けて!あーーー!」
「この程度じゃ死にぁしねえ!おい!担架はまだか!?」
撃たれた事でパニックを起こした兵士を押さえている間も、壁を貫通した銃弾が周囲を飛び交っていた。
「バカ野郎!なに突っ込んでんだ!頭を下げろ!」
遅れて来る形になった軍曹に一等兵は頭を掴まれ、無理矢理地面に伏せさせられた。
「伏せても変わりはしませんよ!どうせ、壁に当たった弾は飛ぶ方向を変えますから当たるときは当たりますよ!」
話しているそばから、一等兵と軍曹の間の地面に銃弾が1発撃ち込まれた。
「うわっ!」
「軍曹!コイツの怪我は見た目程酷く有りません!担架が来たら直ぐに軍医の所へ運べば助かります!」
「何で判るんだ?」
「前世でちょっと、経験が有りましてね」
「軍曹!」
部下が担架に成るものを抱えて走ってきた。
「コレで一度離れましょう」
部下が木の棒と帆布で即席の担架を造り、撃たれた兵士をその上に乗せた。
「コレ、露店か!?」
何処か見覚えが有ると思ったが、街の市場の露店の天幕だった。
「緊急事態なんでね。持ち主には後で感謝状でも渡しますかね」
商人の持ち物を勝手に使った訳だが、持ってきた兵士はふざけ半分で冗談を言った。
担架を持ち上げ、後方に下がり始めた時だった。
「つぅ!」
跳弾が担架の横に居た軍曹の右脹ら脛を掠め、軍曹が前のめりに倒れた。
「軍曹!」
倒れた軍曹は立ち上がり、「大丈夫だ」とだけ答えた。
軍曹はその後、左足だけで片足跳びをし、担架と共に建物の影に飛び込んだ。
「あー………痛ぇ」
幸いにもかすり傷だった。
「Fall back」の言葉と共に、反乱兵からの攻撃が止んだ。
「おい、帰ったんじゃないか?」
「みたいだな。おい、光石の投光器を持ってこい」
実際に目で見て確認する為に現場指揮官の命令で投光器が用意された。
「見えるか?」
出し狭間の1つから投光器で辺りを照らし出し、別の出し狭間から様子を窺うが、反乱兵の死体が数名分見える他は、見当たらなかった。
「っ!砲撃か?」
銃声が止んだ事で、裏手でも街道側に撃ち込まれる大砲の砲撃音が聞こえて来た。
「何なんだよ、クソ」
「戻りますか?」
「持ち場を離れる訳にはいかん」
赤隊の指揮官が部下と押し問答をしていたが、再び反乱兵が銃撃を再開し、出し狭間の付近に居た兵士が何人か倒れた。
「壁から離れろ!」
「今のところ順調そうだな」
反乱兵の指揮を執る人狼の男は単眼鏡で兵士の様子を見つつ呟いた。
「将軍、騎兵隊が交戦中です」
幕僚の1人が指差す先を単眼鏡で覗くと、馬に騎乗した兵士の他、人馬の騎兵がカービン銃やリボルバー式の拳銃で、迎撃に出てきた衛兵に射撃していた。
「みんな動けているな」
「ええ、南北戦争で使われてた様な武器でも何とか戦えてます」
騎兵隊が突撃ラッパを吹き、サーベルで弱った衛兵に斬りかかった。
「あいつら、ヘリにしか乗ったこと無いのに良くやりますな」
指揮官が単眼鏡を歩兵に向けると、旗手が持つ星条旗が風になびいた。
「後は、守備隊が降伏さえしてくれれば良いけどな」




