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ドナドナ

「金貨1000枚!」

「この場で払え~!」


ニュクス達は未だに巨大な妖精に足止めをされていた。

背丈はニュクスが操っていた金属製のゴーレム程もあり、流石のニュクスも抵抗するのを躊躇った。


「どう言うこと?」

目を真ん丸にし、妖精を見上げていたイシスの一言にトマシュが答えた。

「多分、地元の林業組合の妖精さんだね」

「オッサンじゃん」

港生が思わず呟いたが。3人の妖精は頭身が短いデッカイオッサンにしか見えなかった。


「ニュクス様、ここは払わねば」

「んな!?」

ニュクスはカミルを睨み返したが、ドミニカにも諭された。

「彼等が育てた木々を焼き払ったのですよ。払わないと、訴訟を起こされますよ」

「~~~っ、幾ら持ってきたっけ?」


軍隊は出征先で物資の調達をするために、まとまった額の“軍資金”を持ち運ぶものだが。

「金貨は500枚だけです。後は銀貨が1000枚程」

出征先が人狼の領地内で有る為、少ししか持ち合わせが無かった。


(足りないじゃない!どうするのよ!)

(そうは言われましても)

ニュクスはカミルとひそひそ話を始めた。

(ニュクス様、こうなっては支払手形を渡してお帰り願うしか)

カミルは“手形を渡して支払いはケシェフのカエに任せる”事を提案した。


(やむを得ないわね)

「あの!」

ニュクスが巨大な妖精に話し掛けたが。


「ん~!」

「水分は与えてはダメです。それと強い光に弱いので薄暗い地下牢に入れてください。後、食事を与えないで下さい。狂暴になるので」

イシスが“変なライオン”を巨大な妖精に差し出していた。


「………ん?」

ニュクスが目を凝らすとライオンと目が合った。

「ん!ん!ん!んー!んー!んー!ん!ん!ん!」

ライオンが唸ったが、巨大な妖精に首根っこを掴まれ持ち上げられた。


「ほおぅ!お嬢ちゃん、これは高価な物だと思うが良いのかい?」

手の平にライオンを乗せ、巨大な妖精の1人がイシスに確認した。

「ん!ん!ん!んー!んー!んー!ん!ん!ん!」

ライオンは相変わらず、変な唸り声を上げながらニュクスの方を見ていた。


「ええ、金貨1000枚に届くか判りませんが」

どうやら、イシスは金貨の代わりにライオンを差し出すつもりのようだが。


「あれ?トントントンツーツーツートントントン?」

カミルがライオンの唸り声の意味に気付いた。

「………え?何で?」

カミルが口にしたモールス信号にドミニカも気付いた。


「え?何よ?」

「いえ、それが………」

カミルは身を屈め、ニュクスの耳元で再びひそひそ話を始めた。

(あれは、SOS信号。助けてくれって意味です)


「あ!」

「ロキが居ねえ」

ショーンとデイブの声が聞こえ、3人は「まさかと」ライオンを見た。


「いや、これで十分だよ」

「次はちゃんと通告するように」

そう言い残し、巨大な妖精達が帰って行った。


「ちょっとあんた!」

ニュクスがイシスに詰め寄った。

「あれロキでしょ!」

「そうだけど?」


「「「「「「「ええ"!」」」」」」」

全員が驚き、イシスに視線を向けた。


「ロキ………え!?魔王?」

イシスと妖精達が去った方向を交互に見ながらカミルはうわ言のように呟き。

「魔王が………ライオン?」

ドミニカは(ロキはドワーフではなく、ライオンだったのか)と1人納得していた。


「え?あ………。何をどうしたの!?」

何でぐるぐる巻きにされ吊るされていたロキがライオンに姿を変えさせられたのか、トマシュは理解が追い付かなかった。


「縛った状態のロキに猿轡をして喋れない様にしてから、魔法でライオンの姿にしただけだよ」

しかし、イシスがしたことは至極単純だった。着ぐるみの様に中身の無いライオンのゴーレムを作り、中にロキを放り込んだだけだった。

………本物そっくりのライオンのゴーレムを作れるから出来た、かなり手の込んだ方法だが。


「いや、良いのかよ!」

デイブが突っ込んだ。

「そうだよ、魔王ロキを妖精に渡しちゃって」

ショーンも後々になって、ドワーフの杉平幕府やロキ本人に仕返しされないか怖れた。


「あー、良いの良いのロキだし。それより早くビトゥフに向かいましょ」

「そうね、厄介払いも出来たし。………っふう。今日中にビトゥフに入るぞ!急いで準備しろ!」

ニュクスも大して心配する素振りを見せず、進軍の指示を出した。



「子供の前で男言葉っすか?そりゃあ、使いませんよ」

「教育上良くないので止めてもらってますね」

会話の内容が仕事から、エリザベートとヴィムの子供との過ごし方になっていた。

「む………そうか」

「何がだい?」

カエの反応が気になり、アルトゥルが質問した。


「いや、私も息子が2人居るのだが。今は女だろ?仮に子供達の前に出た時は女言葉の方が良いのか男言葉の方が良いのか………」

「………女の子にしか見えねえから、父親だと思われねえんじゃ?」

「んな!?」


「あれ?魔王様も男だった?」

エリザベートが目を白黒させた。

「………そうだが?」

「お、おお!!」

エリザベートがカエの手を握った。

「女の身体って不便だよな!月に一度アレがあるし、力は弱いし、出産は痛いし!なのにこのバカは何時も適当で、隙有らば手を出してくるし、アホなことばっかして」

「え?あ」


エリザベートの剣幕にカエは押し負けた。

「ちょっと酷くないか!?知らない男と子供を作るより、幼馴染の僕が良いって言ったのは君じゃないか!?」

「いちいち気持ち悪いんだよお前は!キスしろとか、頭を撫でろとか、抱き締めてくれなんて一っっっ言も俺は言ってないからな!」

「あの、ちょっと……」


『カエ!緊急事態!』

イシスからだった。

「だいたい、最初に唇を重ねたのは君の方からだろ」

「うるせぇ!」

『今度はどうした?』

エリザベートが照れ隠しでヴィムの頭をもう一度叩いた。


『捕虜を移送していた騎士団員が殺されて捕虜が逃げ出した!』

『「なにぃ!?」』

カエが急に叫びながら立ち上がり、尻尾を膨らませ耳を真後ろに倒したのでヴィムとエリザベートは自分達が怒られたのかと思い、ソファーの後ろに大慌てで隠れた。

「え!?どったの?」


「少し待て」

『何があった?』

アルトゥルに一言断ってから、カエは詳細をイシスに聞いた。



ニュクスが切り拓いた道を中心に、騎士団員や兵士が棒を片手に周囲を捜索していた。

『遺跡から歩いて1時間位の場所なんだけど。斥候から“血痕が有る”って報告があったから、フランツさんの仲間に調べてもらったら、少し森に入った所に騎士団員の遺体が。ドミニカさんとピウスツキ卿が身許を確めたけど、捕虜を移送していた騎士団員だった。他にも、えーと。ライフル弾の薬莢が落ちてるのと遺体に銃弾が埋まってたから、銃を持った誰かに殺されたみたい』


イシスの目の前ではデイブとショーンが遺体を検分し、幾つか銃弾を取り出していた。

「これもライフル弾。30口径(7.62ミリ)級だ」

「数が多いな」

捕虜が持っていたのは9ミリ弾を使うワルサー拳銃に7.92ミリ弾を使うボルトアクション式のKar98kライフル、そしてオートマタが持っていた15ミリ機関銃の3種類だけで。一番弾の大きさが近いKar98kだとしても、50人居た騎士団員を一方的に射殺するのは不可能だった。

「考えたく無いね」

そして、見つかった薬莢Kar98k用の弾薬より短く、ショーンは見覚えがあった。


(Stg44…まさか…)

「ショーン?どうした?」

「…いや、何でもない」

デイブも考えない様にしていたが、2人は有る可能性を考えていた。


“アサルトライフルを実用化しているのでは”と。


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