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鎮圧部隊の最後

「歩兵が………」

歩兵が武器を捨て、盾を四方に構えたまま全く動かなくなった。


既に戦の準備を終えたヴォイチェフ卿の部下達は前装式ライフルを持ったFELNの兵士と反乱軍の騎兵達を交互に見合っていた。

「やれるな」

「ああ!」


騎士団の屋台骨で有る。彼等、騎士と従士はこの戦いで勝つだけの自信があった。

銃を持つFELNの兵士は約300。反乱軍の騎兵は120。

一方の自分達、騎士と従士は80人程。5倍以上の兵数だがその程度の戦力差で逃げる彼等では無かった。


「ヴォイチェフ卿の弔い合戦だ!続けぇぇぇええ!」

騎士の1人が叫ぶと、他の騎士と従士は鬨の声を上げ、FELNの兵士に向け一斉に走り出す。




「やはり此方か」

FELNの指揮官は2キロ先で鬨の声を上げた騎士団を確認し、号令を出した。

「左向け、止まれ!」

FELNの兵士達は“ザッ!ザッ!ッザ!”と3挙動で身体の向きを左に回し。一瞬で行軍隊形の3列縦隊から射撃隊形の3列横隊に並び変わった。



「やっぱアッチか」

ホセは騎士団がFELNの方に行くのを遠巻きに確認した。

「まあ、銃弾ぐらい俺でも弾き返せるしな」

リシャルドが当然の様に言った。

「普通そうは行かねえって………」


ホセが呆れるが、騎士団の従士や下手したら馬に乗ってない兵士の中にも銃弾を弾き返せる程の手練れが実際に居るからタチが悪かった。

転生者が多く、銃などの火器を作っていたが、さほど流行らなかった理由の1つに銃弾を弾く強者(つわもの)の存在が大きかった。

苦労して数を揃えても中々当たらず。当たったとしても音速程度の銃弾しか射出出来ないミニエー銃などは簡単に弾かれ、安価で無い限り数を揃えるメリットが無かった。


最近になって、神聖王国やドワーフの杉平幕府が配備を始めた、ボルトアクションライフルの様に音速の倍の速度で(比較的)小さい弾を射出する連発式ライフルで何とか対抗可能になったぐらいだった。


「援護に回るぞ!続け!」

リシャルドの号令で騎兵と弓騎兵がFELNの元に移動を始めた。


「ブレンヌス殿!リシャルド様が動きます」

城でブレンヌスと剣を交え、打ち倒された騎士がちゃっかり、ブレンヌスの元で指揮の補佐に当たっていた。


「わしらも行くぞ!歩を進めよ!」

ブレンヌスの号令に呼応し、始めて反乱兵の総員が森から出て来た。

その数は2万。奴隷だけでなく、周囲の農村や街の住民も加わりほんの数日で此処まで巨大化したのだ。


「何て数だ………」

普段の魔王軍の軍勢と遜色がない規模の反乱兵が集まり、騎士団はこの時始めて、反乱奴隷だけでなく周囲の反乱した住民も相手にしていることに気付いた。


「一体なんだ?」

ヴィルノ族と人狼を護って来ていた筈の彼等だったが、護っていた筈の住民まで反乱に参加するとは思ってもみなかった。


「ええい、クソォ!」

騎士達は大軍を前にしても怯まず、隊列を整える。

「あの魔女か!あの売女が何かしやがったな!」

「っ来るぞ!」

FELNの兵士が発砲し、約2秒遅れで銃弾が飛んで来た。


向かってくる銃弾を弾き、火花を散らしながら、騎士団は2、3列とかなり細い縦隊を組み脇目を振らず突っ走った。

「撃てぇ!」

FELNの兵士が再度斉射を行うが、倒れるのは先頭の2、3騎のみ。騎士団はFELNの兵士から見て細い縦隊を組み、射撃を受ける面積を極限し、戦闘の騎士が上体部分に飛んで来る銃弾を弾き、引き換えに馬を犠牲にしつつ接近して来たのだ。


「っ!」

縦隊の真ん中に居たチェザリは、馬が殺され、仲間の騎士団員の馬に踏み潰される騎士と目が会った気がし、行きを飲んだ。

「次は俺だ!先に逝くぞ!」

チェザリの斜め前を走っていた従士が前を走る騎士を押し退け、前に出る。


「射撃用意!」

距離が狭まり、FELNの指揮官が発する号令が聴こえ始めた。

「フハハッ………」


「構え!」

先頭に躍り出た従士が、左手に持っていた盾を投げ捨て予備の剣を左手で抜き大声で笑いだした。

「フハハハハッハッハッハッ!」

「撃てぇ!」


銃弾を弾き返した従士の馬が被弾し、視界から消えた。


「方陣!」

「突撃ぃ!」





「たーすーけーてー!!!!」

トマシュと港生が遅れて地上に戻ると。ロキが遺跡の“壁”を走り、その後ろを耳を真後ろに倒し、鬼の形相をしたイシスが追い掛けていた。


「止めないの?」

トマシュが港生に質問したが。

「いや、無理でしょ」

イシスが長さ10メートルも有る遺跡の石柱をもぎ取り、振り回すのを見て短く答えた。


トマシュの傍らには深刻な顔をしたショーンとデイブ、そして顔を押さえ泣き続けるアガタ。既にイシスに叩きのされ、地面に上半身が埋まったり、壁に突き刺さった忍者が2人居た。


「何が起きたんですか?」

イシスが石柱を振り回し、石造りの建物が2つ倒壊した。


「フランツが………その」

「俺達の世界に飛ばされたんだ」

「え!?」


ショーンとデイブの説明にトマシュは眼を泳がす。

元々、向こうの世界の住人は転移門で戻った場合、向こうでの身体に戻ると聞いていたのでそこまで深刻だとは思っていなかった。

「ロキ様の話だと此方の姿………。人間しか居ない世界に人狼の姿で飛ばされたらしい。で、向こうで警察(Police)………、何て言うか。街の衛兵みたいなのに逮捕されたんだ」

「………………ぇええ"!」

事の重大さを把握しトマシュは更に眼を泳がす。


「助けられないんですか!?」

ショーンとデイブは顔を見合わせてからイシスの方を指差す。

「無理だからああなった訳で」


「ぶべっ!」

ロキが足を掴まれ、地面に叩き付けられた。

「今日と言う今日は赦さん!!!」

「あ~~れ~~」

ロキが叩き付けられた事で建物の石壁がまた1つ崩れ落ちた。


「何だよありゃ」

最初の内は逃げ出す隙を窺っていた捕虜達だったが、イシスの暴れぶりを見て完全に大人しくなってしまった。


「まあ、イシスは完全に怒ってるけどさ。一応は止めないと………ね?」

港生の立場上、魔王ロキの護衛として同行しているので、見ているだけとはいかないのだ。

「いや、そうだけどさ」

とは言え、イシスの耳と尻尾は狩りをする猫のそれで。完全に怒っているのは火を見るよりも明らかだった。



「斧造ったよ」

ニュクスが刃渡り1メートルは有る巨大な斧をズルズルと引き摺りながら現れた。

「あー、ニュクスちゃん………。何をする気だい?」

ロキが地面に押さえ付けられると、地面の土が人の腕の形になり、何本もの腕がロキの首と上半身を押さえ付けた。


「ねぇ!ちょっと!」

冷たい視線を浴びせ、イシスが斧を手にした。

「ちょっと!首切り処刑から逃げれるのはOP中のイベントだけでしょ!あ、待ってコレ絶対ドラゴンとか出てくるフラグだから!」

イシスは全く聞く耳を持たず斧を振り上げた。


「こら、待ちなさい」

急に女の人の声がし、トマシュ達が見ると背の高い赤髪の女の人が立っていた。


「っ!ユリア様」

ザシュッ…。

「ヒヤァアア!」

イシスが落とした斧がロキの背中に刺さった。

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