転移門の無効化
「規定値は弄れないのか!?」
「ダメだ!充電中はロックされる!」
ショーンが腕を伸ばし、ダイヤルを幾つか動かそうとしたが、全て物理的にロックが掛けられ全く動かなかった。
「おい、世界が崩壊するって話は本当なのか?」
人馬の主任が話しに割り込んできた。
「あ、うん。そうだよ。だから、恐縮だけど転移門に魔力の注入は止めてくれ」
ロキが後れ馳せながら現れ、あれこれと制御装置の脇に置いてある設計図を幾つか開いて回路を確認した。
「えーと、ここの回路に抵抗器を置いて、でこっちにアースを置いていると………ふむふむ」
「止まれ!」
フランツとアガタはジーベル少佐とアスマン中尉を拘束しようと近付き、銃の扱いに慣れているフランツは小銃を構え、アガタは剣を構えた。
「っちぃ!」
2人を確認したジーベルが拳銃を抜き、フランツに銃口を向けようとする。
空かさずフランツはジーベルに発砲したが、何とジーベルは10メートルも無い距離にも関わらず身体を半歩ずらしただけで銃弾を避けて見せた。
(コイツ!)
(魔法を使うな!)
魔法使い特有の反応の速さから、2人は直観した。
フランツは一気に加速し距離を詰め、ジーベルが放った拳銃弾を身を屈めて避けると、そのままの勢いでジーベルにタックルした。
「貴様!」
銃を撃たせまいと、倒れた状態ながら、フランツはジーベルの右腕を上半身で押さえ、小銃の銃床でジーベルを殴り付けた。
「クソ!」
アスマンが銃剣を抜いてフランツに斬りかかろうとするが。
「させるか!」
「っ!」
寸での所でアガタの剣に突きを逸らされ、その上胸ぐらを掴まれ投げ飛ばされた。
「おっと!」
ジーベルが空いていた左手に魔力が込められ、風魔法で5指に風の刃を纏わせた状態で切りつけて来たので、フランツは後ろに跳んで距離を取った。
フランツが退いた事でジーベルは飛び起きたが、拳銃を捨て、右手で銃剣を抜いた。銃床で3度殴られたジーベルの左頬は赤く腫れ、前歯が折れたせいで口からは血と砕けた歯が漏れ出ていた。
「うわあ………」
「不会吧………」
トマシュは多少は見馴れてはいたが、イシスが本気で大暴れするのを目の当たりにした、忍者の港生は内心怯えていた。
自分達より小さくて華奢なイシスが兵士達を一方的に打ち倒して行くのだ。
既に8人もの兵士が、ある者は手脚を折られ、またある者は投げ捨てられるか剣で顔面を殴られるかして、気を失うか動けない状態にされていた。
「なあ、もうイシス様だけで良くないか?」
イシスは港生の一言を聞き漏らさなかった。
「うわぁ!あぁっ!ひゃあああぁぁぁ!」
イシスは小銃を放り投げ逃げ出していた兵士の元へ飛び、追い付くと襟首を掴み、港生めがけ放り投げた。
「哎!?」
突然の出来事に港生は飛んで来た兵士を蹴り落とした。
「貴様も働け」
イシスは冷淡な口調で港生に言い放つと通路の別れ道の1つを指差した。
「………ハイッ」
(うわ、おッかねえ)
「来るぞ!準備は良いか?」
「良いぞ!」
地上に向かうスロープの周囲で兵士達は梱包していた武器を取り出し準備をしていた。
「来たっ!うわぁぁぁぁ…………」
通路の角に立ち、警戒していた兵士が通路の奥に消えて行った。
「装填急げ!」
「装填完了!」
「?」
イシスが角から出ると、30メートル程先に大砲が鎮座していた。
「Feuer!」
イシスを確認した兵士が大砲を発射したが。
ペシッ!
イシスが意図も容易く、両手で砲弾を掴み取った。
ジュッ………
「あっつ!」
手にした砲弾が熱かったのでイシスは反射的に大砲めがけて投げ返した。
「うわー!」
投げ返した砲弾は爆発こそしなかったが、大砲の目の前に積まれた土嚢に後部から突き刺さり止まった。
(正直、人が投げる石の方が速いな………)
イシスの居た世界では、投石器の他に魔法で身体を強化し、大砲並みの速度で石やら船やらを放り投げてくる強者も居たので、何となく慣れていた。
しかし、それほどの魔法を使える人は流石に少なく。事前に取り決めが有るわけでは無いが、ある種、戦場の花形であり。大軍同士がぶつかり合う前にお互いの技量を見せ合う為に、今ぐらいの速度で物をぶつけ合うのがマナーだった。
故に、今の砲弾もその類いの挨拶だと思い、受け止めてみたら熱かったのだ。
一度は冷静になろうとイシスは深呼吸をしたが、むしろ砲弾が熱かった事を思いだし、イシスは沸々と怒りが込み上げてきた。
「許さん!」
殆ど逆ギレだが、イシスは右手を壁に触れると土魔法で再び地面を動かし。今度は大砲の周囲の地面を揺れ動かした。
「た、助け……」
何人居たかは定かでは無いが、土砂崩れに巻き込まれ。兵士達は狭い空間に閉じ込められた。
「哈!呼!」
「っと!はぁ!」
港生はカンフーで、トマシュは剣で次々と兵士を伸して回っていた。
「ぎゃ!」
いくら兵士とは言え、四六時中武器を携行している訳ではなく。今トマシュと港生が居る付近の様に、居住区として使われている場所には銃火器の類いは置かれていなかったので、十分に対処できた。
「コイツら、旅装だな!」
港生が気付いたが、兵士達の中に一般的な旅装や狩人の様な格好をした者から。着替えの途中なのか、中途半端な格好をした兵士が混じっていた。
「おっと」
強いて言うなら、旅装姿の兵士の方が厄介だった。
火器とは違い、剣の類いは居住区に持ち込まれていたので、逃げ出さずに立ち向かってくるのだ。
幸い、トマシュは父親譲りの剣の腕で、兵士を簡単に打ち倒すので問題はなかった。
「よいしょ」
ロキがまた変なものを懐から取り出した。
「何ですかそれ?」
「普通のチョークだよ」
眼に入っても(比較的)大丈夫な、貝殻の粉末を練り上げたチョークを使い、ロキは別の魔方陣をせっせと描き始めた。
「あ、3歩左に行って」
見守っている忍者に3歩ズレてもらいつつ、大きな円と円の中央に消えていく螺旋を描き終えた。
「対数螺旋………?」
螺旋はベルヌーイの螺旋とも言われる、台風の渦や巻き貝が見せる綺麗な螺旋を描いていた。
「こっちに魔力を散らして、崩壊を止めまるよ。まあ、アースだと思ってくれれば良いよ。じゃあ、恐縮だが、お馬さん、装置を動かしてくれ」
「大丈夫ですか?」
チョークで描いたイタズラ描きで大丈夫なのかデイブは不安になった。
「あー、大丈夫。(多分)そうそう、フランツ君達は………。あ、転移門から離れたから問題ないね」
「え?」
「放電開始」
フランツとアガタが転移門から少し離れた位置に居たので、まあ大丈夫だろうと、ロキは判断したが。
「うがッ」
アガタに突き飛ばされたアスマン中尉が、ロキが描いた魔方陣まで転がり込んできた。
「あ!」
「え!?」
「ア"ぁー!?私の円を踏むなぁぁああああああ!!!!」
アスマン中尉の身体で魔方陣の途中で螺旋が消えてしまった。
「止めろ!」
「む、ムリです」
既に放電は開始され。螺旋に流れる筈だった魔力が溢れ、転移門へ一部が流れた。
「………フランツ?」
転移門が青白く光ったのでアガタが振り向くと、目の前からフランツとジーベル少佐の姿が消えた。
「いや!いやあぁぁぁ!」
(!?)
光りに包まれたフランツは女の悲鳴で意識がはっきりした。
目の前には前のめりに倒れた男、泣き叫び人間の女の子、そして、銃を女の子に向けようとする人間の男。
(クソッ)
殆ど反射的にフランツは剣を構え直し、男に逆袈裟斬りを仕掛けた。
「アイッ」
(浅ぇっ!)
薄暗い事もあり、男の背に浅い切り傷を負わせただけで、致命傷には程遠かったが、返す刃で振り向いた銃を握っている男の右手首を切り落とした。
「うわ、があああ!」
「………っ!」
驚愕する男の顔に見覚えがあった。
「お前は………っ!」
それどころか、この場所も記憶に有った。
「うあああっああ!」
膝立ちになり、呻き声を上げる男を見下ろしていると、扉が蹴破られ、灯りに照らされた。
「警察だ!武器を捨てろ!」
「ニューヨーク市警だ!武器を捨てて手を上げろ!」
警察を名乗る男達の命令を聞き、フランツは剣を床に置くと手を上げた。
「警部!」
刑事の1人が既に倒れていた男の元に走り寄るのが見えた。
「嘘だろ………」
刑事の顔を見てフランツは更に困惑した。
「床に伏せろ!」
銃を構えて命令する警察を見てフランツは余計に困惑し、心臓の鼓動が早鐘の様に速くなった。
「カニンガム?」
フランツはこの巡査を………いや、全員の事をよく知っていた。
「警部!バーグ警部!」
恐る恐る、フランツは刑事と倒れていた男の方を見た。
「………俺!?」
倒れていた男は前世のフランツだった。




