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魔王捕まえました

「いやね、私はその。怪しいものじゃないよ。だからその………。ちょっと、イシスちゃん、助けてー!」


フランツ達に両手を縛られた状態のロキに嘆願されたが、イシスは無視してロキのスマフォを弄っていた。


「知り合い?」

トマシュの問いにも「別に…」と不機嫌そうに答えただけで、イシスはスマフォを操作し続けた。

「いやいやいや………いやいやいやいやいやいやいやいや。ちょ、待ってよ」


“電話帳”の中に、自分達が仕えている神様の名前を見付け、イシスはスピーカーフォンに設定してから電話を掛けた。


『Алло?』 (もしもし?)

女の声だった。

『Это госпожа Ючлия? Это Исида』 (ユリア様? イシスです)


「ユリアってことは………」

まさかと、フランツは思った。

「もしかすると人猫の魔王だよね」

遥か北西。マルキ王国に近い人猫の国を治める魔王ではないかと、ショーンも身構えた。


〈イーシスー?あっれ?何でロキの電話を使ってるの?〉

〈今、ロキを捕まえました。要りますか?〉

「えっ!ロキ!?」

今度はドワーフを治める魔王の名前が出たので、一同はざわついた。

〈………はい?〉

「ちょっと、私を売る気か!」

イシスからしてみれば“魔王ごっこ”の最中なのだから、ロキを早々に脱落させるチャンス位にしか思っていなかった。


〈ちょっとロキに替わって〉


イシスがロキの前にスマフォを差し出した。

「あー、ユーラ。私だ、ちょっと問題が起きたから、出掛けた先でイシスちゃんと出会ったんだけど、何か捕まったんだが?」

『何したの?』


基本的にロキは信用されていないので、変なちょっかいを掛けたのかと、ユリアにまで疑われる始末だった。

「何もしてないよ、神に誓って。………まだ」

『あ、やっちゃって良いよ』


イシスが剣を脱いたので、ロキは慌てた。

「ちょ、冗談。冗談だよ!だからやめて!」

別に切り捨てられても死ぬ訳ではないが、“魔王ごっこ最下位”の汚名と罰ゲームだけは勘弁して欲しいのでロキは必死に嘆願する。


『じゃあ、真面目に答えてよ。何のトラブル?』

ロキは周りに居るフランツ達を見回した。

「内々の話でね。恐縮だが、席を外してくれないか?」

イシスも「少し外して」と言い、イシス以外の全員が聞こえない位置にまで離れた。


「大問題だよ。今回、転生者が多いだろ?前まで1万人に1人の割合だったのが、20人に1人にしただろ?」

『だっけ?』

「あー、忘れたのかい?まあ、問題はそこじゃなくてね。勘違いで転生率を5パーセントにするはずが、20パーセントになってて。結果的に5人に1人が転生者になったし。おまけに、転生者の一部が異世界を往き来する方法を見付けて私の管理する世界の1つが、しっちゃかめっちゃかになってね。原因だと思う遺跡を見に行くところだったんだ」


『しっちゃかめっちゃか、ってどんな?』

「あー、その。第3次大戦が起きそうなんだ。原因は“バタフライエフェクト”かも知れないけど。転生者が絡んでるようでね。向こうは今1986年なんだけど、ソ連の戦略原潜が全部出港したし、米ソの戦略爆撃機が核を搭載してるわ、ソ連が西ヨーロッパに侵攻する準備を整えたわで散々」


『………それさ。今更どうにかなるの?』

「え!?あ、うん。………何とかするさ」


取り敢えず、あっちの世界の時間を止めるかなんかして破滅的な終焉を回避するつもりでいた。


「で、相談なんだけど。イシスちゃんを借りて良い?」

『Нет』

「嫌です」


2人に同時に拒否された。


「何で!?」

『私の子だから』

「めんどくさいんで」

『いやいや、頼むよ本当』


くどくどとロキが説明を始めたが、イシスと通話相手のユリアは聞く気が全く無く、通話を維持した状態でスマフォの格闘ゲームを起動して対戦を始めた。

「で、異世界でハルマゲドンが起きて一斉に生物が死ぬとだな」


『Fight! (カーン』

画面上でイシスが操作するモンゴル力士のキャラクターが弱攻撃を連続で仕掛けたが、ユリアの操作するコサックに全部ガードされた。

「影響は大きいだろうし、変な物を造ってないとも限らないだろ?」


『ハッハッ!ヴァッ!ゲシゲシ)』

ユリアの攻撃が当たり、画面上に“First Damage”と表示された。

「あ、どりゃ」

イシスのモンゴル力士が反撃し、ユリアのコサックにダメージが入るが、押し負けている。

「こっちの世界でどんな影響が………って、ちょっとー?」

スマフォから激しい効果音が聴こえるので、流石のロキも気が付いた。


ユリア側のコサックのゲージが溜まり、必殺技の連打を繰り出してきた。

「た、ったったた!」

しかし、イシスがタイミング良くガードし、イシスのモンゴル力士もゲージが溜まった事で反撃に出た。


「った、ッシャー!」

興奮して耳を後ろに倒したイシスが、勝利の雄叫びを上げた。

見事、コサックの体力を削り切り、勝利したのだ。

『ピコッ』

「あ、称号ゲット」

「え!?っちょ、私のアカウントだよ!」


イシスが称号“土俵際”を獲得した。


「てか、真面目に聞いてよ!もう、ちょっとこの先の遺跡まで行って、転移門を閉じる手伝いをしてくれれば良いからさ」


『Fight! (カーン』

『そうね、どうしましょうか~?』


惚けた調子の声だが、画面上ではイシスと激しい打撃戦を繰り広げていた。


「そもそも、私達にどんな利益が?」

さっき説明した事をかいつまんで再び説明を始めた。

「神聖王国の転生者があっちの世界で手に入れた知識でこっちの世界で悪さをしているみたいなんだ」


「っしゃ!ああぁぁ………」

「………聞いてよん」


イシスが負けて、3回戦が始まった。


『まあ、大変なのは判ったけど。この世界ってロキの持ち物でしょ?何か見返り無いの?』

ロキの目が左右に泳ぐ。

「あー、そうね………」


ロキは悩んだ。一体何を見返りに出そうかと。

「いえ、私は協力しないので」

「あー………。じゃあ、スマフォはどう?新型を買うから」

『却下!』

「何で!?」


一瞬の隙をつき、イシスが大技を3連続で叩き込んだ。

「ッシャー!オラァ!」

『もう、五月蝿いな!負けちゃったでしょ!』

「だから聞いてよん………」


スマフォ越しに不満そうなため息が聞こえてきた。

『スマフォは私が買ってあげるんだから。余計な事はしないで』

「過保護だねえ………。イシスちゃんは何か欲しいの無いのかい?」

「無いです」

「いや、何か有るでしょ?」


無いわけでは無いが、ロキの手助けをするのが何か嫌だった。

『じゃあ、見返りは後にして、取り敢えず一緒に行くってことで』

「え!?」


イシスがスマフォを持ってロキから離れた木の影に入った。

「何で私が!?」

『一番適任だからでしょ。まあ、確かに貴女が手伝う必要なんか無いけど。ロキの言うとおり、この世界と繋がった向こうの世界で世界大戦が起きると此方の世界でも影響が出るだろうし、ね?一枚噛んどいて、ロキに恩を売っても良いと思うわよ』

イシスは耳を垂らし、「そうですけど」と漏らす。


『まあ、無理にとは言わないけど。どうする?』

手伝うように命令を出しても良いが、イシスの事を気に入っているので、ユリアはイシスに判断を任した。

「判りました………」

渋々、イシスは了承し、ロキの元に戻った。


「手伝いますが、私の仲間も一緒に行かせてもらいます」

「それは良かった」

ロキが立ち上がり、“自分で”両手の拘束を解いた。


「ところで、何の集まりかい?」

スマフォを渡しながら、イシスは説明を始めた。


「最初は、人狼の男の子の母親が呪われたと思って、原因の遺跡に向かってたんですが。途中で、この一帯で“原因不明の転移事件”が頻発していると判りまして。原因は、例の遺跡っぽいのと、恐らく転生者が元々住んでいた世界に戻って居るのと関係がありそうなのと、男の子の母親の呪いも、異世界に魂の大部分が転移したのが原因かと」

ロキがスマフォを弄りながら聞いていたが、思いの外影響が出ていることに、嫌な思いをしていた。


「やれやれ、もっと早くに気付けば良かったな。あー、もう戻ってきて良いよ」


遠くに行っていたフランツ達を呼び戻すと、懐から竹製の呼子笛を取り出した。

「ピロロロロ………」


「何だ!?」

戻ってくる、フランツの頭上を何かが追い越し、ロキの前に飛び降りてきた。


「ニンジャ!」

「ニンジャだ!」

デイブとアガタが黒装束の3人組に興奮して声を出した。


出てきたのはロキの護衛として、フェンリルが派遣した忍びだった。

「先の様子を見てきて」

「我明白了!」


「ん?」

「去!!」

中国語を話し跳んでいったので、デイブは面食らった。

某スパイ映画の香港の忍者は何だったんだろ………。

奪った銃が撃てなくて「なんでぇい!」って日本語喋ってたけど。

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