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ロキ降臨

ヨルムンガンドがテレビのチャンネルを弄り、異世界のニュースが映しだされた。


『北大西洋上の原子力空母エンタープライズからジョン・ハドソンがお伝えします』

映像は空母から発艦する2機のFー14を写してから、リポーターに切り替わった。

『私は現在、グリーンランドとアイスランドの間。所謂GIUKギャップでソ連海軍と対峙している、原子力空母エンタープライズに居ます。つい10時間前には此処から東へ100海里離れた公海上でオリバー・ハザード・ペリー級のマクラスキーがソ連海軍の巡洋艦に衝突される事件が起き、現場は非常に緊迫した状況になっております。今も、このエンタープライズ(ビッグE)に接近するソ連のTuー142“ベア”に対応する為に戦闘機がスクランブル発進いたしました』


映像が切り替わり、小柄なマクラスキーの左側を並走している巨大なソ連海軍の巡洋艦が急に右へ舵を切り、マクラスキーの船体が凹み、爆発が起きるシーンが流された。


『乗員の退避は完了したものの、現在もマクラスキーは炎上し続け米英海軍による消火作業が『危ない!』』


リポーターが誰かに押し倒されて、倒れたカメラも空を写した。轟音と共に赤い星を主翼に描いたジェット機が通り過ぎ、カメラが大慌てでジェット機を追った。


悠々と機体を上に向け高度を上げる3機のソ連軍機が写し出された所で、リポートが再開された。

『…連のバックファイア爆撃機です。ソ連の音速爆撃機のバックファイアが急に現れ』


映像が暗転し、スタジオに戻った。

『えー、電波が乱れました。続いてはニューヨークのマイク・オズボーン記者です』


画面が国連本部前に居るリポーターに切り替わる。

急に前倒しでリポートをする事になり、リポーターは慌ててイヤホンを着けていた。


『はい、国連本部前からマイク・オズボーンです。現在、緊急国連安全保障理事会ではソ連のレスコフ国連大使が領空侵犯をした米軍のSRー71を撃墜したと発表し、一方の米国のキーツ国連大使はSRー71の存在を否定しでっち上げだと激しく批判し

ました』

画面が安全保障理事会で写真を出すレスコフ国連大使の映像に切り替わった。


『しかし、レスコフ国連大使が撃墜したSRー71とパイロットの写真を公開した上で、キーツ国連大使をぺてん師だと批判し、米国の圧力によりワルシャワ条約加盟国が不当な圧力を受けていると批判しました。一方、キーツ国連大使はソ連空軍の戦略爆撃機による日本の小笠原諸島や北米、西ヨーロッパの防空識別圏への異常飛行を批判し、緊急安全保障理事会での議論は平行線をたどっています。以上、国連本部前からでした』


何で急に異世界のニュース何か見ているのかと言うと、例の遺跡の転移門が繋がる先。この世界の転生者達が前世を過ごした世界が急にキナ臭くなったのだ。


『今回の緊張の発端となった、トルコでの革命ですが………』


此処が可笑しかった。

80年9月にトルコでの軍事クーデターが起こらず、代わりに81年10月に赤化革命が起きたのだ。


「どうも、転生者がこの世界と往き来しているようです」

ヴィルマの報告にヨルムンガンドは悩んだ。

カエに“南の遺跡を自由にして良い”と約束をしてしまったが、果たして本当に大丈夫かと。


絶対、異世界同士を往き来して悪さをしてる輩が居るのだ。気付いた以上放置も出来ないが、約束を守らなければいけない。

ヨルムンガンドは“一応”神様に仕えている、所謂天使である。主のロキに報告する義務は有るし、天使としてカエとの約束を守る義務も有る。


「困ったなあ………」


話だけでもするべきか、ヨルムンガンドはスマフォを握り、電話帳の“ロキ”の番号を押すのか悩み続けた。




「おい、皆居るか?」

先に逃げたトマシュ達に追い付き、ガスマスクを外したフランツは人数確認を始めた。

「1、2、3………8。全員居るな。怪我は無いか?」


トマシュはニナを注意深く観察し「大丈夫です」と答えた。


「馬も、揃ってます」

人馬故の脚の速さを生かし、先に逃がした馬をエルナが捕まえ、連れ戻していた。


「てか、あんたの方こそ大丈夫なの?血が出てるよ」

アガタに言われ、フランツは自分の右腕を見ると血が滲んでいた。

「あ、クソ。いつの間に」

「まあ、上脱いで」

テキパキと腰の雑嚢から応急処置用の道具を出しながらショーンが言った。

毎度の事ながら、何処か楽しそうに傷の処置をしようとするショーンにフランツは若干悪寒を覚えた。


「で、どうするよ?」

「どうって、逃げるよ」

切り株に腰を掛けたデイブの質問にフランツは即答した。


「危険過ぎるもんね。武装SSにオートマタ、更には迫撃砲に催涙ガスじゃあね」

「そう、ですよね……」


引き返す方向で話が進むので、トマシュは耳を少し垂らし、下を向いた。


(ちょっと、何とかなんないの?)

アガタが小声で話し掛けてきた。

(無茶言うな、相手はナチの武装SSだぞ)

(トマシュが可哀想でしょ)

「~♪」


「ん?」

イシスとエルナは木の上から聴こえるピアノの音色に気付いた。


「~♪」

(映画とかじゃ数人だけでにパパっと倒してるじゃん)

(適当な映画と一緒にすんな)

「~♪」

「なあ………?」

「これって、アレだよね?何だっけ?」


曲が転生前に聴いた事の有る、イギリスのロックバンドのピアノアレンジだったので、デイブとショーンも上を見て音のする方向を探した。


「静かに!」

「ふがっ」

「~♪」

フランツも音に気付きアガタの口を塞ぐ。


「Queenだ!」

「うわわわわ!」

デイブがバンド名を叫ぶと、男と音楽が流れる黒い何かが落ちてきた。

「おぅっ!」

「♪♪」

丁度のタイミングで、曲の前奏が終わり、男の方から軽快なピアノの音色流れた。


腹から地面に落ちた赤髪の男は立ち上がると、ふらつきながらも周りを見渡した。


男を見たイシスは耳を猫が不機嫌な時に見せる“イカ耳”の状態にし、尻尾も不機嫌そうに膨らませた。


「あー、その。どうも皆さん。ごきげんよう………。ちょっと失礼」

「♪♪♪」


山高帽にスーツ姿の男が断りを入れると、地面に落ちた黒い物体。21世紀では当たり前となったスマフォを拾い上げ、通話に出た。

もしもし(Hello)?」



「アレ、電話?」

アガタが怪訝な顔をしたまま呟く。

転生前に巨大な受話器の形をした“携帯電話”は見たことは有ったが、男が持つタッチパネルで操作するスマフォなど、アガタ達からすればSFの世界の電子機器だった。


「あー、ヨルム?どうしたの?」

電話の相手はヨルムンガンド。そして落ちてきた男はこの世界の創造主で有り、ドワーフの魔王として“魔王ごっこ”に参加しているロキだ。

ヨルムンガンドから電話をもらい、急いで大森林に来たところで騒ぎに気付き、木のから様子を窺っていたのだが。スマフォの通話に出ようとして、スマフォを落としてしまい。ロキ本人もうっかり落っこちたのだ。


「んっ!?いや………。今、近くに着いて。ああ、うん。うん。今、見付けたよ。あ、待って」


スマフォから顔を離したロキがイシスの方を向いた。

「ねえ、転生者の……って!?何その顔!?!?」


ロキが叫んだのでトマシュがイシスの顔を見ると、よっぽどロキが嫌なのか、イシスは眉間に皺を寄せ、目を細めていた。

「別に…」

「いやいや、私は変な事をしてないでしょ!?」


確かに、ロキがイシスに………と言うより、カエとニュクスを含めた3人に嫌がらせ等はしたことがない。むしろ、兄妹の仕えている神様に内緒で遊びに出掛けたことも有るのだが、何かこう………ロキが騒がしくて3兄妹は生理的にダメだった。


「デ、何の用デスカ?」

一方的に好意を寄せているの事に薄々感付いているので、最近はぞんざいな態度を取る始末だ。


「ん~!………………、この辺で人間の転生者の集団を見なかった?」

ロキからしても、格下の筈の3兄妹の態度は癪に触る筈なのだが、何か見てて楽しくなるので余計にちょっかいを掛けたくなるのだ。


「ええ、見ましたけど」

ロキがイシス達が逃げてきた東の方向を指差す。

「あっちかな?」

「ええ、そうです」

「神聖王国の人間だった?」

「ええ」


スマフォを顔に当て、ロキはヨルムンガンドとの通話を再開した。

「あー、間違いないみたい。うん、任せて。うん、じゃあね」


ピっと通話を終え、ロキはスマフォに着いた土と苔を拭ってから懐にしまった。


「で、君達………何してるのかな?」


会話に夢中で気付かなかったが、フランツ達に銃を突き付けられたロキはゆっくりと手を上げた。

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