第2話:リブート
「痛てて……何が……?」
まだ痛みの残る肢体を引きずるように起き上がり、辺りを見回す。
先程まで居た公園とは打って変わり、緑はなく、ただ水面に滴る水滴の音のみが反響する洞窟の様な場所だった。
「こんな所……家の近所には無かったと思うけど……」
状況を整理する為に直前までの記憶を掘り起こす。
「確か……遊具の手すりが壊れてそのまま……落ちた?」
結論にたどり着き、身体を一通り見回すが、骨折はおろか少しの出血すら無かった。
「まさかあそこの手すりまだ直してないとは……驚いたよ」
「本当だよ………………ん?」
1度は自然に返事したものの、声のする方を見てみると、艶のある黒髪を首の辺りまで伸ばしたジャージ姿の女子が座っていた。
「だっ、誰だお前ぇぇぇぇ!?」
「え? 急にどうしたの? いつもの冗談?」
「いつもって何だ! 俺にはこんなジャージ女子の知り合いは居ないぞ!」
「へ!? ななな、何で見えてるの!? クロは声しか聞こえないんじゃないの!?」
根黒の言葉を受けたジャージ女子は酷く慌てているようだったが、そこである事に気がつく。
「待て、その声にその呼び方……そしてその声のボリューム……まさかいつも俺につきまとってるアイツか?」
「つ、つきまとってないし……他に喋る人が居ないだけだし……」
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「はあ……? つまりお前にも何が何だか分からないって事か?」
「うん……クロが落ちたと思って焦ってたらいつの間にかここに……」
(参ったな……唯一何か知ってそうな奴が何も知らんとは……)
ある程度話しを聞いてみたものの、何故ここにいるのか、ここはどこなのか、何故身体にダメージが無いのか等の重要な事は何も分からなかった。
(ん……? 彼といえば……)
「てかお前……男じゃなかったのか?」
「え? 何でさ?」
「いや、一人称僕でいままで声しか聞こえなかったからてっきり男なのかと」
「えぇ……じゃあクロはずっと僕が男だと思って話してたの?」
眼前のジャージ女子はその言葉を受け、愕然としていた。
「まあな、それに性別もそうだけど名前も知らなかったし……」
「あれ? 名前言ってなかったっけ?」
「うん、だっていっつも一方的に話しかけてくるのばっかだったからな……俺から話しかけることなんて数える位しか無いだろ」
実際の所、学校で話しかけられ、帰り道で話しかけられ、家で話しかけられ、寝たい時も話しかけられ……と、思い返せば話しかけられなかった日が無いのではと思うほどだった。
「えぇ……僕ずっと名前なんて知ってると思ってたよ……まあ知られてたら知られてたで問題だし……"レナ"とでも呼んどいてよ」
「レナ……ね、分かった。けど名前を知られるのって問題なのか?」
「うん、霊の間じゃ結構有名なんだけど名前を知られると支配? だったか使役される〜とか何とかって」
「何か陰陽師みたいだな……ってそんな事より家に戻らないと」
すっかりいつものように話し込んでしまって忘れる所だったが、依然として位置不明の洞窟の中にいるのだ。
心配する親は居ないがここに留まる訳にもいかないので取り敢えず慎重に進んでみる。
「結構足場が悪いな……レナ、気をつけろよ」
「うん、分かった…………ってあれ何?」
レナが指さした方向に目をやると、明らかに場違いな雰囲気を醸し出す物体が鎮座していた。
それはRPGゲーム等でよく目にする宝箱に似た見た目をしており、薄暗い洞窟の中では不自然な程綺麗に磨かれていた。
「何だこれ? 誰かのイタズラか?」
興味本位で近づき、蓋を開けようと手を伸ばした時。
「今だぁ! かかれぇぇぇ!」
「「「うおおおおおおお!」」」
後頭部に重い衝撃を感じ、倒れ込む。
(レナは……)
朦朧とする意識の中でレナを案じたが、遂には意識を手放してしまった。