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7話 お勉強 ~騎士修道会について:聖ヨハネ騎士団(マルタ騎士団)~

ふんわりまとめは、新しい資料を見つけたら、随時加筆予定。


今回は、中世の騎士団についてです。現在まで残る、ヨハネ騎士団を取り上げています。

勲章システムにつながる、王族が作った騎士団ではありません。


ちなみに、短編は、「公爵令嬢の猫耳参謀」連載開始したので、特別版でした。

連載より先に、二人の王子と公爵家の双子が登場しています。

ふんわりまとめとは関係のない、お茶会です。

【ふんわりまとめ】


●中世の騎士に、女性がいない理由

キリスト教の神は男であると考えていることが原点らしい。

カトリックでは、全能の神がアダムを創造したときに、神の姿と同じに造ったことになっている。アダムは男なので、神は当然男になるとされているとか。

(イヴはアダムのあばら骨から生まれた)

アダムを唆して、禁断の実を食べさせたので、女性は信用できない罪深いモノとなった様子。


キリスト教では、人間のあらゆる欲望は、アダムが禁断の実を食べた(原罪)時から始まる。

よって、信仰する上で一番大事なことは、欲望を抑えること。欲望を抑えれば、禁欲すれば、神に近づくことができる。

しかし、女性は男性が禁欲しようとするのに対して、いつも邪魔しようとする存在だと考えられた。


ゆえに、宗教的騎士道では、女性は避けるものとされ、騎士に叙任された女性はいないらしい。

また、テンプル騎士団などで、妻を持つことを禁じられたのも、同じ理由である。


●騎士団  英語:Chivalricシィヴァルリィク orderオーダァ

十字軍時に設立された騎士修道会、及びそれを模して各国の王・貴族が作った騎士とその附属員から構成される団体である。


・騎士修道会は、ローマ教皇によって認可された修道会の一種であり、構成員は修道士になることが前提となる。


・王・貴族が作った騎士の集団は、軍事集団というより、名誉・儀礼的な意味合いが強い。

後にイギリスのガーター騎士団などの、ヨーロッパの勲章システムに受け継がれていく。


●十字軍  英語:crusadeクルゥーセェィドゥ

十字軍とは教皇が呼びかけ、参加者に贖宥しょくゆうを与える軍事行動に与えられる名称。

※贖宥とは、カトリック教会で、信徒が果たすべき罪の償いを、キリストと諸聖人の功徳によって、教会が免除することをさす。


本来は、主にカトリック教会の諸国が、聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍のこと。

キリスト教の異端に対する遠征軍(アルビジョア十字軍)などにも、十字軍の名称は使われている。


・実態

必ずしも「キリスト教」の大義名分に当て嵌まるものでは、なかった。

中東に既にあった諸教会(正教会・東方諸教会)の教区が否定されて、カトリック教会の教区が各十字軍の侵攻後に設置された。

第4回十字軍や北方十字軍などでは、正教会も十字軍の敵としてみられ、遠征の対象となっている。


・目的地

最初は、エルサレム周辺が多かった。

第4回以降はイスラム最大勢力である、エジプトを目的とするものが多くなる。

最後の十字軍とされることもある、第8回の十字軍は北アフリカのチュニスを目的としている。


・小規模な十字軍

個々の諸侯が、手勢を引き連れて聖地に遠征することもあった。


巡礼で聖地に到着した騎士や兵士が、現地でイスラム勢力との戦闘に参加する。

聖地にそのまま住みついた騎士らや、聖地で生まれ育った遠征軍の末裔らが作る十字軍国家が、継続的にイスラム諸国と戦うのも、十字軍である。


その他、第1回十字軍時の庶民十字軍、少年十字軍、羊飼い十字軍などの大小の民衆十字軍が起こっている(大部分は聖地にたどり着けていない)。


●騎士修道会(または、宗教騎士団)

十字軍時代に、聖地エルサレムの防衛とキリスト教巡礼者の保護・支援を目的として創設された中世のローマ・カトリックの修道会のことである。

一般には「○○騎士団」と呼ばれることから誤解を受けやすいが、あくまで修道会の一形態であり、その成員の公的身分は『修道誓願を立てた修道士であって、騎士ではない』。

騎士であり修道士である会員、キリスト教の教会を守護するための戦士と、清貧を旨とする宗教的に優れた人格をともに実現することを目標とする。


●三大騎士修道会

11世紀に起源を持つ、中世の宗教騎士団。

テンプル騎士団、聖ヨハネ騎士団、ドイツ騎士団のこと。

本来は、聖地巡礼に訪れたキリスト教徒の保護を任務としたが、聖地防衛の主力として活躍した。


現在は、聖ヨハネ騎士団は騎士修道会として存続し、ロドス島からマルタ島を経てローマに移って、マルタ騎士団と呼ばれている。


ドイツ騎士団は、1929年に騎士団支部はローマ・カトリック修道会に改宗し、名はthe Deutscher Orden ("German Order")と変えた。

1938年、ナチスドイツのオーストリアアンシュルスの影響での圧力を受けたがローマ・カトリック修道会はイタリアで救済され、1945年にドイツとオーストリアで再構成した。

20世紀後半までにはチャリティー団体と医療施設になった。


聖ヨハネ騎士団は西ヨーロッパの各地に寄進によって数多くの所領を持ち、豊富な財力を背景にパレスチナにおけるムスリムとの戦いに従事した。


13世紀末にシリア地方における十字軍の領土が完全に失われると、テンプル騎士団はフランス王権の忌避に遭い、解散させられる。

テンプル騎士団の名誉は、最終的に1907年にドイツの歴史学者ハインリヒ・フィンケが「彼らの罪状は事実無根で、フランスのフィリップ4世が資産狙いで壊滅させた」ことを明らかにして、ようやく回復された。


聖ヨハネ騎士団はロドス島に移ってムスリムとの戦いを続けた。



【聖ヨハネ騎士団】


●聖ヨハネ騎士団

現在の正式名称は「ロドスおよびマルタにおけるエルサレムの聖ヨハネ病院独立騎士修道会」

(イタリア語:Cavalieri dell'Ordine dell'Ospedale di San Giovanni di Gerusalemme)


ホスピタル騎士団(Knights Hospitaller)ともいい、本拠地を移すに従ってロドス騎士団、マルタ騎士団とも呼ばれるようになった。



●設立

全ては1023年ごろ、アマルフィの商人がエルサレムの洗礼者ヨハネ修道院の跡に、病院を兼ねた巡礼者宿泊所を設立したことに始まる。

これが聖地における、巡礼者の救護を目的として設立された、聖ヨハネ病院修道会である。


第1回十字軍の後、プロヴァンスのジェラールの努力によって、1113年に教皇パスカリス2世から騎士修道会として正式な承認を得て、徐々に軍事的要素を強めていった。


病院ホスピタル騎士団の呼び名

最大2,000人が収容可能といわれた病院や宿泊施設も、従来どおり運営されている。

騎士出身の修道士も、平時には病院での医療奉仕が義務付けられ、設立時の趣旨を色濃く残していた。

当時、この騎士団に入ることは大変な栄誉とされていたが、その代償として騎士団在籍中は如何なる理由があっても結婚が禁止された。

騎士と呼ばれていても、公的には修道請願を立てた修道士であり、本来的な意味での騎士ではない。


●十字軍として

騎士修道会は十字軍国家の防衛の主力となり、聖ヨハネ騎士団だけで2つの大要塞と140の砦を守っていた。

1187年にエルサレムが陥落した後も、トリポリやアッコンを死守していた。

1291年、ついに最後のキリスト教徒の砦アッコンが陥落した後は、キプロスに逃れた。


※キプロス島

トルコの南の東地中海のシリア・アナトリア半島の沿岸にある島。

東西ローマ帝国分裂後は東ローマ帝国に属したが、1191年には第3回十字軍に参加したイングランドのリチャード獅子心王に占領され、その後テンプル騎士団に譲渡されている


・その後

海軍(実態は海賊)となってイスラム勢力と戦ったが、キプロス王が騎士団の存在を恐れたこともあり、1309年に東ローマ帝国領であったロドス島を奪いここに本拠地を移した。

これ以降、ロドス騎士団と呼ばれるようになる。


【ロドス騎士団】


●ロドス騎士団

1307年の聖堂騎士団の迫害後にイタリアを離れ、ロドス島を占領し、本拠地とした。

1309年に教皇クレメンス5世は聖ヨハネ騎士団がロドス島を所有することを認め、以降、ムスリムが手出しをして来るまでの2世紀ほどにわたり、ロドス島は聖ヨハネ騎士団の本拠地でありつづけた。

騎士団のもと都市は、中世ヨーロッパ風に作り変えられた。騎士団長の居城などのロドス島の有名な遺跡の多くはこの時期に造営されたものである。

現在では「ロドスの中世都市」として、ギリシャの世界遺産に登録されている。


1312年にテンプル騎士団の資産が没収されたとき、かなりの部分が聖ヨハネ騎士団に与えられた。また、中東のイスラーム教徒と戦う唯一の主要な騎士修道会となったため、西欧から多額の寄進を受けることができた。

騎士団の構成員は騎士が500人程度で、母国語によって8つの騎士館グループに分かれていた。

各グループ毎に騎士館長(戦闘の際には部隊長となる)がおり、全体を騎士団総長が統率した。

各騎士館の構成員の人数が常に均等であったことはなく、フランス人の3騎士館、スペインの2騎士館の人数が突出していた。


※ロドス島 または、ロードス島

エーゲ海南部のアナトリア半島沿岸部に位置するギリシャ領の島。

ドデカネス諸島に属し、ギリシャ共和国で4番目に大きな面積を持つ。

世界の七不思議の一つである「ロドス島の巨像」が存在したことでも知られる。



●ロドス島の戦歴

・1444年

エジプトのマムルーク船団がロドス島を攻囲した時には、ブルゴーニュ公国の海軍司令官ジョフロワ・ド・トワジの助けを借りて、これを撃退した。


・1480年

1453年のコンスタンティノープルの陥落以後、オスマン帝国が急速に勢力を伸ばした。ついに1480年にオスマン帝国のメフメト2世は、メシク・パシャに命じて、ロドスへの侵攻を開始する。

島の騎士たちは陸海ともによく守り、撃破されたオスマン帝国軍は島から去った。

西欧では久しぶりのオスマン・イスラーム勢力に対する勝利として騎士団の評判は高まる。

この敗北とともに、オスマン帝国はイタリアへの侵攻も休止しており、結果としてロドス島はオスマン帝国の侵攻から西ヨーロッパを守る防波堤の役割を果たした。

オスマン帝国を斥けた後、騎士団長のファブリツィオ・デル・カッレートは都市防衛力の強化に乗り出し、以後数十年にわたり継続された。

そして、彼が歿した1521年には、ロドスの城塞都市はいかなるキリスト教徒の要塞をもしのぐ堅牢さを誇るようになる。


ロドスの海軍はムスリム(イスラム教の教徒)商人たちへの攻撃を継続していた。

このことは新たにオスマン帝国皇帝に即位した、スレイマン1世による攻撃を招いた。


・ロドス包囲戦 

1522年、オスマン帝国のスレイマン大帝が400隻の船団と20万人の兵で来襲した。

対する騎士団側は、雑兵まで含めて7千人ほど。

数で圧倒的に劣る騎士団は、死力を尽くして都市の防衛にあたり、攻囲軍に対して重大な人的被害をもたらした。

必死の防戦を繰り広げたが衆寡敵せず、ついにロドス島を明け渡してシチリア島に撤退することになる。


1522年12月に騎士団とスレイマン1世は協定を結び、騎士団が持てる限りの財産とともに島を去ることで合意した。

これと引き換えに、残された都市住民には一切の報復が加えられないこと、および住民がキリスト教を信仰し続けても構わないことが確認された。

1523年1月1日をもって騎士団は島を離れ、以降ロドス島はオスマン帝国の支配下に入った。


ロドス島の征服は、オスマン帝国にとっては東地中海の海路の安全、つまり、イスタンブールとカイロの間の円滑な商品流通に寄与するものであった。

ちなみに、1669年にヴェネツィア共和国支配下のクレタ島がオスマン帝国に征服されたが、その際には、ロドス島から軍が送られていた。



【マルタ騎士団】


●マルタ騎士団

再び本拠地をなくした騎士団だが、教皇クレメンス7世と神聖ローマ皇帝カール5世の斡旋により、シチリア王からマルタ島を借りることになった。

賃貸料は毎年「マルタの鷹」1羽である。

このマルタ島でも、ロドス島のときと同様にイスラームやヴェネツィアのユダヤ人に対し海賊行為を行い、マルタ島はイスラーム教徒やユダヤ人の奴隷売買の中心地となった。


※マルタ島(Malta)

地中海の中央、マルタ共和国内の島であり、同国内で最も大きな島である。


・その後について

1565年に再びオスマン帝国の大船団に襲われることになるが、スペインの救援とスレイマン1世の死(1566年)によって、辛うじて防衛に成功した。

このときオスマン軍撃退に活躍した騎士団総長ジャン・ド・ラ・ヴァレットにちなんでマルタ島の主要港がヴァレッタと名付けられた。

続く1571年のレパントの海戦でもマルタ騎士団の船が参加している。


16世紀に宗教改革が盛んになると、西欧各地の騎士団領は没収されるようになり、その力と存在意義は次第に失われていった。

17世紀には、ロシア海軍やフランス海軍の一部として組み込まれるようになった。

1798年、まだフランスの軍人であったナポレオン・ボナパルトがエジプト遠征の際にマルタ島を奪ったため、根拠地を失った騎士団は正教国家であるロシア帝国を頼り、1801年にロシア皇帝パーヴェル1世を騎士団総長に選んだ。

1803年には再びカトリックの総長に戻るが、これ以降は求心力を失い、各地の支部が独自に活動するようになる。1834年に本部はローマに移った。


●現在のマルタ騎士団

現在は国家ではないが、かつて領土を有していた経緯から「主権実体」として承認している国々がある。

世界の約104か国と外交関係を持ち、在外公館を設置している。いわゆるキリスト教文化圏の国々が多い。

その中で主要国はイギリス、イタリア、ロシア、スペインがある。一方で、アメリカ合衆国・オーストラリアなどは承認していない。



軍事組織としての意味合いは既に失われて久しいが、医療団体としての活動はあり、イタリア共和国軍の軍医部隊としても運用されている。

また、国際連合では「オブザーバーとして参加するために招待を受ける実体あるいは国際組織」として扱っており、「加盟国」とも「非加盟国」とも異なる立場である。


●統治機構

騎士団は、憲章に基づき、大評議会、次の役職が置かれている。


・総長(Gran Maestro)

国務評議会 (Consiglio Compito di Stato)で選挙された終身職。

伝統的に大公 (Principe) の称号をおび、また伝統的に騎士団修道会の総長としてローマ教皇から枢機卿に親任される。

※カトリック教会の修道会の総長として、伝統的に枢機卿の任命を受けている。

なお、枢機卿のほとんどが聖職者である現代では、あくまで名誉的なものである。


・事務総監 (Gran Commendatore)

事務をつかさどる。


・外務総監 (Gran Cancelliere)

外交に関する事項をつかさどる。


・医務総監 (Grande Ospedaliere)

保健衛生、民生及び人道援助に関する事項をつかさどる。


・財務総監 (Ricevitore del Comun Tesoro)

財政及び予算に関する事項をつかさどる。


●憲章に基づく会議体

国務評議会 (Consiglio Compìto di Stato)

大評議会 (Capitolo Generale)

政務評議会 (Sovrano Consiglio)

管理評議会 (Consiglio del Governo)

監事会 (Camera dei Conti)

司法評議会 (Consulta Giuridica)





*****



 深い森の奥から、人間の世界に出てきたエルフ。五百年前、両親が滞在したというフォーサイス王国に住み着く。

 王都で冒険者家業を始めた。色々な出来があり、段々と異種族の友人が増えてきた。

 今日は、白猫獣人の兄妹の家で、親族だけのお茶会。エルフは特別に参加を許されていた。


「にゃ、お茶が入りました。皆さま、飲んでください♪」


 カップを運びながら、嬉しそうに白猫しっぽを揺らす猫娘。薬草茶を一気飲みした、第一王子は、一息つく。

 第二王子も、ゆっくりと飲み干し、カップを猫娘に返した。第一王子は、本題に入る。


「クリス、なぜリズやマットが居るのだ!」

「にゃ、知りません。公爵家のおば上が連れてきたんです。文句は、おば上に言ってください」

「マットはともかく、リズなんて」

「にゃ……エド。婚約者をないがしろにする男性は、最低です。リズを泣かせるなんて、女性の敵です!」

「子供のくせに、なにを知った風に言うのだ!」

「はいはい、妹をいじめないでください。本当に、女性の敵認定されますよ。

エドやフィルだって、王家のおば上に連れられてきたんでしょう?」

「……違う。兄上と僕が勝手についてきた」


 金髪碧眼の第一王子、エドワードは、壁際を指差しながら、猫娘を威圧する。猫青年は、かわいい妹をかばった。

 助け舟を出したのは、第一王子と同じ、金髪碧眼の第二王子。口数の少ない第二王子のフィリップは、ぼそりと告げた。

 猫兄妹の母親は、現国王の妹。母方の従兄である王子たちは、父親から王家の金髪、母親から青い碧眼をもらっていた。


 第一王子は、公爵家の長女と婚約中。だが王子たちは、学校で傾国の美女に魅了魔法をかけられ、美女に夢中だった。

 傾国の美女のたくらみを、密かに邪魔しているのが、猫兄妹。王子たちに飲ませた薬草茶には、魅了魔法を解く治癒魔法が込められている。

 明日、学校に行けば、また魅了魔法がかけられるだろうが。


「おやおや、エドとフィルがついてきたんですか? それも、勝手に?

王族が気ままに出歩くとは、なにごとです。公務は? 謁見は? 会議は? 宿題は?」

「公務の書類は、きちんと印を押してきた。謁見や会議は重要な物じゃない。

将来の勉強として、父上の仕事に同席するだけだったから、父上に許しをもらって辞退してきたのだ」

「なるほど、なるほど。公務を怠りがちだったエドにしては、やりますね。フィルは?」

「……兄上の公務の書類を手伝った。問題ない」

「にゃ……エド、兄上なのに、弟のフィルに押し付けたんですか? 最低です」

「……兄上は法学が苦手だ」

「まあ、そういう事なのだ。アンディ、法学の宿題を教えてくれ。土地についての法律が分からない」

「にゃー、フィルの宿題は?」

「……兄上のせいで、まだ。議会法はわからん」

「なるほど、なるほど。二人は宿題をしに、うちに逃げてきたんですね?」

「まあ、そういう事なのだ」

「……そうだ」

「はいはい、了解しました。クリス、土地法は分かりますか?」

「にゃ、全部暗記しています」

「ではでは、エドに教えてあげてください」

「にゃ……エド、おバカさんなんですね」

「なんだと!」

「……兄上、憤慨するだけ無駄。事実」


 猫兄妹は、法律を扱う裁判官の家柄の子供。わずか十二才に過ぎない猫娘だが、法律などお手の物だ。

 身内の前では、王族の威厳のない王家の兄弟。とても、国民の前では見せられない会話だった。




 壁際で、エルフは危機に陥っていた。女性を口説くのが趣味である、公爵家の長男によって。

 ただ、公爵家の長男も、傾国の美女の魅了魔法の対象。魅了魔法のせいで、双子の姉を嫌悪していた。

 双子の姉が止めても、力づくで振り払い、エルフに近づく。

 猫青年は、妹から魅了魔法を解く薬草茶を受けとり、近づいた。


「はいはい、マット。うちの客人に、無体なことをしないでください」

「アンディ、邪魔するなって。いいところなんだからさ」

「おやおや、邪魔ですか。リズ、マットを殴ってもいいですか? 手加減しませんけど」

「それは困りますわね。捕縛魔法をかけてくれても、よろしくてよ」

「はいはい、了解しました」


 猫兄妹の祖父は、治癒魔法の使い手の魔法医師。跡継ぎは妹の方だが、兄も、多少は治癒魔法を使える。

 得意とするのは、暴れる患者を抑える捕縛魔法。幼いころから王宮を抜け出す、王子たちを捕まえるために、自然と磨かれてしまった。

 捕縛魔法にとらえられ、身動きできなくなる長男。猫青年は父方の従兄の前に立つ。


「はいはい、マット。クリスの入れたお茶を飲んでください。飲まないなら、今後一切、妹に会わせませんよ」

「アンディって、冗談がうまいよな。クリスちゃんのお茶を、俺が飲まないわけないじゃん♪」


 公爵家の長男にとって、猫娘はかわいい従妹。わたされた魅了魔法が解けるお茶を、一気飲みする。

 数度またたきして、長男は猫青年にカップを返す。


「はいはい、マット。会議はどうしたんです? おじ上と王宮の会議に出席すると言ってませんでしたか?」

「なんかさ、法学って難しくてさ。議会法を母上に聞いたら、げんこつが降ってきたんだ。

だ、か、ら、アンディ、教えて! お願い、将来の兄上! 宿題が間に合わない!」

「いやいや、クリスはあげませんからね! というか、君も宿題ですか……議会法はフィルに教えるので、あっちで一緒に待っていてください」

「さすが、アンディ、よろしく♪」


 調子のいい、公爵家の長男。軽い足取りで、第二王子の隣に移動する。

 公爵夫人は元裁判官、法律の専門家。普段は穏やかだが、怒らせると怖い。

 長男は、いとこの家で法律の資料を探すと言う名目で、母の生家にやって来た。

 実際は、将来の裁判官を目指す従兄に、法学の宿題を丸投げするつもりで。


「あのアンディ、わたくしは、土地法が一部分かりませんの。お母様に知れる前に、宿題を終わらせたいんですわ」

「おやおや、リズも土地法ですか。エドも、同じ土地法の宿題ですよ。クリスが土地法について教えているので、あっちで一緒に勉強してください。

……クリスの薬草茶を飲みましたからね。明日学校に行くまでは、大丈夫ですよ。せっかくなので、楽しい思い出に、ね?」

「はい。ありがとうございます」


 猫青年に促され、公爵家の長女は、おずおずと婚約者のもとへ向かう。


「あの、クリスちゃん。わたくしにも、土地法を教えていただけません?」

「なんだ、リズも、土地法なのか? 将来の王妃がそれでは困るのだ」

「まあ、エドこそ。将来の国王がそれでは困りますわよ」

「にゃ……心配なので、将来の国王夫婦に、私がきっちりと教えます」


 第一王子は、軽い口調で婚約者をからかう。昔のように。

 公爵家の長女は、わざとむくれながら言い返す。昔のように。

 猫娘の言い方に、軽い笑い声が響いた。


 ずっと沈黙してたエルフは、猫青年を待つ。猫兄妹から、薬草茶を飲むまで、けっしてしゃべるなと言い含められていた。

 猫青年から薬草茶を受け取り、飲み干したエルフの第一声。


「もう、アンディ君、来るのが遅いわよ! あのおしゃべりな人間、なんなの?

子猫ちゃんは、女の子たちだけでお茶会するって、言ってたじゃない!」

「すみません、すみません。薬草茶の準備に時間がかかったもので。彼は、私のいとこの一人です。

女性だけでのお茶会は、本当ですよ。父方のおばと、母方のおばと、うちの母上と妹だけのはずだったんです」

「なんで、男の子がいるの? たしか、あっちの二人は王子様だったわよね」

「はいはい、勝手についてきたようです。妹のお茶は、美味しいですからね。

金髪は王子で間違いないですよ。赤毛の方は、公爵家の長男です」

「公爵? たしか、貴族で一番偉い人よね」

「はいはい、合っています。あ、お茶会の準備ができたようですね。

リリー嬢、じいやが先導するので、母上たちと楽しんでいてください」

「アンディ君は?」

「はいはい、クリスと一緒に、いとこたちの宿題を終わらせてから参ります」

「あら、そう。じゃあ、先に行ってるわね」


 エルフと猫青年が話している間に、扉を開け、使用人が部屋へ入ってきた。

 ウキウキしながら、エルフは部屋の外に出ていく。王家の微笑みを浮かべ、エルフを見送った猫青年。

 微笑みを消して、方向転換し、第二王子と公爵家長男のもとに向かう。

 いつもの穏やかな好青年は消え、法律を教える鬼教師が姿を表した。




情報源はWIKIなんとか。あちこちから、資料の寄せ集めになっています。

間違ってる部分や、足りない部分もあるかも。

自分のための資料集なので、ふんわりまとめですが。



●短編や、連載小説猫耳参謀に関する与太話


第一王子、エドワード。通称、エド。

第二王子、フィリップ。通称、フィル。


公爵家の長男、マシュー。通称、マット。

公爵家の長女、エリザベス。通称、リズ。


今後、上記の四人が、連載中の「公爵令嬢の猫耳参謀」に出てくる予定です。

いわゆる、悪役令嬢がエリザベス。ヒロインの魅了魔法の虜になるのが、王子兄弟と公爵家の長男。


王子兄弟は、王侯騎士団のガーター騎士団創設者エドワード三世、金羊毛騎士団きんようもうきしだん創設者フィリップ三世にあやかって。

公爵令嬢のエリザベスは、ルネサンス期イタリアの文芸を保護したイザベラ・エステにあやかって(イザベルやイザベラは、フランス語。エリザベスは英語)

公爵子息のマシューは、発明家のマシュー・マレーにあやかって、命名。


●ついでに、人名について

剣士のユーインは、Ewen。語源は、ヨハネ。

ヨハネは、キリスト教の十二使徒の一人。

聖ヨハネ騎士団は、十二使徒の聖ヨハネを守護聖人とします。

ゆえに、黒髪剣士のユーインは、騎士見習い。


猫娘のクリスティーンは、Christine。語源は、キリスト教徒。

聖ヨハネ騎士団は、ホスピタル騎士団とも呼ばれる。

ゆえに、銀髪猫娘のクリスは、魔法医師。ユーインに守護されている。


などなど、ヨーロッパの人名は、キリスト教に関係あるものが多いですね。


2017年6月3日 構成変更。

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