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4話 お勉強 ~司法の貴族:法服貴族と聖職貴族~

ふんわりまとめは、随時、加筆中。

【ふんわりまとめ】


法服貴族ほうふくきぞく

いわゆる文官。法衣貴族(ほういきぞく)と訳す人もいる様子。

16~18世紀の絶対王政期のフランスの社会・政治体制アンシャン・レジームにおける、司法もしくは行政上の官職を保持することによって身分を保証された貴族のこと。


爵位と違い、官職に就くこと自体は、規則上貴族としての地位を与えるわけではなかった。

基本的に、領地を預り治める貴族ではないと言うこと。

(同時に爵位も保有する場合はあったが)


法服貴族(特に司法官)は多くが大学で学んだために、学位授与式で着るローブやガウンにちなんで「ローブの貴族」という呼称が生まれた。

このローブ等は、「アカデミックドレス」とも言う。

元来、官職に伴う地位は国王への奉仕に対する報酬として与えられるものであったのが、次第に(十分な執務能力を持った者に対して)金銭で売買されるものとなっていった。


帯剣貴族たいけんきぞく

いわゆる武官。昔からの世襲貴族は軍務を担うことが多いので、帯剣貴族と呼ばれた様子。

対して、法服貴族は新興貴族が多かった。


なお、法服貴族の地位は軍務の奉仕とも土地の支配とも無関係なため、帯剣貴族からは下に見られた。

高等法院の司法官のようなエリート法服貴族は、帯剣貴族との平等を求めて争った模様。



聖職貴族せいしょくきぞく

1502年のイギリスの公式文書に「聖職貴族と世俗貴族」と書かれだしたのが、最初らしい。

貴族院を構成する高位聖職者と爵位保有者を指している。


貴族院きぞくいん

イギリスの議会を構成する議院で、上院に相当する。

当時の貴族院は、庶民院に弾劾された貴族・庶民を裁判する権利、重罪で告発された貴族を裁判する権利、そして下級裁判所の判決を覆すことができる最高裁判所としての権能を有していたらしい。


庶民院しょみんいん

イギリスの議会を構成する議院のひとつで、下院に相当する。

設立の経緯は割愛。当時の庶民院は、庶民や騎士で構成された。

庶民院が弾劾権(国王の大臣を貴族院に告発する権利)を確立するに及んで、司法権は貴族院にあり、庶民院にないことが明確化したようす。




*****



 深い森の奥から、人間の世界に出てきた金髪エルフ。フォーサイス王国の王都に住み着く。

 人間の世界での生活も、早一月。異種族の友人を得て、元気に過ごしている。

 今日は王国の知識を得るために、猫娘の実家へ。異邦人の鍛冶屋も誘い、お勉強会を開いていた。


「公爵と侯爵……発音は同じだけれど、違うのね。間違えそうだわ」

「侯爵か。東の方では、『そうろうこうしゃく』と呼ぶところもあるな」

「そうろう?」

「ああ、書いた方が説明しやすい。書くものをくれ」

「にゃ、どうぞ」

「漢字という文字なんだがな。侯爵の侯は、そうろうと言う文字に似ている。

文字の違いを利用して、そうろうこうしゃくと呼び分けるんだ」

「まあ、面白いわね」


 東方出身の鍛冶屋。猫娘の差し出したペンで、紙に文字を書いていく。

 異国の文字は面白い、エルフも猫娘も、興味津々だ。

 猫娘は白猫しっぽをふりふり、エルフと違う反応をした。


「にゃ、この文字、絵みたいです♪」

「漢字か? 元々は絵文字が起源だからな」

「にゃ? 絵文字が変化して、これになったのですか?」

「ああ。山とか、川なら分かりやすいかもな。

この絵文字がこう変化して……こうなったんだ」

「にゃー! すごいです、すごいです!」


 鍛冶屋が漢字の起源を描いて見せる。両手をたたいて、猫娘は大喜び。

 外見年齢十才くらいの猫娘の笑顔に、鍛冶屋は目を細めた。

 故郷に残してきた年の離れた妹を思い出し、軽く頭をなでてやる。


「にゃ?」

「あんたは、僕の妹に似てるところがあるな。年頃の娘は、素直なほうがいいぞ」

「にゃ……ノア殿は、兄上みたいなこと言います」

「僕は、あんたの兄貴か?」

「兄上、もう学校から帰ってきている時間です。呼んできますので、お待ちください」

「はあ? おい、クリス!」


 猫娘と鍛冶屋の会話は、微妙にすれ違う。不思議そうな顔になる鍛冶屋。

 気まぐれな子猫は、鍛冶屋を無視して、家の奥に消えた。

 置いてけぼりにされた鍛冶屋。その服を、エルフが引っ張る。


「ノア君、ノア君、漢字ってどう書くの? 教えてちょうだい」

「西の者に、漢字は難しいぞ。まずは、この国のことを覚えてからにしろ」

「嫌よ、今すぐ知りたいんですもの!」

「おい、後のことも考えるんだ。

西と東のことを混ぜて覚えたら、作家になったとき大変になるだろ。

悪いことは言わん。整理しながら、順序立てて覚えていけ」

「……それもそうね、ごちゃ混ぜは困るもの」


 エルフの作家志望を利用する、鍛冶屋。

 故郷に居る、聞き分けのない妹の扱い方を思い出しながら、対処する。


「いやいや、お見事ですね。さすが兄上です」

「あんたもできるだろ、兄貴なんだから」

「はいはい、できますよ。お互い、兄は大変ですよね」

「ああ、まったくだ」


 部屋の入口の方から、感心するような声が聞こえてきた。

 短く切った金髪と緋色の瞳が特徴的な、白猫獣人の青年が立っている。

 鍛冶屋は、猫娘の兄に向って肩をすくめた。





「はいはい、今日は何を知りたいんですか?」

「あのね、貴族について教えて欲しいの」

「にゃ、一応、五爵位と準貴族、世襲と一代貴族については教えました。

……リリー嬢がきちんと理解しているかは、分かりかねます」

「なるほど、なるほど、『知っている』と『理解している』は、違いますからね。

リリー嬢、もう一度おさらいしますか?」

「今度でいいわ。別の貴族について教えてちょうだい。

子猫ちゃんの家についてとか。貴族なんでしょう?」

「はいはい、いいですけど、うちは特殊ですよ。世襲型の法服貴族ですからね。

祖父や妹のような魔法医師は、本来一代貴族なのですが、こちらも世襲していますし」

「せしゅうきぞく? 確か、先祖代々土地を守る貴族よね。ユーイン君の家もそうだったもの」

「いいえ、いいえ、違います。ユーインの家は、帯剣貴族ですからね。

うちは法服貴族、我が家が守るのは、王家の血筋と国の秩序でしてね。

言い換えれば、この国そのものを守るのが、使命であり義務なのです」

「……どう違うの? さっぱり分からないわ」


 猫青年の言い回しは難しい。エルフは、険しい顔をした。


「ではでは、我が国の帯剣貴族と法服貴族の説明をしましょう。

武官と文官の違いは判りますか?」

「ええ、戦う人と、文字を書く人でしょう? 冒険者と冒険者ギルドの職員さんとの違いよね」

「はいはい、そうです。帯剣貴族は剣を持って土地を守る、つまりユーインの家は武官ですね。

法服貴族は、ペンを持って国のために文字を書きます。つまり我が家は文官です」

「アンディは説明がうまいな。その説明なら、僕も理解できるぞ」

「帯剣と法服の違いは、分かったわ。で、ほうふくってなあに?」

「はいはい、法服貴族は学校で勉強しなければ、なれないのです。

今、リリー嬢にしているように、他人に説明する場合もありますからね。自分が勉強しなければ、他人に教られません。

ゆえに冒険者でも、勉強をすれば将来なれる可能性のある一代貴族なのです」

「あら、私でもなれるのかしら? 学校に行くの?」

「はいはい、なれます。学校で勉強して、たくさんの試験に合格することが必要ですよ。

学校で勉強して、勉強が終われば、卒業式で前開きの黒いローブをもらうのです。

このローブ……アカデミックドレスというのですが、このローブを持つことが文官の条件一つですよ」

「にゃ、兄上はローブをもらうために、勉強中なのです。

ローブはとっても大切です。司法官の試験を受けるときも、一代貴族の任命式にも、このローブを羽織りますから」

「はいはい、クリスの言う通りですよ。

我が国ではローブを着た司法官の一代貴族が転じて、法服貴族と呼ばれるようになったようです。

何度も言いますが、法服貴族は一代貴族なのです。守る土地のない貴族ですからね」

「僕の親方が、国宝職人として、一代貴族に名を連ねているのと同じだな」


 猫青年と鍛冶屋の言葉に、無言のままのエルフ。頭の中は、混乱中。

 一代貴族。どこかで聞いたが、思い出せない。


「子猫ちゃん、いちだいとせしゅうって、どう違うのかしら?」

「にゃ、一代貴族は、本人だけが貴族と名乗れます。世襲貴族は、代々が貴族の家柄です。

うちは世襲貴族の男爵家です。西の獣人王国と接する土地を治めています」

「おい、アンディ。世襲貴族が、なんで一代貴族の法服貴族なんだ?」

「はいはい、昔の言い伝えがもとですね。

フォーサイス王国ができたとき、人間と獣人は仲が悪かったそうです。

あるとき、人間の長である王族の娘と、獣人の長である族長の息子が恋に落ち、獣人の子供が生まれました。

その子供が、うちのご先祖様なんですよ」

「にゃ。ご先祖様は獣人と人間の不和を収めるために、世界の理から仲裁役を任命されたのです。

それが、裁判官の始まりで、我が家は代々裁判長を務めることになったと、父上は言っていました」

「ふーん、そんな昔話があるなんて、あんたたちの家も歴史が古いんだな」


 猫兄妹は、誇らしげに先祖のことを語る。鍛冶屋は、腕組みしながら二人の話を聞いた。

 小難しい話に、頭から煙が出そうなエルフ。機能停止していたが、やっと動きを取り戻した。


「その子の話なら、知っているわ。エルフの里で育った、白猫君でしょう?

白の聖獣の導きで、人と獣人の争いを止めるために、エルフの女の子と森の外へ旅立っていった言い伝えが残っているわ。

あたしの両親は、その言い伝えが本当か知りたくて、冒険者になったのよ。

ただ、本人には会えなかったようね」

「なるほど、なるほど。確かに、うちの始祖の妻は、エルフと言われていますよ。

五百年前の青の英雄の時代の少し前まで、生存していたようですね。

幼少期の祈りの巫女姫に、治癒魔法を教えたのは、このエルフだそうです」

「祈りの巫女姫? 祈りの巫女姫……祈りの巫女姫ですって!

ちょっと、その話本当なの!? 嘘じゃないのね?」

「にゃー! リリー嬢、落ち着いてください! 兄上が死んでしまいます!」

「おい、リリーよせ! アンディ、大丈夫か?」

「ゲホッ、ゲホッ……いやいや、大丈夫じゃないです」


 驚いたエルフ。感情の向くままに、猫青年の襟元をつかむ。勢いよく、前後に揺さぶった

 思ってもいない攻撃を受けた、猫青年。猫の身体能力を駆使して、なんとか逃げ出す。

 猫しっぽを膨らませる相手を、鍛冶屋はかばった。せき込む背中を、さすってやる。

 離れたところで、エルフと猫娘の攻防戦。逃げる子猫と、追い詰めるエルフ。


「子猫ちゃん、祈りの巫女姫を知っているの? 知ってるわよね!

エルフはどうなったの? 教えてちょうだい!」

「にゃ……二人とも、私のご先祖様です。祈りの巫女姫は、エルフの子孫ですから」

「そう、子猫ちゃんの成長が遅いのは、エルフの血筋だから?」

「にゃ……わかりかねます。世界の理に聞いてください」


 シャンデリアの上に飛び上がり、猫耳を伏せる猫娘。子猫は全身で恐怖を表す。

 猫娘を捕まえようと、手を伸ばしながら見上げるエルフ。輝く表情で、色々と尋ねていた。


「おい、アンディ。アレ、どうする?」

「……いやいや、妹を言い負かせる存在なんて、久しぶりに見ましたよ」

「感心してる場合か?」

「はてはて、どうやって止めましょうか」

「青の英雄に関する資料は無いのか? それなら、リリーも納得するだろ。

僕の妹も、絵本を読んでやれば、大人しくなった」

「確かに、確かに、うちの妹も本好きですが。リリー嬢も、同じ対応で良いのでしょうかね」

「大丈夫だ。あいつは、作家志望だと言っていた」

「なるほど、なるほど。歴史書でも、持ってきましょう」

「ああ、早めに頼む。後始末が大変になる前にな」

「やれやれ……まったくですよ」


 青い瞳を細めて、深くため息を吐く鍛冶屋。ついにエルフが、シャンデリアにぶら下がった。

 のど元をさすりながら、猫青年は本棚に向かう。背後から、猫娘の泣き声が響いてきた。



ふんわりまとめの情報源はwiなんとか。

間違っていることも、情報が抜け落ちていることも多いです。



●短編裏設定

猫兄妹の男爵家は、フランスの法服貴族がモデル。

(司法や行政内容などの詳しいことについては、決めていません)


エルフ書房世界観では、中世の欧州がモデルですが、貴族の制度や身分などは東西問わず、色々な国がごちゃませです。

パラレルワールドの異世界なので、地球の常識とは、異なる部分も多いです。

(司法が罪を決めても、最終決定権は世界の理にあり、世界の理が罪と認めなければ、無罪となる等)


2017年6月3日 構成変更


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