8話
少女の身体から力が抜けていくのを確認して、セツは牙を抜く。
「ユア、今日も採りすぎたみたいだね。顔が真っ青だ。月の影響で凶暴性が出てきてるとはいえ、愛姫。お前のことを殺したら契約違反になっちゃうよ。あの人との契約を破ることになるから」
自分の手首に牙を立てて、血を吸う。その血を愛姫に与える。顔色が少なくとも真っ青ではなくなった。セツは愛姫の頭を優しい手つきで撫でる。
「俺は契約違反になって殺してもいいとは思ってるけど、お気に入りのうちは殺さない。だから、ついでにあの人との契約を守っているんだ。まだ、お前に愛姫に恩を返せてもいないからね」
愛姫と呼ばれた少女を自分のものにしたいと思った気持ちは嘘じゃない。だから、今とても満たされてはいるんだ。
本名の愛姫という名を奪って、心も縛り付けてまで欲した初めてのもの。
人間。
この独占欲が他のものなど見るなと騒いでいる。本当に他のものなど見なくていい。俺の傍にさえ、いれば……。
ねぇ、愛姫。俺のものになってよ? お人形じゃ、意味がない。お前の意思と心があって、感情が伴ってこそ意味がある。
人間の時と同じように変わらないお前ままでいてよ。感情豊かで笑顔が輝いていて……。
早く、俺のものになって。俺のものになった時、真実を教えよう。だから、今はお前の真実を探すことに付き合うよ。知っている真実を俺が握っているのに、お前に隠している俺。それは、お前にはまだ、早いと思っているから。
どうか、あれの存在にはまだ気づかないでね。あれに気づいてしまったら、真実をすぐに伝えなくてはいけなくなる。
お前の心の整理もできないまま、事が進むのはよくないから。だから、まだ気づくな。そして、俺の本当の心にも……気づかないで欲しい。
お前を殺してもいいなんて言っているけれど、それが嫌なことに……。
だが、他の誰かに殺されるくらいなら俺の手で……とは思っているけどね。