7話
現在、私たちは屋敷を買い取って、そこに住んでいる。
人間に必要な名義や身分証明書など、生活に支障がないように揃えとかなければいけないものは、全て作られたり買われたりされていた。
「人間は面倒だよね。色んなものに縛られる」
セツはそんなことを零していた。だが、悪魔の能力も馬鹿にできない。人間に必要なものがすぐに揃えられてしまうし、都合良く人間に認識させたり、改竄させることができるから。
(悪魔様様ってところかな?)
「刹那が過ごしやすいようにしてるのに、そんなことを考えているなんて、ね。俺に、家とかは必要ないんだから」
「じゃあ、悪魔って普段どう過ごしてるの?」
純粋な疑問。私みたいな契約者がいなかったら、どう過ごして生きているのか。疑問すぎる。
「ユア」
低い声に金の瞳も鋭く光る。私の身体はびくっと震える。私の手首をとり、そのまま身体ごと壁に押し付けた。
「俺の説明すること以外は聞いてはいけない。そういう契約だったよね?」
「でも、質問するくらいはいいでしょう。応える応えないはセツが決まればいいんだから。今のセツ、なんか怖いよ?」
セツは私の顎を強く掴んだ。掴まれている手首に力が篭っているので、そちらも痛い。
「そうだけど、あまり怒らせないで欲しいよ。君は契約した時から俺のだよ?」
「私はお人形じゃない。そんなにお人形が欲しいなら、私の心を縛ればいい。貴方は私にそれができる」
「ハァー、君は分かってないな。俺はお前の全てを握ってる。悪魔としての主人、親でもあり、契約者でもある。お前を悪魔にした俺に経験の浅いお前が、強固な契約をして俺に命を握られてるも同然のお前が逆らえるわけがないだろう? 今もみっともなく震えてるくせに……なぁ」
セツの言う通りだった。鋭く私を射ている金の瞳が怖い。込められた強い力に抵抗できないことも、この手から逃げようともがいても、セツの声で支配される。
私がセツに指図することは許さないとそんな権利が私にはないと言われている。
ガタガタと震えてくる身体は言うことを聞かない。細められていく瞳が笑みを浮かべる姿が、苛立ちを露わにしている。急に凶暴になるのは、主食をしていないから。他の理由は……。
白いベッドに押さえつけられている少女と押さえつけている男。少女は男に蹂躙されている。
「ふぅぅぅ……、っっ、やっ……、ぁぁぁ」
「美味しいね。お前の唇も血も、他はどうかな? お前の全ては甘いのかな?」
「もぅ、ゃ……やめて……」
「苦しいよね? 辛いよね? だって、血を吸われてるんだ。苦しくない訳がない。でも、駄目だよ。俺に指図するなんて、いつからそんなに偉くなったのかな?」
首筋から流れる血を舐めとられる。そして、太腿や手首についた牙の跡を撫でられ、うなじに舌が這った後、たてられる牙。
ぐちゅぐちゅと嫌な音がする。牙がたてられ、血を吸われていることが分かる。
「ユアの瞳の色が紅くなってるね。飢えちゃったんだね。でもね? お仕置き中だから、あげないよ?」
「あぁぁンっっ。 ゃだ、もぅ、とって……」
「駄目だって……。殺しはしないから、平気だよ。満月の影響で力が溢れている今日のこの日に、俺の勘に触ることするから。いつもなら、笑って許してあげられるんだけど、今日はね〜。気をつけてって注意してたでしょう? ユアはまだ、月の影響が分からないから、どんな風になるのか知らないと思うけど、もう何回も同じことしてるよね? それとも、俺にこんなことされたくてしてる? 」
血を吸われて、意識が薄れていく。本当に殺されないか不安だ。何回か同じことを繰り返してしまっているが、決して血が吸われたいからな訳じゃない。
いつもなら笑って許されるから忘れてしまうのだ。それに、満月の日だけでなく、満月に近い日だって今日のように凶暴になることだってある。だから、とても分かりにくい。
その周辺の日には気をつければいいのかもしれないが、そんなに気を張ってられない。気になることは気になるし、意見だって言いたいときは言う。
血を吸われるなら、耐えるしかない。自分で蒔いた種だ。終わるまで耐える事しかできない。
抵抗をした時、悪魔の力で縛られて、もっと酷いことをされたから、それからこんな日は抵抗しないようにしている。
「そんな……ゎけ……な……ぃ……で、しょ」
視界が暗く染まっていった。