28話
女に警戒しながら、声がした方を見る。そこには、セツに抱えられたユアちゃんがいた。きっと彼女の声だったのだろう。僕は先程の「待て」という言葉に動きを止めていた。
「貴方、その人に何をしようとしているの?」
セツは僕の近くまでやってくるとユアちゃんを下へ下ろした。自分の足で立った彼女に僕は一言。
「殺すんだよ」
彼女はこの行為に反対するのかと思っていた。でも、違った。
「その女の人は私の復讐相手なの! 勝手に殺されるのは困る。私が彼女を殺すのだから」
僕はパチパチとまばたきをする。僕は彼女がなんと言ったのか頭の中で情報を整理した。
「う〜ん。うん? えっ!? ユアちゃんみたいな温室育ちに人は殺せないよ。だからここは僕がやるから黙っていると――」
彼女の行動によって、僕の言葉は遮られた。
ユアちゃんは、僕の右手にある剣を素早く奪い取る。彼女のことは警戒していなかったので、あっさりとそれが取られてしまった。
彼女は僕の手から奪った短剣を女の腹に突き刺した。女は急な出来事に逃げることはできなかった。きっと僕に殺されるとは思っていたけど、ユアちゃんにやられるとは思っていなかったのだろう。
彼女は女の腹、さらに奥深くに銀の刃を埋めようと力を込めていく。手首をひねり、刺さった刃で女の傷口を広げていった。
血に染まっていく彼女を見ていたのは、僕とセツ、僕が抑え込んでいるデレアスモスだった。
温室育ちは言い過ぎたかもと僕は思った。苦痛を受けている相手により強い痛みを与えようとしているところは、純粋培養な者ではできないこと。
ユアちゃんを含めて、女とは怖い生き物だと再認識する。
女がピクリとも動かなくなった。それと同時にユアちゃんも動かずにじっと女を見ていた。その様子を片目に見る。そして、僕はセツが自分の足下にいるデアちゃんに近づいてきたことも見ていた。
「おい、こいつに用がある」
「逃げる気力もないだろうし、いいけどさ。でも、デアちゃんを殺すのはやめてね?」
「はぁ、殺さないという保証はしない。だが、今は一発殴るだけだ」
本当はセツはデアちゃんを殺してやりたいと思っていると思う。僕もデアちゃんのことは気に食わないし、そこには共感する。しかし、デアちゃんを殺したら、チェサくんが亡くなってしまう。
チェサくんにはデアちゃん魔力を核として使っているので、その本人が死んでしまったら、チェサくんの持っている魔力が枯渇してしまう。それは死に繋がるのだ。いくらチェサくんが外部から魔力を取り入れることができるといっても、魔力の素がなくなれば壊れる。
魔力は生きている。個人個人が持っている魔力。それを持っている者が亡くなってしまうことは、その者の魔力が消えることを意味する。正確には、心臓が動きを止めれば、魔力が消えてしまうということである。
魔力を生み出している心臓。それをデアちゃんから取り出して新しいチェサくんの魔力の素、核にする必要がある。
とりあえず、心臓が無事なら問題はない。だが、それを傷をつけずに取り出すにはどうしたら良いのか。
「それ、守ってよ! デアちゃんから魔力を心臓を抜き取るんだからね!!」
僕は考える。チェサくんを簡単に消しちゃうのは、もったいないから。まだまだ、使える存在。デアちゃん自体は嫌いだけど、彼の魔力に罪はないからね。
使えるものはなんでも使うのさ。




