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27話

 私のことを呼んでいたのは貴方だった。セツだったの。私が何という名前で呼ばれていたのかは覚えていない。でも、心の奥底が揺さぶられていた気がする。


「セツ、おはよう」


 久しぶりな感じがした。笑うことも挨拶を交わすことも、なんだか懐かしい。また、霞みがかった思考がスッキリしている。


「ユア、おはよう。ごめんな、遅くなって……」


「いいの、セツは助けに来てくれた。だから、それでいいの。私こそごめん。私はセツではないあの者と――」


突然セツは私を抱き寄せた。ギュッと私を抱く強い力とぬくもりに涙が流れる。私はセツのもとにいたい。離したくない。

 辛いこともあったけど、楽しいこともあった。それになにより、私はあなたが――。だから、安心したのだと思う。


「何も言うな。お前は戻ってきてくれた。消された記憶いや、正確には封じられた記憶の蓋を開けて、ここに帰ってきた。俺はデレアスモスからお前を守れなかったんだ。お前に全てを背負わせることはない」


 甘くて誘惑するような言葉に逆らえるわけがない。これまでになく、優しいセツ。彼の心境の変化に戸惑いながらも私は彼に少しの間胸を貸してもらった。

 泣くのはあとでもできることだもの。少しだけ優しさを感じていたい。



 俺はデレアスモスには敵わない。だが、スピリトとの対決で弱ったあいつを一発殴ることはできるかもしれない。いや、必ず殴る。俺は、そう決意した。

 腕を緩めてユアを離す。彼女はもう泣いてはいなかった。


「もう大丈夫」


 少し目が腫れていた。でも、目には強い意志が宿っている。彼女はもう大丈夫だろう。泣き言は家に帰ったら、また聞いてやろう。


「あいつらがいる薔薇園に行くぞ」


 彼女はそのことばに頷いた。そして、俺はユアを抱えて走った。



 たくさんの薔薇が咲いている庭。綺麗なその花は無残にも花びらとなって地面に落ちていた。赤と白が地面の一面を埋め尽くしている。薔薇の花はほとんどなくなっていた。

 そこにいるのは、スピリトとデレアスモス、先程はいなかった女の使用人である。チェサの影は見当たらなかった。

 デレアスモスを踏みつけるスピリトを女は睨みつけている。


「主人を助けようとするのはいい心がけだね。でも、こいつを本気で助けるつもりなら笑ってしまうよ。君の復讐相手だよ? デアちゃん。何もかも忘れ、利用されている君には理解できないか」


 スピリトの冷たい視線が女に注がれる。女はそれに怖気付くことなく、戦う構えをとっていた。

 

「君の本当の敵を救おうとする姿は滑稽であり、哀れだよ。ほんと、呆れる。悪魔のルールを破ったデアちゃんは死ぬことが決まっている。だから、君がそんなことをしてもデアちゃんも君も助からない」


 女はデレアスモスと運命を共にするものとなってしまった。そのため、助けることは不可能なのだ。契約した悪魔に利用された女を救う方法はない。


「君は、楽に死なせてあげる。それが僕にできるせめてものことだもん」


 主人を守ろうと女はスピリトに近づき、懐から出した小さな剣で彼と戦おうとする。だが、デレアスモスが敵わなかった相手に、女が敵うはずはない。スピリトはすぐさま女から短剣を奪い、彼女にその刃を突き刺そうとした。


「ちょっと待って!」


 辺りに響いたのは誰の声だろうか。


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