25話
デレアスモスと対峙するスピリト。デレアスモスからしたら、ひと時も気を抜くことができない戦いになるだろう。本来なら目の前にいる男が悪魔の王となっていたのだから。
風を身に纏い、少しでも攻撃を通すことのないように薄いバリアを作った。勝てるか、勝てないのかは関係ない。この男を倒して、シアをもう一度我が手中に収める。
悪魔の序列は強い順で決まっているといったデレアスモスは分かっていた。自分の勝ち目などないことを理解していた。それでも、簡単に諦めることなどできはしないのだ。だから、彼はスピリトと闘う。
彼に勝つことができないもう一つの理由を頭の片隅に置きながら、自身の望みのために魔法を使用し、拳を振るった。
スピリトはヘラヘラと笑っているが、侮れない男なのである。全ての国を掌握しようと思えば、一日もかからずに手に入れることができる者。スピリトは我らの何千倍も長く生きている悪魔だ。
普通の悪魔なら寿命で亡くなっていてもおかしくはない。しかし、スピリトは死を迎えずに生きている。どのようにして今もなお生き残れているのかは不明だが、魔力の量も経験の差も桁違いだ。
『悪魔の裏歴史〜魔王編〜』という本が存在する。悪魔の世界でたった一冊の貴重本とされているため、厳重な管理で守られている。それを読むことができるのは、厳しい手続きを通過した数少ない者たちなのだ。それには一人の男のことが書き記されていた。
昔、大陸を制覇して国々を治めた男がいた。その男は「飽きた」と言葉を残して、治めた国を放り出した。その後、大陸中で戦争が絶えなかった。その時のことは、地獄の百八十日間といわれている。それに終止符が打たれたのは、この戦争を引き起こした元凶といえる存在が活躍したからだ。多くの者が命を落とした苛烈な争いを一瞬にして終わらせてしまったのだ。
男は適当な者を選び、協力して大陸を治めるようにいって消えた。
数百年ほど平和だった大陸にある国々。それも時間が経つと、崩れ去った。また、戦争が始まったのだ。いろいろな国が争い、多くの犠牲がでた。勝った国はは独立を宣言した。負けたものは、勝った国のものとされていった。
大陸を統治した者は、後にも先にもその男だけだろうといわれている。男の名前はスピリト。語り継がれている名称はヴェルトというのもあった。それがスピリトを慕う者たちが尊敬の念を込めて呼んだ名であるといわれていた。
我が読んだ裏歴史の一部を紹介した。しかし、それが実際起こったことなのかは、著者のスピリトにしかわからないだろう。
我は一つの傷もスピリトに負わせることはできなかった。手も足も出ないとはまさにこのことである。膝をついた我を見下しているのはスピリト。我は彼の魔法によって、――。
あっけなくスピリトに敗れたことには変わりない。




