24話
デレアスモスは自分の背後にユアを隠し、セツたちに問う。
「ここにどうやって入ってきた? 結界が張られていたはずだ。侵入者が来たら、我が認知できるようになっていた。それなのに、なぜ感じられなかった?」
「デアちゃんの魔力を持っている子がいるからね。その子を使えば、君に認知されずにすむと予想していた。実際、デアちゃんは僕たちを感じることができなかったようだね」
「我の魔力だと?」
驚愕する内容だ。自分の魔力は自分しか持つことはできないものだ。それを他の者が持っているなど、可笑しなことた。
「そう、僕が作ったチェサくんはデアちゃんの魔力も材料としたからね」
「お主はスピリトか! 変人は変人らしく我の害悪にならずに生きておれば良かったものを……」
今度は別の二人が睨み合っている。デレアスモスはスピリトに夢中で気づいてはいなかった。彼女の下へ近づく存在がいることに――。
「ユア、こっちだ」
彼女の手を引くのは、セツ。しかし、簡単にユアを奪い返すことはできなかった。デレアスモスは彼女を抱き込んで、セツを攻撃する。
「ちっ! スピリトとの話しに集中してたのにな」
「残念であったな」
間一髪でセツはデレアスモスの風の鋭い刃を避けた。身体に傷はついていないが、刃が掠って服が裂けた。デレアスモスたちから距離を取る。
「ああ、失敗しちゃったね。セツ。」
「俺のユアとキスするとは……。なにしてくれてるのかな?」
「僕、無視された〜」
怒り心頭に発しているセツにスピリトの声は届いていない。
デレアスモスに氷の魔法で作った先端の尖った塊を作り出し、相手に向かって勢いよく放つ。ユアを抱き抱えながら、華麗に避けるデレアスモス。セツは怒ってはいるもののユアのことを気にしているのか、攻めが甘い。
一撃一撃の威力が弱そうであった。だが、それは計算したことであったのか、デレアスモスの死角から小さな氷の針が現れた。彼はそれを避けることはできずに、頰に掠めてしまう。彼の頰に一筋の血が流れた。
「小賢しい真似を……」
デレアスモスはユアを地に下ろし、立たせた。彼は、触れれば身体中が切れてしまうような風を作り出して、セツのことを閉じ込めようとする。しかし、予想外のことに気を取られてしまう。
デレアスモスのユアを下ろすという判断が、一つの失策であった。なぜなら、スピリトが一瞬にしてユアを取り戻してしまったからである。
「おい、スピリト! 転移魔法を使ったのか!?」
「うるさい。ユアちゃんは無事だし、問題ないもん。セツ、ちゃんと受け取ってね!」
小さな身体のどこにそんな力があるのだろうか。スピリトはユアをセツがいる方へ投げた。驚きを隠せない二人がその場にはいた。
デレアスモスは駆け出してユアのことを取り返そうとするが、間に合わなかった。セツが地面にぶつかりそうなユアをなんとか受け取る。
ホッとした表情を浮かべたセツ。
「僕がユアちゃんを助ける作戦成功! 敵を騙すにはまず味方から――」
「アホ! 俺が間に合わなくて地面にユアがぶつかってたらどうしてくれたんだ!!」
「愛の力は無限大! セツがユアちゃんを助けることができなかったら、そこまで彼女を愛していなかったということ。僕に文句を言わないで」
そんな理屈があってたまるか。スピリトのふざけた言い分に説教してやりたいもののそんな余裕はない。
「ユアちゃん、記憶をなくしているみたい。だから、セツがユアちゃんの記憶を取り戻させてあげるんだよ。僕はその間、デアちゃんを相手に遊んでるから。ううん、やっぱりこの気に食わない男を徹底的に潰すよ。セツたちは、被害がこないような場所に行って!」
デレアスモスを前にして毅然とした態度のスピリト。セツはその様子を見て、スピリトの言葉に甘え、ユアを連れ去っていった。




