23話
どこかのお屋敷の庭。そこには多くの白と赤の薔薇が咲き誇っていた。
男は女を姫抱きしている。
「日差しは熱くないか?」
「大丈夫」
男は自身の腕の中で大人しく女を軽々と抱えて歩いている。そして、庭に置かれている白い椅子に女を下ろした。
「我と二人でお茶を楽しもう」
近くには女の使用人が待機していた。丸くて白いテーブルの上に様々なケーキが乗っている。それを見る限り、女は彼らより先に来て、準備していたのだろう。
女はティーポットからティーカップへ紅茶を注いだ。ティーカップからは薔薇の香りがしているようだ。
「いい薔薇の香りだ。お主はもう下がってよい」
女の仕事はもう終わりとでも言うように、男は彼女を自分たちの前から下がらせた。
「おいしい」
少し頰が緩んだ女を見た男は言葉を零した。
「良かった。あれに全てを用意させた甲斐がある」
男はもう一度口にティーカップを運んでいった。
二人だけのお茶会を開いたデレアスモス。シアと自分の心の距離を縮めるという目的で催したものだ。たくさんの薔薇の花が彼らを囲んでいた。
シアは考え込んでいた。自分の中には、何か足りないものがある。欠けたピースを埋めようと紅茶を覗き込むが、結局は何も思い浮かばない。突然、男に名前を呼ばれたことで、考えが霧散する。
「シア、我のことを見よ 」
「デレス?」
シアはデレアスモスへ顔を向ける。瞳と瞳がぶつかり合った。お互いを見つめ合っている。
「好きだ。愛している」
デレアスモスはシアの向かいに座っていた椅子から立ち上がった。そして、シアの元へ動いた。シアの椅子の向きを変えて、視界に我のことが入るようにする。シアに跪き、愛の言葉を紡いだ。だが、シアはそれに言葉を返すことはなかった。
シアがデレアスモスのキスを拒むことなく、受け入れているところがみられた。
この静かな二人だけの空間が続くのかと思われたが、そう上手くはいかない話である。乱入者が現れたのだ。
「ユア!」
声をあげたのは銀の髪をしており、金の瞳を持った男。シアのそばにいるデレアスモスを睨みつけていた。
他にも、彼と一緒に現れたのは存在は、橙色の髪をした女っぽい者と小さい童のような者であった。
牽制し合う者たちがいる中で動き出したのは、童のような者。チェサのことだ。その子はデレアスモスの方へ走っていき、彼に飛びついた。
「これだよ! これ! ここにいるのが、探していた存在だよ!!」
「うん、チェサくんわかっているよ。ありがとうね。危ないから早くその者から離れようね?」
「はあ〜い!」
呑気な雰囲気が辺りを支配した。空気を読め、お前ら。そんな声が聞こえてきそうだ。




