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19話

「デアちゃんのことだけどさ。悪魔の王がお手本にならないといけないのに、悪魔のルールを破るなんていけない子だよね~」


 コトッと木でできた机の上に置かれたのは、葉で作られた容器。その中には白いドロドロトしたものが入っている。俺はそれに手を付けることはなく、スピリトの方を向いた。


「本来ならお前のはずだったがな」


「えぇー、僕は皆のお手本とか性に合わないからパスしたんだよ。偉いでしょう?」


 愛想よく言われたところで、本性知っている者は鳥肌しか立たない。それに、誉める要素は一つもない。スピリトは自分の好きなように動く悪魔だ。嫌なことは何が何でもやらない。そして、変人である。


「なんか今、貶された気がする。まあいっか。それより、なんで、飲まないの? 出された物はちゃんと手をつけないと失礼って知らないの?」


 スピリトが指を差す先にあるのは、葉の容器の中身。俺はそっぽを向いて、知らぬふりをした。


「それさ、貴重な材料で作ってるんだよ~。銀竜のウロコでしょ、ケロケロガエルの涎でしょ、ドクシロヘビの舌でしょ、ドクシロタケの胞子でしょ……」


 聞きたくない。これ以上はやめて欲しい。本当に飲みたくない。

 これが悪魔の王になっていたら、自分を含めた悪魔たちがこいつの作るもので悲惨な目に遭っていたかもしれない。そう思うとこいつが王にならなくて良かった。


「飲んでいる暇はないんだ。早くいこう!」


 席を立ち焦りを悟られないように促すも、失敗した。


「飲むの!!」


 スピリトの魔法によって無理矢理口の中に、誰もが震えるような飲み物を突っ込まれた。


「栄養満点。疲労回復等によく聞く飲み物だよ。ただ、銀竜のウロコは勝手に竜から剥ぎ取ってきたものだから、このあと怒って襲撃してくるかも」


 俺は口を両手で抑えながら、まずいものをなんとか飲み込んだ。こいつの作るものに効果があることは知っているが、味が死ぬほど最悪なことと顔が真っ青になるような材料を一度聞くと、飲む気が失せる。


「な、なにしてるんだよ」


 気持ち悪さに耐えながら、スピリツに言った。竜を怒らせて、無事で済むと思っているのか。凶暴な竜を魔法で眠らせて、ウロコだけいくつか剥ぎ取ってきたんだろう。この馬鹿。



「うん、必要だったんだよ。いろいろと、必要だったの。セツの回復にも役立ったし、そこは気にしないでよ。そうそう、ユアちゃん助けるのはいいけど、僕と一緒に銀竜を対処するのが一つ目の条件ね。もう一つの条件は……」


「おい、さっきやる気になってただろう。それで、条件はなしにならないのか? それに銀竜……」


「別にいいよ? ユアちゃんを一人で助けられるなら、僕手伝わなくてすむもん。セツが一人で頑張ればいいんだもん」


 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるスピリト。俺がデレアスモスに勝てるわけがないことをわかっているからだ。

 こいつは確信犯だ。こいつの言い方や表情にイラっとする。


「わかったよ。お前と一緒に銀竜との戦闘な。それで、もう一つは?」


「話が早くて大助かり。急いでるもんね、うんうん。偉いよ、セツ!」


「いいから、早く言え」


 頷き、茶化したような感じで言ってくるのはムカつくが何とかそれを抑える。スピリトという協力者は、絶対に欠かせない。


「もう一つの条件はね――」


 二人の取引はここに成り立った。



 



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