17話
セツは走っていた。悪魔の旧友の下へ急いでいるのだろう。人には出すことのできないスピードを保っている。
悪魔の王といわれるデレアスモスであるが、それの実の候補者は異なっていた。王という面倒なことはやっていられないと、ある男が悪魔の王を辞退したのである。ある男とはセツの旧友のことであった。そのため、デレアスモスが悪魔の王として君臨することになり、その役割を果たすことになったのだ。
彼より強い悪魔はたった一人、存在しているのである。
「あいつに頼むのは本当に嫌だ」
セツはボソッと呟いた。守るために手段は選んでいられないのだが、嫌なのだ。どんな条件が提示されて、どんな無茶振りをされるのかが心配であるから。
「はぁ、憂鬱だ。あいつに頼るしかユアを助けられないなんてな。…………ユア、無事でいてくれ。あいつに手を貸してもらって早く助けにいくからな」
セツは目的の下へ向かって駆けていく。
谷と谷の間には歪な空間ができていた。灰色のモヤのようなものである。人間の視力ではよく見ないとわからないと思われるが、悪魔の目にはハッキリと映って見えるだろう。そのモヤに向かって一人の銀の髪をした男が飛び込んでいった。
セツの旧友は変な場所に住んでいる。ある時は水の中、またある時はマグマの中に、自身の魔力を用いて家を構えられる空間を作った。その他には、氷山の一角だったり、不安定な崖の端だったり、さまざまである。この前までは、空中に家を作っていた、いろいろと規格外な悪魔なのだ。現在は森の奥地にひっそりと住んでいるらしい。わざわざ俺が谷に行ったのは、その森へ入るためだ。
自身の住んでいる森と空間を切り離した旧友は、別の場所に入り口を作った。それが、谷と谷の間にある灰色のモヤであった。もし、上手くモヤの中に入り込むことができなかったら、落下して死ぬ運命が待っているだろう。
その谷はある意味有名な場所。不魔の谷と噂されていた。魔法を一切使うことができない場所なのである。そのようにしたのが、俺の旧友なのである。自分のテリトリーに入ってくる者を減らすためのようだが、実際のところは不明だ。何を考えているのかが読めないのである。
俺が旧友の下へ行くための道を、入り口を知っていたのは、あいつが気軽に教えてくれたからだ。なんでも、「僕の貴重な友達が訪ねてきてくれないのは寂しい」という理由らしい。
まぁ、俺はあいつに再三にわたる家庭訪問のお願いの紙が送られてくるため、文句を言いに行くことがほとんどである。あいつの居場所を教えられていて良かったと思うのは、今回がはじめてかもしれない。
一面いっぱいに広がる緑。たくさんの木々に囲まれている一つの立派なログハウスがあった。一軒家並みの大きな家である。玄関の扉には、ランプが取り付けられていた。また、そこに行くまでに白い木の階段を上る必要があった。数段しかないので、そんなに時間をかけなくても数秒で上れる階段だ。玄関の扉の先にはウッドデッキが取り付けられており、その脇に白い階段があった。ウッドデッキからは森の景色を見ることができるだろう。周りが木ばかりのため、面白くもなんともない風景ではありそうだ。
俺は階段から茶色い玄関の扉の前に行く。その木の扉の前に立って、取っ手を掴んだ。あいつの家に入ろうとしたのである。
次の瞬間扉が爆発するとは思わずに、俺は扉を開けた。




