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16話

 目を開けると一人の男が視界に入る。傷一つない綺麗な顔はまるで人形のようだ。私と一緒のベッドで寝てしまったようである。じーっと男を見つめていた。


「そんなにジロジロ見られたら穴が空くよ。おはよう、シア」


「あ、あなたはだれ?」


 知らない者と一緒に寝ていたのか。それにシアとは誰のことだろうか。こてん、と首を傾けた。


「シアとはそなたのことだ。寝る前に教えたが、疲れていたのだろう。仕方がないな。」


「シアは私のこと?」


「そうだ」


「じゃあ、あなたは?」


 シアが自分の名前ということはわかった。では、目の前にいる彼の名前は何だろうか。質問から逃げることのないように彼の服の裾を掴む。


「我はデレアスモス。シアに仕えている執事で、シアの主人でもある」


「執事なのに主人?」


「今は気にしなくていい。それよりも調子はどうだ?」


 私はそれに返事することはなかった。



 デレアスモスはシアを見る。彼女は今にも瞳を閉じそうであった。また、服の裾をキュッと掴んでいる手が、なんといじらしいことか。


「眠いなら寝てもいいんだ」


 記憶を消したことによって判断力や思考力が低下しているのだろう。日常生活にも支障が出てくるだろうが、我が世話をするし、問題ないな。


「おやすみ、シア」



 この大きなお屋敷には、使用人が一人しかいないらしい。一人で掃除等をするなら、この屋敷の維持はきっと大変なことだろう。あの後、眠りから目覚めたシアにデレアスモスは少しだけ今の状況を説明したようだ。

 シアはこの現状に違和感を持つことはない。デレアスモスという悪魔が彼女の全てを支配しているのだから。


「シア。我とシアは秘密の恋人同士であった。だから、キスをしよう?」


 デレアスモスはシアに顔を近づけていく。シアはそれを疑うことはできないだろう。記憶を消されてしまっているのだから。

 シアとデレアスモスの距離はだんだんと縮まる。もう少しで唇と唇が触れ合いそうだった。


「そんなにボーッとした、警戒心のない表情を他の人に見せるなよ」


 重なり合う唇。シアはただそれを受け入れた。



 私の唇は恋人であるらしい彼の唇に塞がれていた。落とされたキスは私の思考を奪うのには十分すぎるほど、甘くて深いもの。だが、受け止めたキスは熱くて蕩けそうなものなのに、なぜ私はそれを冷たいと感じてしまうのだろうか。ズキズキと胸が痛むのはなぜなの。一筋の雫が頰に流れる。私は悲しいと思っているのか。それとも、嬉しいと思っているのか。

 私は何度も何度も交わされるキスにより、何も考えられなくなった。



 デレアスモスはシアを抱いた。自分なしでは生きられないようにするためにシアを貪る。時には優しく、時には激しくシアと行為をする。

 短時間過ごしただけでシアを気に入ってしまったのだろうか。それとも元から彼女を気に入っていたのだろうか。

 その答えを知っているのはデレアスモス自身である。

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