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12話

 愛姫(ユア)は特別な血を持っていた。悪魔がその血を飲むことで大きな力を得ることができる。

 その身に宿る血の力は、ドーピング剤のようなもの。しかし、その血の力を持つ存在は稀だ。千年に一度現れるか現れないかの逸材。だからこそ、彼女は狙われたのである。



 悪魔の王、デレアスモスは再び言う。


「ねぇ、姫君(愛姫)。我と一緒にこないか? その男といるよりも姫君の復讐を早く達成できる」


 まるで、彼と一緒に歩むことが当たり前であるかのように話される。


「愛姫って誰のことでしょうか? それに、お父様とお母様を殺した元凶である者に近づく気も一緒に行く気もありません」


 貴方が地位の高いものであろうが、悪魔の王であろうが、どうでもいい。お父様とお母様、大切なものを幸せを破壊した貴方を許さない。その気持ちが、胸の内でくすぶっている。

 復讐の相手を葬る協力者はいるのだから、その者を裏切る気はない。しかし、ユアは裏切る気がなくても、その者を裏切ってしまうことになる。なぜなら、その者(セツ)を忘れてしまうことになるのだから。



 デレアスモスは、ユアが自身の名前に大きな反応をしなかったことに眉を潜めた。


「そうか。名を奪われたか。余計なことを……」


 名を奪われているという事実が気に入らない。誰よりも先に目をつけていたもの掻っ攫われた気分である。非常に不愉快だ。


 突然、強風が吹く。そして、その風は鋭い刃になった。誰かを容易に傷つけることができる風の刃。きっと、それを作り出しているのはデレアスモスであろう。

 自然に風が鋭い刃になるはずがない。彼が風を操っているとしか考えられないのである。


「格下の分際で、それを手に入れるということが気にくわない。姫君に流れる特別な血を飲んだお主ことも今まで姫君の傍にお主がいたことも、疎ましい。お主の何もかもが、存在そのものが鬱陶しくてかなわん」


 デレアスモスは、言いたいことが終わると同時に風の刃をユアに向けた。


「ユア!!」


 ユアのことを守るために、彼女の頭に手を添えて、彼女に覆いかぶさるように強く抱きしめた。そのため、彼の攻撃はセツによって防がれる。

 彼はユアをセツが守ると分かっていた。だから、ユアに風の刃を向けた。姫君の傍にいる男を傷つけることができればいい。それだけを考えていたのだろう。


「くぅっ!!」


 苦しそうにうめき声を上げたセツ。彼の思惑通り、セツは傷ついた。ユアはセツに守られたおかげでどこにも傷はない。

 彼女には、何が起こったのかわからなかった。しかし、セツの腕から解放されたことで自分が守られたのだと知る。

 風の刃を受け、セツの服は裂かれてボロボロになり、血は下にボタボタと落ちていく。彼女は、血を滴らせている彼をみて、小さな声を上げた。


「なんで――。セツ、どうして――」


 彼が傷ついたのは、私のせいだ。守られた。彼の言う通り、私は足手纏いだ。

 彼の言うことを守って大人しく屋敷にいれば良かった。彼女の目から透明な雫が落ちる。


「ユア、大丈夫だ」


 ユアの頭を軽く撫でて、彼女を安心させる。そして、デレアスモスに向けて言葉を放つ。


「残念でしたね、悪魔の王。もう一度言います。ユアは俺のものです。さっさと、諦めてはいかがですか?」


 傷つきながらもハキハキと物申す彼はなんと頼もしいことか。ユアはその彼の姿に、今自分が泣いては駄目だと思ったのだろう。

 涙を拭い、倒れそうになった彼を支える。


「諦める? お主の形が残らないくらいに傷つけて、殺し、契約を壊せばいい」


 それについて、対策はしてある。実際、悪魔の王である彼はルールを破っているのだ。

 そのルールは後に説明しよう。


「本当に残念ですね。その場合は、彼女は俺と一緒に死ぬ運命です」


 悪魔の王と呼ばれる彼は、その事実に目を見開く。そして、悔しそうに強く唇を噛んだ。少量の血が滴る。


『強い繋がりは生命さえも脅かす』


 姫君の傍にいる男は果てしなく気に食わない奴だ。




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