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11話

 ビリビリとした覇気が辺りを支配する。その空気とセツに大きな声を上げられたことでアッサリと手を離した悪魔の男。

 黒髪で翡翠の瞳、真っ白の肌をした男。名前はセツが言っているのであっていたら、デレアスモス。


「ふふっ、無礼を許してください、お姫様。我が名はデレアスモス。これからよろしく――」


 丁寧に腰をおり、頭を下げる男の言葉を遮ったのはセツ。


「貴殿とよろしくする気はない。国を滅ぼしているそうじゃないか」


 セツ自身の知っている相手の情報、国を滅ぼしている事実を突きつけた。


「我が気配に騙されて、姫君の元を離れたくせに戻りが早いことだな」


 セツはその言葉に強く唇を噛むが、すぐに言い返す。


「危険な相手である貴殿と二人きりにさせておくことはできないからな」


 契約者を傷つけられないように、デレアスモスを睨みつける。



 おかしな気配の原因は、悪魔の分身のことであった。デレアスモスの分身を追ってしまい、まんまと彼に騙された不甲斐なさに怒りを覚える。そして、それを仕掛けた相手が目の前にいる者。


「美味しそうな血を独り占めするのは、酷いではないか。我にも分けて欲しいな」


「嫌です。コレは俺のですよ」


 お互いが睨みつけあっていて、火花がバチバチ散っている。表面上、ニッコリと笑ってはいるが、穏やかではない状態である。


「忌々しいものだ。姫君を手に入れようとあの使用人の女を使って、国を滅ぼした。それなのに、結局、姫君を手に入れることは叶わなかった」


 デレアスモスが漏らした言葉に反応したのは、今までセツの背に庇われていたユアである。


「どういうことですか? 使用人を使って、国を滅ぼしたって――」


 ユアには覚えがある。一度自分が死んだことも両親が殺されたことも国が滅んだことも、ある使用人のせいだと言うことを覚えている。


「おやおや、知らなかったのか? (われ)が姫君を得るためにその使用人を利用したのだよ」


 使用人の願いを叶えると言葉を巧みに使用して、契約した。姫君を得るために、使用人を騙した。


「なぜそんなことをしたのか。それは、王妃である姫君の母親が邪魔であったからだよ。姫君の母親は予知の能力を持つ魔女であった。誰よりも早く、我が姫君を手に入れようとしていることに気づいた。だから、邪魔者である彼女を消そうとその使用人を動かした」


 ゆっくりと紡がれる真実。それは、セツが隠したもの。


「しかし、予想外のことにその使用人は姫君も殺してしまった。姫君を救おうと契約しようとしたが、何故か契約することができなかったのだ。そのため、諦めるほかなかった」


 デレアスモスがユアの大切なものを壊した、全ての元凶であった。ユア自身の復讐の相手であったのである。


「生きていてくれて嬉しかったよ。我の唯一の姫君」


 人畜無害そうな笑みを浮かべるが、行ったとこはユアにとって許せるようなことではない。また、それらのことを許す気もない。

 ユアは強く手を握りしめた。爪痕がくっきりと残るほどに。


「結局、貴殿が犯人であることが知られてしまったか」


 近くにいるユアに気づかれないように小さく呟くが、悪魔である男には聞こえていたようだ。

 全く、こちらが貴殿を忌々しいと思うよ。


「さぁ、そのような男を置いて、我と一緒にこないか?」


 目の前で勝ち誇っているように笑う男が気にくわない。例え――であったとしても、関係ない。ユアを守るだけだ。


 愛姫(ユア)が普通の人間であったら、デレアスモスに狙われることはなかったであろう。

 彼女が狙われた理由は何だろうか。



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