1話
綺麗な白のお洋服に綺麗な宝石。
真新しい紅い靴。
素材は白い肌にパッチリとした大きな目にぷっくりと膨らむ唇、少し赤く染まった頬。
髪は漆黒で光に反射してキラキラ輝く。
目の色は青緑でエメラルドのようだ。
体格は小柄で、ぴょこぴょこ動き回る姿は庇護欲をそそらせる。そして、誰もが愛するような幼く純粋な少女に人々は惹かれていった。
幼くて純粋な少女は愛姫という。年齢は5歳。父親や母親、使用人達からとても可愛がられ少女が欲しいものを欲しいと告げれば、なんでも手に入った。その溺愛っぷりは国内の民たちにも広がっていた。
ある日、少女に不幸が訪れる。少女の父親と母親、使用人達が住む家が火事になった。少女は使用人の手に託され、家から脱出することが出来たが、少女の父親と母親は中に残された。少女の家を襲ったのは家の使用人の一人で、なんでも欲しいと言えば与えられる環境を危機に感じてこの家を狙ったらしい。
少女の父親は、少女と少女の母親、妻を使用人から逃がすために時間を稼いで、彼女たちを守って死んだ。
少女の母親は少女を抱いて一緒に逃げていたが、家を襲った使用人に追いつかれ、一人の味方の使用人に少女を託し、少女の母親は家を襲った使用人と対峙した。
味方の使用人は少女の手を引っ張り早くと急かして走る。しかし、少女は見てしまった。振り返ってしまった。その一瞬で少女の母親に敵の使用人が、刃を突き刺しているところを……。
少女の思考は止まった。何故、自分の母親が刃を刺されているのか分からなかった。考えて何が起こっているのか、考える時間が欲しかった。だが、考える余裕はない。
味方の使用人が少女を助けようと、少女の手をしっかりと握って走っているからだ。
少女は自分の母親の最期を見て、後は視界が炎に閉ざされてしまった。
炎の中、少女は確かに負の感情を持った。
ユルサナイ……と。
少女の家は燃えた。何も残らなかった。少女は愛姫は涙を幾筋も流す。くぐもった声を出して、泣く。
何故！？
何故！？
父と母が死ななければならなかったのかと……。
そして、少女は愛姫は使用人を見た。答えを知っていそうな使用人を……見た。また、使用人も少女を愛姫を見た。
使用人は愛姫に……。
「ごめんねぇー。愛姫様。貴方様が我儘を言い過ぎるから危機感を持った私達使用人が、貴方様達を殺そうと……」
使用人は不自然に言葉を止める。そして、不気味に笑った。
「ァハハハハハハハハハハハハーー。おっかしー！ 可笑しすぎて、可笑しすぎて……狂っちゃう！！」
「だってねぇー、危機感とかそんなのカンケーなかったんだよ？ ただの復讐だよ？ 私を含めて複数の使用人が愛姫様のお父様をアイツを憎んでたんだよ。家族、友人、土地を全てを奪われたから。だから、愛姫様のお父様とお母様は殺されて当然なの！！」
「ふふっ、ふふふふふふふふ。愛姫様に罪は無いけど、我儘ばっかり言って……たくさんのものを国民からの税で与えられて生活してるのにー。全てが与えられるって思ってるのが悪いんだヨ？」
「その恐怖に歪んだ顔はキレイだネ？ ほら？ 逃げないで？ 君は今から私に、ワタシにコロサレルのだから」
使用人に突きつけられた現実は裏切り。そして、愛姫は逃げようと使用人から離れるが幼い身体では大人の足には敵わない。すぐに捕まってしまった。
「あっ！ ぁあーーー！！」
使用人は愛姫の手首を強く掴む。愛姫の幼子の手首はミシミシと悲鳴をあげる。そして、使用人は愛姫にナイフを突き刺した。何度も何度も突き刺す。
愛姫の目が虚ろになっても使用人は狂った声を上げて、突き刺し続けていた。もう一人の炎に巻かれたであろう使用人が現れるまで……。また、他にも愛姫と愛姫を突き刺した使用人のところへ数人の使用人が集まっていた。そして、彼らは愛姫のぐちゃぐちゃな身体を満足したように見て、不気味な笑い声を上げながら離れていった。
残ったのは愛姫という少女の死体とこの場に合わない嬉しそうな楽しそうな微笑みを浮かべた使用人だけ。
その使用人は長い銀の髪と金色の目を持っている。
誰もが見惚れるような容姿は月明かりに照れされ、一層その存在を圧倒的に示す。そして使用人はぐちゃぐちゃの死体の少女に手を伸ばし、その頬に触れた。何故か、少女の、愛姫の身体は何度も刺される前の状態に戻っていた。
