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parasite

月斗は、陽斗の話を信じられないという表情で聞いていた。

しかし月斗にとって陽斗は自慢の兄、その兄がこんな嘘をつくとは思えない。

何より月斗にも逃げろといった母の声と微かに見知らぬ人物の声を聞いていた。


「月斗、戦おう」


陽斗が月斗の目線に合わせ真っ直ぐ見つめる。

両親を襲ったヤツラと戦うことを選ばなければ兄弟揃って死ぬだけ、毒、死、選択……そんなの理不尽だと叫びたくても比護してくれるはずの両親はもういない。


弟を守らなくてはならないと決意めいたものが陽斗の中に宿る。


「俺が強くなる、守ってやるから」


まず月斗に戦うと答えさせなければ陽斗は言い聞かせるように弟の頭を撫でた。


「う……ん」


月斗が小さく頷いたのを見た陽斗が監視カメラを睨み付ける。


「ついてこい」


無表情な燐と、にこやかな笑う鞍馬、対象的な二人が姿を見せた。

燐は腰に日本刀のような物を下げている。

二人に促されるまま月斗と陽斗は後ろをついていく。


「ここよ、さぁ、入って」


案内された大きな扉を鞍馬がカードキーを使いロックを外すと扉が開いた。

部屋の中は一切の灯りはなく目をどんなに凝らしても広がっているのは闇。


「クズグズするな」

「入れって……ちょっ!!」

「ぅあ!!」


躊躇していた陽斗と月斗の腕を燐が掴んだ。

腕を掴まれ引きずられるように部屋の中へ入ってしまい陽斗と月斗は思わず鞍馬に振り返った。


「ここからが本番よ、二人とも頑張ってね!!」


親指を立てて笑う鞍馬の姿を最後に扉が機械的な音をたてて閉まり、闇の中、逃げ続けていたことが思い出され陽斗も月斗も身震いする。


「おちつけ、すぐに明るくなる」

「!!」

「ぁ」


燐の言うとおり部屋の中が明るくなり、二人の目に光が差し眩んだ。

部屋は先程と同じ白で統一され監視カメラが四方に付き広さから体育館のように感じた。


目が慣れ始め周囲を見渡すと陽斗と月斗の視線は同じ場所で止まる。

二人の視線の先には、パジャマ姿の男が腕を鎖で繋がれ膝をつき項垂れていた。

そして男の前には銃が一丁、置いてある。


「父さん?、父さんだっ!!」

「駄目だ!!、月斗!!」


月斗が男の元に走り出すのを陽斗が引き留めた。

二人の声に反応したように男の体が微かに動き項垂れていた頭をあげ微笑んだ。


「やっぱり、父さんだよ……ちゃんと生きてる!!」

「違う……父さんじゃない」

「つき、と……は、ると」


月斗は、まじまじと男を見つめる、自分の名前を呼ぶ声は父のものだ。

見知らぬ男が喰い千切ったという父の耳は片方なく(おびただ)しい血が流れた跡がついている。

もちろん、その男の姿は陽斗にとっても父に見えていた。

しかも、自分たちの名前を苦しげに呼ばれ混乱する。


「父さん!!」

「父さんじゃない!!、父さんが生きてるはずないっ」


頑なに父じゃないと言う陽斗には訳があった。


「な……んで?、あの時、貴方が撃ったはずなのに」


自分達を雨の中へ追いかけ追い付き見下ろした男。

それは見たことがない不気味な顔で見下ろす父の姿だった。


陽斗は、その時、確かに安堵したがそれは一瞬のことで本能的にと言えばいいのか危険だと感じたのだ。


逃げろ、逃げろ……こいつは父さんじゃないと。

そんな時、燐が現れ父の姿をした何かを撃った。


「あぁ……それも、お前は見ていたんだったな」


混乱している様子で陽斗は燐を見上げた。


「お前の思っているとおり……お前らの父親は何時間か前に死んでる、死因は出血死」

「っ」

「でも、父さんは……そこに僕と陽斗兄の名前を」


異様な父の姿を見つめながら月斗は燐の話を呆然と聞いている。


「何を言ってるんだ、こっちにおいで陽斗、月斗」

「父さ……ん?」

「知らない奴にはついていってはいけないとあれほど教えたじゃないか」

「どうして、俺たちの名前を知ってる……お前は父さんじゃないッ!!」

「父さんじゃない?、ソイツに何か言われたのか」


鎖に繋がれた父は陽斗と月斗に優しげに笑ったあと燐に視線を向けた。


「銃を拾え、お前達は戦うことを選んだ、その化物を殺せば解毒剤をやる」

「父さんを殺すなんて、そんなの出来るわけ……っ」


月斗は混乱した様子で銃と父親の姿を交互に見ていると陽斗が銃に手を伸ばす。


「この化物は人間の血を食料にしてる、そして人体に寄生する」

「寄生……」

「脳の中にな、そして宿主の記憶を持つ」

「でも……銃で死なないじゃないんですか?」


銃を拾った陽斗が燐を見上げた。


「あの銃の弾は血液凝固因子……えー、捕獲用の弾だったんだよ」

「なら、この銃は……」

「一発目が動けなくする捕獲用の物、確実に動きを止める、二発目が殺傷用だ」


陽斗は銃を手にすると父の姿の何かに銃を向けた。


「月斗、陽斗を止めてくれ……お前は解るよな、父さんは月斗の父さんだよな?」

「っ」


すがるように月斗を見つめ焦ったように動き、鎖が音をたてる。


「兄弟で一発ずつ撃て、どちらがどの弾を撃つか自分達で決めろ……二発を一人で撃ったら解毒剤を手に入れるのは一人だけだ」


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