Rain of darkness
時刻は深夜、閑静な住宅街、昼頃から降りだした雨は止む気配はなく激しさが増し、打ち付け続けている。
街灯もない、家から漏れる明かりもない闇が支配する中、異様な光景が広がっていた。
「月斗、止まるな、後ろ聞こえるだろ!!……っく、追いかけてきてる!!」
「は、陽兄!!、僕っ……もう走れな」
大音量のノイズような雨音が響く中で互いに聞こえるように声を張り上げる不穏な会話、深夜、暗闇、雨の中、ずぶ濡れのパジャマ姿、裸足、ただ夢中で逃げるように走る二人の子供……。
「月斗、駄目だッ!!、走れ!!、母さんが逃げろって……」
暗闇の中、夢中で走っていた二人には何処をどう走っているのかも分からず、ただ逃げ走り続けることしか頭になかった。
水を吸ったパジャマは重く、体は冷えていく。
繋がれた手の感覚もなくなり始め、手を引いた少年は後ろを振り替えるが闇しか見えず、息遣いも雨音で消され聞こえてこない。
ただ聞こえてくるのは雨音と走る足音、一つは自分、なら他に聞こえてくるのは自分達を追いかける者のなのか、もう分からなくなっていた。
走りすぎて、もう名前を呼ぶことが出来ない。
まるで闇に呑まれていくようで引いているはずの手に力を入れ掴んでいるのだと思うしかなかった。
「!?」
走り続けていると上の方で何か点滅している光が見えた。
暗闇の中、走っていたせいか、それが酷く安心できるものにみえて光の方へ走り出す速度が上がる。
「ぁ!!」
その光の近くまで走りながら見上げると点滅していたのは街灯だった。
光に気を取られていたのか、繋いでいた手が離れるのを感じたものの、急に足を止めることが出来ず無理な態勢で振り替える。
「!!」
二人は数歩、離れた所で転び互いに顔を上げた。
「みぃ、つけ、たぁ」
「ど……して」
手を引いていた少年が、点滅する街灯の下に現れた男を呆然と見上げた。
「陽兄?……この声……」
「月斗、見るな!!」
手を引かれていた少年が転んだまま後ろを向こうとするのを止め、よろめきながら立ち上がる。
「絶対に見るなッ!!」
立ち上がり叫んだと同時に後ろから銃声がして、男が倒れた。
「なっ!?」
立ち上がったまま振り向くとフードを被った黒ずくめの男が銃を向けている。
「月斗、立て!!……逃げるぞ、早く!!」
立たせようと体を持ち上げようとするが上手くいかない。
「っ、もう立てないよぉ」
黒ずくめの男が二人に目もくれず倒れた男に近寄ると無言で銃を向け数発、撃ち込んだ。
撃ち込められる衝撃で男の体が跳ね水を飛ばす。
「ひっ、陽兄!!」
「……月斗」
転んだままの少年が怯え、しがみついた。
庇うように抱き締めると男を睨む。
「位置確認しろ、捕獲したが一体だけだ……あぁ、民間人が二人、子供だ」
男は銃をしまい、スマートフォンを取り出し電話をかけ始めた。
「……使えないガキどもしかいないから俺が動くしかない、だったら早く使えるようにお前らが教育しろ」
不機嫌そうに電話を切ると男が二人を見下ろした。
「俺たちを殺すのか」
庇うように抱き締める手に力を入れ男を見上げ睨む。
「今のところは、殺す理由はない」
男がフードを取った。
いつの間にか雨は止み雨雲が散っていく。
雲間から朝日が漏れ始め闇が少しずつ晴れていった。