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四話「夕食」

あと一話で最終回!

 さわめいた南風もすっかりいなくなり、小鳥たちも家に帰った静かな夕暮れ時。

 孤独感すら感じる静けさの中、人がほとんどいない墓地からはキャッキャッと楽しげな声がする。つい二、三か月前にできた平屋の新居の前で、墓守たちが敷き布を広げていた。


 黒鉛の棒で手を真っ黒にしたカレンは、短冊をいくつも抱えている。時より頭を抱えながらいくつも願い事を書いていくカレンに、くつろぐ墓守は苦笑いした。

 豪華な手料理を持ってくるイリスも困ったように笑う。太陽がわずかしか見えなくなるころに、ようやくすべての願い事を書き終えた。


「むふふ、これで私もお金持ちになれるの!」

「そんな願い、聞いてくれないだろうな」


「えー!?」とさも親子のような墓守とカレンは、それぞれ梯子と短冊をかかえる。

 墓守は少し辺りを見回して、藁人形でも打ち付けられていそうなおどろおどろしい大木に目をつけた。


「あそこに吊るすか。どうせ雨降ったら腐る」

「高い方がたくさん願い事叶えてくれるってシスター言ってた!」

「じゃあ決まりだな」


 墓守はカレンから受け取った短冊を懐に入れると、大鎌を背負ったまますいすいと梯子を登っていく。一番太い枝の上に立つと、頭上の枝に掴まってひょいっとさらに上へ上がる。そんなことを何度か繰り返して、墓守はてっぺん近くまで登ってしまった。


 ふと下を向けばふわりと胸が透くほどの高さがある。墓守はまるで怖がるようすもなく、頭上の細い枝に藁で短冊を結び付けていく。

 そのようすをカレンはわくわくした顔で見上げているが、イリスはひやひやしてしょうがなかった。


「墓守さーん! 大丈夫ですかー?」


 思わず声を上げると、小さく「大丈夫だー」と返事がくる。すぐにがさりと枝葉が揺れて、墓守が幹を伝って降りてきた。


「心配かけたな」と頬を掻く墓守に、イリスはほっと胸を撫で下ろす。イリスの後ろには、ごちそうと言っても過言でない豪華な夕食が並んでいる。

 そわそわし出したカレンに、イリスがくすりと笑った。


「早速、食べましょう。冷めちゃうわ」

「お腹いっぱい食べるの!」


 明るいイリスとカレンにつられ、墓守もにこやかに笑う。敷き布の上に腰を下ろすと、イリスが大皿に盛ったサラダを全員に分けてくれた。

 少し酸味の利いた特製のソースがかかっていて、それだけで食が進む。墓守の顔も自然と綻ぶ。

 イリスはとても嬉しそうに笑った。


「うん、おいしい。ありがとうな」

「墓守さんが喜んでくれるだけで嬉しいです」


 そっとしだれかかってくるイリスに、墓守は少しだけ緊張する。だがすぐにいつもの調子を思い出して、そっとイリスの手を取った。

 カレンは食事に夢中で二人にまるで気付いていない。墓守も、イリスに数品かよそってあげた。

 自らの手料理にイリスも満足して、ほっと顔が綻ぶ。墓守がそっと口元を緩めると、イリスは少し意味深な顔をした。


「たまには、いいことしますね」


 それに気付いたのかそうでないのか、墓守はふとにそちらへ振り向く。そのときにはイリスはいつもの笑みを浮かべていた。


「他にほしいものあるか?」

「いえ、もう貰いましたから」


 ニコリとするイリスに、墓守は若干戸惑う。「そうか」と墓守は軽く頬を掻いた。

 くすぐったい笑みを浮かべたイリスの横顔を、沈み行く太陽が茜に染める。夕闇はもうすぐ後ろにいた。


「うふふ、早く食べないと日が暮れちゃうわ」


 イリスはそう言って、墓守にも数品かよそう。

 どこかすっきりしない顔の墓守も、とりあえず笑った。


「そうだが、だからって急いで食うな」

「ふぇ?」


 墓守は困ったような笑みを浮かべて、カレンの口元についたソースなどを拭ってあげる。

 夜の訪れを前に、その場は楽しげな笑いに包まれた。


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