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三話「お昼のひと時」

 太陽が少し傾いて地平線への帰り支度を済ませた頃。

 じりじりと暑さを持ち始めた南風がさわさわと草木を揺らす。何もないがある郊外の墓地では草木の声が一際大きく、春を惜しんでいるように聞こえてならない。


 墓守は今日も退屈さに任せて、墓地全体の掃き掃除を終えていた。これといった職業的殺人おしごともなく、いつものように分厚い装丁の本片手に黄昏る。

 初夏となれば野鳥もあまり鳴かず、心地よい静けさの中ではページが擦れる音すら耳につく。

 余生を謳歌しているとも言える時間を過ごす墓守は、ふとページから顔を上げた。


「――――帰ってきたか」


 唐突にそうつぶやいた墓守は専用の革紐で読んでいた本をベルトに下げる。その場ですっくと立ち上がると大鎌も背負って、ダッ!と石畳を蹴った。

 ふわりと飛び出した墓守は目の前の墓石群の上を駆ける。ザリッと無機質な抗議の声など気にせず、全速力で墓石群の上を突っ切った。


 墓守は南風に吹かれてようやく立ち止まる。ちょうどカレンとイリスが鉄扉をくぐるところだった。


「墓守! ただいま!」

「墓守さん、ただいま」

「おかえり」


 ニコリと笑ってくれるカレンとイリスに、墓守もぎこちなく笑って返す。墓守はすぐに墓石の上から降りてバスケットを代わりに持つと、イリスと腕を組んだ。

 もたれかかってくるイリスをうらやましく思ったのか、カレンも墓守の右腕に抱きつく。墓守は一旦その場にしゃがんで、カレンを肩車した。


「墓守墓守! すごい! 遠くまで見える!」

「うふふ、よかったわね。カレンちゃん」


 イリスと墓守の顔も自然と綻ぶ。墓守がイリスに合わせたゆったりとした歩調で石畳を歩くと、カレンはキャッキャッと楽しそうに笑った。


 三人の周りを南風が今日一番の陽気で温める。ほんわかとしあわせな雰囲気に包まれて、イリスはどことなく物足りなさを感じた。


「ほら、カレンちゃん。墓守さんに言うこと、あったでしょ?」

「あ! うん! 墓守墓守! これ見て!」


 イリスがさりげなく言うと、カレンが小袋からくしゃくしゃになった星降祭のチラシを取り出す。

 墓守もそのチラシにざっと目を通すと、その仰々しい言い草に顔を顰めた。


「……なんだこれ? 勧誘か?」

「教会でお祭りやるの! 墓守もお願い事書こっ!」


「あ?」と首を傾げる墓守に、イリスがそっと耳打ちする。星降祭について一通り教えてもらった墓守は、納得したように頷く。墓守はカレンへ笑みを浮かべた。


「そうだな、やるか」

「やったあ! いっぱい願い事書こう!」


 ぱあっと嬉しそうな笑顔を咲かせるカレンに、墓守もぎこちないながら楽しげな顔をした。イリスもそれを見てほっと胸を撫で下ろす。

 ほのぼのとしたお昼の時間はゆったりと過ぎていった。


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