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DOORs  作者: 日凪セツナ
8/18

第七章 「Ⅱ→Ⅲ」 星暦3018/6/23

 シュナとアフティは第一外基地で待機していた。本部に転送装置が設置されて外に出ることが容易になったのは良いが、身一つで戦場に放り出されるのは気が気ではなかった。

 シュナの腕には相変わらず、あの奇妙な装置が在る。四年間でシュナは成長し、既にその装置はシュナの腕にぴったりとはまっていた。

 アフティのはシュナの長髪を自分と同じ編み込みスタイルに仕上げ、にやにやとして机に座った。

「どーよ、シュナ。初めてのシェルター外調査は? 四年間シェルター内で燻ってたんだ、楽しみだろ?」

「楽しみって……あのさぁ、これ戦争だぜ?」

「だな。だがレジスタンスにとっては戦争でも、俺達にとっては『ヒーローごっこ』だよ」

 アフティは細い足を組んで前後させる。よく整った顔でするそのポーズは、十分に人の目を惹きつけるものであったが、生憎と、部屋にはシュナとアフティ以外は居なかった。

「『ヒーローごっこ』ね……いつまで遊ぶんだか」

「良いじゃん。遊びで人類が救えるならよ」

 アフティはツァールトから入った無線を取る。

『や。元気そうで何よりだよ。ソリアが転送装置の様子を気にしていてね、どうだい、シュナ。君結構機械得意だったよね?』

「あ、ああ……大丈夫だぜ。問題無い。この分なら、第二外基地にも転送装置を作れそうだ。礼を言っといてくれよ」

『アイディアは君じゃないか……君、もしかしたら記憶取り戻したら、結構な科学者かもよ?』

「それはそれで良いかもな。戦える科学者か」

 シュナは苦笑した。

『今回の任務は、先行部隊の補給だ。特攻隊長はサロスだよ。戦う必要は多分無いから』

「分かった。サロスが此処に来たら補給して、あんたに報告入れれば良いんだな?」

『そう。緊張するだろうけど、頑張って』

 過保護な言葉を残し、ツァールトは無線を切った。アフティは無線の電源を切り、机から飛び降りる。

「……なあ、シュナ」

「何?」

「お前さ、たまにこう……変なこと言うじゃんか。予言めいたことだったり、只の予感だったり、どうのこうの」

「ああ、うん……記憶喪失の影響だと思うが、どうにも……嫌な予感は、本当にどうにかしなきゃって思うんだよな」

「今日も何か言ってたよな。第二外基地は駄目だとか、駄々こねてツァールトを困らせただろう。そのせいで俺とお前が、この第一外基地に配置が変わって……どんな幻を見たんだよ」

「……ただの幻想さ」

 シュナは薄い笑みを見せ、アフティに背を向ける。その様子にアフティは顔を顰めた。

「俺を信用してねぇってか? 悲しいぜシュナ」

「違う! そういうんじゃねぇよ、只……」

 鋭く振り返ったシュナに、アフティは真剣な眼差しを返してきた。シュナは気圧され様な顔になる。

「お前が今更変なこと言おうと、気にする奴がアプサラスに居るか? ソリアはお前をモルモットだと言ってるが、それはあくまで比喩だろう。俺達は家族だろうが」

「……分かった、言うぜ、怒るなよ」

 シュナは椅子に座って、指先を合わせて俯いた。

「死ぬ夢を見た。アフティ――――お前が」

 シュナの言葉に、暫時アフティは黙り込む。

「いつもより妙にリアルだったんだよ。二人の男が居て、お前が……俺を、殺そうとして……俺が殺した」

 シュナは言葉を続け、顔を上げた。アフティはやはり表情を殺してシュナを見つめている。

「俺がお前を殺す。第二外基地近くでだ。それが見えた」

「……そうか」

 アフティはそれだけ呟くと、シュナに背を向けた。

「……アフティ?」

「ちょっと休ませてくれ」

 アフティは仮眠室に入り、後ろ手でドアを閉じる。シュナは俯いた。

 時計を確認すれば、十時十五分。サロス達の到達にはまだ数時間在った。

 ベッドに座り、アフティは改めて、シュナの言葉を噛み砕く。明かりを点けずにドアを閉じたため、部屋は薄暗く、壁掛けの時計の音だけが妙に大きく聞こえた。

 自分がシュナを殺す筈が無い。アフティは小さくそう呟いた。しかしその言葉は、妙に空しく感じる。いつもであれば、また妙な夢か、と笑えたのだが。

 笑えない一番の理由は、似たような夢を、アフティも見たということだった。二人の男が居る。自分と、シュナ―――少なくとも夢の中ではそう認識していた男が居る。自分はシュナに攻撃をしていて、シュナが自分に銃を向けている。

 緊張による悪夢だと勝手に決めつけた。第一自分は、第二外基地にまだ行ったことがないのだから。

「シュナ……お前は、誰なんだ……」

 何処か遠い昔に、自分は彼と出会っている気がする。だが、今までの自分の人生を振り返っても、シュナと同じ姿の人間に出会ったことは無い。それは自分のはっきりとした記憶なのだから、断言できる。

 シュナが妙な発言をする度にちらつく人影は在るが、そのシルエットはシュナと似ても似つかない。敢えて言うなら、サロスに似ているだろうか。

 アフティはベッドに寝転がり、頭を組んだ腕に乗せる。眠る気はしなかった。

「アフティ……まだ起きてるか?」

「……シュナ?」

 シュナは部屋に入って来た。

「寝るのか?」

「寝ない。二人とも寝たら誰が補給を――――」


 世界が鳴動した。


 シュナははっとして顔を上げた。シュナは椅子に座り、机に突っ伏していた。向かいには同じ姿で寝ているアフティが居る。

「……あれ……?」

 シュナは目を擦った。アフティと自分は仮眠室に居た筈で―――

「アフティ、不味いぜ寝ちまったみたい……あれ?」

 時計を見れば、十時十分。進むどころか、五分ほど戻っていた。

「何だ、どっから寝て……アフティ、起きろ、アフティ?」

「ん……」

 アフティが顔を上げて目を擦った。やはり、不思議そうな表情で周囲を見回している。

「何!? 何何何何!? アレ、俺いつ寝た!?」

「お……落ち着けアフティ」

 シュナはアフティを宥める。アフティは何かを感じ取ったのか、窓に駆け寄る。そして窓の横にしゃがみ込み、小型鏡で外を見た。

「……おい」

 アフティの顔色が蒼白になる。シュナもアフティの横にしゃがみ込み、鏡を覗き込んだ。

「っ!?」

 外側、壁に寄りかかっているのは―――青い髪の、人間だった。

「嘘だろ、人間じゃん! ちょ、髪の色変だけど、ちょっと保護しないと!」

「落ち着けってアフティ」

 アフティはしかし、武装を整えて基地を出る。ロボット達はアフティの姿を捕え、即座に攻撃態勢を整えた。アフティは盾を構え、青髪の人間を引っ張って基地に戻る。

「――此奴……」

 シュナはアフティが引っ張り込んだ人間を机に寝かせ、愕然とした。

 青色の髪もさることながら―――顔の頬から首にかけては、鉄色の細かいパーツのようなものが付いていた。剥き出しの肩には鉄のパッドのようなものが付いており、腕も金属版が張り付いている機械製だ。

「……不味い、ロボット兵じゃん……」

 アフティの、緩んでいた表情が引き締まる。憔悴していた顔は敵意に縁取られ、眉間に皺が寄る。

「待てよ、他のロボット兵と違う……もしかしたら、俺達のシェルター以外から来た兵士かも知れないだろ!?」

「だけど!」

「落ち着けって、とにかく! 拘束して、目を覚ますのを待とう……」

 シュナは鉄線でロボットの両手足を縛り、部屋の隅に座らせた。アフティは罪悪感からか、椅子に座って頬杖を付き、そっぽを向く。

 時計を確認すれば、十時十二分。時間は変わっていない。

「夢であってくれよ……」

 シュナは苦々しく呟き、ソリアへと無線を繋いだ。



 本部の清潔な研究室に運び込まれ、ロボットは拘束具を外された。見張りの為、シュナとアフティはソリアに引き留められる。ソリアは茶髪をまとめてペンで括り、台の上のロボットを見遣った。

「良い研究材料拾って来たわね」

「そりゃどうも。解析頼むぜソリア博士」

「貴方に博士って呼ばれると馬鹿にされてる気がするわ」

 ソリアはシュナを睨んで手袋をはめる。白い絶縁のゴム手袋だ。ソリアは丁寧な手つきで、ロボットの頬を撫で、指先を首筋に這わせる。

「エロいな」

「黙りなさい童貞野郎」

 間髪入れずに返され、シュナは肩を竦める。

「お前だって処女のくせに」

「童貞は笑われるけど処女は男が群がるの。稀少なのよ」

「少子化に貢献してねぇだけだろ」

「貴方もね」

 言い返す言葉を見付けられず、シュナは顔を逸らして眉宇を顰める。ソリアは鋏を机から持ってくると、突然、ロボットの服を切り始めた。

 驚いたような顔をするシュナとアフティをよそに、ソリアは無言で、ロボットが着ていたシャツを切り、胸元を大きく広げる。やはり機械的な体で、その左胸には小さな扉が在った。ソリアはドライバーを差し込み、その扉を開ける。

 中に入っていたのは、シュナの拳ほどの大きさの球だった。光り輝く球は鉄の金具に包まれており、その金具に幾つものケーブルが繋がっている。ソリアは球を持ち上げた。

「核ね……超高エネルギーが凝縮されてる。こんな技術見たこと無いわ……」

「……はあ」

「これはロボットじゃない。サイボーグよ。殆どは機械化されているけど、僅かながら人間の機能が残っている。この核が心臓ね。この太いケーブルが血管で……」

「………………」

「凄い……この装甲は人工皮膚なのね。人の見た目に近付ける為……だけど衝撃を受けると硬化する。ああ、防弾チョッキの要領ね。それから……」

 シュナは欠伸を噛み殺した。隣を見れば、アフティも眠そうな顔をしている。

「ちょっとシュナ、聞いてるの?」

「えっ!? 何だよ俺に言ってたのか」

「動くわよ、これで」

 ソリアはロボットの胸の扉を閉めた。ブゥン、と微かな起動音がする。シュナはソリアの隣に移動してロボットを覗き込んだ。

「……う……」

「『う』?」

 ロボットが発した呻き声に、シュナは顔を顰める。間も無く、ロボットは目を開いた。その色―――白目と黒目が反転した目に、ソリアは息を飲む。

「聞こえるかしら。貴方は誰?」

「………………」

 ロボットはソリアを見詰め、それからシュナ、アフティとその視線を移動させる。

「貴方はどちらの味方? 人間? それともX?」

「……人間」

 ロボットはそう呟き、体を起こす。がしゃり、と台に付いた手が金属音を発した。

「此処はレジスタンス本部よ。何処から来たの、目的は、」

「ソリア、ちょっと待て。いきなりそんなに質問しても……、?」

 ロボットが、シュナの左手首の装置を掴んだ。怪訝な顔をするシュナをよそに、ロボットはボタンを幾つか押す。間も無く、装置の画面が光った。

「……え?」

 今までどうやっても動かなかった装置が、あっさりと起動する。ロボットは素早く数字のボタンを押した。画面にメールの表示が出る。

「メッセージ……これ、」

 ロボットは、画面に触れる。メールが開いた。シュナからは見えなかったが、ロボットは無言でそれを見詰める。

「分かった」

「え?」

 ロボットが手を離すと、画面が光を失う。ロボットは台に座り、目を閉じて俯いた。

「……おい?」

 シュナは、また反応しなくなった装置を見て困惑した顔になる。ロボットは顎に手を当て、考え込むような顔になった。

「なあ、お前は……何なんだ?」

「……ヴェルグ」

「は?」

 ロボットはそう呟き、シュナを真っ直ぐに見やった。

「いや……お前は死ぬ、シュナ」

「……、」

「お前を生かす為に来た」

 ロボットは立ち上がった。小柄なシュナよりも少々背が高い。

「二年後の八月十三日。お前は死ぬ」

 ロボットは殊更突き付けるように言う。

「お前はまだ何も知らないが……ルートは既に変わっている。彼奴が生きているから……」

「お前、未来から来ましたとか言うんじゃねえよな」

「……少々語弊が在る。この世界の未来から此処に来ることは出来ない」

 ロボットはそして、アフティに視線を向けた。

「……無駄にルートが変わらなくてよかった」

「は?」

 ロボットはそして、ふらりと部屋の出口に向かう。シュナは慌ててその肩を掴んで引き留めた。ロボットはしかし、その手を外して扉に手を掛ける。

「誰にも危害は加えない――――少し時間が欲しい」

「……何て呼べばいいかしら、サイボーグさん」

 ソリアは腕を組んだ。ロボットは暫時ソリアを見詰める。

「好きに呼べ。俺にもう名前は無い」

「じゃあアオでいいかしら」

「……は?」

 流石に予想外と言う顔でロボットは振り返る。ソリアはにっこりと意地の悪い笑みを見せた。

「髪が青いからアオで、良いわよね? 好きに呼べって言ったじゃない」

「……うん、」

 そのロボット、アオの反応に、シュナは微かな親近感を覚える。アオは小さく溜息を吐き、扉を開いた。

途端、数人が床に倒れ込む。

「……わっ!」

 一番初めに顔を上げたのは、ツァールトだった。

「ツァールト、サロス……ナイトまで何やってんだ」

 シュナが呆れ顔になる。ツァールトは極まりが悪そうに頭を掻いた。

「いやぁ……不思議なロボットを拾ったって言うから。彼がそうかな」

 ツァールトは素早く立ち上がる。アオは微かに呆れたような顔になった。

「上の人に話を付けて来た。君をアプサラスに迎えよう」

「は?」

「戦力となるのなら、固まっていた方が良いからね。連絡も便利だ」

 ツァールトはそして、アオに手を差し出す。

「君が承諾してくれれば、君に黙秘権を与えよう。承諾しないなら、この部屋から出す訳にはいかないな」

 ツァールトは意地の悪い笑みを見せる。アオは視線を落とし、

「お前は変わらないな、ツァールト」

 小さくそう呟くと、ツァールトの手を握り返した。

「良いだろう。だが助言は出来ない。まだルートを変える訳にはいかない」

「そうか。ま、何の事だか知らないけど歓迎するよ」

 ツァールトの言葉に、シュナの横でアフティの表情が険しくなる。『番犬』の異名を冠されたアフティは、四年前シュナがアプサラスに加わった時も、数日その行動を監視していた。まして今回はサイボーグ―――アフティが警戒心を強めるのも無理は無い。

 帰って行くアプサラスのメンバーを見送り、シュナはソリアの研究室に残った。ソリアは一人、顎に手を当てて何か考え込んでいる。

「なあ、ソリア……」

「シュナ、ホワイトボード用意」

 ソリアは言ってシュナを振り返った。シュナは目を瞬かせ、しかし逆らわずに隣の部屋からホワイトボードを引っ張って来る。シュナがアイディアを出した機械の設計図や、化学式などが書きなぐられていた。ソリアは迷うこと無くそれらを消し、ペンを取る。

「あんたもアイディア出しなさい。あんた頭良いじゃん……サロスよりは」

「褒めてなくねそれ」

「彼奴の言動と彼奴が現れた瞬間に起きたことを総合して考えると、彼奴は未来もしくは別の世界から来たと考えるのが妥当だわ」

 シュナの言葉を無視し、ソリアはペンの蓋を外す。

「現れたのは十時十分ね?」

「ああ……その事なんだが実は、」

「十五分だった」

 ソリアはシュナより先にそう言った。シュナはソリアを見て目を見開く。

「あの時、十時十五分だった。それが、ふと気づいたら十時十分になってたのよ。場所も移動していた。五分前の場所にね」

「やっぱり、ソリアも……」

「いいえ、皆よ」

 ソリアはボードに、『十時十五分→十分 移動』と書き込む。

私が話を聞いた全員が・・・・・・・・・・、五分前の状況に戻っていた」

「……とすると、世界全体・・・・とかそういう壮大な話になるが」

「そうよ」

 ソリアはあっさりと頷いた。シュナは頭を掻き、椅子を引っ張ってきて座る。

「あの瞬間。アオが出現したその時、世界の時間が戻った。いいえ―――どうかしら、戻ったんじゃないかも知れないわ」

「はあ?」

「アオは『この世界の未来から此処に来ることは出来ない』と言った。それはこう解釈もできるでしょう。『別の世界からであれば未来から此処に来ることが出来る』」

「それは……そうだがよ、」

「アオはツァールトも貴方もアフティも知っているようだった。並行世界の存在を示唆していると考えた方が良いわ」

「待てよソリア! 並行世界とか、そんな非科学的なもの」

「あら、」

 振り返ったソリアは薄く微笑んでいた。シュナは言おうとした言葉を飲み込む。

「非科学的? 何を根拠に?」

「それは……」

「可能性の話よ。彼の存在を説明する方法がこれしか無いの」

 ソリアはボードに二つの円を書く。

「これが、私達が今いる世界よ。仮に『Ⅱ』としましょう。アオはもう一つの世界、『Ⅰ』から来たとすれば、貴方が死ぬ事実を知ってることも、それを救おうとする理由も説明できるんじゃないの?」

 ソリアは『Ⅱ』から『Ⅰ』へ矢印を書き、『アオ』と付け加える。

「貴方は向こうの世界で重要な役割を担っていた。なのに死んでしまった。だからアオが来た。貴方が―――『シュナが死なない未来』を創る為に」

「…………途方も無い話じゃねぇか」

 シュナは背もたれに寄りかかる。ソリアはシュナの向かいに座った。

「だとしたら、俺を連れていけばいいんじゃないか、わざわざ二年も前に渡って来ないで。二年後の死ぬ寸前の俺を、俺が死んだ後に連れて行けばいいんだ」

「これは仮説だけど、それは不可能よ」

 ソリアはボードを引き寄せ、人型を描いた。

「人間―――彼はサイボーグだけど、とにかく人間一人を送るには多大なエネルギーが必要よ。あの転送装置だって、多くの人間を送ればそれだけエネルギーが要る。それに加えて、只空間を飛び越えるならともかく、時間、そして世界も飛び越えるとなると……シュナ、聞いてるの?」

「ああ、うん」

 シュナは慌てて眠そうな目を擦った。ソリアは溜息を吐く。

「良い? 世界を飛び越えるとなると、空間を超越するワームホールを通る必要が在るの。それでも質量が大きいものは送れないから……あら、どうするのかしら」

 ソリアはそこでペンを止めて俯いた。シュナはやはり、興味が薄そうに話を聞いている。

「ワームホールを通れない?」

「ええ。少なくとも、今思いつく限りの技術では」

「……素人意見で言っていいならよ……あの転送装置、確か人体を……どう送るんだっけ」

 ソリアがずっこける。

「あれもワームホールの応用よ! 世界間じゃなくて二点間を結ぶワームホールを一時的に開くの。さして距離が無ければワームホールも広いから、人体丸ごと送れるのよ」

「ああ、そうそう。それなら送れるんだろ? じゃあ可能性は在るじゃないかよ」

「だから、それが理論上不可能だから、」

「だからぁ、」

 シュナはボードを指差した。

「人間だったらともかく、アオはサイボーグだろ? 確かに強大なエネルギーは必要だけど、データだったら送れるだろ」

 シュナの言葉に、ソリアも何かに気付いたような顔になる。

「人間を分解したら再構築は出来ないけど、サイボーグだったら? 分解してワームホールを通して、こっちに着いたら再構築して、記憶をデータとしてインプットする。理論上で良いなら、これで可能な筈だぜ」

 そう言って、シュナはにやりとした。

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