第六章 「Ⅰ」 星暦3018/7/1
『ここには、俺が得た情報全てを記載しようと思う。Xの正体とは何か。Xを倒すすべとは何か。そして、もし忘れていたとしたら、君が何故そこに居るのかも教えた方が良いだろうか。君が俺のことを覚えていると期待する、と先程書いた。だが正直言ってしまえば俺は、それは理想でしかないと思っている。これを読んで何をどうするかは君次第だ』
アフティの墓は、シェルター内の農業区に作られた。彼奴の出身地でも在るし、此処は、他の場所よりは空気が澄んでいる。
夏空は綺麗だった。いつもは灰色にくすんでしまっている空だが、今日は珍しく快晴だ。俺は墓の隣にしゃがみ、空を見上げる。
「俺は第一線から退くよ、アフティ」
俺は呟く。返事は無い。
「もう駄目だ。憎まずに……自分を傷付けずに彼奴らロボットと対峙する勇気が無い。俺まで死んだら、きっとレジスタンスは負ける……ツァールトも承諾してくれたよ」
返事は無い。
「戦う相手すら守れる戦い方、俺に教えてくれたのお前だったよな」
返事は無い。
「礼を言うよ。お前に会えてよかった」
返事は無い。
「じゃあ、また来るから。どっかから見守っててくれよな、ガラじゃねぇだろうが」
返事は無かった。俺は立ち上がって歩き出す。
立ち止まっては居られない。振り返れもしない。
今回の事で確信したことが在る。ロボットは、人工の建物には入れない。三か月ほど前にソリアと立てた仮説が証明された。
そして―――恐るべきは、Xの正体だ。ソリアの持っていた本は、時計塔の地下書庫から借りてきていたものだ。そこには当然ながらXなどというもの書かれていなかったが、代わりに恐ろしいものを発見した。
五百年前に作られた、ある『怪物』コンピュータだ。俺とソリアは、これがXの中枢を担っているのだろうという仮説を立てた。その『怪物』であれば、世界中のロボットを操ることが優に出来る。
もしこの『怪物』がロボット達を操っているとして―――この『怪物』に、『人工の建物には入るな』という命令が下っていたら。全ての説明がつく。
ソリアは資料集めに奔走していた。俺は本格的に、『ある装置』の開発を進めることにする。今のところその装置は、俺のソシオとノートパソコンに組み込む予定だ。
疲弊したレジスタンスは、抵抗ばかりで反撃するほどの力は残っていない。否、それは人類全体に言えることだろう。
反撃には、今はもう遅すぎる。もしシェルターを出なければ平和に過ごせるとしても、家畜の様にロボットに飼われるのを誰も是とはしないだろう。シェルター内だけでは、いずれ食料を含め、様々な限界が来る。そうなれば、人間同士で殺し合って滅びるのは目に見えている。
遅すぎた。それは既に、誰にでも分かることだった。
だが―――それでも。俺はXに負けるつもりは無い。これ以上、仲間が死に、壊れて行くのを、黙って見ているつもりも無い。
「何をするつもりなの?」
不意の言葉に振り返れば、本を抱えたソリアが立っていた。畏怖すらその顔に浮かべ、俺を見詰めている。俺は笑った。
「未来を―――今を変えるのさ」
流石ソリアだ。俺の言葉の真意をすぐに理解したらしい。
「タイムマシンでも作るつもり?」
「転送装置の応用だろう。過去にメールを送れるシステムだよ」
「パラドックスが起きるわ」
ソリアは俺に詰め寄った。
「駄目よ。過去を変えたら今が変わる。今が変われば貴方の行動も変わる。矛盾が生まれるわ」
「……昔から、タイムマシンの類の研究は在った。矛盾しない世界観も在る。そしてそれを証明する事例も在る」
「ヴェルグ、無茶よ」
「何故」
俺はソリアを見下ろして微笑みを深める。ソリアは顔を険しくした。
「貴方、壊れてるわよ……戦いもしないで、全部変えちゃうなんて……もし世界が変わったら、記憶も再構築されるわ。貴方が存在しなくなるかも知れないのよ?」
「それでも良い。俺は過去に行くつもりは無い」
俺が作ろうとしているのは、あるメールシステムだ。俺のパソコンからソシオへ、時空を飛び越えてメールというデータを送れるシステム。これならエネルギーも少なくて済むし、メールによって過去の行動を変えることが出来る。
「過去の俺に……俺が知り得た情報全てを送る。そうすれば」
「信じるかしら?」
「……、」
ソリアの言葉に、俺は言葉に詰まった。確かに、いきなり見知らぬメールが来て、信じろと言う方が無理だろう。
「貴方の自説くらいなら聞いてあげるわ。その上で最も有効な手段は、私が判断するから。詰めが甘いのよ、貴方は」
「五月蝿いな」
俺は苦い顔になる。詰めが甘いのは良く周りに言われていることだった。昔、サロスにそれでこっぴどく叱られたことが在る。
「分かったよ、今はアプサラスの方の本部に帰ろう」
「そうね。久し振りに戻りましょうか」
俺はソリアの本を持つ。ソリアは俺の少し後ろを付いてきた。
アプサラスの本部は、戦いが続いているせいか少々埃っぽかった。ナイトだけが居て、無言で掃除をしている。
「ヴェルグ……」
「よ、ナイト。一人か?」
「ああ。サロスはソレダーと、自警団にスカウトに行ってる。ツァールトは、アフティの件で本部に呼び出されたそうだ。フィリアは今日も第二外基地で無線の仕事だ」
「そっか……」
俺は道具を持って来て掃除に加わった。
「なぁナイト。後でいいから、少し稽古付けてくれよ」
「はぁ?」
「ちょっと、参っててさ……昔みたいに、お前とやり合いたい」
俺の言葉に、ナイトは暫時怪訝そうな顔を俺に向けていたが、溜息を吐いて承諾する。俺は礼を言って、それからは無言で床を磨いた。
数年前までは楽しかった。『ヒーローごっこ』の雰囲気そのままで、訓練も戦闘もしていた。だが、時間と共に、周囲に大人になることを求められ―――アプサラスは、今、崩壊しようとしている。
誰か一人でも欠けたら、『アプサラス』は成立しない。それは暗黙の了解であった。『番犬』アフティが抜け、そのバランスは急激に崩れ始めている。
群れても居られない。遊んでばかりも居られない。それほどまでに、今は追い詰められている状況だ。
だが、長い間俺達は『子供』だった。子供であることをしくじったから、『子供』を演じた。それが壊され、『大人』を今押し付けられている。
ツァールトという『飼い主』を失ったら、誰に従って歩けば良い?
アフティという『番犬』を失ったら、誰が背中を守ってくれる?
「俺達は甘ったれだ」
「あ?」
「……あ」
声に出ていたらしい。ナイトが怪訝そうに俺を見ている。俺はモップを仕舞って誤魔化した。
ナイトが拭いたテーブルに、ソリアがコーヒーを持って来る。
「何暗くなってるのよ、あんたららしくも無い。飲んで忘れなよ。未成年だからコーヒーだけど」
「なあソリア……俺はもう二十歳だ」
「大人ぶって。ツァールトが居なければ暴れる以外出来ないくせに」
ソリアの毒舌に、ナイトは呻く。的確だから性質が悪いんだ、全く。
「で、じゃあ教えてくれるヴェルグ。あんたの言う世界観とか」
「はいはい……例えるなら、ドアかな」
俺は作戦会議用のホワイトボードを引っ張ってきて、ペンを取る。
「俺は外すか?」
「いや、別にナイトは居ても良い。ええとだな、俺が読んだ文献によると、この世界は一本の道だ」
俺はボードの中心に一本、水平に線を引いた。そしてその中頃に、縦に短い線を入れる。「で、だな。ある時点から……これを『地点1』とすると、」
俺は縦線の少し右側に『1』と書いてその地点に印をつける。そしてそこから、最初の縦線に矢印を引っ張った。
「この戻って来る地点を……どうすっかな、『0』でいいか、『0』とする。『1』から『0』に戻れば、自然、『1』にとっての過去、つまり『0』からの未来は変わる。すると『1』に行き付かないルートが現れる」
俺は『0』から新たな線を斜めに引き出し、最初の横線と平行にして伸ばした。
「これが『1』を通らないルート。『0』に戻った人間は『1』に戻ることなく、この並行世界、『2』を進むことになる」
俺は新しい線に『2』と書き加えた。
「成程ね。世界を、ゼロを起点に分岐させることで、パラドックスを防ぐと」
「そう。『0』地点以前の過去は変わらないから、記憶の再構築も起こらず、『2』の世界は『0』地点から新たに作られる。地点以前は『1』と同じだ」
「じゃあその後、『1』はどうなるのかしら? 人ひとり消えて、そのまま?」
「いいや……此処から先も同じ文献からだけど、世界は二つ存在できない。存在できるのは『可能性』だけ……だったかな」
「は?」
「だから、ドアだよ」
俺は慌てて『0』地点を丸で囲んで説明を続ける。
「分岐点に戻った時点で、その人間は様々な『ドア』から選択できることになるんだ。例えばドア『Ⅰ』を選べば地点『1』に行き付くルート、ドア『Ⅱ』を選べば地点『2』に行き付くルート、という感じだ」
「ああ、成程ね。分岐点に様々なドアが用意されていて、その全てが存在できる『可能性』の世界だと。だけど開けるのはその内一つだけ……そう言いたいんでしょ?」
「そう! そういう事」
俺はソリアを指差した。流石だ。ソリアは呆れ顔になった。ナイトは、意味が分からない、という顔で俺を睨んでいる。怖い。
「つまり、過去に戻ってやり直すことが出来る、でも自分は過去に戻る以前には戻れない。そういう事ね」
「ああ。常に一方通行なんだ、タイムトラベルは」
俺が言うと、ソリアは眉を微かに動かした。
「あんた……文献とか格好つけていたけど、それ、すっごく昔の漫画じゃない?」
「……ばれた?」
ソリアは溜息を吐いた。だが俺は真剣だ。
「筋は通ってると思うぜ。で、どうだ、この世界観に従うとして、タイムマシンが出来たとして、全てまあ仮定だが、ソリア、あんたならどんな方法で世界を変える」
俺は椅子に座った。ソリアは呆れ顔を引っ込め、暫時俯いて考え込む。
「そうね、私なら取り敢えず、保険を掛ける為に二つ、過去に送るわ。貴方と、メールを」
「へぇ……お俺!?」
俺は自分の顔を指差した。ソリアは鼻を鳴らす。
「貴方、今戦えるアプサラスの中で一番強くて若いじゃない。貴方をまず過去に送るわ。知識も作戦も、貴方の頭の中に入ってるでしょ。それから、万が一ショックで記憶を失った時の為に、メールも。さっき貴方が言っていた『過去に情報を送るシステム』とやらでメールを貴方のソシオに送れば良いでしょ?」
うわ、お見通し……ソリアには敵わないな……
「そうだな」
俺はペンを置いてソリアに向き直る。
「そこで相談なんだが、」
「メールの文面、先に考えなさいよ。私はその間に設計図を引くわ」
ソリアは立ち上がって奥のドアに向かった。アプサラス本部に在るソリアの研究室が、その奥には在る。
「それと。アプサラス以外のレジスタンスに知られないようにね。危険だわ。中央政府と繋がってXに迎合しようとする奴らも居るでしょうし」
「分かってる。ナイト、皆を集めてくれるか」
「……ちょっと、話聞いてたの?」
「だからアプサラスの皆には知らせて良いんだろ?」
俺がそう返すと、ソリアは苦い顔になる。
「良いように解釈しないでよ。知ってる人間は少ない方が良いわ。タイムマシンなんて夢物語だし、理論上可能なだけで……」
「だから、協力者は多い方が良いだろ?」
俺がにやりとして言うと、ソリアは顔を顰め、さっさと行ってしまった。
「何だよ……ま、良いや。ナイト、」
「分かってる。だが、ツァールトは来ねぇぜ」
「え?」
ナイトはソシオの電源を切って俺を見た。
「アフティの件で、また何か余計なことを言ったらしい……拘束されて……今、反省室に」
「……悪い、行ってくる」
俺はパスを掴んで出口に向かう。ナイトは止めなかった。
入った部屋は、鉄格子で二つに区切られていた。手前には見張りが、奥にはツァールトが居る。
「ツァールト!」
俺は鉄格子に駆け寄る。ベッドに座っていたツァールトが顔を上げた。
「やあ、ヴェルグ……どうしたんだい、慌てた顔をして」
ツァールトは立ち上がって俺に近付く。
「どうしたじゃねぇよ! 何でこんなことに……」
「僕が頼んだんだ、拘束してくれって」
「……え?」
ツァールトは鉄格子越しに、俺の目を見詰めた。
「僕は……アプサラスに無茶を言ったレジスタンスの幹部も、中央政府も、アフティを助けられなかった自分も、許せる気はしない……何をするか分からないよ」
「……ツァールト……」
「ヴェルグ、僕が落ち着くまで、アプサラスを頼んでいいかな?」
ツァールトは憔悴した顔で微笑んだ。
「僕の弟達を、守ってほしい……勿論君も僕の弟だ。だけど、君はずっと昔からアプサラスに居る彼らより、まともに子供だからね」
「……大人になれ、てか?」
俺は鉄格子を掴んで俯いた。ツァールトが頷くのが分かる。
「彼らより君は自立してる。彼らを、そろそろ自立させて」
「アプサラスは全員居て完全だ」
俺は呻くように言った。
「ヴェルグ……『ヒーローごっこ』は終わりなんだよ」
ツァールトはそして、俺の頭を撫で、それから俺の顔を上げさせる。
「ヴェルグ・シュナイダー。君はレジスタンス第十七支部、特殊戦闘部隊『アプサラス』の代表代理だ。戦い続けてくれ」
そう言ったツァールトの眼差しは真剣で、いつもの柔らかな物腰など、何処にも見えなかった。が―――次の瞬間、すぐにツァールトは笑みを取り戻す。
「僕は、完璧な『兄』で居すぎたのかも知れないね」
それだけ言って、ツァールトは俺から離れる。
「……て来いよ……ちゃんと戻って来いよツァールト! 今度は兄じゃなくて、一人の戦士として、アプサラスに!」
俺は言い残して、部屋を出る。返事は聞きたくなかった。
いつかはこうなると思っていた。
一人ぼっちの子供が集まって、『ヒーローごっこ』をする集団。そのアプサラスの現状を、いつまでも変えないで置ける筈が無い。
戦争で道を失った彼らには、『兄』が―――ツァールトが必要だった。それが行き過ぎた結果が、今だ。
俺は足を止め、窓から空を見上げる。
少しずつ間違って、自分達は現状に甘え過ぎた。その結果―――俺達は、Xを倒す機会を、悉く見過ごしてきたのかも知れない。
もう、取り返しのつかなくなるまで。
アプサラスの本部に戻ると、既に皆が集まっていた。ホワイトボードに色々と書かれていて、ソリアが説明をした後だと分かる。俺は扉を閉じ、皆に近付く。
「説明はしておいたわ。貴方と私の計画も。それを踏まえて、貴方は何をするつもりか、言ってくれる?」
「……ああ」
俺はホワイトボードの隣に立ち、座っている皆を見回した。
「だがその前に、一つ……ツァールトは、レジスタンス本部に拘束される」
「なっ!?」
サロスが立ち上がる。俺は片手でそれを制した。
「ツァールトは自ら望んでそれを受け入れた。そして、アプサラスの暫定的リーダーに、俺が指定された」
「……そっか」
サロスは椅子に座り直した。俺は頷いて話を続ける。
「これから俺が言う話は、俺の妄想かも知れない。だが、もし可能なら、人類がXに対抗する最も有用な手段だろう……多分」
「多分とか言わないの」
ソリアの指摘に俺は苦い顔になる。だが実際、このまま戦い続けてジリ貧になるのと、過去に戻ってXと戦う方法を教えるとでは、どちらが有用かと言われて、即座には答えられない。そもそも、過去に戻る手段が実現可能か、ということが引っかかってしまうのだ。
「理論上は、一応転送装置の応用でタイムマシンとかは実現可能だ。だが、エネルギー計算によっちゃたった数日前にしか戻れないとか、それこそ向こうに着いたときは分解されてゲル状になってるとか……第一、戻ってくることが出来ない。だから無事にトラベル可能かも分からない」
俺は頭を掻いた。サロスはしかし、不思議そうな顔で俺を見返してくる。
「でも、お前が理論上可能って言ったら、大体可能じゃね?」
「あのなぁサロス。転送装置と違うんだよ、時間まで超えるとなると……」
「それでも、二点間を繋ぐのは一緒だろ?」
「……確かにサロスの言う通りですよ。ヴェルグが大丈夫って言って、今まで駄目だったものって無いじゃないですか」
フィリアも唇に指を当てて返す。この女男……駄目だ言ったら殺される。
「だーかーらー、俺はそのー、理論上の話をしてるのであってな? お前達に信頼されてるのは嬉しいけど、今回は訳が違うんだよ。このまま戦い続けるのと、タイムマシンに希望を託すのどっちが良いかっつったらやっぱりこのままな訳で、」
「今のまま勝てるとは思わねぇな、俺は」
ナイトはあっさりとそう言った。ソレダーもその隣で頷く。
「兄さんに同意だな。中央政府は弱腰になってるし。レジスタンスも中央政府に迎合し始めてる。多分、Xに勝てなくても、飼い殺されるよ」
「だから、俺達はお前が言う『タイムマシン』とやらに賛成だ。その為に協力できることならするぜ?」
サロスがそう言って笑った。ソリアは小さく笑ってボードをひっくり返す。
「ヴェルグ。実はね、皆にやって欲しいことはもう決まってるのよ」
「え?」
「エネルギー計算の結果、タイムトラベルに必要なエネルギーは、相当量になるわ。皆にはそのエネルギーを確保して欲しいの」
「よっしゃ!」
サロスが拳を握った。任せておけ、という顔だが、エネルギーは絶対、調達できるような量じゃない。
「レジスタンス本部の電源、丸ごと……いいえ、シェルター全域の五分分のエネルギーが必要ね。都市機能を全て停止させることになるわ」
「……え」
流石に、サロスの顔が凍る。そして俺を見たから、俺は頷いた。俺のザックリとした試算でも、そうなっている。
「ま、これから実際に作って、実験してみないとね……ヴェルグは小柄だから、案外に少なくて済むかも知れないし」
「あのな……」
「良いからまず貴方はメール書きなさい。下手なんだから」
「いや、まずシステムを作らないと……設計図引く」
俺の言葉に、ソリアは何か言いたそうだったが、黙ってボードを片付けた。
「それじゃ……リーダー代理として、アプサラスの皆に指令だ」
俺は机に両手を付いた。皆の視線が俺に集まる。
「これから、俺とソリアはタイムマシン開発に本格的に乗り出す。ツァールトが復活するまで、暫くの時間が掛かるだろうが、持ちこたえて欲しい。それから、このタイムマシンの事は、絶対に口外しないでくれ。以上だ」
俺が座る。暫時、アプサラスの本部に、嫌な沈黙が落ちた。
『それでは本題だ。Xの正体から語ろう。世界中のロボットを操り人間という種を絶滅寸前まで追い詰めた、正体不明の敵。あれは、一つのスーパーコンピュータだ。星暦にして、二千と五百年頃―――そう、もう五百年も前に作られたものだ。その存在が忘れられていたとしても不思議ではない』