第四章 「Ⅰ」 星暦3018/6/23
『そして、仲間を守ってやって欲しい。君にとっては、彼らはただの同じことを繰り返す人形に感じても、彼らは確かに君を信じていて、君を愛してくれているのだから。Xとの戦いで、君を最後まで支えてくれるのは彼らだ。君は彼らにとっての救世主たりえるが、彼らは君にとっての最高の支援者だ』
戦況は芳しくなかった。第二外基地を取り戻して二月、確かに人類の戦線は大幅に進んだ。だが戦力は相変わらず乏しい。俺が入った時には千人を超していたレジスタンスの人員も、今では三百人前後になっている。多くは戦場で死に、そうでないものは逃げ出した。
彼らを責めることは俺には出来ない。彼らも人間だ。恐ろしくて当然だろう。
そのレジスタンスの中で、唯一無傷で―――一人の欠員も出さずに戦い続けているのが、俺の属するアプサラスだった。ツァールトと言う代表に始まり、様々な異名を持つ戦士達がいるアプサラスは、確かにレジスタンスの希望と言えた。
だがその実態は、子供の『ヒーローごっこ』の延長であることを俺は知っている。
ツァールト以外の多くのメンバーが、貧民街や工業区と言った、豊かではない場所から流れてきている。子供で在った―――しかし『正常』な子供であることをしくじった彼らを、ツァールトと言う『兄』がまとめ、アプサラス本部と言う『秘密基地』に集まって、遊んだり戦争に備えたりする。年頃の少年達が一度はやるであろう遊びだ。
その結果がレジスタンスにとって有益だから、アプサラスは、不気味な結束力を持った部隊と見られているが、結局それは、友人同士で秘密基地で何やら企んで笑い合うような、無邪気な遊びに過ぎないのである。
途中参加の俺も、今ではすっかり馴染んだ。が、当初は困惑したものだ。世界を救えそうな力を持っている彼らがしていることが、只の『ヒーローごっこ』だなど。
「ヴェルグ! 無事だったか」
ナイトが俺の隣にしゃがみ込む。今日はアプサラス総出の大仕事だった。
「ああ。皆配置についたか」
「完了してる。ヴェルグは俺に付いて来い。守ってやる」
「そりゃどうも。だが生憎と、俺だって戦える」
俺の返事に苦笑し、ナイトは白剣を構えた。セラミック製の、骨まで切れる刃だ。
今日の任務は、第二外基地から程近い、ロボット達の休憩場―――充電施設などが在るトーチカの破壊だった。
俺は貴重な戦える科学者として、時折戦場で無茶をやらされる。鉛玉飛び交う中でハッキングをしたことも在った。その時、アプサラスの仲間達が、俺を守ってくれる。
ナイトは『アプサラスの狂犬』の異名を持つ戦士だ。凛とした外見に似合わず、結構えげつない戦い方をする。その弟ソレダーは性格としては真逆で、『忠犬』と呼ばれていた。
「分かった。じゃあフィリアに無線を繋げ。彼奴がツァールトの指示を伝える」
「ああ」
俺はヘッドホンに集中する。
『……どうやら無事、配置には付けたようだね。それじゃ、簡単に今回の作戦を説明するよ。トーチカの周囲一キロに君達は配置されている。東がメインのナイトとヴェルグだ。その反対、西側にはサロスと僕が陽動に居るよ。北東と南東には補助に、それぞれソレダーとアフティが居る。第二外基地にはフィリアとソリアだ。地図はもう頭に入ってるね』
俺は短く返事をした。ソシオの時計を確認すると、時刻は九時五十二分。
『作戦開始は十時だ。久々の大仕事……』
ツァールトがにやりとするのが見えた気がした。
『楽しんで行こう』
その言葉が終わると同時に、応、と皆の声が聞こえた。
大人になりかけの今、俺達はこの『ヒーローごっこ』を『レジスタンスとしての戦争』に置き換え始めている。
時間だけが静かに進む。誰も口を開かなかった。
この戦争が終わったら、などと言う妄言は誰も言わない。
戦争と日常を切り離すなど、俺達には最早不可能だったのだから。
ソシオを見る。九時五十九分。俺は銃を構え、時間が来るのを待った。緊張感は在るが、体は強張ってはいない。当然だ。何度も繰り返して超えてきた死線、今更気負いなどしない。
時間だ。
「おおおおおおおっ!」
俺とナイトは鬨の声を上げて走り出した。
異変が起きたのは、突撃開始から二分後だった。
北東からのソレダーの援護射撃は問題無い。陽動も上手く行っているのか、ロボット兵が分散しているのが分かった。だが南東―――俺やナイトと同じく、前線に立つのが得意な筈のアフティの姿が見えない。
彼奴は『番犬』と呼ばれる程、ツァールトに忠実な筈だ。ソシオが故障して時計が見れないとかそう言うのだろうか。だが爆音くらいは聞こえて居る筈だ。
「ちっ、アフティの野郎怖気づいたか!?」
ナイトが二刀流に持ち替えた。本気だ。俺はナイトに背を預け、走り出す。
彼奴が怖気づく筈が無い。彼奴は番犬と言う名の死神だ。ナイトに負けず劣らず強いし、先陣を切るのもいつもの事だ。
「くそっ!」
俺は銃と白剣を振ってトーチカまで辿り着いた。あとは鍵を壊して侵入するだけ―――
「……?」
鍵は開いていた。ロボット達にとっても重要な筈のトーチカなのに……
「っ!」
不意に背中が粟立つ。俺はドアから手を離して、壁に体を押し付けた。瞬間、ドアが爆音と共に吹っ飛んでゆく。
「……嘘であってくれよ、畜生……」
トーチカの中から現れたのは、アフティだった。女みたいに長い髪は、髪紐が切れたのか、下ろしてある。目は虚ろで、剣を握っている手からは血が滴っていた。
「アフティ! てめぇ何のつもりだ!」
俺はアフティを見上げて怒鳴る。ぐりん、とアフティは俺を見た。その目の色に、俺は戦慄する。
人間の目では無かった。アフティは無造作に俺に手を突き出す。そこには、血に塗れたナイフが握られていた。
「っ!」
俺は体を捻ってこれを回避し、銃撃を避けてトーチカに飛び込む。瞬間、鼻を強い血臭が突いた。
「うう……」
「……一般人……?」
トーチカの中には、武装もしていない男二人が蹲っていた。アフティが握るナイフの血は、彼らのものだろうか。
「くそっ! 何だよロボット共、話が違えじゃねぇか……」
男の片方が、俺とアフティを見てトーチカの中に在る機械を叩く。その顔には、はっきりと恐怖が浮かんでいた。
「……話が違う?」
その言葉に、俺はアフティの異変の理由を察する。
「てめぇら……アフティを売ったのか……っ!」
俺は向かってくるアフティの顎に蹴りを決める。幸い動きは単調だし、普段のアフティより数段鈍い。アフティはその程度で昏倒するような男ではないが、動きを封じるにはそれで十分だった。
俺は拘束弾をアフティに向かって打つ。空中で網が広がり、アフティを床に縫い付けた。俺はその銃を男達に向ける。
「答えろ。アフティに何をした」
「は……はあ? 何で俺達だよ、俺達は善良な」
「『善良な市民』は今此処に居ない」
俺は撃鉄を起こす。慌てたように男の片方、丸く肥えた男が両手を突き出した。
「わ、分かった、分かったって! 俺達はシェルターから脱出したんだよ!」
「脱出?」
「外でロボットに取り入れば……Xが助けて、生かしてくれるからよ……ロボットは人工の建物には入れないように設定されてるから、食料を外に置いて貰って……」
「代わりに仲間を売るか」
「レジスタンスを売れば一週間分になるんだよ! そいつには電子ドラッグを盛って、」
太った男が息を飲んで口を塞いだ。が、俺は聞き逃さない。
電子ドラッグ―――戦争が始まる前も問題にされていたものだ。傷口に粉状のそれを刷り込めば、血液にそれは混じり、脳に到達する。粉には超小型マイクロチップが含まれており、それが発する電波が脳を支配するのだ。時間が経てば血液と共に脳から離れるものの、その電波に侵された脳はなかなか元には戻らない。場合によっては複数回電子ドラッグを摂取しただけで、廃人となる可能性も在る。
「……電子ドラッグを盛って? 言えよ」
「だ……だから俺はやめようって言ったんだよ!」
男のもう片方、生白い顔の青年が、太った男の肩を掴む。
「シェルターから出ても何も良いこと無いって! Xに気付かれる前に戻ろうぜ!」
「だ、だけど……」
太った男は青年を振り返る。俺は苛立ち紛れに、二人の顔の間の壁に蹴りを入れた。
「……御託は良いんだよ愚図共。てめぇらアフティに何をした」
「だ、だから……電子ドラッグを盛って、ロボット達に差し出したんだよ。そしたら俺達と一緒に此処に連れてこられて……その……」
獣の咆哮のような声が、空気を切り裂いた。驚いて振り返れば、アフティが暴れている。
「チップみたいなの……耳から、入れられてた……ぜ」
アフティは目を血走らせ、力任せに縄を引き千切って立ち上がる。俺は拘束弾で二人の男を拘束し、アフティと向き直った。アフティは食いしばった歯の間から荒い息を吐き、自分の血に濡れた手でナイフを握っている。
「くそ、何で気付けなかったんだよ……」
『――――ヴェルグ』
「っ……ソリア!」
ヘッドホンから聞こえてきた声に、俺は歓喜する。
『状況は分かってるわ。今皆に伝えた。他の皆は無事よ』
「そっか、良かった……で、」
『結論から言うわ。拘束して』
「だろうな!」
アフティが俺に向かってナイフを突き出す。俺は体を捻り、アフティの伸びた腕を両手で掴んだ。アフティは左手を振りかぶり、俺に向かって振り下ろす。俺は渾身の力でアフティの腕を捻る。間一髪攻撃が逸れ、アフティは壁に激突した。
ゆらりと立ち上がるアフティの姿は、長い髪も相まって、恐ろしい。腕を軸に体を振り回されたのだから、筋の一つでも痛めていてもおかしくないのだが。
「流石電子ドラッグ……痛覚も遮断してあるか」
俺は攻め手を変える。正面化からでは、俺は体術だけじゃアフティには負ける。そもそも俺は小柄だし、アフティの鍛え抜かれた長身痩躯が繰り出す攻撃には耐え切れない。
「はっ!」
俺はポーチから取り出した小型ショットガンをアフティに向ける。勿論ロボットには効かない銃だ。だが人間相手になら、激痛と共に致死寸前の電気ショックを与えられる。
「がっ!?」
俺がショットガンを構えた瞬間には、アフティの手が俺の顔を掴んでいた。俺はその腕にショットガンを向け、感電を考えて暫時躊躇う。アフティの手が、俺の頭を軋ませた。
迷ってはいられない。俺は引き金を引いた。
バツンッ! と、何かが切れるような音がした。アフティは白目をむいて体を仰け反らせる。
「ァアアアアアアアアアッ!」
アフティが絶叫する。俺はアフティを突き飛ばして離れ、火傷のような跡が出来た腕を掴む。
『何よ、あんた何したの!?』
「ショットガンだよ、対人……」
『馬鹿っ!』
間髪入れずにソリアが怒鳴る。理由は分かっているから、俺は言い返さなかった。
『アフティが死んでも良いの!?』
「殺さずに此奴を捕まえられると思うのかよ」
『それは……ナイトとかと手を組めば、』
「ナイトは殺すぜ。分かってるだろう、俺が一番守れる戦い方をするんだって」
『…………そうね』
アフティが倒れ込む。全身が痙攣していて、口の端には泡が在った。
『生きていることを期待しましょう。どちらにしろ……制御チップが在るなら……きっと、永くは……無いわ』
「……ああ」
『全部壊して、ナイトと来て。ツァールト達はもうこちらに向かってるわ。そいつらもよろしくね』
俺は二人の男を見遣った。
アフティは本部、俺の研究室に運ばれた。保護した男二人は雑用に回されるらしい。アフティの怪我は火傷と切り傷、そして右腕の筋もやはり痛めていた。
寝かせたのは俺の仮眠用ベッドだ。病室に空きは無い。疲弊したレジスタンスに、余裕は無かった。
アフティの脳をスキャンするとやはり異物が映る。制御チップとやらだろう。
「ショットガンのせいで解析できなかったら怒るわよ」
「そうならないことを願うよ……手術の準備をするか」
俺は部屋の無菌装置を作動させた。
「うぅ……?」
「っ……アフティ! 目が覚めたか!」
「おえ……あ……に?」
「……アフティ?」
アフティは視線を落ち着きなく彷徨わせる。唇が細かく震え、顔色は青ざめていた。
「アフティ、大丈夫か? 俺が分かるか?」
「あ……」
アフティの目が俺を捕える。一瞬不安そうな色がその目に浮かんだが、安堵したように口元を緩ませると、涙を浮かべた。
「アフティ!? 何だよ、泣くな、大丈夫、俺は怪我してない……彼奴らも無事だし、何も被害は……」
「ぃあう……おえ、」
「ま、待てとにかく、チップを抜いてやるから! 回復するから! そしたら話を聞く、な?」
「うぅ……」
アフティは目を閉じる。険しい顔に似合わない涙が、顔を伝った。
俺とソリアは顔を見合わせて頷き合い、アフティを無菌室に押し込んだ。待機していた医者が、頷いてアフティを引き受けた。
扉が閉じる。俺は壁に寄りかかって床にしゃがみ込んだ。
「……アフティは死ぬわよ」
「ああ」
「ショットガンの刺激は、繊細な制御チップをぶち壊すには十分よ。ショックで、電子ドラッグで壊れた脳は再起不能になるかも、」
「五月蝿え、分かってるよ!」
俺は怒鳴ってソリアを睨み上げる。ソリアは言葉に詰まってそっぽを向いた。
「ごめんなさい」
「……悪い、もう休む……」
俺は研究室を出て仮眠室に向かう。疲労感はいつもより強かった。
向かいから、サロスとツァールトが走ってきた。
「ヴェルグ! アフティは、無事か!?」
「五月蝿いぜサロス……無事だよ、今は」
「本当に……?」
ツァールトは俺を見て、懇願するような顔になった。俺は苦い顔になる。
「あんまり……期待は出来ないけど……」
「……そうか」
ツァールトは俺の研究室に向かう。その背を、サロスが不安そうに見つめた。
「あんまり気ぃ張り過ぎんなって、言っておくよ」
「頼む」
サロスは俺の肩を軽く叩いてツァールトの後を追った。俺は俯いて足を速める。
仮眠室でベッドに倒れ込んでも、疲れて居る筈なのに、一向に眠気が襲ってこなかった。俺は白い天井を睨み付ける。
アフティが移動していたことに気付けなかったことも、あの二人とのやり取りをアフティが報告しなかったことも、本当に些細なミスに過ぎない。だが結果としてそれは、アフティと言う、強力な戦力を失うことになった。
それだけじゃない。アプサラスの少年戦士達の心は、絶妙なバランスで噛み合っている。全てを背負っているツァールトがもし、今回の事で崩れたら―――アプサラスは一気に崩壊する。
それを感じているから、サロスはツァールトを支える為に居るのだ。
俺は無理矢理に目を閉じ、思考を止める。そして、意識を暗黒に沈み込めた。
「アフティ!」
俺は、アフティが目を覚ましたと聞いてアフティの部屋に向かった。俺が部屋に入ると、狭い病室の窓からぼんやりと外を見ていたアフティは、ゆっくりと振り返る。アフティの長かった髪はすっかり剃り落され、頭に包帯を巻かれていた。
ベッドの横では椅子でツァールトがうたた寝をしていた。眉間には皺が寄っていて、茶色の艶が良かった髪もくすんでいた。明らかに、憔悴している。
「アフティ、大丈夫か……?」
「………………」
アフティは俺を見て、ふにゃりと微笑んだ。その様子からは、以前の、世界の全てを憎んだかのような様子は伺えない。
「アフティ……?」
俺がベッドに片膝を付いて座ると、アフティは両手を俺に伸ばす。俺が困惑しつつも体を寄せると、アフティは両手で俺を引き寄せた。
「……どうした、お前らしくも無い……」
「んっ……」
アフティは俺の肩に頭を乗せた。ツァールトが目を覚まして顔を上げる。
「ヴェルグ……」
「ツァールト、どうなってる? 何で、アフティがこんな……」
「……ソリアに聞いたよ。制御チップを君が焼いたって……そのせいで、少々、言語野とか、脳に異常が出たらしくて……どっちにしろ、電子ドラッグで脳は壊れていたんだってさ」
ツァールトがアフティの頭を撫でる。
「……ソリア曰く……もうすぐ……」
ツァールトは言葉に詰まった。アフティの頭には電極が付けられていて、脳波がベッドの横の計器に映されていた。それは微弱で、酷く不安定だ。
「……どうして、こんなことになってるのかは……それはソリアも分からないらしい……」
「……もしかしたら、」
俺は立ち上がって部屋の隅に走る。アフティは抵抗はしなかったが、代わりにツァールトに寄りかかった。ツァールトは悲痛な表情で俯く。
俺はパソコンを持ってアフティの前に置く。アフティは顔を上げた。
「アフティ……そこに居るんだろう?」
アフティは黙って俺を見上げる。その目はやはりぼんやりとしているが、何となく、俺には分かった。アフティは外に出せないだけで、そこに居る。
「言葉に出来なくても、何か言いたいから、笑っているんじゃないか」
「………………」
アフティの手が、パソコンのキーボードに触れた。俺はちらりと脳波計を見る。意識が在るのが不思議なくらいの波形だ。
アフティはゆっくりと文字を打ち込んだ。ツァールトと俺は黙ってそれを見守る。
『あたまいたい』『しぬんだろおれ』『わかてる』『ごめんなさい』
そこまで打ち込んだところで、アフティの手が震えだした。ツァールトは息を飲み、アフティの体を抱き寄せる。アフティは顔を顰め、キーを叩く。
『むだじにごめん』『だまされてごめん』『ほうこくしなくてごめん』
アフティが咳をする。ツァールトはアフティの背を撫でた。
『つぁるとひろてくれてうれしかた』『たのしかた』
アフティの脳波が弱くなる。ぐったりとしたアフティは、震える指でキーを叩き、そのまま目を閉じて動かなくなった。垂れ下がった手を持ち上げ、ツァールトは俯く。アフティの表情は、少しばかり安らかであった。
画面では、アフティの最後の言葉が光っていた。
飾らずにたった一言―――『ありがとう』と。
ツァールトは泣かない。俺も泣けなかった。ただ、甲高い電子音だけが絶えず響いている。俺は黙って、細い番犬の体を抱き寄せた。
「お疲れ……」
ツァールトが、薄い笑顔を見せて背を撫でる。俺は、重くなったその体をゆっくりとベッドに横たえ、拳を握った。
「……潰してやる……」
俺は呟く。
「どんな手を使ってでも……Xをぶっ潰してやる……!」
『前置きが長くなったな。今、俺はこのメールが君に届く確証も無くこれを書いている。しかしきっと君はこれを読んでくれるだろう。分からない、残念ながら俺には、それに確証を得るだけの余裕と時間が無い。だが読んでくれていると仮定する。このメールは仲間に見せて欲しい。彼らなら信じてくれる。俺はそう信じている』