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DOORs  作者: 日凪セツナ
3/18

第二章 「Ⅰ」 星暦3018/4/16

普通第二章は第一章の続きなのですが、今回の作品は一章の後にも先にも存在しない時系列となっています。

『拝啓 ヴェルグ・シュナイダー博士

 君がこれを読んでいるとき、俺は既に何らかの形で世界から消えているだろう。否、それは正確には正しくない。俺は確かにその世界に存在している、だが俺はこの世界から姿を消しているのだ。この世界の構造を知っている君なら、理解できるだろう』



 爆音が耳朶を打つ。耳栓をしていてもなお頭を震わせるその音に顔を顰め、俺はマシンガンを構えた。

「サロス! 敵が近い、手榴弾用意! 付いて来いよ!」

「無茶言うなってんだ! ヴェルグてめぇ、誰もがお前みたいなオールラウンダーじゃねぇんだよ!」

 サロスは俺に怒鳴り返し、腰につけていたポーチを外して投げ返してくる。

 俺は崩れかけた壁の陰から、土煙漂う向こう側を睨み、ポーチを開く。卵形の手榴弾のピンを口で引き抜き、それを放り投げた。

 爆音と爆風が去った直後、俺は銃を構えて壁の陰から飛び出す。サロスも立ち上がり、剣を構えて後を追ってきた。

 土煙が風で晴れた後には、白い体に青い大きな目が嵌められているロボット達が居た。

「……シュナイダー博士ー? どうすんのアレ勝てんの」

「知るかよ。博士って呼ぶな」

 俺は吐き捨て、引き金を引く。撃ち出された弾丸は空中で破裂し、無数の散弾がロボット達に襲い掛かる。

「行くぜ! アプサラスの根性見せたれ!」

「おう!」

 俺とサロスは、左腕の装置の画面をちらりと見、走り出す。装置の全体の形は、やたら大きなブレスレット、と言ったところだ。だが繋ぎ目は複雑な金具でロックされており、長方形の画面と数字のボタン、その他幾つかのボタンが付いていた。これはレジスタンスとして俺が開発した、レーダーが内蔵された補助機械『ソシオ』だ。画面には、二つの青い点と、大量の赤い点が映っている。

「おいおい、冗談きついぜソシオぉ」

「機械に文句を言うな」

 俺は一気にロボット達との距離を詰め、マシンガンを振りながら銃弾を撒き散らす。ロボット達も銃弾を返してくるが、サロスが展開した盾がそれを弾いた。

「今日の任務は? 第二外基地を取り戻すことか」

「ああ。ヴェルグ、お前本当に基地のコンピュータ復活させられるんだろうな」

「当然だ」

 俺はブーツの踝部分に取り付けられたリングを引っ張る。内蔵されたエンジンが起動し、両脇の吸入孔から空気を吸い込むと、踵の蒸気孔から噴き出した。

 ドフッ、と、俺の体が前に飛び出す。靴の裏にも蒸気孔が在り、俺の体は僅かに浮いた。

 俺は一瞬でロボットの寸前に移動し、加速された蹴りがロボットの首を吹き飛ばす。サロスも同じブーツで移動し、剣を振るった。

 俺達は竜巻の如くロボットを蹴散らしながら進んでゆく。当然無傷では済まず、ロボットの大軍を抜けて灰色の砦に向かう俺達は、文字通りの血風を纏っていた。

 だが、痛みは在っても不快感は無い。俺達は僅かに視線を交わし、笑った。ロボットを蹴散らして砦に向かう今、俺達を包んでいるのは、爽快感だった。

 サロスが、内側から鍵の掛かっている砦に駆け寄り、扉を蹴飛ばす。俺はサロスを先に行かせ、ロボット達に手榴弾を投げて遠ざけた。そして、床に崩れ落ちた扉を持ち上げて入り口を塞ぐ。

 砦の中は、空気が澱んでおり、埃と黴の匂いが漂っていた。俺は口元を布で覆い、足音を殺してサロスを追う。

 サロスは先に、硬い鉄の扉に駆け寄り、カードを扉横の機械に通した。扉が開き、ぶわっ、と腐臭が噴き出してくる。

「流石に……酷いな」

 サロスが苦々しく呟く。ロボット達に囲まれ、退路を断たれたからだろう、部屋の中には、死んでいる、レジスタンス達の腕章を付けた男達が居た。

恐るべきは、彼らの体格だ。もし籠城戦となっていたならば、彼らは痩せこけ、ミイラ化していただろう。だが、彼らは、まだ十分生きられそうな姿であった。

 殺し合ったのだろう。

 窮地に追い込まれ、食料は減り、外を見れば常に敵に囲まれている―――そんな極限状況下で、正気を保てと言う方が無茶と言うものだ。

人は容易く、捕食者から被食者へ変わる。そして、一人生き残ったとして―――孤独と恐怖と、自分の行ったことに対する自責の念が、たった一本のナイフを、唯一の救いに見せる。

サロスと俺は、遺体を前に、暫時、黙祷する。そしてすぐに作業に取り掛かった。

今日のミッションは、第二外基地に在る転送装置を回復させることだ。この装置が在れば、シェルター内からすぐに此処まで飛べる。Xに近付くのも大分容易になるだろう。

コンピュータは辛うじて生きてるようだ。俺は電子回路を復活させ、破損部分を確認する。サロスは遺体を部屋の端に移動させ、ポーチから取り出した冷凍スプレーを吹き付けた。シェルター内に遺体を持ち帰る余裕は無い、腕章と遺髪だけを貰っていくことにしよう。

俺は机の下に潜り込み、コードを引き抜いて繋ぎ直す。サロスはソシオを起動させ、アプサラスの本部に無線を繋いだ。

俺は作業をしながら、無線を聞く。

「おう、俺だ、サロスだ。無事第二外基地に到着した。ツァールトは?」

『ええと、ソレダーだ。ツァールトさんは、今本部に向かってる。報告は僕が受けるよ』

「本部?」

『うん、出向』

「「出向!?」」

 俺とサロスの声が重なった。無線の向こうでソレダーが驚いたような声を出す。

『ナイト兄さんがまたやっちゃってさ……アプサラスを捨て置けなくなったみたいなんだ、本部も。それに、兄さんもツァールトさんももう二十歳超えたし、少年部隊から中央部隊に移動させられるかも……』

「……そうか」

 サロスは報告もせずに無線を切った。そして暫し呆然として、俺を見てくる。

「……何か知恵ねぇ? ツァールト居なくなったら、アプサラス潰れるぜ……」

「ちょっと待て」

 俺は繋ぎ直したコードを確認し、コンピュータを再起動した。転送装置に電気が走り、起動音が聞こえてきた。

「よし」

 俺は転送装置のカプセルを開き、中に溜まっていた埃を掃き出す。サロスは目的を思い出したのか、また無線を繋ぎ直していた。

「サロス。通れるぞ……一応一度、何かを転送して実験した方が良いが……理論上は問題なく使える」

「あ、そう。じゃ行こうぜ」

「………………」

 サロスはずかずかとカプセルに入っていく。

「……なぁサロス」

「本部に行こうぜ、ツァールトに直接報告した方が良いだろ」

「話を聞くことを覚えろよな」

「理論上良いんだろ? お前が言ってんだから良いんだよ」

 サロスのあっさりとした言葉に、俺は思わず笑った。

「そこまで信用されるとな……」

「良いから。行こうぜ、ツァールトんところに」

「はいはい」

 俺は起動ボタンを押してカプセルに入り、ドアを内側から閉じた。



 落下する感覚に、吐き気を覚える。

「おわっ」「うをっ!」

 俺とサロスは重なり合って、真新しいカプセルの中に出現した。外から、驚いたような声が聞こえる。

「痛た……成功したみたいだな」

「さっすがシュナイダー博士!」

「だから博士って呼ぶな、離れてくれよ暑いな!」

 俺はサロスの頭を押しやる。ロックが外れ、サロスはカプセルから床の上に放り出された。俺はげんなりした顔でカプセルの中で脱力する。

「うわわ、人!? いきなり人が!」

 白衣の男達が、俺達を指差して狼狽したように言う。俺はカプセルから出て、顔面を床に強打したらしいサロスの襟を掴んで起き上がらせた。

「此処は? 本部か」

「え? あ、戦士がどうして、」

「質問に答えてくれよな、此処は本部の何処だ」

「ええと、研究室です、ソリア博士の」

「ソリア?」

 彼奴の部屋なら良かった、面倒が少ない。

 扉を開けて、例のソリア博士が現れた。戦場からそのまま現れた状態の俺達を見て、ソリアは露骨に呆れ顔になる。

「何? 今日は第二外基地を取り戻せとか言う無理ゲーに挑んでたんじゃないの?」

「クリアしたよ、転送装置を復活させたんだ」

「ああそう。それで? 何しに本部に来たの」

「転送装置は本部にしか無いだろうよ」

 俺は苦い顔で言い返す。この女、もうちょっと可愛らしさと言うものを知った方が良いんじゃないか。

「ちなみにリーダーなら大会議室よ。貴方達が大暴れするから出向させられたの」

「そうか」

 俺はサロスを引き摺って部屋を出る。

 本部の綺麗な設備に、土埃だの何だので汚れた俺達は非常に不似合いだ。が、まあ今は気にしていられない。

「起きろ、サロス。ツァールト探すぞ」

「ふあっ!?」

 サロスははっとして目を開いた。俺は苦笑して「鼻血拭け」と言う。サロスは鼻を袖で擦り、立ち上がった。

「何々、ツァールト?」

「大会議室だそうだ」

「そっか」

 俺達は会議室に向かう。別に踏み込むつもりは無いし、ツァールトの迷惑になるようなことはしない。

「待ってようか」

「ああ」

 会議室の扉の前で、俺達は床に座った。

 どっと、疲労が全身にのしかかってくる。流石に、今回の任務は死ぬかと思った。Xによる侵攻が始まって五年、既に人類は絶滅寸前と言っても過言ではない状況に追い込まれている。数年前までは一大勢力であったレジスタンスは、Xと対抗する希望だと言われていたが、今ではその力も随分と衰えている。

 それでも、レジスタンスにはまだ最後の剣が残っている。それが、ツァールト率いる、第十七支部、少年部隊『アプサラス』だ。圧倒的戦闘力を誇るナイトに始まり、レジスタンス内でも屈指の実力者七人と、科学者のソリアから構成されている。

 正確には、最年長のツァールトは二十一歳になっており、少年部隊、というのは少々語弊があるが―――その結束力は、時にレジスタンス本部を―――中央政府に迎合してアプサラスを飼いならそうとする者達を―――脅かすほどである。

 俺は四年前にアプサラスに拾われた。彼らには、返しきれない恩が在る。

 こて、とサロスが俺に頭をよりかけた。

「………………」

疲れが溜まっているらしく、サロスは俺に寄りかかって寝息を立て始めた。廊下で寝入るサロスを、廊下を通る人々は怪訝そうな顔で見たが、俺達が戦場帰りだと分かると、数人が食料や水をくれた。

 ありがたくそれを受け取って、俺はポーチを開く。そして、コードレスヘッドホンを取り出して装着した。

 アプサラスの皆に配っている、俺の最新作だ。無線が使用できなくても相手の状況が分かるよう、アプサラス全員の戦闘服の襟に盗聴器を、ヘッドホンに受信機を仕込んである。戦場で耳栓としてヘッドホンをつけるのはよくあることだ、これなら無駄が無いし、目立たない。俺はツァールトの盗聴器にチャンネルを合わせた。

 ノイズが僅かに在ったが、すぐに明瞭になった声が聞こえてきた。

『……な支部『アプサラス』、代表ツァールト。何故本日出向させられたかは分かるだろう』

『ナイトのことですね』

 ツァールトの、いつもの微笑が見えるようだった。俺は水で口を湿らせてから携帯食料を食べる。甘ったるいチョコレートの味がした。

『そうだ。あの男はお前には従うが、どうにも危険だ。先日もたった一人で百のロボット部隊を壊滅させただろう』

『喜ばしいことではないですか。レジスタンスはXを倒す為に存在しているんですから』

『だが、中央政府は今、Xとの和平交渉の道を模索している。その為には、ああいった危険因子は出来る限り減らしておきたく、』

『危険因子?』

 突然のツァールトの気迫に、俺は思わず携帯食料を喉に詰まらせた。不味い、息が苦しい……痛い不味い水水水水!

「ぷはっ、」

 ツァールトはいつもにこにこしている分、怒ると怖い。腕っぷしもああ見えて立つから、そのギャップに驚く奴も多いだろう。

『お言葉ですが。彼は人類の希望ですよ。Xに対抗し得る力を持っているのです。数で圧倒的に劣っている以上、我々人類は、技を磨かなくてはいけません』

『その技が、和平には邪魔なのだ』

『和平を受け入れるなど、誰も言っておりません』

 ツァールトは鋭く言い返す。

『大体、レジスタンスはXへの対抗勢力の筈。Xに迎合する者、裏切り者は極刑。これが常識であり、掟の筈です』

『その掟の下で我々は何を得た』

『っ……それは、』

『Xとの戦いが始まって五年、一向に、Xの正体も勝利の糸口も見えないではないか。いつまでこのシェルターに閉じこもっていられる? 妥協せずに生き延びられると思うのか』

『生き延びることが重要ですか? Xの奴隷として飼い殺される可能性は十分に在ります、それを生きていると、あなた方は呼べるのですか?』

 ツァールトも苛立っているのが分かった。当然だろう。レジスタンスはXは人類の敵であり倒すべき相手、が基本なのだから。

 それなのに、そのレジスタンスの本部が、中央政府と共にXの脅威に屈しようとしている。中央政府は元から余り好きではないが、和平交渉をしたいとは、流石に俺も失望した。

 無理だろうに。

『黙れツァールト。ならば、ナイトがXを倒せるとでも言うのか。レジスタンスが解体となったら、お前達アプサラスはどうする?』

『独立してレジスタンスを続けます』

「ぶっは!」

 いつの間にか起きて、サロスが俺のヘッドホンから盗み聞きしていた。ツァールトの言葉に笑いを堪え切れなかったらしく、口を掴んで震えている。

「すっげ……ツァールト……大胆っ……」

「静かにしてくれ」

『もしアプサラスの皆が同意してくれるのでしたら、僕はその覚悟が在ります』

『図に乗るなよ、狂犬を飼い慣らしたくらいで』

『図に乗らないでくださいよ、狂犬を飼い慣らした男を雑魚みたいに呼び出せたくらいで』

 ツァールトの得意技とも言える返し方だ。相手の神経を逆撫でする天才かも知れない、彼奴は。

『貴様……』

『話が以上なようでしたら、失礼いたします。そろそろ、サロスとヴェルグが帰って来るでしょうから。報告を受けなくては』

 足音がして、会議室の扉が開く。現れたツァールトは、俺達を見て一瞬驚いたような顔になったが、すぐに得心がいったように頷き、呆れたように微笑んだ。

「飛んできたのか」

「ああ。出向と聞いて」

「全く、君達は」

 ツァールトは苦笑して、扉を閉め、首元から布を引き抜いて俺達に近付いた。

「怪我の治療くらい、先にやりなさい」

「悪い悪い、気になってさ」

「どうせ盗み聞きしてたんだろうに」

 ツァールトはサロスの腕に、水を含ませた布を押し当てる。サロスは痛みに顔を顰め、それでも、いつもと変わらないツァールトの様子に嬉しそうな顔になった。

「それで? 第二外基地の様子は」

「全滅だ。一応転送装置を復活させてきたから、遺体はこれから運ぼう」

 俺の報告に、ツァールトは満足そうに頷く。

「十分だ。取り返したんだろう、基地は」

「ああ」

「ご苦労様。たった二人でよくやった」

 ツァールトはにっこりと微笑み、俺とサロスの頭を撫でた。俺達は顔を見合わせる。

「ツァールト……俺はもう十九歳だぜ?」

「そうだね」

「……ガキじゃな」

「そういうところが、子供だよ」

 サロスは出鼻を挫かれて口を噤む。ツァールトには敵わないな、と俺は苦笑した。

「十八歳と十九歳になっても、君達は僕の弟だ……さ、帰ろっか。皆待ってるだろうしね」

 ツァールトはそして、俺達に肩を貸して立ち上がった。



 俺は研究室に入り、無造作に白衣を羽織る。机の上は相変わらずきちんと整理されていて、塵一つ無かった。俺は奥に在る冷蔵庫に近寄り、壁に掛けてあるフライパンを取りながら開く。そして卵と冷凍の米、ごま油、食べかけの野菜炒めを取り出した。

 野菜炒めを微塵切りにし、米を解凍しながらフライパンにごま油をひいて加熱。野菜炒めと米を纏めて炒めて、塩胡椒、最後に溶き卵を投入。

「っし、手抜き炒飯、かんせー」

「なぁああにを人の部屋で作っとんじゃ――――!」

 跳び蹴りが予想通りの方向から予想外の鋭さで来た。俺は横に吹っ飛びながら、全力でフライパンを掲げ、炒飯を守る。

 俺は冷蔵庫に顔面強打した。もう痛いなんて生易しいものじゃない。熱い。だが威力の割に被害は少ないのではなかろうか。壁からは何も落ちていないし、炒飯も無事だ。

「ヴェルグあんたねぇ……他人の部屋で勝手に炒飯作る馬鹿居るか!」

「此処に居る」

「黙れこの野郎!」

「ちょっ、ま、蹴りは待って蹴りは! 炒飯は守った! 守ったよ、貴重な食料!?」

「それは私の夜食だったんだぁああ!」

「お前の分在るから!」

 俺はフライパンを掲げた。茶色いブーツのヒールを俺に向けていたソリアは、暫時フライパンを睨み、やっと足を引いた。俺は息を吐いて立ち上がり、二枚皿を用意して炒飯を盛り付ける。ソリアは二つの椅子を引き摺ってきた。

「はいどーぞ」

「仕方無いな……ヴェルグの料理に罪は無いからね」

 ソリアは炒飯を食べ始める。アプサラスで鍛えられて良かった、と、改めて思った。

「で? 何の用よ」

「つれねぇなあ、腹を割って話したくて、こうして料理まで作って待ってたわけじゃん?」

 俺はソリアの向かいに座って炒飯を食べ始める。

「五月蝿いチャラ男」

「…………うん」

 俺はもう笑うしかない。ソリアもアプサラスの一員で俺と同い年だから、もう少し心を開いて欲しい所なのだが。

 ソリアは所謂天才科学者だ。俺が案ばかりで形に出来ない装置を完成させた。転送装置や、ソシオも原案は俺だが、作ったのはソリアだ。ソリアは俺を勝手にライバル視しているらしく、俺の相談には余り乗ってくれない。俺のアイディアはガンガン実現してくれるから、感謝はしているんだけども。

「まあ、美味しいから話くらいは聞いてあげるけど、相談する訳じゃ無いからね」

「どーも……Xの事なんだが」

 機嫌を損ねない内に、俺は本題に入る。どうでも良いが、炒飯で釣れる十八歳の女ってのもどうかと思うぞ、ソリア。

「X? あれは正体不明の、世界中のロボットを操ることが出来かつ人間を非常に憎んでいる何者か、という結論がこの前出たじゃないの」

「その仮説が覆されるとしたら?」

「……何を見付けて来たの」

 ソリアはスプーンを置いて俺を見る。俺は懐から、第二外基地で撮影した写真の現像を取り出した。

「第二外基地内部の様子だ。遺体とか惨劇の部分は一応避けて在る」

「無駄なお気遣いどうも。何を見て欲しいの」

「破損状況」

 俺は炒飯の最後の一口を掻き込んで水を飲む。ソリアは怪訝そうな顔をして写真を捲った。そして何かに気付いたのか、僅かに眉根を寄せる。

「……攻撃跡が無いわね」

「そう。ロボット達なら突入できただろうに、その跡すら無い」

「……シェルターだって、ロボット達ならいつでも攻め落とせるわよね」

 ソリアは水で口を湿らせる。俺は頷いた。

「だから……何処かに思い通りにならない『何か』を感じる」

「ふーん?」

 ソリアは空になった皿を流し台に置く。そして本棚に向かい、硝子戸を開いた。

「じゃあ、調べてみましょうか」

「え?」

「興味在るわ。人類を此処まで追い詰めたXですら思い通りに出来ない、『何か』」

 ソリアが取り出したのは、古びた本だった。それを、隣の作業机に無造作に置く。本のタイトルは『総合情報処理機械の歴史と変遷』だ。

「それが例えば『人間の命令』だったら―――笑えるわよね」

 そして、ソリアは口の片端を上げた。



『君はきっと俺のことを覚えていると期待する。だがその期待を裏切っても自分を責めないで欲しい。このメールは、その場合の為、として書いている。全ての事象は俺の責任だ。君は記憶を失ってもその世界でもきっと戦っているだろう。どのような形であれ。それは誇るべきことであり、恥じるべきことは全て俺が原因なのだから。』

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