第十五章 「?」 星歴2920/8/13
青年は椅子を蹴って立ち上がった。突然の行動に、会議室に集っていた面々がざわつく。青年はずれた眼鏡の奥の目を瞬かせた。短く切り揃えられた髪は茶色で、顔は青白く、憔悴している。
会議室には、青年の他、多くの白衣の男達が集まっていた。柔らかな絨毯の上に、長机と椅子が等間隔で並んでいる。壁の一面はガラス張りで、夕焼けの光が差し込んでいた。青年は一同の注目の視線に、恐る恐る、と言った様子で呟く。
「……成功か?」
「どうしました、博士」
青年は、隣の秘書の怪訝そうな視線に、口元を笑みの形に歪める。
「今は何時だ?」
「え?」
「今は何時で、何年の何月何日だ!?」
青年が怒鳴る。秘書は肩を竦めた。
「せ、星歴二千九百二十年、八月十三日、午後五時二十三分ですが?」
「よし」
青年は頭に手を遣り、会議室の出口に向かう。数人の、学者らしき男達が立ちはだかった。
「待て博士、寝惚けているのか知らないが、今は重要な会議中、」
「済まないが時間が無い。お前達の博士を借りてゆく」
青年は左右の男達の腕を掴み、歩みを止めずに二人を床に転ばせる。驚く人々をよそに、青年は扉を開いて走り出した。
「何分だ、何分持つ……?」
青年―――シュナは足を速めた。タイムマシンの性格上、多少Xのメインルームから遠ざかっている可能性も考えられる。事実此処は、夕日の光が差し込む地上だ。
だが、シュナにとっては全て既視感の在る光景だった。そうだ、自分は一度此処に来ている。否、来た時の記憶を多少持っている。
「……頭こんがらがりそうだぜ、原初は何処なんだか」
シュナは苦い顔で周囲を見遣る。未来の自分の、記憶の断片を基に自分が自分を演じ、その自分の記憶を基に次の自分が――――と、ともすれば永久にループが続きそうである。シュナは思考を止め、昇降機に駆け寄った。そして地下への昇降機が来る間、ガラスに映っている自分の姿を確認する。数十メートル走っただけで既に息は上がっていた。
「何これ、え、昔の科学者って、こんな、ヒョロッこかったのか?」
シュナは壁に手を当てて息を整える。
「やっべ、全然、息、整わねぇ、くそ、もやしのほうがまだ役立ちそうじゃねぇか」
シュナは落ちて来た眼鏡を苛々と持ち上げ、来た昇降機に乗り込む。急速に降下していく昇降機の中で、シュナは壁に寄りかかって天井を仰いだ。
「……お」
シュナは眼鏡を支えながら、胸ポケットに入っていたルーズリーフを取り出す。中には汚い字で、パスワードなどが書いて在った。
「ナイス……此処に来て運が良い」
シュナは、メインルームに通じる昇降機のパスワードと、メインルームのコンピュータを起動するパスワードを記憶する。受け取った記憶に在るパスワードとは、やはり違った。変えたのは自分だろう。メールに添付されていた記憶は、やはり時間が経っている分抜けている部分が在る。それを補完しながら、シュナは進む必要が在った。
昇降機が止まり、数人のスーツ姿の男が入って来る。シュナは目を瞬かせ、姿勢を正して壁に寄った。
「おや? クライヴ博士では在りませんか。今は会議では?」
「へっ!? あ、いえ、少し野暮用で」
シュナは小さく笑う。
「そうですか。いやぁ、クライヴ博士の作ったプログラムは素晴らしい! このスーパーコンピュータが、遂に人の手を離れるようになるのですから」
男の一人が言った。シュナはその言葉に、視線を鋭くする。
「もう作られて四百年でしょう。彼方此方劣化している可能性も考えられますね」
シュナはルーズリーフを握って呟いた。
「まさか。先祖は素晴らしいものを残してくれましたよ。このコンピュータ……『水辺の戦女神』さえあれば、人類は安泰です」
男は太った体を揺らす。
「………………」
シュナは壁に背を押し付けた。そして暫時、怒鳴りそうになった自分を押し殺して俯く。
アプサラス。その名は神話の、水辺の精霊で、戦女神に近い役割を担っていたものから取ったのだとは知っていた。だが―――憎み、倒すべき敵が、同じ名を冠しているとは。
男達が降り、シュナは一人昇降機に残された。止まった昇降機から降りると、シュナは視線を鋭くし、無表情で足を進める。
「……関係ねぇ、」
シュナは苦々しく呟いた。
「だが……ふざけるなよ、」
シュナは次の昇降機―――Xのメインルームに通じているそれに向かって走る。頭の奥に、針が刺さったような違和感が生まれていた。タイムリミットは近い。
シュナは息も絶え絶えになって昇降機に乗り込む。
「……クライヴ博士、もうちょっと鍛えてくれない……?」
我儘だとは分かっているが、シュナは久方振りに感じる強烈な疲労に、呆れ混じりに呟く。昇降機が動き出し、シュナを地下へと運んで行った。
シュナは胸元の服を掴む。心臓部が嫌に脈打ち、緊張で口が渇いて来た。
「あと……何分だ……?」
あまり時間は無いだろう。シュナは昇降機が止まるのを待ちながら、やらなければいけないことを列挙する。
「記憶処理装置……メール……それと、Xのシャットダウン設定……と、」
シュナは止まった昇降機から出た。見覚えの在る、天井も床も壁も遠い部屋だ。シュナは額に浮いて来た汗を拭い、壁に寄りかかった。
「メインルーム……行かなきゃ……」
シュナは一本道の廊下を進む。数人の作業員らしき人々が、怪訝そうにシュナを振り返った。シュナは姿勢を正し、何気ない風を装って足を進めた。クライヴ博士、というのは顔が利くのか、皆が親しげに声を掛けてくる。シュナは控えめな笑顔を返し、メインルームに急いだ。頭の奥の違和感は増してきている。
メインルームのパスワードを解除、シュナは操作基盤前の椅子に座った。
「ふぅ……さて、」
改めて、シュナは指を鳴らし、キーボードに目を向けた。
喉の奥に、吐き気にも似た不快感が在る。額には脂汗が滲み、視界は歪んでいた。
「設定、完了……百年後に、Xは自動シャットダウン……」
そこでシュナはふと自問する。
百年後で良いのか。今此処でXを止め、自分以外が入れないようにしてしまえば――ルートが変わり、ドアの移動が起こって未来は変わる。そうすれば、Xに頼ることは出来ずとも、戦争が起こらない未来が在るのではないか――――
だが――――戦争が起きない未来は、自分が、アプサラスの皆と出会えない未来である。ともすれば自分は行き場を失って此処で消滅するだろう。そしてそれは、
「クライヴ博士! 開けてください、何をしているのですか!」
人類が、Xの脅威を―――自分達の咎を知らない未来でもある。
半透明の壁を叩き、スーツの男が怒鳴る。シュナは構わず作業を続けた。ヘッドホンに新しい金具を付け、記憶を読み込むプログラムをインストールする。シュナはヘッドホンを付け、メールの文面を打ち込んだ。そして自分の記憶をファイルとしてメールに添付し、コンピュータをインターネットに接続する。
同時に、メインルームのセキュリティシステムを開示。そこに新規のパスワードを打ち込んだ。シャットダウンの設定やメールが、後から書き換えられないように、この部屋を隔離するつもりだ。
ガンッ、と音がして、照明が消えた。シュナの居るメインルームは予備電源に切り替わる。シュナは薄暗い中、コンピュータの明かりを頼りに作業を続けた。
「うわっ!? 何か引っかかった、やべ、眼鏡何処行った眼鏡眼鏡!」
「クライヴ博士、いい加減にしてください! 予備の電源は長くは持ちません、早く出なければ閉じ込められ、永久に出られませんよ」
脅しのつもりだろうか。シュナは発見した眼鏡を掛けて鼻を鳴らした。
「正規の電源を入れればメインルームも動き出す。Xを長くは止めて居られないだろう。無駄だ」
「クライヴ博士! 貴方なら分かっているでしょう、許可無くメインルームに入ることは禁じられているのです!」
「そうか」
シュナは、耳鳴りと頭痛に顔を顰め、頭を振る。
「……そろそろ限界か……帰れるかな」
シュナは時計を見遣る。最後に在った時計の記憶と一致した―――五時五十九分だ。
「上出来」
シュナは青いヘッドホンを外し、机の上に置く。それから、淡い光を発するコンピュータの画面に向き直った。そして改めて、深い息を吐き、これで良いのだ、と呟く。
人類が衰退した原因がこのXの万能性なら、それを止めてもどうにかして再起動させるだろう。ならば―――Xを切り捨てられるようにならなければいけないのだ。
「……これで、最後だ……」
シュナは口元に、疲れたような笑みを見せる。自分が出た後、メインルームが封鎖される為の設定を、確定にする。
「やっと……」
そしてシュナの指が、エンターキーを押した。
『 メールを送信しています
■■■■■■■■■送信中□□□□□□□□□□
送信しました 』
シュナは安堵の息を吐き、椅子に座る。これで全て、やるべきことは完了した。
自分達の望む未来の為に、何も無かったことには出来ない。ヴェルグ・シュナイダーがタイムトラベルし、死に、アオとして二度目のトラベルをして、シュナを此処に送り込み、未来に全てを伝えるメールを送る。|その全てが在るからこそ、この瞬間が在るのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。
「……頑張れよ……」
百年後の自分にそう言い残し――――シュナは、床に崩れ落ちた。
気絶したクライヴ博士を、数人の男達が引き摺り出す。クライヴ博士の足がメインルームから出た瞬間、半透明の壁が閉まり、ロック音がする。しかし男達は、特に気にせずクライヴ博士を連れて行った。
「なぁ、クライヴ博士、どうしたんだ?」
「さぁな。元々妙な人だろう。アプサラス、という名前を提案したのもこの人と聞いている」
「何かメールを送っていたようだが……インターネット回線なんかに放って、妙だな」
「まあ、目を覚ました後に聞けばいいだろう」
男達が去った後、Xは再起動された。リフトに乗った作業員達が点検を再開する。壁に様々な色の光が走り、柔らかな女の声が流れ出した。
『あぷさらすハ正常二再起動シマシタ。東部紛争地域ヘノろぼっと兵派遣ヲ続ケマス』
その声に、作業員達の表情が僅かに安らぐ。
「癒されるな、相変わらず」
「ああ。全知全能のアプサラスさえ在れば、人類は安泰だ」
作業員達の声に応えるように、Xの―――アプサラスの回路の輝きは増し、声は高々と続けた。
『えねるぎー循環ハ順調デス。えねるぎー消費量ガ増加シ続ケテイマスノデ、更ニ発電衛星ヲ増ヤス事ヲオ勧メイタシマス』
『しぇるたーノ開発ハ順調デスガ強度ニ問題ガ在リマス』
『ろぼっと兵ヲ増加シマス』
作業員達は僅かに笑みを浮かべながら、黙々とアプサラスの点検を続ける。
シュナは深い闇の中に落ちて行くのを感じた。もがいても手応えは一向に無く、嫌に覚えの在る浮遊感だけがシュナを包む。タイムトラベル時に感じる、空間の狭間に落ちる感覚だ。
闇の中に、幾つかのドアが浮かんでいた。シュナを囲むように漂うそれらは、形は殆ど同じだが、ドアの上部には『Ⅰ』『Ⅱ』『Ⅲ』と刻まれた円状のプレートが在り、焦げ茶色のドアの装飾が、それぞれ微妙に異なっていた。
「……ドア……」
シュナは『Ⅰ』のドアに手を掛ける。が、開こうにもそのドアは固く閉ざされている。周囲を見回しても開いているドアは無い。
「……『開けるドアは一つだけ』……か」
シュナは呟き、『Ⅰ』から手を放す。それから暫時俯いて目を閉じ――――
開いた時には、シュナの視界は大きくその姿を変えていた。
三つしかなかったドアは無数に増え、シュナの周囲だけでなく、前後左右上下、あらゆる場所に存在してる。それぞれのドアには、三つのものと同様に、『Ⅳ』『Ⅸ』『Ⅹ』など、様々な数字が表示されていた。
シュナは、その不思議な光景に暫時見惚れた。それから改めて、眼前に佇む三つのドアを見遣る。
このドアも、只の一つの可能性に過ぎないのだ。ルートを変えるごとに開くドアが変わる。それだけで、他のドアが全く存在しない訳では無い。
「俺達は、無数の可能性から一つしか選べないんだな」
そう口にして、ふとシュナは、それが酷く使い古された言葉であることに気付く。
「……うん」
シュナは微笑み、『Ⅲ』のドアへと近付いた。
「俺が選んだのはお前だよ」
シュナが言い――――『Ⅲ』のドアが、開け放たれた。光が筋のように飛び出し、周囲を照らしてゆく。シュナはそのまばゆさに目を細めた。
「……あはっ」
シュナは笑った。長く悩み、苦しみ抜いた末に選んだ道はやはり、希望も見えないような世界らしい。
だが。
「ただいま」
シュナはゆっくりと、そのドアに入って行った。
目が覚めて最初に見えたには、白いものだった。
「……ん?」
シュナは目元に手を遣る。濡れた布の感触が在った。シュナは体を起こし、目を瞬かせる。頭痛と眩暈は在るが、意識ははっきりとしてきていた。シュナの隣にしゃがんでいたサロスが、心配したような顔で額の布を押さえてくる。
「シュナ、起きたか……大丈夫か?」
「……サロス? 今……何年、何月何日?」
「星暦三千二十年、八月の十三日だ。お前が意識を失って、一時間くらいだよ」
「……誤差は一時間か……」
シュナは、自分の背後を見遣る。固く閉ざされたメインルームの半透明の壁が在った。壁の一部には、切ったような傷や焦げた跡が在る。壁の前に、大量の薬莢に囲まれて座り込むアフティとナイトが居る。アフティが長髪を掻き揚げた。
「おう、シュナ、起きたか……どうだ、全部解決できたのか」
「ああ。終わるよ」
シュナは壁に寄りかかり、高い天井を見上げる。
「……アプサラスが終わる時だ」
シュナが言った直後、Xの中の光が、急速に消えて行く。
「……これは……」
シュナの体を支え、ツァールトも天井を見上げる。シュナは小さく微笑んだ。
「……僕は、詳しいことは分からないけど」
「?」
「僕達の役割は終わり、で良いのかな?」
シュナの言葉に、ツァールトが言う。シュナは小さく頭を振った。
「戦うアプサラスは終わりだ。これからは、復興の為に頑張らないと」
シュナはそして、ゆっくりと立ち上がる。
「……Xを、破壊しなくちゃ、な」
シュナはメインルームを振り返り、壁際の小さな扉を開いてパスワードを入力する。メインルームの前の壁は、左右に分かれるようにして開いた。シュナは操作基盤に近付く。
「……全部破壊して、帰ろう」
シュナは笑い、ツァールトとサロスを振り返った。
「全部終わらせて、帰ろうぜ」
「……そうだな」
サロスは拳銃を構えた。シュナも銃を構え、耳栓を詰める。ツァールトも、ライフルのマガジンを付け直した。
まず平手打ちを見舞われた。シュナはきょとんとした様子で、ぶたれた頬を押さえる。
場所は第二外基地だ。待機していたフィリアとソレダー、駆けつけたソリア、そしてXから引き揚げて来た五人が揃っていた。
「前々から、言っては居たと思うけど……、詰めが甘いのよ貴方は! アオも貴方も結局苦労している原因はそれじゃないの!?」
「痛い痛い痛い! 髪引っ張らないでくれよソリア!」
「そのくせさっさと全部一人で背負い込んで!」
「分かった、分かったから! ちょっと落ち着いて……って、ええ!?」
ソリアは平手を振り上げ―――突然、ぼろぼろと涙を零した。
「最低……ホント、無茶ばっかり……」
ソリアは俯いて拳を握る。ツァールトは苦笑してソリアの頭を撫でた。シュナは困惑顔のまま、子供のように泣き出すソリアを見上げる。
「ずっと気、張ってたんだろう。シュナ、折角だし外で慰めてきてあげて」
「何で俺!?」
「ぶたれたから」
「だから何で俺!?」
ツァールトの笑顔が、何処か企んでいるようなニヤニヤ顔に変わる。見れば、ナイトやソレダーも同じようなニヤニヤ顔になっていた。
「……い、行こうか?」
シュナはソリアを外に連れ出す。そして、少々基地から離れた瓦礫の上に座った。
「……大丈夫かソリア」
「……平気。ちょっと堰が切れちゃっただけだから」
ソリアはシュナの隣に座り、強気に言って涙を拭った。シュナは懐からハンカチを取り出し、ソリアに押し付ける。ソリアは暫時ハンカチを握り締め、シュナに寄りかかった。
「……ねぇ、シュナ」
「あ?」
「私、その、ドア『Ⅰ』で……貴方に、キスした?」
ソリアは僅かに頬を染めた。シュナは目を瞬かせる。
「……ああ、そうだけど……?」
「……ねぇ、気付いてないの?」
「……ええと、お前が俺を好きだってこと?」
「そうよ」
ソリアはシュナを見上げた。涙で晴れた目は真剣に、シュナの目を見据えている。シュナは頬を掻いた。
「……いつ気付いたの?」
「えっと、アオに聞いて……」
言葉を言い終える前に、ソリアの平手がシュナを襲った。
「何でぇ!?」
「自分で気付きなさいよ、朴念仁!」
ソリアは真っ赤になって怒鳴る。シュナはその様子に、小さく笑った。
「返事はどうなのよ! 何か無いの!?」
「そう言われても……好きだけど?」
シュナの言葉に、ソリアが硬直する。
「へっ?」
「いやだって、好きだよ?」
「……ほ、本当に?」
「ああ」
シュナは朗らかに笑った。
「モルモット扱いとか、ライバル視とか、色々在ったけどさ。アプサラスの一員だし。俺は、ツァールトとかサロスとかアフティと同じくらい、ソリアが好きだよ」
「………………」
ソリアは暫時、黙り―――俯いて震えだす。
「……ソリア?」
「っ……の、バッカ野郎―――――!」
ソリアの怒鳴り声に、ツァールトが窓から顔を出して苦笑する。
「ありゃりゃ。やっぱりシュナじゃ、望み薄いかな」
ツァールトは頬杖を付く。そして、きょとんとしているサロスに、二人を連れてくるように言った。
「記念撮影?」
「ああ。ま、こんなご時世だけど、僕達一応救世主らしいからね?」
戦闘服と称している普段着の襟を整え、ツァールトは苦笑する。時計塔に通じる通路には、アプサラスの八人――――そして、一体のロボットの姿が在った。アオである。
「アオを作るなんて、ソリアはやっぱり凄ぇな」
「アオもアプサラスの一人でしょう?」
「それにしても、嫌だなぁ、写真……何で撮らなきゃいけないんですか?」
「特殊戦闘部隊アプサラス、最後の任務ということで。これからはレジスタンスじゃなくて、復興ボランティアとして働かなきゃ」
ツァールトはフィリアの頭を撫で、用意されていた撮影場所に歩み寄る。旧式の一眼レフカメラが、一同に向いていた。
中心にツァールトとシュナが立ち、ツァールトの隣からナイト、フィリア、アフティ、シュナの隣からサロス、ソレダー、ソリア、アオが並ぶ。皆がそれぞれの武器を構え、ツァールトはシュナの頭を撫でた。シュナは抗議するように頭に手を遣る。
その瞬間、シャッターが切られた。世辞にも写真に納まって良いと言える状況では無い。カメラの画像を確認し、一同は苦笑した。
「撮り直しますか?」
「良いよ。僕達らしい。早く作業に戻らなきゃ」
ツァールトが言って、シュナも苦笑した。そして、不要となった武器を仕舞い、揃って門に向かって歩き出した。
全ての伏線を回収し、本編終了です。読み返すと意外なものが伏線になっていたりもします。




