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DOORs  作者: 日凪セツナ
13/18

第十二章 「Ⅲ」 星歴3018/10/13

 ツァールトは憂鬱気に溜息を吐いた。鏡に映る彼の姿は、いつものようなレジスタンスの服装ではなく、艶の在るローブを纏い、金のブローチをした、いかにも『金持ち』な姿である。

「月一での話し合い、だったか」

 その隣で身支度を整え、ナイトがツァールトを振り返った。

「ああ。ナイトが付いて来てくれるのは嬉しいけど、憂鬱だなぁ……父さんに会わなきゃいけないなんて。何を言われるか」

 階段を上って一階の作業場に出ると、ツナギを着たシュナが、軍手を外して汗を拭いていた。服は油塗れで、ところどころ、煤で汚れている。

「部品作ってるんだっけ。大変だね」

「大丈夫」

 シュナは小さく笑った。短く切り揃えられた銀髪にも、汚れが飛んでいる。シュナの隣ではフィリアが、シュナの書いた設計図を基に鉄板を切断していた。

「ツァールト、親父さんと会うんだっけ?」

「ああ。……シュナ、もしかして向こうでも僕、似たようなことしていたかい?」

「いいや。いきなり親父さんが乗り込んできたよ」

 シュナの言葉に、ツァールトは想像ができたのか、顔を顰める。

「じゃあ、行ってくるね。お土産でも買ってくるから」

「はいはい、行ってらっしゃい」

 シュナは苦笑して手を振った。



 ナイトは風に靡く長髪を押さえ、ツァールトに従って歩いていた。ナイトは長身で、筋骨隆々という訳ではないが、それなりに肉付きは良い。男には珍しく、金の長髪がよく似合う。深い色の碧眼は鋭く、油断無く周囲を警戒していた。

「ナイトは、シュナみたいに髪を切らないのかい」

「これで良い。別に邪魔にもならねぇしな」

「そっか。君が平気なら、良いんだ」

 ツァールトはそれ以上の追及をしない。四年以上共に戦い、年齢としても近い二人にしては、奇妙な距離感が在った。

 大通りを歩いている途中、サロスが二人の姿を見付けて駆け寄ってきた。癖の無い短い赤髪が、サロスの走りに合わせて揺れる。

「ツァールト、ナイト、今からか?」

「ああ。サロスの方は、」

「終わったよ。これから帰る。何か、買い出しとか在るか?」

「じゃあ、機械油と食材を少しお願いしようかな」

「分かった」

 サロスは二人に手を振り、市場へと走って行った。その背に手を振り、ツァールトはまた歩き出す。

「サロスは、良い奴だな」

 ナイトがぼそりと言った。ツァールトは微笑む。

「それを言うなら、君もだよ」

「俺は『良い奴』には、なれねぇよ」

 ナイトの言葉は、何処か寂しそうな色を帯びていた。ツァールトは何も言わず、ナイトの横顔を見る。ナイトの表情は変わっていない。

「なれるよ。アプサラスの皆が、僕にとっては『良い奴』だ」

 そう言って、ツァールトは足を速めた。



 ツァールトとナイトは、豪奢な部屋に通された。シェルターがシェルターとして機能する以前から在る豪邸には、時折こうして戦前の姿のまま残っている『豪華さ』が在る。

 部屋の中には立派な机が在り、白いテーブルクロスの上に料理が乗っていた。ローストビーフや生の果物など、どれも今では貴重で高価なものばかりだ。

 机の向かいには男が一人座っていた。ツァールトに似た、柔らかな癖の在る茶髪を撫でつけ、オールバックにしている。目は窪み、淀んだ色をしていた。

「よく来た、ツァールト。そちらが護衛か?」

「仲間のナイトです。ナイト、僕の父さん、イーラ議員だ」

 ツァールトは男、イーラを示してナイトに言った。

「座れ。レジスタンスでは食べられないであろうものを用意した」

 ツァールトは大人しく椅子に座る。ナイトは後方の壁に寄りかかって腕を組んだ。

「ありがたいです。でも此処では食べきれませんね。持ち帰れれば良いのですが」

「そんな卑しいことをせずとも、此処に残れば良い話だ」

 イーラはローストビーフを一枚口に運んだ。中はまだ赤いそれは、鮮やかで艶やかな色をしている。

「毎月こうして顔を見せているでしょう」

「中央政府にはお前の頭脳が必要だ、『神童』ツァールト」

 イーラはツァールトを鋭く見据える。ツァールトは柔らかに微笑んだ。

「その呼び名はもう古いでしょう。僕ももう二十一です」

「だが事実だ」

 イーラはグラスを傾ける。

「お前はレジスタンスで戦うべき人間ではない。レジスタンスの存在意義は認めよう。だがもう、戦争が始まって五年経つ。Xとの和平交渉も視野に入れて、抵抗を続けなくてはいけない」

「和平交渉……」

 ツァールトは特に驚いた様子も無く繰り返した。

「予想はしておりましたが。Xと和平が成り立つと考えているとは」

「戦わずして終わるなら、それが一番良い」

「詭弁ですね」

 ツァールトは水の入ったグラスを口元に運び、思い直したようにそれを置く。イーラはその様子に眉宇を顰めた。

「アプサラス、だったか。お前の飼っている奴らは」

「ええ」

 揶揄するような言葉にも、ツァールトは微笑を崩さない。

「彼らは強いですよ。他の奴らななどより、僕が彼らを活かせる」

「どうせ、力ばかりで頭は空だろう。レジスタンス本部にも時折煙たがれると聞く」

「頭空の人間は強くはなれませんよ」

 ツァールトは鋭く言い返すが、その後方でナイトは微かに俯いた。

「道具扱いしているだろうが」

「まさか。彼らは友人で、仲間です」

 ツァールトは努めて穏やかに言い返した。

「『飼主』という僕の異名も形式上のこと。彼らは誰かに使われるような器じゃありません」

 イーラは顔を顰め、ツァールトを睨み据えた。ツァールトは息を一つ吐き、水を飲む。

「僕はレジスタンスを辞めません。中央政府にも入りません。何度言われようと、これは変わりません」

「……そうか」

 イーラは手を組み、それに顎を乗せて俯いた。

「話が以上のようでしたら、帰らせていただきます。この食料は、もし廃棄するようでしたら頂きたいのですが」

「……まあ待て」

 イーラは立ち上がり、ツァールトに近付いた。ツァールトも立ち上がる。

「別にレジスタンスを辞めろとはもう、言わない。だから、毎日この家に帰って来い。唯一の肉親なのだから」

「断ります。僕はリーダーですから、本部で皆と一緒に寝ますよ」

「……これは命令だ。お前に拒否権は無い」

 イーラが指を鳴らした。

 天井の板が外れ、数人の男が現れる。男達はナイトの首にナイフを突き付け、ツァールトの背にもナイフの切っ先を押し当てた。

「…………」

 ナイトは表情を殺したままツァールトを見遣る。ツァールトはナイトを見、呆れたように息を吐いた。

「彼を人質に、僕を拘束しようと?」

「お前を拘束するつもりはない。お前はこれからもレジスタンスに居ればいい。だが、毎日帰ってこないのならば、アプサラスはどうなるかな」

 ツァールトはしかし、言葉に詰まることも青い顔になることも無かった。ただ、首を横に振って苦笑する。

「やれやれ。穏便に済ませたかったのですが。やはり無理ですか」

 ツァールトはそして、ナイトを見遣り、小さく頷く。

「良いよ、やれ」

 ナイトはそれを見、にぃ、と笑った。ぞっとするような、残虐な笑みだ。

 ナイトは素早く体を沈めた。そして自分を囲んでいる三人の男の足を薙ぎ払い、手刀で手からナイフを弾き飛ばす。空中に飛んで回転したナイフは、落下して男の一人の鼻先を掠め、床に突き刺さった。床に転んだ三人の首や鳩尾に一撃を加え、ナイトはツァールトの背後の男を見遣る。男はナイフを両手に構え、ナイトに向かって駆け出した。

「温いな」

 ナイトはその腕を掴んで捻り上げる。骨が折れる、鈍い音がした。

「なっ、」

 イーラが狼狽したように退く。ツァールトはイーラを横目で見、鼻を鳴らした。

「ご苦労様ナイト。よく殺さなかったね」

「お前が不利な立場になる」

 ナイトは埃を払うように手を叩いた。

 その背後で、男の一人が立ち上がり――――ナイフの切っ先を、ツァールトに向かって突き出した。

「てめぇっ!」

 男が怒鳴る。イーラが、青い顔で手を突き出した。

 が―――ナイトが、素手でそのナイフを掴んで刃を止めた。ツァールトの目の前で、切っ先が止まる。

「止めろ貴様! ツァールトを傷付けるな!」

「し、しかし旦那様、」

 ナイトの掌底が、男の顎を撃ち抜く。男は無様に仰向けに倒れた。ナイトはナイフを落とし、手を引く。床に、数滴の血が滴り落ちた。

「……ツァールトに触れるな」

 ナイトが表情を険しくして言った。イーラが微かに気圧されたような顔になる。

「ツァールトは俺達のリーダーだ。勝手に取り上げるならお前も殺す」

 ナイトが剣に手を掛ける。

 ツァールトが、その手に自分の手を重ねた。

「そこまでだよ、ナイト。手は出さないで。これでも僕の父親だ」

 ツァールトを振り返り、ナイトは表情を洗う。

「……帰ろう」

 ナイトが言って部屋を出た。ツァールトが苦笑してその後を追う。

「待てツァールト!」

「それではまた来月。お大事に」

 ツァールトはあっさりと言って、扉を閉じる。薄暗い廊下に出、ナイトは掌の傷を舐めた。

「……帰ろうか」

「そうだな」

 ナイトは俯いたツァールトを見遣り、何を思ったのか、その手を握る。

「?」

「少し、寄りたい所が出来た」

「何処だい?」

「貧民街の、俺とソレダーの家だ」

 ツァールトは理由を聞かず、頷いた。

「良いよ。時間は在る」

 ツァールトの顔に、既に笑顔は無い。ナイトはツァールトの手を放し、先に立って歩き出した。



 寂れて埃っぽい貧民街の一角に、その家は在った。既に荒らされて窓は割れ、扉も半分外れている。ナイトは扉を外し、中に入った。一つしかない部屋はぼろきれや割れた板などが散乱しており、唯一残されているのは、金属の骨組みだけの重いベッドだけであった。

「座れ」

 ナイトはぼろきれを床に敷き、ツァールトはそれに座る。そしてナイトは床にそのまま座った。

「何か、話かな?」

「特には。只、無理しているんだろう、休ませてやろうかと」

「……そうだね」

 ツァールトは床に寝転がった。

「シュナの記憶が戻ってから、何となくアプサラス全体が変わった気がしてね。今までずっと、少しずつ変わってはいた。だけどこんなに急速に変わったのは初めてだからね」

「変化が疲れるか」

「うん。多少は……」

 ナイトはツァールトの隣に横になった。そして二人は向かい合う。

「最初は『ヒーローごっこ』だった。今は『Xとの戦争』だ。次は『タイムマシンの製造』。アプサラスの存在意義と活動は、変わって行っている。それは悪いことじゃないよ」

 ツァールトは目を細めた。

「だけど。『タイムマシンの製造』に当たって、シュナが少しずつ周りから孤立している気がするんだ。何となく、だけど。彼しか知らない過去が在るし、それを僕達は知ることは出来ても、覚えてはいないからね」

 ツァールトの言葉に、ナイトは何も言わない。

「シュナは確かに、僕達には想像もできないようなことを体験したんだろう。だけど、だからと言って、彼が孤立していい理由にはならないよ」

「なら、言えばいいじゃねぇか」

 ナイトはツァールトの頭を撫でた。その意外な行動に、ツァールトは軽く目を見開く。

「俺はお前を最後まで支えてやる。お前が曲がりそうになったら殴ってでも蹴ってでも戻す。だから、お前も同じように皆に接せばいい」

 ナイトはそして、ツァールトに近付き、そっとその体を抱き寄せる。

「俺達は、親友だろうが」

 ツァールトは暫時、戸惑ったような顔をしていた。が、やがてその表情が緩む。

「そうだね」

 ツァールトはナイトの肩に手を回す。

「少しだけ、泣いても良いかな。そしたら父さんと、さよならする覚悟を決めるから」

「ああ」

 ツァールトはナイトの胸に額を押し付けた。



 シュナは戦闘訓練をするサロスとアフティを眺めながら、手元の紙で計算をしていた。タイムマシンの設計に足りない材料と、細かなエネルギー計算だ。ドア『Ⅰ』と此処では状況が大分違う。レジスタンスは解体されておらず、和平交渉の話は在ってもそれが声高に叫ばれることは無い。

 自分がトラベルしてきたことで、何が変わったのだろうか。複雑に絡み合う因果を全て理解することは、シュナにも不可能であった。

「なぁシュナ。お前も組手入るか」

 アフティがシュナの前に立って言った。

「あ、いや……俺は良い、これを終わらせないと」

「……そうかよ」

 アフティは微かに眉宇を顰めた。が、何も言わずに踵を返す。

 その後ろ姿に、シュナは僅かに目を細めた。華奢で、しかしいつも何処か気を張っているようなその姿は、嫌な既視感が在る。

 アフティが生きているのは、偶然に過ぎない。実際アフティはあの二人の男と接触しており、電子ドラッグを盛られそうになった。ツァールトが『報告するように』と言っていなければ、ドア『Ⅰ』の二の舞になっていた可能性も十分に在った。

 変えられていない、とシュナは呟く。そして苛立たしげに頭を掻き、紙に向き直った。

 サロスが、心配したような顔でシュナに近付き、しゃがんだ。

「……なぁ、シュナ。そんなに根詰めても良いこと無いぜ? 気晴らしに散歩でも行こう。明日からまた戦場なんだしさ」

「時間が無い」

「お前、最近一気に老けたぜ? やらなきゃいけねぇこととか、難しいことは、俺は分からんけども、昨日も寝てねぇだろ? そりゃ、前の、ドア? では大変だっただろうが、」

「五月蝿いな!」

 シュナは怒鳴って立ち上がった。サロスが驚いたような顔で尻餅をつく。

「お前達に何が分かるんだよ! 何も覚えてねぇくせに、何も知らねぇくせに知ったような顔すんじゃねぇよ! 急がなきゃいけねぇんだよ! お前らは戦ってりゃいいかも知れねぇがよ、俺は『トラベラー』としてやらなきゃいけねぇことが、」

 そこまでまくしたて、はっとしてシュナは口を噤む。

「……んだよ、人が心配してんのによ」

 サロスが怒気を押し殺した声で言って立ち上がる。そして、シュナの顔の横に強く手を付いた。工場の壁がびりびりと震える。

「悲劇のヒーロー気取ってんのか? ああそうだよ俺達は何も知らねぇ、だがよ! それを選んだのはお前の筈だろ? 八つ当たりなら余所でやれよ」

 言い放ち、サロスは踵を返して去って行く。アフティが戸惑ったように二人を見比べた。

 シュナは紙を挟んでいたファイルを閉じ、それを抱えてサロスとは別方向に歩き出した。サロスはそのまま、工業区の奥へと消える。取り残されたアフティは、どちらを追おうか諮詢した後、溜息を吐いて工場へ入る。中にはフィリアとソリアが居た。二人も騒ぎが聞こえていたのだろう、フィリアは心配そうな、ソリアは呆れたような顔をしていた。



 シュナは途中から駆け出した。気分が悪い。それは喧嘩故ではなく、恐らく喧嘩腰になった自分自身に対する嫌悪だ。

 晩秋の、ひやりとする夕暮れ時の風がシュナの頬を打つ。シュナは速度を上げ、何かを振り切るように走り続けた。

 やがてシュナは、時計塔に行き着く。気分が変わるかと、シュナはその天文台に向かった。

 手摺りに寄りかかり、夕暮れに染まる街を見下ろす。シュナはファイルを足元に置き、暫時息を整えながらその景色を見まわした。

 そして――――何かが、喉を突いてせりあがる。記憶を取り戻してから何度も襲われた感覚だ。シュナは初めて、それを抑え込まずに解放した。

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 泣き声と言うには余りに激しく、絶叫と言うには余りに悲しい叫びが吐き出される。シュナは手摺を両手で握り、冷たいそれに額を押し付けて膝から崩れ落ちた。

 涙が零れる。酷く苦い涙だった。

「分からないよ……何をすればいいんだよ……」

 シュナは呟き、唇を噛む。

 記憶を取り戻す前は、漠然とした不安は在っても、アプサラスの皆と居れば安心できた。しかし今では、アプサラスの―――無事な皆の姿を見るのが、酷くシュナに不安を覚えさせる。

 誰も自分を理解できる筈が無い。その思いが、更にシュナを追い詰めていた。

 八つ当たりなのは分かっている。だが。

「やだよ……壊れたくないよ……」

 子供のように言って、シュナは涙を拭う。

 ガシャリ、と金属の音がして、シュナは振り返った。階段から顔を出し、アオがシュナを見ていた。

「……アオ?」

「やっぱり此処か」

 アオはシュナに近付いた。シュナは呆然としてアオを見上げる。

「……お前、何で、」

「お前が考えたことも、体験したことも、全部俺は知ってる」

 アオはシュナの前にしゃがんだ。

「今すぐ頭の中を整理しろとは言わない。無理だろう。だがこれだけは覚えておけ」

 アオはそして、薄く微笑んだ。

「アプサラスも俺も、絶対にお前のことを裏切ることだけはしない」

 アオの言葉に、シュナは暫時、アオを見上げて固まる。そして、繰り返し、アオの言葉を噛み砕く。

「……アオ、聞いて欲しい話が在る」

「何だ」

「今からタイムマシンを完成させて、シェルターのエネルギー供給をストップさせないでエネルギー源を確保して、いつでも起動させられる状態になるまで、何年掛かる?」

「エネルギー量にもよるが、短ければ二年だろう。少しずつエネルギーを蓄積させて」

「そうか」

 シュナは涙を拭い、真剣な眼差しでアオを見た。

「じゃあ、もし全ての準備が整ってXの本部に向かうとなった時―――アオ、お前だけは一緒に来て欲しい」

「………………」

 シュナはそこで、顔を緩ませた。子供じみた、無邪気な笑みだ。

「俺の我儘だけど」

「……良いだろう。他の奴らには黙っておこう」

 アオは溜息を吐いて了承する。シュナは微笑んで立ち上がった。

「帰ろうか。サロスに謝ろう」

「そうだな……ああ、それから、これも一応言っておこうか」

 アオも立ち上がり、街を見遣る。

「俺を『Ⅱ』から此処に送り込んだのは、ソリアだ」

「へ?」

「……お前を、殺さないでくれと言われた……泣き付かれた」

 アオは懐かしむように目を細める。

「彼奴がぁ?」

「気付いていないか。彼奴は―――ソリアは、お前のことが好きなんだぞ、シュナ」

 アオは苦笑した。シュナは面食らったような顔で目を瞬かせ、頬を掻く。

「ソリアがそんな事言うんだったら、お前ソリアの作品か? 二度とソリアに……その、お前を作ったソリアに会えなくなるのに、よく来たな」

「お前にも言えることだ」

「そうだがよ、俺一人救う為に」

「お前は人類の命運を背負っている。それに、ソリアにはもう逢えた」

「……お前さ、ソリアが好きなのか?」

 手摺りに寄りかかったアオの隣に立ち、シュナはアオの顔を覗き込む。

「…………それだけは分からないな」

 アオはそう言って、顔を逸らした。

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