贅沢な時間って…… その3
「あっ」
コーヒーを飲み終え、さてお店を出ようかといったところで、ノンノちゃんは何か閃いた、思いだしたという感じの、思わずの声を上げました。
「ノンノちゃん、どうかしたの?」
「そりゃあもう、どうかしてたわよ。私だけが言って、コイツが言わないだなんて不公平にも程があるじゃない」
詳細は分かりませんが、どうやら自己嫌悪に陥っているみたいです。
「と、言うわけで。ミツル、ちゃっちゃと吐きなさい」
「は、はい?」
吐く? 吐くって何を? 質問の意図は分かりかねますが、吐けば良いんですよね?
えっと、ちょっと前屈みになって――
「オロロロロロロロ――」
「誰が嘔吐の真似をしろって言った!!!!」
叫ぶ声とともに頭に鋭い痛みが押し寄せてきました。
「いったー…………」
顔を上げますと、え? もしかしてそれで私の頭殴ったのですか? ノンノちゃんがコーヒーカップのソーサーを持っていました。
しかも、叩かれたときの頭に受けたときの打撃の面積を考えると……。
「まさか、ソーサーの縁?」
「ん? なにか言った」
「い、いえ。何も言っておりませんよ」
このお嬢さん、やる気満々じゃないですか!!
まずい、下手なことをいったらまたあれで叩かれる。しかも今度はきっと容赦のない一撃が襲ってくるに違いない。あの人にはそれだけのことをやる、覚悟がある――!
考えなさいミツル。アナタは出来る娘。この状況を突破する鍵は自分の中に眠っているはず。
ノンノちゃんはなんと言った?
『と、言うわけで。ミツル、ちゃっちゃと吐きなさい』
吐く。オロロロロロとするわけではなく、吐く。
ノンノちゃんが前に言って、私が言わなかったことを吐く。
「あぁ、贅沢な時間の使い方のことか」
そうでしたそうでした。そんな話をしていたような気がします。このお店のパンケーキが美味しくて、忘れてしまっていました。
「なに数10分前くらいのことをキレイさっぱりと忘れてんのよ。アンタの頭の中は……」
「え、なにその残念そうな顔!」
「ミツル、私が悪かったわ」
「何に対して謝ってるのっ?」
「ミツルが悪い訳じゃないの。そのお花畑が悪いのよ」
「それ、遠回しに私の頭が悪いって言ってるよね!? そうだよね!?」
「ええ、そうよ」
「……」
もうやめて! 私のメンタルはそこまで強くありません!
「ほら、黙ってないで早く答えなさい」
「あぁ、うん。えっとね――」
私の贅沢な時間の使い方。
「いろんな人とお話しすることかな」
楽しい話を聞くのが、私は大好きです。
その人も笑顔になるし、私も幸せな気分になりますから。
「はぁ、相変わらず他人優先思考ね」
「別にそういう訳じゃないよ。楽しいことなら1人じゃなくて、皆でやった方がもっと楽しくなるって思うだけだし」
時間の使い方。1秒、1分、1時間。どのように使うかはその人によって大きく変わっています。楽しみ方もそれぞれです。
そんな使い方は勿体ないとか、他の人が思うことでも、自分にとっては大切な時間だってあることでしょう。
でも、確かなことが一つ。
「ねぇ、ノンノちゃん」
「ん? なによ?」
「ノンノちゃんにとって、この時間って贅沢な時間?」
「……そうねぇ。……まぁ、悪くはないかな」
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