贅沢な時間って…… その1
昼下がり、私とノンノはお昼ご飯を食べようとお店を探していました。
「ノンノちゃんは何が食べたい?」
「んー……。いざ訊かれると、特に何が食べたいとか浮かんでこないわね」
ありゃ。決断力のあるノンノちゃんならキッパリと「よし、〇〇にしましょう」と言ってくれると期待していたのですが。
「そういうミツルはどうなのよ?」
「えっと、残念ながら決まっていなかったり……」
「なによ、欲の暴徒であるミツルなら「ノンノちゃん! あれ食べたい! いいよね!?」と私の答えを聞く前に突っ走ると思ってたのに。期待外れもいいところだわ」
私の頬がピクピクと引き攣るのを感じます。
ノンノちゃんは一体、私のことをなんだと思っているのでしょうか?
私がそのことについて、ノンノちゃんに問いただそうとした時のことでした。
「あれ? なんだか人が並んでるわね……」
「え、どこ?」
「ほら、あそこよ」
ノンノちゃんの指した方を見てみると、確かに、店先に人の行列ができていました。
「ちょっと見てみる?」
「勿論ですとも」
お店の方に近づいていくと、私の想像以上に行列ができていました。
「これは……」
ノンノちゃんも行列の並び具合に驚いたのか、険しく行列を見ています。その表情は、買い物をしている時に商品の値段のタグを見て、「これ、ちょっと高くない?」と私に愚痴を漏らしている時のものに似ています。
「む、なによその顔は? 私が悩んでるのを見て楽しむなんて、中々いい性格をしているじゃない」
「いやいやいや、別に楽しんでないよ。見てよ、私の顔だって悩んでる表情してるでしょ?」
「うん。誰が見ても気の抜けた、間抜けな表情をしてるわね」
「えー……」
それはちょっと酷くないですか?
そうこうしている内にお店の前に来ました。
「ふーん。バウムクーヘン専門のお店ねぇ……」
前にここを通ったときには見かけなかったので、最近出来たお店なのでしょう。
この大きな行列も、試しに食べてみようと思った、話の話題作りに、人が並んでるのにつられて、口コミで、リピーターとして、など様々な要因が重なった結果として出来たものなのかもしれません。
「どうするノンノちゃん。試しに並んでみる?」
私がノンノちゃんに尋ねてみると、
「パス」
スパッとサックリ、否定の言葉が返ってきました。
「休憩するなら、適当な喫茶店にでも入りましょ」
「あっ、ちょっと待ってよー……」
お店に全く未練の感じさせない歩みで離れていくノンノちゃんを、私は後ろ髪引かれる思いで追いかけて行くのでした。