(2)Sランク
「まぁ~」
「近くで見ると、迫力あるな……」
「すご~い。こわ~イ」
現在、刑務所前。囚人=最後のメンバーは、柊凌という名の綾芽と同い年の男のようだ。
「どんな人かナ~」
「いいやつよ」
「……刑務所出身のいいやつとか、興味深すぎるな」
皆が好き好きに感想を述べていると、遠くに人影が見えてきた。
「あっ!おーいっ!凌っ!!」
綾芽はその人影に手を振りながら、近所迷惑になりそうぐらいに叫んだ。近所といっても、周りは空き地だらけで人の気配すらない。その空間に刑務所だけが重苦しい空気を漂わせながら建っているのだ。
ゆっくりと近づいてくる人影は、ポケットに手を入れたままだった。
「もう、シャイなんだからっ」
ゆらゆらとした人影は徐々に姿を表した。背丈は女にしては長身の綾芽よりさらに高く、髪と髭は伸びっぱなし。おそらく金髪だったのだろう。伸びっぱなしのため、今は毛先だけが染まっている状態だ。表情は伸びっぱなしの前髪でよく分からない。
「ちょっと!久しぶりの再開なんだから、手ぐらい振りなさいよ!」
「……あぁ」
刑務所であまり人と話していなかったのだろう。第一声がかすれていた。
「もう。まぁいいわ。こちら、今回共に戦うメンバーよ。まず、黒髪の彼!グループ最年長の雛罌粟皐よ」
「雛罌粟皐だ。よろしく」
「……」
「それからこっちの茶色の短髪で、前髪に星のピンをつけているのが、山城さくら!」
「山城さくらで~ス」
「……」
「それからそれから、こちらの緑の髪を2つに緩く三つ編みにしているのが、上田いづみ!こう見えて手厳しいから気をつけなさいよ!あんたすぐ怒られそう」
「手厳しいなんて、そんなことはないわ〜。宜しくね〜」
「……」
「で、ラストぉ!この藍色の髪が可愛い、眼鏡の少年はなっちゃんね!」
「……氷室夏樹です」
「……」
「ちょっとぉ!!みんながせっかく挨拶してくれてるんだからっ!黙ってないでなんとか言いなさいよっ!!」
「……るせぇ」
「ん?何?」
「うるせぇって言ってんだよ」
「なっ……」
「こっちはな、久しぶりの空の光と、おめぇのギャンギャンうるせぇ声に慣れるのに精一杯なんだよっ」
「……!」
「ちょっと黙れ」
「あの、綾芽が押されてるヨ」
「あぁ…レアだな…」
太陽ほどの光の強さではないが、人口太陽の光でさえも、暗闇の刑務所の中から出てきた人間には堪えるようだ。
「……悪かったわよ。でも、みんな挨拶してくれたし…ちゃんと覚えたの?」
「あぁ、そこは完璧だな」
「本当に?」
「落ち着いてるオスに、うるせぇヤツ2号、お嬢様気質に、ちっせぇの、だろ?覚えただろ?」
「まぁ……ハズレではないわね…」
「ちょっとー!うるせぇヤツ2号って何ヨ!」
「まんまだろ?」
「綾芽も認めないデ!それに、うるせぇヤツ1号は綾芽のことでショ?」
「そうだ」
「なっ……あんたねぇ!!」
「おい、お前らその辺にしとけよ」
「あ、落ち着いてる人ダ~」
「……からかうな」
「私~別にお嬢様じゃないわ~」
「俺……小さくない……」
そんなとき、不機嫌MAX状態の夏樹のところに1本の電話がかかってきた。
「……もしもし、はい、はい……わかりました」
「どうしたの~」
「研究開発部から呼び出しだ。道草くってないでさっさと帰ってこい。ランク付け検査を受けろ、だそうだ」
適合者はランク付けされ、LRHのどれにあたるか決められる。今回は大体把握しているが、最終確認のための検査だろう。
「おかえり。お迎えご苦労様」
「あけみさん」
みんなを出迎えてくれてたのは医療班最高責任者兼研究開発部の榛原あけみだった。
いつも白衣を身につけており、茶髪で肩ぐらいの長さだが、ポニーテールの似合う女性だ。
「さぁ、博士が待ってるわよ」
LRHの地下に研究開発部はある。ここでは太陽再生の研究や、宝玉の未知なる力の発掘等、まだ分かっていない真実を知るために、日々研究開発されているところだ。
「やあっ!待っていたよ!君たち!!」
「うげっ、相変わらず汚いなァ」
「それ、最近洗濯したんですか……?」
「髪も寝ぐせかよ、それ」
満面の笑みで迎えてくれたのは研究開発部責任者の青桐颯真、通称“博士”である。ドロドロの白衣にボサボサの髪、黒縁メガネというなんとも近寄りがたい姿だ。他者からは変な目で見られることが多々あるが、本人は気にしていない。こんな格好でも、昔はあの有名研究所の、北条研究所に勤めていた天才、らいしのだ。
「うるさいな。君たちは。問題ないといつも言っているだろう!」
「いやいや、問題大ありじゃン」
さくらは聞こえるか聞こえないかぐらいの声でボソッと言った。
「さぁさぁ!早速、はじめようか!!まずは……クソ男子共と夏樹からな」
「オイ、クソ男子にクソ男子って言われたかねーな」
「まぁまぁ」
「さぁ~夏樹クンっ、どこからはじめようかな~??」
凌の文句は無視して、夏樹に歩み寄る博士だったが、すかさずあけみに止められた。
「ちょっと待って。夏樹はあたしが見るから博士は他を頼むわ」
「……何でだよ。ランク付は俺の担当だろ」
「あたしは夏樹の親代わりみたいなものよ。夏樹のこと1番よくわかっているのはあたしよ」
「……わーったよ。チッ。じゃあ、お前からな」
小さく舌打ちした博士は、皐を指差しランク付け装置の前へ促した。
「さ、この『ランク付け~る』に右手を入れろ」
ランク付け装置ことランク付け~るとは、上下にある2枚の鉄板のようなものの間に手を入れ、そのまま数十秒待つだけで自分の宝玉のランクが分かるという優れものである。
「はい、終了~。Aランクのレイズ、パワー型だな」
ランク付けの詳細は、通常レイズならAランク~特Aランク、ロイズならBランク~特Bランク、ヘルツはBランク未満と決められている。Aと特AやBと特Bというように細かく分かれいるにも理由がある。それは、宝玉解放には段階があり、第1解放~第2解放が出来るのが、ロイズ。その中でも、第2解放状態で長時間戦闘可能な者を特Bランクとしている。また、第1解放~第3解放まで出来るのがレイズ。その中でもロイズと同様に、第3解放状態で長時間戦闘可能な者を特Aランクとしている。ちなみに、ヘルツは第1解放しか出来ない者を指す。
「次っ!」
次は凌が右手を入れた。
「ほほぅ、お前なかなかだな。特Aランクのバランス型レイズっ!次っ!」
「あざーす」
「次、わたしすル~」
意気揚々とさくらが右手を入れた。
「は~い、特Bランクのスピード型ロイズな~次っ」
「うっそ!わたし特Bなノ!?」
さくらに続いていづみが右手を入れる。
「まぁ~知ってるけどね~」
「はい、Bランクのサポート型ロイズ。まぁ、サポート型はこんなもんだな」
「ふふ、そうですね~」
「はい!ラスト!」
「はーい」
「おっ?君が噂の女レイズちゃんか」
「そうです。女だからって甘く見てたら痛い目に会いますよ?」
綾芽は言いながらそっと右手を入れた。
「ハハハッ!それは面白い!」
レイズはロイズより、宝玉の力をより正確に操らなければならないため、体の負担が大きい。そのため、適合するならば男だと言われてきた。実際に今までレイズはみんな男しか例がない。だからみんな、綾芽に驚き、疑い、罵倒する。
「はいっ!特Aランクの……ん?」
「……どうしたの?」
夏樹の検査を終えたあけみが聞いた。
「いや……その……」
明らかに博士の様子が変だ。
「ねぇ~ねぇ~。なっちゃんはど~だっタ?」
「え……特Bランクのロイズ、ガード型」
「あ~特Bはわたしといっしょだヨ~」
「……てか、さっきから思ってたけどなっちゃんって……何?」
「あだ名だよ~。かわいいでショ~?」
「だから、どうしたの?」
「……こ、これ……」
博士の額には汗がひかり、手や足は小刻みに震えているように見えた。異常だと判断したあけみは博士に駆け寄り、ランク付け~るを覗き込んだ。
「えーーーっ!?」
あけみの大きな声が、研究開発部に響き渡った。
「どうかしましたか?」
「なにな二~?」
「あぁ?何騒いでんだ?」
検査を終え、雑談していたみんなも集まってきた。
「Sランク……!!……バランス型……」
なんと、ランク付け~るにはSランクと表示されていたのだ。
「……言いましたよね?甘く見てたら痛い目に合いますよ、って」
Sランクとは、特Aランクよりも上を意味し、究極のレイズと呼ばれている。第1解放~第3解放まで出来るのはもちろんのこと、その上の全解放まで出来るのだ。全解放とは、今の自分の持てる全ての力を解放し、自由自在に操ることである。全解放は出来ても、操れなければSランクとは呼ばれない。このSランクは世界でたったの3人しかいないと推測されている。綾芽はそのうちの1人なのだ。
「……女レイズでSランクとかどれだけオプション付けたら気が済むのよ」
あけみはあまりに異例すぎる事態に呆れていた。
「マジかよ……」
「綾ちゃん、すっご~イ!!」
「まぁまぁ~これから面白くなるわね~」
皐は若干引き気味で、さくらはただただ驚いき、いづみはニコニコしていた。
「凌……あなたは驚かないのね」
あけみは頭を抱えながら聞いた。
「俺、知ってたので。こいつと何年の付き合いだと思ってんスか」
一方、博士は興奮を隠しきれないようだ。
「……!素晴らしい!!素晴らしいぞ!!私はSランクを実際にこの目で見たのは初めてだ!!綾芽クン!!ぜひ!!私の研究に力を貸してはくれないか!!」
「いやです」
「なぜだ!!」
「面倒くさいです。それに私、やらなきゃならないことがあるので」
綾芽は真剣な眼差しで博士に言った。
「そうか……そうだったな。太陽を取り戻すのか……うん……うん……!綾芽クンなら……いや、君たち第202期生ならば可能な気がしてきたぞ!!」
「ちょっと、そんなこと言って大丈夫なんですか、博士」
「大丈夫だとも!!今までで1番可能性が高い!!希望の光というやつだよ」
「……ありがとうございます!今までそんなことを言ってくれたのは博士だけです!!」
綾芽は博士の言葉に感動し、続けた。
「私はただ、両親のやりたかったことをやりたいだけなんです。それなのに周りは最初から諦めている。私は、やらないで諦めるなんて……そんな自分は1番許せないです……」
「もしかして、綾芽の両親は……」
「……はい。第177期生の長谷川要と野中明音です」