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紅蓮のレイズ〜太陽奪還説明書〜  作者: ちよこれいと
第三章
21/22

(3)ジッケン

「皆様お集まりいただき、ありがとうございます!」


 第二検査室入口にて、東雲は満面の笑みで村人たちを迎え入れていた。


「タダで健診を受けられるなんて、ありがたいわぁ」

「ほんとよねぇ~?この研究所なら近いし、丁度いいわねぇ」

「ありがとうございます。病気は早期発見が大事ですからね!」


 東雲たち研究員は、お年寄りから順番に検査室へと案内する。


「ワシはいつも通っている病院で見てもらっとるから、必要ない!帰る!」

「お、お待ちください!いつもされている検査とは?」

「……血液検査やレントゲンじゃ」

「ここでは簡単に全身検査することが出来ます」

「……しんどいのはごめんじゃ」

「皆様はベッドに横になって頂くだけで大丈夫ですので!ささ!」


 無料、簡単などとお得な情報を提供しながら、みんなを乗り気にさせていく。


(なんだこれ……こいつらまさか……)


 アキラは全てを見ていた。


「あの……本当に大丈夫なんですか?うちの子まで検査する必要あるんでしょうか……」

「お子様は検査というより、予防接種ですね」

「予防接種?」

「えぇ、太陽の欠片(サンビッド)用です。この予防接種をしていれば、もし太陽の欠片(サンビッド)に襲われて、ケガをしても軽傷で済みます。奴らは体内にばい菌を持っておりますので。」

「まぁ……そうなの?」

「えぇ。この前の研究で初めて分かったことです。小さなお子様は大人より免疫力が低い。ばい菌で悪化してしまう可能性があるのです。体が弱い子だと死に至る可能性も……」

「それは大変!お願いするわ!!」

「はい、もちろんです!詳しくはこのパンフレットをご覧になってくださいね」


(あいつら……嘘ばっかりだな……)


 順番に検査という名の実験が始まっていた。高齢者から検査室へ吸い込まれるように入っていく。


「検査が終わった人が見当たらないのだが……?」


 1人の男性が違和感を感じ、近くの研究員に尋ねた。


「どうしましたか?」

「先に入っていた、うちの祖父がまだ帰って来ないのだが……?」

「あぁ、検査後、休憩を取られているのかもしれないですね。出口は反対側ですので、見かけない可能性もありますよ」

「そう……ですか……」


 アキラは意を決して、検査室を覗いた。


「次の方どうぞ~」


 50代ぐらいの男性が入ってきた。


「では、そのままこのベッドに横になってください」

「はい……。なんだか大がかりなベッドなんですね」


 男性は少し不安そうに、ベッドに横になった。


「!?」


 そのまま上を見上げると、大きな機械の中に光るものが見えた。


「あれは……」

「はい、手足縛りますね~。少し強めにしますね~」

「そんなに激しいのかい……?寝ていたら終わるのでは……?」

「えぇ、そうですよ。リラックスして寝ていてください。すぐに終わりますから……」


 男性をベッドに固定し、明かりが男性だけに向けられた。


「始めまーす」


 研究員がボタンを押すと、男性の上にある大きな機械が動きだし、男性の胸元で停止した。


「こ、これは!もしかして!!」


 機械が自分に近づいてくるときに見えた。機械の中の光るものの正体を。


「ほうぎょ……くっ!!うわぁぁあああああ!」


 男性の胸元で暴れる機械は、宝玉を無理矢理寄生させる為のものだった。


「ぐわぁっ!く、くるしい!!やめてくれ……!!」


 宝玉が体内に入ると機械は止まり、静かに元の位置へ戻った。


「はぁ……はぁ……」

「なるほど、だいたいの人間は体内には入れることが出来るようだな」

「はい。そのようです」


 男性は研究員たちの話を息を整えながら聞いていた。


「何秒経った?」

「35秒です」

「そろそろだな」


 研究員たちは時計を見ながら男性の様子を観察していた。


「うっ!」


 先程まで大人しかった男性が、急に苦しみだし、胸を押さえてベッドでもがき苦しんだ。


「ぐはぁ!!ぐああああああああ!!!!!」


 男性は見る見る衰弱していった。まるで宝玉に生気を吸い取られているかのように……。


「あああああ……ああ……」


 皮膚や骨、髪の毛や目玉や爪の全てが溶けて、無くなった。残ったのは着ていた服と宝玉だけだった。


「あ~あ、また失敗かぁ~」

「年寄りはダメっぽいなぁ」

「そうっすね」


 研究員たちはゲームを楽しんでいるかのようだった。残った服をゴミ袋へ入れて見えないところに置き、次の人を呼ぶ。


「次の方どうぞ~」


 扉は騒音防止対策済、外からは中が一切見えないようになっている。


(これはマズイな……)


 アキラはすぐに夏樹の部屋へ戻った。


『夏樹!!大変だ!!』

「アキラ?」


 そこには久しぶりに父親に会えて喜んでいる夏樹がいた。


『あれ……?親父さん……なんでいるんだ?』

「ほんぶがわのつごうで、あしたになったんだって」

「ん?夏樹?」

「あ、アキラがね、パパなんでいるのー?ってきいてるから」

「そうかい、アキラ君にも心配されちゃったんだなぁ。研究室に戻ろうかとも思ったんだけど、もうみんなに任せてきちゃったからね。せっかくだし夏樹と遊ぼうかなって」


 あはははとのんきに笑っている春樹を見て、アキラはハッと思い出す。


『夏樹!!親父さんに、今すぐ第二検査室へ行くように言ってくれ!!大変なことになっている!!』

「……」

「夏樹?どうしたんだい?」

「アキラがあせっている……」

『な!つ!き!いいから!俺の言っていることをそのまま話せ!!!』

「わかった」


 いつも冷静なアキラの焦り様に何かを察した夏樹は、そのまま春樹に伝えた。


「しののめが、じんたいじっけんをおこなっている。ちかくのむらのひとたちをつかって。だからはやくだいにけんさしつにいって、とめてほしい」

「!?」

「って、アキラがいってるよ」


 春樹の額には汗がにじんだ。


「い、急がなければ!!!」


 そしてすぐに部屋を飛び出していった。


「じんたいじっけんってなに?」


 夏樹がアキラを見つめる。


『……そのままだよ。実験。人間を使った実験だ』

「……それはひつようなこと?ほうぎょくのけんきゅうに」


 夏樹は幼いながら、ほとんどを理解していた。盲目故に他が発達し、学校に行っていないが、習っていないのに計算が出来てしまうほどに。


『……分からない。親父さんの反応を見ると、必要ではないのかもな』

「……とめなきゃ」

『ん?』

「じっけん、とめなきゃ!」

『オイオイオイ!ちょっと待て!!』


 勢いよくベッドから降りた夏樹は走り出した。アキラは止めようとしたが、夏樹には触れられない。夏樹はそのまま転んでしまった。


「っ……」

『ほら、言っただろ。危ないから……』

「っ!!」


 アキラが近づこうとしている気配を感じた夏樹は、腕を振り回した。


『っ!?なんだよ!あぶねぇだろ!!当たらないけど!!』

「こないで!」


 いつもと様子が違う夏樹に戸惑いながらも、アキラは近づいた。


『どうしたんだ、お前が行ったって、何もできないだろ?危ないし』

「なにもできないよ……しってる……」


 夏樹は立ち上がった。


「でも、パパはほうぎょくで、めをみえるようにしようとしてくれてる」

『!?』

「ぜんぶしってるもん……だから……だから……」


 涙を拭う姿に、アキラは居ても立っても居られなかった。


「パパのやくにたちたい……パパとママにめいわくかけたくない……」


 盲目のため、生まれた時から普通の生活は出来なかった。夏樹本人もだが、両親も同じだった。跡継ぎ候補として期待されていた。周りからはそんな子に時間をかけるより、次を作った方がいいというキツイ言葉もあった。しかし、それでも両親は夏樹が良かったのだ。何より心から夏樹を愛してきた。


 両親の辛いとき、嬉しいとき、自分を大事にしてくれている気持ち、全てを理解した上での言葉だった。


『…………分かった』

「?」

『夏樹……みんなを助けに行こう』




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「なんだ、これは……!」


 第二検査室は大混乱だった。子供は泣き叫び、女性は悲鳴を上げ、研究員たちの怒鳴り声が響き渡っていた。

 春樹は急いで検査室の中へ飛び込んだ。


「東雲君!!これはいったいどういうことなんだ!!」

「北条博士!?どうしてここに!?」

「本部側の都合で出発は明日になったんだ!そんなことよりも!この騒ぎはなんだ!!」

「何って……実験ですよ」


 東雲は腹をくくったのか、あざ笑うように言った。


「そんな報告は受けていないぞ。今すぐ中止しなさい」

「これを見てもそんなことが言えますか?」


 東雲は奥のカーテンを開けた。そこには小さな小部屋が出来ており、中に女性が2人寝ていた。


「……!!」

「あなた……」


 そこには明らかに痩せて、顔色の悪い秋の姿があった。


「秋!!どうしたんだ!?」

「あなた……ごめんなさい……」


 抱きしめてくれる春樹の腕を掴みながら、秋は涙ながらに話し出した。


「私には……これぐらいのことしか出来なくて……彼を止めることも……研究所を守ることも……出来なくて……」


 震える唇で続けた。


「でもね……あの子だけは……夏樹だけは……守らないとって……」


 胸に埋め込まれた宝玉に春樹の顔が映った。


「クソッ!ごめんな、ごめん……秋っ……」


 ぐったりする秋をベッドへ優しく寝かしつけた。


「東雲ぇぇぇぇ!!!」

「おい、やれ」


 東雲が指示すると、周りにいた比較的大柄な研究員たちが春樹を取り押さえる。


「痛っ!!」

「あなた……!」


 春樹は腕を取り押さえられ、身動きが取れなくなった。


「いやぁ~感動的ですね~。我が子を命がけで守る母と、それを支える父親。絵にかいたような家族だ」

「っ!」

「そういうの、虫唾が走るんですよね、俺」

「お前っ……!」


 鼻が擦れてしまうぐらいに近づきながら嫌味を言う東雲はさらに嘲笑った。


「おい、連れて行け。こいつにもぶち込んどけ」


 今にも噛みつきそうな春樹は検査室へ無理やり連れて行かれた。


「あぁ……止めて……お願いだから、その人だけは……」

「秋さん、まだそんな喋れる力が残っているんですね~?えっと?適合率は……」

「北条秋さんの適合率は82%です」


 近くにいた研究員がすぐに答えた。


「あぁ、そうか、こっちの女は?」


 秋の隣で寝ていた女性を指さした。


「こちらの野伊原早苗は79%です」

「ふむ……80%が切れ目ってところか」


 秋の隣で寝ている女性は野伊原早苗(のいばらさなえ)。秋以上に元気が無く、かろうじて息をしているレベルだった。


「適合率80%で、尚且つ年は若ければ若いほどいいってところか。今から子供か?」

「はい!」

「これは期待出来そうだ」


 そういうと、東雲と研究員はカーテンを閉め小部屋から出て行った。


「っ……っだ……」


 すると野伊原早苗が急に動き出した。


「野伊原さん……どうしたの……話せるの……?」


 秋は少し起き上がり、様子を見た。


「あす……か……を……」


 今にも消えてしまいそうな声で続けた。


「あすか……っ、たすけて……」

「あすか……?」


 先程の東雲と研究員の会話を思い出し、ハッとした。


「あすかって、もしかして、あなたの……」


 小さく頷き、秋へと伸ばしていた腕が力なく落ちた。


「野伊原さん……!野伊原さん……!しっかり……!」


 何の反応も無かった。


「……!」


 秋は力を振り絞り、カーテンの隙間から検査室の様子を伺った。宝玉を寄生させるところは見えないが、今から検査する人たちは見えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『夏樹、こっちだ!』


 アキラと夏樹も急いで検査室へ向かった。


『ここなんだが……俺は壁をすり抜けられるけど、夏樹は入れないか……』


 夏樹は辺りを見回した。もう大人の姿は無く、子供たちだけが検査の順番待ちをしていた。そのうちの一人に話しかけてみた。


「えっと、けんさをまっているの?」

「うん」

「おかあさんは?」

「わからない。しろいふくをきたひとたちといっしょにあのへやへはいって、でてこないんだ」


 あの部屋とは検査室を指さしながら少年は答えた。


「なまえは?」

「……あすか」

「あすかくん。おかあさんはどんなひと?かみのけながい?」

「うん。ちゃいろのかみのけで、きょうはたしか……ぴんくとしろのふくをきていた」

「わかった」


 そういうと夏樹は検査室の前に立った。


『それだけ聞いてどうするんだよ』

「わからない。でもとりあえずさがしてみる。まだここにいるのか、べつのところにつれていかれたのかをかくにんするために」


 扉を開けようとするが、鍵がかかっていた。すると夏樹は指先から細い氷を生成し、それで器用に鍵を開けた。


『使いこなすの早すぎだろ』


 静かに数センチだけ扉を開けて、中を覗く。検査台が丁度見えた。


「パパ!?」


 そこには春樹が手足を縛られ、宝玉を胸に押し付けれられている最中だった。


「ぐはぁっ……!!」


 春樹は宝玉を入れられたが、すぐに消滅することは無かった。苦しそうにベッドの上でうずくまっている。


「へぇ~、なかなかやるなぁ~」


 そう言いながら東雲はデータを確認する。


「適合率……85%か……クククク……クククク……」


 東雲は楽しそうに笑い出した。


「夫婦揃って優秀だなぁ!」


 その後もハハハ!っと笑い続けている。


「何がそんなにおかしいんだ……」


 少し落ち着いてきたのか、春樹はベッドに座り、東雲を睨みつけた。


「ふっ……まぁ、せいぜい頑張りな。おい、奥の部屋にでも入れておけ。最期ぐらい夫婦仲良く……な」


 ほくそ笑んだ東雲は次の人を呼びに行ってしまった。


「クソッ……」

「あなた!」


 秋のいる部屋へと連れてこられた春樹は、悔しそうに壁を殴った。


「こんなはずじゃ……無かったんだ……俺がしたいのは……」

「あなた……」


 秋は後ろから優しく春樹を抱きしめた。


「私こそ……ごめんなさい……何も…でき……な……くて……」


 そう言いながら力なく足元から崩れ落ちていく秋。


「おい!秋!?しっかりするんだ!さぁ、横になりなさい」


 春樹は支えながら、秋を近くのベッドに寝かせた。


「ごめんなさい……本当に……」


 何度も何度も謝り続ける秋を見ていられなくなり、目を背けた。


「彼女も……助けられなかったの……」


 秋の目線には野伊原がいた。近くにあったタオルを顔から上半身にかけてかけられた状態で、静かに眠っていた。


「ちょっと、ここで待っていてくれ」


 そういうと春樹はどこかへ行ってしまった。


『おい!夏樹!あそこに!』

「ママ!!」


 アキラと夏樹は検査室にこっそり侵入し、奥の部屋へと辿り着いた。


「!?」


 秋は目を見開き、驚いた。ママと呼ぶその少年には見覚えがない。


「えっと……?」

「ママ……」


 夏樹は秋の胸に飛び込んだ。


「……夏樹、なの?」

「うん」


 様々な可能性を考えて、頭をフル回転させた。考えられる原因は1つしか思い浮かばなかった。


「ママ、だいじょうぶだよ」

「え……?」


 夏樹と目が合う。違和感だった。いままで夏樹と会話していて目が合ったことはない。声を頼りにこちらを向いて喋っているが、こんなにはっきりと目が合うことは無かったのだ。


「夏樹……あなた、その目……」


 よく見ると夏樹の目は青色だった。嫌な予感が当たってしまった。


「みえているよ、ぜんぶ。アキラのおかげなんだ」

「!?」


 とっさに周りを見渡すが見えるわけもなく、ついアキラを探してしまった。


「どうして!?ねぇ!!どうしてなの!!そうならないために私たちは……!!」


 夏樹の肩を持ち、激しく揺すった。夏樹を宝玉から守るためにすべてを犠牲にしてきた。それなのに夏樹は自らその道を選んだのだ。


「宝玉を寄生させることが、どういうことか、分かっているの!?」

「うん……ごめんね」

「分かっていないでしょう……!?あなたは、だって……まだ、こんなに小さい……」

「もう、おいてけぼりはいやだ。みんながこまっているのに、なにもできないのはいやだ」


 涙が止まらなかった。我が子が人ではなくなってしまったのだ。それと同時に、我が子の成長を感じるとさらに涙がこぼれ落ちた。


「ママと、おなじ」


 そういうと夏樹は小さな手を秋の胸にそっと置いた。


「……!」


 そう言いながら笑う夏樹を見て、今まで力んでいたのか、全身の力が抜けた。そして自分の不甲斐なさと、東雲に対する怒りが込み上げてきた。


「夏樹、あなたに頼みがあるの」


 意を決して秋は夏樹に言った。


「のいばらあすかって子をここに連れてきてほしいの。あそこで横になっている方の子供さんのようなんだけれど、会わせてあげたくって」


 秋はもう立ち上がることは出来なかった。話しているのも辛いほど弱っている。もう長くないのが自分で分かった。最期に自分が出来ることをしようと、心に決めたのだ。


『おい!あすかって奴、さっきのか!?』


 一番に反応したのはアキラだった。確か先程検査室前で順番待ちをしている子がそう名乗っていたような気がする。


「……わかった」


 夏樹はそう言うと走って部屋を出て行った。


「あれ……?」


 先程あすかと名乗った少年が座っていたはずの椅子には違う子が座っていた。


『おい、まさかっ』


 アキラは慌てて検査室を覗いた。そこには予想通り、あすかが検査台の上で苦しんでいた。


『夏樹!ダメだ!もう、始まっている!』

「っ!」


 あすかは一命を取り留めた。すぐに消滅していしまうことは無かったが、経過を見るために病室へと運ばれていった。


「……このままじゃだめだ」

『え?おい、あすかって子のところ行かねぇと』


 夏樹はその場に立ち止り、動こうとしない。


「……こんなじっけん、おわりにする」


 そう言うと、夏樹は走り出した。


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