(1)デアイ
「私が、第202期生リーダーの長谷川綾芽です」
ざわついていた会場全体に届くように、人一倍大きな声で言った。全員の視線が綾芽に向いた。
「私は、レイズです」
静まり返っていた会場が一気にざわつきはじめた。
「おい、聞いたか?今回のリーダー女だってよ」
「しかも、レイズってどういうことなの?」
「女レイズなんて聞いたことねーぞ」
さまざまな意見が飛び交う中、綾芽は続けた。
「今、女レイズなんて……とか、大丈夫か?と、思ったヤツ……お前らよ~く聞けっ!!」
そして、大きく息を吸い込んだ。
「私たち、第202期生は!必ず!太陽を取り戻すっ!!」
そう吐き捨て、壇上を降り、颯爽とその場を立ち去った。
全世界すべてを包み込んでいた太陽は、今から約200年程前に、突如姿を消した。いや、正しくは太陽が粉々に崩れ落ち、宝玉と化して流れ星のように空から降ってきたのである。基本的には人間界、地球に降ったのだが、ごく稀に異世界へと紛れ込んでいるものもあるとか。
今は人工的に作られた、人口太陽が空に存在している。これはただ暗い世界を光で照らすだけの役割を担っている。太陽のように優れたものではない。
中でも優秀な適合者を1グループとし、このグループを中心に活動していくシステムだが、前期生が何らかの形で活動出来なくなった場合は、新たにグループが構成される。今日はその新たなグループ、第202期生の代表者あいさつだったのだ。
「綾ちゃん、やっちゃったネ」
「どうして?」
無事に?あいさつを済ませてきた綾芽に1番に声を掛けてきたのは、元機動部隊所属の、山城さくらだった。
「だってさ~、あんなこと言っちゃったら、絶対にやんなきゃいけないじゃン」
「私は、出来ることしか言わないわ」
「いやいや……綾ちゃんは大丈夫かもだけド……」
前髪に止めているピンを直しながら、さくらは呟いた。
「ハハハ、そういうヤツだってわかってんだろ??」
同じく元機動部隊所属のメンバー内最年長の雛罌粟皐が、さくらの頭をポンポンと叩きながら会話に入ってきた。
「まぁた、そうやって大人ぶル~」
さくらは口をとがらせた。
「俺はお前よりも大人だ」
「あ、いたいた~」
「どうしたんだ慌てて、いづみらしくないな」
医療班所属の上田いづみが、少し小走りで近づいてきた。髪の毛からか洋服からかは分からないが、とてもいい匂いがした。
「葦井さんが話があるから、すぐに部屋まで来るようにだって~」
宝玉を力に変えることができる人間は、適合者と呼ばれる。適合者の中でも力の違いがあり、大まかに3つに分類される。L=レイズ、R=ロイズ、H=ヘルツに分類され、その頭文字を取ったLRHという名の施設に皆住んでいるのだ。また、この施設は人間界にあるのだが、異世界へ移動することの可能だ。逆に言えば、LRHから全世界へと行くことも可能なのだ。その最上階が、LRH最高責任者の葦井龍の部屋である。
「失礼します」
綾芽、皐、さくら、いづみの4名が呼ばれた。全員、第202期生メンバーである。
「何ですかァ~?」
「何ですかじゃないだろ、残りのメンバーについてだ」
葦井はメガネを人差し指で少し上げながら言った。ちなみに各期生は6名で構成される。
「えっ!マジですカ~どんな子~?」
テンションの上がるさくらをよそに、葦井は続ける。
「1人は、前からここにいる子だ。かわいいんだぞ~」
「……嫌な予感しかしないんだけド」
「確かに」
さくらと皐は冷めた目で葦井を見る。
「どうして?」
綾芽は意味が分からないと両手を広げてみた。
「あ、そっか。綾ちゃんはこの前ここに来たばっかだから知らないのカ」
「うん……」
「まぁ、なんだ……簡単に言うと、葦井さんは変態なんだよ」
申し訳なさそうに皐は言ったが、面白がっているようにも見えた。
「ふ~ん……」
綾芽は疑いの目で葦井を見つめた。
「何だその目は!今回は本当にかわいいんだぞっ!!」
「いや、誰もかわいくないなんて言ってないですヨ~」
すると、4人の背後からは怒りに満ち溢れた重々しい空気が流れてきた。
「俺のこと、かわいいって言わないで下さいって何回もお話してますよね?耳付いてますか?」
声のする方には、小柄だが美形の眼鏡をかけた男の子が立っていた。
「おぉ、夏樹。さぁさぁ、こっちにきてきちんと挨拶しなさい」
葦井は夏樹を自分の側まで来るように促した。
「……初めまして。LRHのシステム課に所属していました、氷室夏樹です」
夏樹は葦井の言葉は無視し、その場で少しだけ会釈した。
「わぁ、今回は本当ニ……」
「……かわいいわね~」
全員の反応に苛立ちを隠せない夏樹だったが、何でもないという素振りをした。
「こらっ、夏樹!俺を無視するんじゃない!」
「はぁ?変なことばっかり言っていると、その中途半端に長い髪の毛……凍らせますよ……?」
「うぅ……」
「葦井さん……。何ビビッてんすか」
皐は苦笑いした。
「……皐。夏樹のこういう発言は決して冗談ではないのだ。よく覚えておくように」
「ふふっ、はいっ……」
皐は笑いが止まらなかった。
「そんなことは置いといて、残りの1人は?」
夏樹は葦井に問うが、何故か綾芽が答える。
「もう1人は、今から迎えに行くのよ」
「あぁ、行って来い。待ちくたびれているだろうよ」
満面の笑みの綾芽をよそに、他の皆は不安そうに聞いた。
「……どこに?」
「刑務所よ」
綾芽の言葉に、唖然とするメンバーであった。