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紅蓮のレイズ〜太陽奪還説明書〜  作者: ちよこれいと
第二章
16/22

(5)リユウ

 あの作戦から約1週間が経ったころ、新第一部隊が発足した。


「新第一部隊隊長!雛罌粟皐!前へ!」

「はっ!」


 今日はその任命式だ。皐は舞台に上がり、総司令官から任命書とバッジを受け取る。


「しっかり、やるんだぞ」

「はっ!」


 実の父親である雛罌粟総司令官から激励を受ける。


「続きまして、新第一部隊副隊長!神崎百合!」

「はっ!」


 皐は舞台を降り、新第一部隊隊員の任命式を見守る。見た目は新隊長の表情を作っているが、心はすさんだものだった。


(腐っている……)


「続きまして、新第一部隊隊員!3名!」

「はっ!」


(全員……腐っている……。あれから1週間しか経ってないんだぞ……)


「半澤桃李!」

「はっ!」


(柏木隊長たちは今だ行方不明……。なんで平気な顔していられるんだよ……新第一部隊?……っふざけている…………!)


「桐ヶ谷和哉!」

「はっ!」


(俺が新隊長とか……ありえない。こんなの間違っている……)


 皐は新隊員の任命式を眺めながら、ボヤくことしか出来なかった。

不満はたくさんある。納得していることなんてひとつもない。まだ………あの時の傷は癒えていないのだ……。


「最後!暁奏多!」

「はッ!」


(くそっ…………)


 苛立つことしか出来ない自分に腹が立つ。イライラしながらも、任命式は幕を閉じた。


「た、隊長!」


 一人の女の子が声を掛けてきた。


「ん?」

「きょ、今日から!よ、宜しく、お願、いしますっ!」


 その子は新第一部隊副隊長に任命された、神崎百合だった。


「あぁ、よろしく。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」


 皐は穏やかに笑顔を作りながら、百合の肩をポンっと叩いた。


「あ、はい!ありがとうございます!」

「神崎だけずりぃぞー。俺だって隊長に声掛けられてぇしー」

「桐ヶ谷うるさいぞ。声掛けられたかったら、お前も神崎みたいに、声掛けろよ」

「んだとー。桃李のクセにー」

「意味不明だ……」


(眩しい……こいつらは、まだ汚れていないんだな……)


「隊長さん、宜しくネ〜」


 皐がそんなことを思っていると、一際軽いノリで挨拶してきた者がいた。


「ちょっと、奏多!隊長に失礼よ!」


 百合が慌てて止める。


「え?そうカ?いいじゃん、別二」

「よくないわよ!雛罌粟隊長、すみませんっ」


 百合が代わりに頭を下げる。


「ふっ……」


 その光景に、皐は思わず吹き出してしまった。


「え?隊長??」

「いやぁ、ごめんごめん。お前たち、面白いな」


 あの、すさんだ気持ちが少し楽になったような気がした。


「いやぁ、それほどでモ」


 何故か奏多が照れてみせた。


「おい、奏多。なんでお前が照れる?」


 すかさず半澤がツッコむ。


「え?だって、隊長さぁ〜。任命式のとき、ずっと難しい顔してたかラ」

「え………?」


 皐は目を見開いた。


(まさか……顔に出ていたのか!?)


「え?私には普通に見えたけど……」


 百合は首を傾げた。


「いや、あれは何か別のこと考えてた顔だナ!」


 奏多は何故か自信満々に言い切った。


「その自信はどこから……」


 半澤は呆れていた。


(あぁ、そうか……)


 皐は、奏多の発言を聞きながら思った。


(俺は……隊長なんだな……。柏木隊長と同じ立場まで来たんだ……。いつまでも現実逃避してちゃダメだ……。こいつらを……あんな目に遭わせてはいけない………!)


「暁は鋭いな。参ったよ」


 皐は苦笑いをした。そして、真剣な顔でみんなに告げた。


「俺は、隊長としてはまだまだだ。頼りない面もあると思う。でも、お前たちとならやっていける気がしているんだ。……こんな俺で申し訳ないが、付いてきてくれるか………?」


 皐は怖かった。自分で聞いたにも関わらず、みんなの返事が怖かった。


「もちろんです。私、神崎百合は、どんなことがあろうと、雛罌粟隊長に付いていくつもりです」

「俺もー。雛罌粟隊長って、なんかかっけーしー」

「僕もです。付いていく気がないのなら、この場にいませんよ」

「俺も、隊長は雛罌粟さんじゃなきゃ、嫌だネ」

「お前ら……」


 皐は皆の言葉に心打たれた。自分がしっかりしなければ……。改めてそう思ったのであった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 新第一部隊発足から数か月が経った。発足してからというもの、立て続けに戦闘が繰り返されて、息つく暇もないぐらいだった。

 今日はやっと落ち着きを取り戻しつつあった。珍しく午前中の出撃はなく、午後になってもゆっくりとした時が流れていた。しかし、いつ何があるか分からないため、隊員は控室で万全な状態で待機していなければならないのだった。


「今日は何もなければいいナ~」


 奏多が伸びをしながらつぶやいた。


「そうね」


 百合もそれに頷いた。


「みんなすまないな。発足してからというもの、バタバタと慌ただしかった。今のうちにゆっくり休養をとっておいてくれ」

「はいっ!」


 皐の言葉に全員が返事をした。それを言ってから、皐は少し自分の部屋で休もうと、控室を出た。


「ふぅ……」


 自室に到着するなり、ベッドに倒れ込んだ。ここ数か月動きっぱなしだったのだ。だいぶ疲労が溜まっている。

 目を瞑り、柔らかな布団に身を委ねながら、意識が朦朧としてきた。


 バンッ


「おい!皐!どういうことだ!?なぜ!新第一部隊が発足している!?」


 勢いよく扉が開かれたと同時に、蓮の叫び声が聞こえた。夢の中へと行きかけていた皐は、何とか目を覚まし、連を見た。


「どうしたんだ?」

「どうした、じゃねぇ!なぜ!お前が第一部隊新隊長として任務をこなしているのかって聞いてんだよ!」


 蓮は皐の胸ぐらを掴みながら聞いた。


「俺は指示に従っているだけだ」

「なに!?」

「隊長になって任務を遂行しろっていう指示に従っているだけだ」

「てめぇ………!」

「何事だ!?」


 蓮が握り拳を振り上げたところに、藍沢教官がやってきた。藍沢教官は慌てて蓮の腕を止めた。


「藍沢教官……。少し下がっていてもらえませんか?」

「えっ??」


 蓮はもう一度拳を振り上げ、皐の頬を勢いよく殴った。


「っ……!」


 皐はそのままベッドに叩きつけられた。蓮はベッドによじ登り、再び皐の胸ぐらを掴みながら問いただした。


「なぜ!あのとき!柏木隊長たちを置いて戻ってきた!?」

「…………」

「お前の他に、一緒に逃げられる奴はいなかったのか!?」

「…………」

「なぜ!栞那を置いてきたんだっ……!」

「っ…………」

「おい!何か……」


 ずっと黙ったままの皐に対して、何か答えろと叫ぼうとしたが、蓮は黙った。それは、皐が目から静かに涙を流していたからだ。


「っと……」

「……なんだよ、皐、お前……」

「やっと……。責められた……」

「んん……?責められた……?」


 皐はそのまま涙を流しながら続けた。


「俺だけ戻ってきて……絶対に機動部隊全員から責められると思っていた……。ここから追放されると、辞める覚悟までして、戻ってきた……。なのに……」


 蓮は胸ぐらを掴んでいる手を緩めた。皐はそのまま続けた。


「なのに……。戻ってきた俺を、みんなは祝福したんだっ……。よかった、戻って来れてって、疲れただろうから少し休みなさいって……。俺を責める奴なんて一人もいなかったんだ……」


 皐は唇を噛み締めながら言った。


「新隊長になって………普通に任務をこなして………それが日常になって………。俺は……俺は、自分の犯した罪を………っ」

「もう、いい!」


 蓮は、皐の言葉を遮った。それ以上、皐の口から弱音など聞きたくはなかったのだ。


「…………噂で、皐が一人で逃げてきたって聞いた。いつもの理由で、逃されたって言っている奴もいた。それは本当なのか………?」


 いつもの理由とは、総司令官の息子だということだ。蓮は恐る恐る聞いた。


「……逃げるのは、命令だったんだ」


 涙を拭いながら答えた。


「命令?」

「あぁ。敵側の目的は、おそらく機体の情報収集だということが分かってな……。それで、最新機の情報が漏れたら一番ヤバイってことになって……」

「それで、最新機に乗っている皐が逃された……と」


 皐は頷いた。


「逃げられそうな機体全て引き連れて、逃げるつもりだった……。最後……栞那と2人で……」

「逃げてたのか?」

「あぁ。でも追手が来ていることを前を行っていた俺は気が付かなくて……。気づいていた栞那が……」

「残って、そいつらの足止めをしたんだな」


 皐は唇を噛みしめながら頷いた。蓮は胸ぐらを掴む手を緩めた。


「…………なぁ、蓮」

「……なんだよ」


 ベッドに座り込み、俯きながら皐は呟くように聞いた。


「やっぱり俺は……あいつの息子だから生かされたのかな……」

「あぁ?それは違うってさっき……」

「あの人は……隊長は、優しい人だった……。俺に気をつかって、あんなことを言ったんだろうな……」

「おい……。命令だったんだろ?柏木隊長だって上からの命令で……」

「……そんなわけねぇだろっ」


 今度は皐が蓮の胸ぐらを掴んだ。


「今まで生きてきたから分かるんだよっ!俺は!!いつもあいつ有きで存在していたんだっ!あいつの息子だからっ!あいつの跡継ぎだからって!!新型機に搭乗することになったところからっ!!全てはっ……始まっていたんだよっ……!!」

「っ……」

「こんな人生なら…………。いらなかった…………!」

「お前っ!!」


 二人は今にも殴り合いになりそうな雰囲気だった。


「栞奈の気持ちを考えても、そんなことが言えるのかよ!!あいつはな!あいつはっ………、お前のこと…………!!」

「そこまでだ!二人とも!!」


 このままではらちが明かないと判断した藍沢教官は、二人を無理やり引き剥がし、間に立った。


「二人とも少し頭を冷やしなさい。蓮、今すぐこの部屋を出て行きなさい」

「っ……」

「早く!」


 蓮は、苛立ちを隠さずに、部屋を後にした。


「皐、お前も少し頭を冷やしなさい。あと……」


 藍沢教官はそう言いかけると、1枚の紙を皐に渡した。


「私は、これをお前に届けにきた。ここには、お前が新隊長に選ばれた理由が書かれてある。これでも読んで頭を冷やせ」


 藍沢教官はそれを無理矢理に皐に持たせて、部屋を出て行った。


「…………」


 興奮した頭で、皐はそれを眺めていた。興味もないが、なんとなく中を開いて見てみる。


『次期新隊長の件』


 一行目にはタイトルが書かれてあった。それは紛れもない、柏木隊長の文字だった。


「っ!」


 皐は先程の興奮が吹っ飛び、手紙に意識を集中させながら、続きを読んだ。


『この手紙を読んでいるということは、もうそこに俺はいないはずだな。そんな急な出来事のために、俺が推薦する次期新隊長候補を挙げておこうと思う。それは、雛罌粟皐だ』


 そこには、はっきりと皐の名前が書かれていた。


『理由は、あいつなら俺の後を任せられると思ったからだ。技術はもちろんのこと、人望もある。だれかさんの息子だからとかじゃないぞ。言ったはずだろ?俺は、特別扱いはしないって。俺は皐が気に入ったんだ。皐は良いヤツだ。簡単に言うと理由はそうなる。表にはあまり出してはくれないが、絶対に良いヤツだ』


 そこには、皐のことを純粋に褒める言葉ばかりが書かれていた。


『難しいことは言わねぇよ。俺はバカだからな。でもこれだけははっきり言っておく。俺は、次期新隊長候補に、雛罌粟皐を推薦する』


 手紙を持つ皐の手に力が入る。よく見ると、二枚目があった。


『皐へ』


 タイトルが変わっていた。皐は緊張しながら、読みはじめた。


『よぅ!元気か?お前は怒っているんだろうな。なぜ俺なんだ?と。自分が新隊長なんて、馬鹿げているってさ』

「っ!」


 それは、全てを見透かされているような文面だった。今書いたのか、そう思うぐらいに……。


『それでいいんだ。そう思っている隊長がいたって全然構わねぇよ。自分のやりたいことをすればいい。隊長に任命されたからといって、続ける必要はない。人間には向き不向きがあるからな。ただし………。逃げるのは、違うぞ』


 そこからの文面は少し黒ずみが多かった。多分、いろいろ書き直しながら、真剣に書いてくれたのだろう。


『逃げるのと、諦めるのは許さない。他にどうしてもやりたいこと、やらなければいけないこと、自分にしか出来ないことがあるのなら、隊長なんて辞めちまえ。でも、現実から逃げるために、全てを諦めるために辞めるのなら俺は許さないからな。まぁ、お前は、そんなヤツじゃないことぐらい、お見通しだかな!』


 涙が、止まらなかった。どうしてこんなにも自分のことを理解してくれているのか、どうしてこの人が、今、ここにいないのか。嬉しさと悔しさが混じりあった涙が止まらなかった。


『皐、機動部隊を、お前に託す』


 この一文が最後だった。


「くそっ……。勝手なことばっかり言いやがって……!なんだよぉっ………」


 拭っても拭っても、涙が溢れてくる。


「隊長っ………隊長ぉっ……!すみませんでした………っ!……おれ、おれ……」


 言葉にならない言葉が溢れてくる。


「ぅわああああぁぁぁぁ………」


 今まで抱え込んでいた何かが、全て、涙と叫び声となり、溢れだした。手紙を握りしめながら、皐は、ただひたすら泣き叫んだのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 新第一部隊発足後、約十年の月日が流れた。第一部隊の絆は深まり、信頼関係も申し分ない。

 しかしあの喧嘩の後、皐と蓮の仲はぎくしゃくしたままだった。蓮が第二部隊隊長に就任したこともあり、お互い顔を合わせることも少なくなっていた。

 そしてろくに話もしないまま十年が経ってしまった。


「雛罌粟隊長……。決意は変わらないのですね……?」

「はい」

「暁隊員も?」

「もちろんでス」

「はぁ………」


 藍沢教官は大きなため息をついた。それもそのはず、ついに恐れていた事態がやってきたのだ。それは、レイズ側からの要請だ。機動部隊を含めて、LRH以外で任務をこなしている人間の中には、適合者が何人もいるのだ。自分の意志でLRHに所属しなかった者たち。その中から、今回はLRHへ助っ人としての要請が出ていた。もちろん、所属したくないからしていないわけで、あちら側に行く者など一人としていない、と思っていたのだ。


「どうしてそうなるのよ。どうして私の教え子なのよ………」


 藍沢教官は再びため息をつきながら、皐に尋ねた。


「で、青木大佐の答えは?」

「青木大佐は了承済みです」

「はぁ………」


 藍沢教官は頭を抱えた。


「あの………」

「暁はいいのよ、別に」


 皐が何か声を掛けようとすると、藍沢教官は大きな声で言った。


「皐……。あなたはダメでしょ〜……。総司令官にこの話は?」

「いえ、言ってませんが」

「どうして!?」

「いや、別にあの人に報告は必要ないかと。すぐに分かることですし」

「報告とかじゃなくて!相談は?したの?」

「いえ、してませんが……」

「!?」


 目眩がした。実の父親に相談もなしに、向こう側へ行こうとしているのか、と。


「青木大佐も了承済みならば、私が反対する理由はないわ。ただ……」


 藍沢教官は二人の目をしっかりと見た。


「これで、後悔しないのね?」

「はい」


 二人は即答した。


「分かりました。明日から、雛罌粟皐と暁奏多はLRHへ異動。必ず、生きて戻ってくること。わかりましたか?」

「はい」


 二人は生半可な気持ちではなく、心の底から頷いた。



 それから2人の異動が知れ渡るにはそんなに時間はかからなかった。

どうして、行ってしまうんだ。なぜだ……なぜなんだ……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「だよ…………これ、全然動かし方がわからない……」


 蓮は、誰かのぼやき声で目を覚ました。


「っ!?」



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