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紅蓮のレイズ〜太陽奪還説明書〜  作者: ちよこれいと
第二章
14/22

(3)トクダイ

 ――――3日後合同作戦当日


「全員、配置についたか」


 小型通信機を通して、青木大佐が作戦に関わる全ての人に問いかけた。


「完了しました!」

「完了です!」

「こちらも問題ありません!」


 機動部隊総勢約300名、適合者7名の合同作戦である。場所は砂漠の中で1番広いと言われている、ラルジュ砂漠だ。風はそこまで強くはないが、砂煙があちらこちらで舞い上がっていた。


「てゆーかサー」


 まんべんなく待機しろ、という指示に従って、バラバラに待機している綾芽たちは、自分たちしか聞こえない宝玉を通しての通信で会話をしていた。


「さくらどうしたの?」

「いや、砂漠とか聞いてなかったしサー」

「まぁな」

「暑いしサー」

「私は大丈夫」

「そりゃ、綾ちゃんは火の塊だからサー」

「何よ、その言い方……」

「それにこんなに大勢を、何かあったときに助けろ、なんてサー」

「確かに多いわね~」

「何かある、なんて最初から思っていないんだろ」

「なっちゃん……言うネ~」

「しかもよぉ、メディア来てんじゃねーかよ」


 テレビやラジオ等の記者やカメラマンたちもたくさん来ていた。それほど世界的に注目されているミサイル実験のようだ。凌が待機しているところはメディアに1番近いところだった。


「全国に流れるから、私たちも呼ばれたのね」

「どういう用件で呼ばれたかはあまり考えない方が無難だな」

「綾芽くんたち、大丈夫か?」


 青木大佐が全員共通の小型通信機で確認を取ってきた。


「あ、はい。こちらも準備は整っています」

「了解した。では、大型太陽の欠片(サンビッド)出現次第、作戦を開始する」

「てゆーかー、なっちゃんだけずるイー」


 再び宝玉の通信を使ってさくらが話しかけてきた。


「ん?なにがだ?」

「だって、なっちゃんだけ中にいるシ。暑くないじゃーン!」


 夏樹はトレーラーと呼ばれる大型戦闘車の中で待機している。ここには雛罌粟総司令官をはじめとする、そうそうたるメンバーが戦況を見守っているのだ。ちなみに、山吹大佐はここで予備の隊員として待機している。


「最悪の場合はここの人たちだけでも守れっていう指示だからな」

「そうなの!?」

「お偉いさんのボディーガードってことかよ」


 綾芽と凌は苦笑いをした。ちなみに、さくらは百合が搭乗しているヒーヴァルの近くで、皐は猫柳が搭乗しているレファメイシャンの近くで待機している。凌はメディアの近くで、綾芽は第一前線部隊の傍だ。いづみは機動部隊救護班が待機しているところで一緒に見守っていた。


「何かが起こる気がするわ……」


 綾芽がつぶやいたとき、遠くの方から太陽の欠片(サンビット)の姿が見えた。もちろん大型種もたくさんいるようだ。



『クククク…………。では、実験を始めましょうか…………』



「いいか!今回の標的は大型種だ!それに巻き込まれて小型種もせん滅することが出来る!大型種を始末することを考えろ!第一線部隊!全速前進!」


 青木大佐の掛け声に応えて、一斉に行動を開始した。作戦の火蓋が切って落とされたのだ。

 今回の大型太陽の欠片(サンビッド)は、スライムのような形をした、表面が液状になっていた。一応腕や足のような部分が見受けられる。


「始まったな」

「えぇ。しかし、ミサイル弾は何発用意しているのですか?」


 葦井のつぶやきに答えつつ、夏樹は楠に尋ねた。


「今回用意したミサイルは全部で120です。レファメイシャンに60、ヒーヴァルに60の配分となっております」

「そうですか……」


(今までの大型種目撃情報の最高数は約50。それの倍の数が現れても対応できる量だな。もしも一発で消滅しないタイプが現れたとしても余分はある。まぁ、妥当な数か……)


 夏樹は腕組みをしながら考えた。しかし、ただでは終わらな気がしてならなかった。


「第一線部隊!大型太陽の欠片(サンビッド)に接触!交戦を開始しました!!」


 戦況状況等を把握する補助役の女性が報告した。


「猫柳!!一発ぶちかましてみろ!」

「はい!!」


 青木大佐の指示に従い、猫柳隊長は一発目を発射させた。


「くらいやがれっ!!!」


 大きな騒音とともに発射されたミサイルは、みんなの視線と期待を一身に受け大型太陽の欠片(サンビッド)へと向かっていった。そして見事に命中。ドカンッと音を立てながら爆発した。それと同時に小型ミサイルが中から現れ、周りの小型太陽の欠片(サンビッド)にも命中した。何度かの爆発を繰り返し、その場が静まり返った現場を見ると、そこらへん辺りいったいの太陽の欠片(サンビッド)たちが消滅しているのが確認できた。その光景を目の当たりにしたその場にいる人々は、みな声を揃えて歓声を上げた。


「みなさん!ご覧いただけたでしょうか!ミサイルが落下した場所には何一つ残っておりません!これが!機動部隊の力なのです!!」

「ご覧ください!!皆様!跡形もなく消滅しています!!」

「猫柳隊長!やりましたね!!」

「あぁ!想像以上の威力だ……!」

「楠君、予定通りだね?」

「はい。問題ありません」


 メディアは興奮をそのままに視聴者へと伝え、機動部隊員たちも手を叩いて喜んだ。雛罌粟総司令官もこの光景に満足しているようだった。


「猫柳!神崎!その調子でどんどんミサイルで倒して行け!他の者は2人の援護だ!2人が出来るだけミサイルを撃ちやすい環境を作ってやれ!!」

「はっ!」


 青木大佐の指示に従い、作戦は順調に進んでいた。ここまでは……。


「青木大佐!向こうから次々と大型太陽の欠片(サンビッド)がやってきます!」

「俺も把握している。いいか猫柳、ミサイルは余分に用意してもらっている。遠慮なく使っていけ」

「了解しました!」

「神崎も問題ないな?」

「は、はい!順調です!」


 大型太陽の欠片(サンビッド)はミサイルによって次々と消滅していく。その爆風に逃れた小型太陽の欠片(サンビッド)は青木大佐他、猫柳と神崎以外の機動部隊が対処していた。綾芽たちは一切手を出していない。



『クククク…………。そうですか、そう来ますか…………。これは思ったよりも楽しめそうですねぇ…………』



「大佐!!大型太陽の欠片(サンビッド)たちが合体を始めました!!」

「なに!?」


 太陽の欠片(サンビッド)たちも自分たちが生き残るために必死なのだ。大型太陽の欠片(サンビッド)同士が融合し、合体してさらに大型になっていた。


「大きくなろうと、我々のやるべきことは同じだ!!」

「はい!」


 百合は構わずさらに大きくなった太陽の欠片(サンビット)にミサイルを放った。命中はしたが、今までとは違い一発では消滅しなかった。


「そんなっ……!」

「うろたえるな、神崎!ここまでは計算通りだ!消滅するまで放ち続けろ!」

「は、はい!」


 二発目を命中させて、ようやく消滅した。


「ふぅ」

「単純に二つが融合したから二発で消滅、といったところでしょうか」

「そうだな……」


 冷静に分析する橘に相打ちを打った雛罌粟総司令官だったが、その表情は浮かない様子だった。


(単純計算なら、な……。やっぱりこの戦い、ただでは済まないのかもな……)


「夏樹……。最悪の事態も頭に入れておいてくれ」


 葦井も同じことを考えていたのかは不明だが、夏樹にしか聞こえないほどの小さな声で伝えてきた。

 夏樹は声は出さずに、小さく頷いた。



『クククク…………。これならどうですかな…………?』



 もう一息というところで、急に太陽の欠片(サンビッド)たちの動きが止まった。そして、小型から大型、すでに融合している大型全てが一点に集まりだした。


「ねぇ……もしかしてサ……」

「あぁ……」

「大佐!!」

「あぁ、俺も見ている」


 一点に集中している太陽の欠片(サンビッド)はどんどん大きくなり、凶暴化していき、残り全ての太陽の欠片(サンビッド)と合体してしまった。


「なっ……」

「た、大佐!どうしますか!?」


 猫柳は慌てて青木大佐の指示を仰いだ。


「……猫柳、神崎、ミサイルの残数は?」

「残り15です」

「私は12です」

「……そうか。もう敵は特大太陽の欠片(サンビッド)しかいない。全てのミサイルを使ってヤツを消滅させるんだ……!!」

「了解!!」


 二人は残りのミサイルを休む間もなく放ち続けた。特大太陽の欠片(サンビット)は、ミサイルが命中しては悲鳴を上げ、苦しみながらも腕のような部分を振り回して反撃してきているようだった。


「何か、全然手応えがありませんね……」

「確かに……。だが、確実にダメージは与えれているはずだ」

「そ、そうですよね……」


 猫柳と神崎はあくまで前向きに考えた。しかし、残弾数が底をつきそうになったころ、特大太陽の欠片(サンビット)が大きく動いた。


「オォーーーーーーーー」


 怒りが頂点に達したようだ。超音波のような鳴き声を発した瞬間、全ての機械が停止した。


「えっ!?」

「何だ何だ!」


 トレーラーの中の電気、通信機器、そして、リファメイシャンとヒーヴァルを含む全ての機体が停止してしまっていた。


「うそっ!?これじゃあミサイルが撃てないわ………!」

「神崎落ち着くんだ!予備電源に切り替えろ!」

「あ、は、はい!」

「猫柳くん、聞こえる?」


 トレーラーも予備電源に切り替わったようで、山吹大佐から通信が入った。


「はい、聞こえます」

「残念だけれど、予備電源ではミサイルは発射出来ないのよ…………」

「え…………?」

「ミサイルを発射させるには莫大な電力を必要としていてね。緊急停止した場合に予備電源が搭載されているけれど、それはあくまで脱出用なのよ。仮に予備電源でミサイルを発射出来たとしも、その後は一歩も動けなくなるわ」

「そんな!ここで逃げ出せと言うのですか!」

「それは……」

「きゃあっ!」


 山吹と猫柳が口論になっているうちに、特大太陽の欠片(サンビット)は百合の方へと移動していた。


「オォーーー」

「来ないでっ!」

「神崎!!」

「た~つ~ま~キ~~!!」


 頭で考えるよりも体が先に動いていた。さくらは猫柳が叫ぶと同時に、特大太陽の欠片(サンビット)とヒーヴァルの間に白風竜巻(ホワイトトルネード)を発生させて、ブロックした。


「神崎!!大丈夫か!?」

「は、はい……」

「百合ちゃん!今のうちに下がっテ!!」

「は、はい!」


 百合は特大太陽の欠片(サンビット)と距離を取った。


「クソッ。お前の相手は俺がする!!こっちへこい!!」


 猫柳はレファメイシャンに搭載されている銃で、特大太陽の欠片(サンビット)を攻撃した。もちろん、これで消滅するわけではない。威嚇射撃みたいなものだ。


「オォーーーー?オォーーーーーーーー!!」


 最初は不思議そうに攻撃されたところを眺めていた。しかし、すぐに理解したようで、少し怒りながら狙い通り猫柳の方へと移動し始めた。


「猫柳隊長!!危険です!!」

「神崎!お前は下がってろ!俺なら大丈夫だ!」

「オォーーーーーーーー!」


 勢いそのままに、特大太陽の欠片(サンビット)は、猫柳の搭乗しているレファメイシャンに殴りかかった。


「っ!!」


 それを搭載されている宝玉と同じ効力を持つ剣で受け止めた。しかし、受け止められたのは一瞬だけで、剣は無残にも粉々に粉砕されてしまった。そのまま特大太陽の欠片(サンビット)の腕部分がレファメイシャンに直撃。剣を持っていた右腕が吹っ飛んだ。そして、予備電源の電力までも奪われてしまった。

 右腕から煙を出しながら、後ろへ倒れたレファイメイシャンからは、生気が感じられなかった。


「猫柳隊長…………!!」

「猫柳!!おい!!猫柳!!……くそっ、生存確認すら出来ないではないかっ!」


 百合や青木大佐をはじめとするたくさんの隊員たちは、猫柳の安否を心配した。

 全ての機械類が予備電源に切り替わっている今、万全な態勢で戦闘は出来ない。頼みのミサイル搭載機は片方は大きなダメージを負っている。しかも、予備電源ではミサイルは使えない。敵は合体を繰り返し、より強力になっている。ミサイルテスト作戦のはずが、思わぬ危機に直面していた。


「山吹大佐、これはいわゆる”最悪の事態”ですか?」


 トレーラーで待機している葦井は、戦況を見ながら静かに聞いた。


「………………そうなります、ね」


 出来るだけ適合者の力を借りたくはない機動部隊は、判断に迷っていた。


「っ………」

「適合者に援護してもらおう」


 緊迫した空気の中、雛罌粟総司令官が口を開いた。


「しかしっ」

「山吹君、大丈夫だ」

「はい……」

「では、こちらも動いても構いませんか?」

「あぁ、しかし条件がある」

「存じ上げております」


 葦井は全てを悟った目で雛罌粟総司令官に答えると、夏樹の目を見た。


「……わかりました」


 夏樹はため息を小さくつくと、電気は関係のない宝玉の通信でみんなに連絡した。


「おい、みんな!だいたいわかっていると思うが、この状況を打破しろ!ただし……」

「機動部隊を立てろ!……でしょ?」


 夏樹が言う前に綾芽が言った。


「あぁ、その通りだ」

「わかっているわよ、そんなこと」


 どこか楽しそうに言う綾芽に呆れながらも、夏樹は肯定した。


「みんなっ!メディアが見ているわ!!全て穏便に済ませるわよ!!!」

「おっけー!!」


 みんなは、綾芽の一声に元気よく返事をした。


「綾芽!俺は猫柳の安否を確認するから、特大太陽の欠片(サンビッド)の相手任せられるか?」

「了解、私が遊び相手になってあげるわ!!」


 綾芽は猛スピードで特大太陽の欠片(サンビッド)に斬りかかった。向こうも直前で察したようで、腕のような部分で受け止めた。


「やるわねぇ!!」


 特大太陽の欠片(サンビッド)の意識が綾芽に向いたのを確認してから、皐はレファメイシャンに駆け寄った。そして、無理やりハッチをこじ開けて中を確認した。


「おい!蓮!!無事か!?」


 中を覗くと、頭から血を流した猫柳が座ったままぐったりとしていた。皐は鼻の前に手をやり呼吸の確認をし、心臓に耳を当ててみた。


「…………生きているの、か……」


 皐は安堵した。どうやら猫柳は意識を失っているだけのようだ。猫柳は生きているということを夏樹に伝えた。夏樹はトレーラーの人々に伝え、その場にいる全員が胸を撫で下ろした。


「蓮!蓮!起きろ!」


 猫柳から返事はない。レファメイシャンを操縦出来るのは猫柳だけだ。もしかしたら皐にも操縦出来るのかもしれないが、謎のミサイル搭載機なのだ。安易な気持で手にするのは危険だろう。


「クソッ…………何か、何か手はないのかよ……!」


 皐は唇を噛み締めた。


「……そうか、電気があればいいのか……」

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