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紅蓮のレイズ〜太陽奪還説明書〜  作者: ちよこれいと
第二章
13/22

(2)ウソ

「凌……覚悟しなさいよ……」

「へっ!臨むところだ!!」

「今に、痛い目見せてあげるから……」


 綾芽は慎重になっていた。


「何度やったって結果は同じだがなっ」

「今度こそっ!!」

「無駄だ。俺に勝てるわけがねぇよ」

「うるさいわね。黙って」

「へいへい」

「………………ここだわ!!!!」


 ビヨ~~ン


「ぎゃっはっはっはっは!!おめぇ、何回目だよ~!」


 凌は綾芽に指をさして大笑いした。


「どうして~~~~」

「何を、している」


 葦井が綾芽たちの部屋へやってきた。


「白ひげ危機一髪ですよ」


 穴の開いているところに、小さな剣を刺していき、ハズレならば、真ん中の白ひげが飛び出すという、アレである。

 夏樹は呆れていた。それもそのはず、もう10回以上も繰り返ししているのだ。そして、全て凌が勝利している。


「はぁ〜。お前たちは何をしているんだ」


 葦井も呆れた。


「だって!何回しても私がハズレを引くんですよ!!」

「逆に当たりだろ?」

「凌!うるさい!」

「葦井さんは、どうしてここへ?」


 二人の白ひげ危機一髪を見物していた皐が聞いた。


「あぁ、お前たちにな、新しい作戦を持ってきた。そんな事をする暇もなくなるほどのな」

「作戦?」

「あぁ、そうだ。機動部隊との合同作戦だ」


 少しの間が、全員の動揺と、驚きを表していた。


「機動部隊との合同作戦!?」


 みんなは声を揃えた。


「あぁ、綾芽や皐、凌はこの前言っただろ?」

「いや、聞きましたけど!こんなに早く行われるなんて聞いてないです!」


 葦井の発言に、綾芽がすかさず反論した。


 サザンクロスの一件から数週間が経った。その間にも、人探しから、村の護衛に、太陽の欠片(サンビッド)の駆除まで多数の問題を解決してきた。しかし今回は、機動部隊との合同作戦が行われる。今までのように簡単には終わらなそうだった。


「合同である意味あんのかよ?だって、あいつらだって、宝玉と同じぐれぇの武器持ってんだろう?」


 凌は面倒くさがった。


「確かに、そうなんだがな」

「葦井さん、作戦の詳細は?」


 夏樹が問いかけた。


「あぁ、それなんだが、今からその作戦会議が行われる」

「今から!?」

「そうだ。だから、呼びに来た。それなのに、お前たちは、白ひげ危機一髪をやっているから……」


 葦井は思い出してまた呆れた。


「全員出席、な?」


 笑顔で命令してきた葦井だったが、なぜだろう。いつもの葦井ではない。恐怖心や、緊張が伝わってくるような物言いに、みんなは息をのんだ。


「全員、第3会議室に集合だ」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「失礼します。第202期生、6名入ります」


 ここは機動部隊領域、第3会議室。適合者が機動部隊領域に足を踏み入ることは、そうないことである。

皆は、緊張していた。


「どうぞ、こちらへ」


 機動部隊の一員であろう女性が、席まで案内してくれた。


「すまないね、わざわざ来てもらって」


 声を発したのは、総司令官である雛罌粟だった。


「いえ、お構いなく。わざわざ、雛罌粟総司令官にお越し頂けるとは、驚きでした。こちらこそあなた方と共に行動出来ることに、感謝しております」


 葦井は丁寧に答えたが、ピリピリとした空気だ。お互いが探りあっているようにも見える。合同作戦だというのに、まるで敵同士のようだった。


「初めまして、私はこの作戦の指揮を取らせて頂きます、青木と申します」

「同じく、この作戦に参加させて頂きます。山吹(やまぶき)と申します」

「お二人とも、宜しくお願いします」


 青木大佐は短髪黒髪でとても真面目そうな印象を受ける。山吹少佐は眼鏡の似合う、気が強そうな女性だった。


「うむ、それから紹介しよう。機動部隊の第一部隊隊長、猫柳蓮(ねこやなぎれん)だ」

「宜しく、Sランクさん。お逢いできて光栄ですよ」


 髪は少し長めの金髪ストレートで、見た目はすごく感じの良い人間に見えるが、言葉に何か裏があるような印象を受ける、そんな話し方だった。猫柳は葦井への挨拶はそっちのけで、綾芽に興味津々のようだ。


「……こちらこそ、宜しくお願いします。第一隊長さん」


 笑顔で返していたが、皆は気づいていた。綾芽の腹の虫が疼きだしていることを。


「それからもう一人、前第一部隊所属、現在は訳あって小部隊の隊長を勤めてもらっている、神崎百合(かんざきゆり)だ」

「宜しくお願いします……」


 少し気まずそうに挨拶した神崎百合は、茶髪にウェーブがかったロングヘアーを、右側に寄せて一つに結び、それを前に垂れ流している。とても大人しそうな印象だが、目には自分の意志が溢れているようで、しっかりとした印象も持つ。


「こちらこそ」

「あぁ、あと、彼女はアシスタントの(くすのき)だ」


 おそらく総司令官の側近であろう、楠と呼ばれる女性が、総司令官の側に立っていた。先ほど、綾芽たちを席まで案内してくれて女性だった。眼鏡をかけていて、黒髪の清潔感のある人だった。


「宜しくお願い致します」

「こちらこそ」


 適合者と機動部隊は昔から考えの対立が激しかった。宝玉という特別な力を持ち、戦うことが可能な適合者。一方、戦いたいが、特別な力は持っていない機動部隊。お互いが世界を救いたいと思う気持ちは同じなはずなのだ。敵と同じ力を持ち、それを利用しようとしている適合者を許せないし、普通の生活が出来るのにも関わらず、戦場に足を踏みいれる、いわゆる"人間"を理解出来ないのだ。


「じゃあ、楠くん、始めてくれ」

「はい、了解しました」


 楠は電子ボードの前に立ち、淡々と説明し始めた。


「今回の作戦の詳細を、私からご説明致します。まず、本件の目的は、この最新型ミサイル"S-09"が太陽の欠片(サンビット)に通用するかどうかです」

「ミサイル?」

「はい。このミサイルは、今までのとは比べものにならないほどの威力に加え、的に命中すればもちろん爆発しますが、爆発後、中に仕込んである小型ミサイルも同時に発射されます」

「つまり、一度で二度おいしいっていうやつか?」

「凌、何か、言い方変だヨ」


 楠は咳払いを一つしてから、説明を続けた。


「まぁ、そういう言い方もあるのかもしれませんが……」

「つまり、より沢山の太陽の欠片(サンビット)を倒せるようになったと?そういうことでしょうか」


 このままでは場の空気が悪いと判断した夏樹がすかさずフォローした。


「その通りです。ですが、今回は大型な太陽の欠片(サンビット)がターゲットです」

「大型?」

「はい、近頃、大型の太陽の欠片(サンビット)が多く見受けられます。そのための対策でこのミサイルが作られました」

「なるほどね」


 綾芽は腕組みしながら納得した。現に、サザンクロスの一件でも大型太陽の欠片(サンビット)を退治している。他の場所でも多々目撃情報が寄せられているのだ。


「我々、機動部隊は、このミサイルを搭載した最新型機体『レファメイシャン』と『ヒーヴァル』で応戦します。ですので、適合者の方々には機動部隊の援護をお願いしたく思っております」

「援護って……。俺たちが後衛ってことかぁ!?」

「はい、そうです。テスト段階ゆえ、どのようなアクシデントが起こるかわかりません。もしもの事態に備え、適合者の方々には後衛に回って頂きます」

「ちょっと待ってください。敵は太陽の欠片(サンビッド)ですよ?機動部隊が前衛なんて危険過ぎます」


 あまりにも無茶苦茶な作戦内容に、夏樹は思わず口をはさんだ。


「いやぁ、それは問題ないね」


 猫柳が少し長めの髪の毛を触りながら言った。


「俺たちだって普段から太陽の欠片(サンビッド)を相手しているんだ。いつも前衛だけど?」

「それはそうですが、システムダウンや想像以上の太陽の欠片(サンビッド)の襲撃など様々なことが考えられます」

「そのための君たちではないのかね?」


 雛罌粟総司令官は咳払いを一つした。


「まぁ、こちらでのテストは完璧に成功しているのだ。何も君たちにお願いする必要は、私はないと思っているよ。だがしかし、万が一の事態も考えられる。この世の中に絶対はないからね?」


(つまり、俺たちに見せつけるためか。それとも、この実験を世間に広め、自分たちの地位を向上させたいのか……)


「分かりました。私たちは後衛で、もしもの事態にならない限り、手を出しません」


 夏樹が考えていると、今までずっと黙って話を聞いていた綾芽が言い切った。


「ほぉ、やはりリーダーは話が分かるねぇ」

「ちょっ、綾ちゃン」

「いえ、こちらとしては問題ありませんので」

「では、話を進めます。今回レファイメイシャンに搭乗するのが猫柳隊長で、ヒーヴァルに搭乗するのが神崎小隊長です。そして、全体の指揮を取るのが青木大佐になります」

「わかりました」

「みなさん何かご質問は」


 少しの間が部屋を包んだ。


「では以上で作戦の詳細説明を終わります。なお、作戦決行日時は3日後です。みなさん宜しくお願い致します」


 総司令官や楠が部屋を後にする中、猫柳は意味深な笑みを浮かべながら話しかけてきた。


「よう、皐。久しぶりだな」

「あぁ」


 皐は目を合わせずに小さな声で返事をした。


「何だよ連れないなぁ。共に戦った仲間だろ~?」

「…………そんなときもあったな」

「チッ。相変わらずの態度だな」


 猫柳は皐に近づき耳元でささやいた。


「態度も相変わらずだが、こっちでのお前の評判も相変わらずだぞ」

「……」

「猫柳君、少し話があるのだけど?」

「や、山吹大佐!!」

「あら、お話し中?」

「いえっ!大丈夫です!」

「そう、ちょっといいかしら?」


 山吹大佐は皐たちに小さくお辞儀をしてから颯爽と歩いて行ってしまった。猫柳はその後を追いかける。


「なに、あレ。デレデレしすギ」

「あいつは山吹大佐に好意を持っているからな」

「皐、猫柳って人、知り合いなの?」

「あぁ、知り合いっていうか、元同僚。同期だからな」

「そう。ライバル?」

「綾ちゃン……ストレートすギ」

「さくら、いいんだよ。向こうはそう思っているのかもしれないが、俺は思っていない」

「どうして?」

「あいつは性格は悪いけど、操縦の腕は確かだ。俺なんかが敵う相手じゃないよ」


 皐は笑っていたが、少し悔しそうでもあった。


「た、隊長っ」


 すると、先ほどの会議に参加していた、神崎が皐に呼びかけた。


「……神崎か。俺はもうお前の隊長じゃないぞ」

「わ、わかっています!でも……」


 神崎は少し言いづらそうに口を開いた。


「私の中で一番隊隊長は、今でも雛罌粟隊長です!」

「あなたは?」

「あ、すみません。雛罌粟隊長と共に戦っていた、神崎と申します」

「隊長……って、おめぇ!元一番隊隊長なのか!?」

「うそ!じゃあ、猫柳の前任!?」


 凌と綾芽は驚きを隠せなかった。


「まぁ、そうだけど。ちなみに神崎は副隊長だったよ」

「そうなの!?どうして言わないのよ!!」

「いや……聞かれていないし……」

「言えよー。やっとさっきの猫柳が突っかかってきていたのが理解出来たぜ」

「つまり、皐がいなくなってから猫柳は隊長になれて、大喜びしているってことね」

「そう考えたらイライラするわね~」

「おいおい、お前ら……」

「あの~一応猫柳隊長も隊長なのですが……」


 さっきから猫柳のことを呼び捨てにしているのを神崎は気にしていた。


「あと……隊長」

「ん?」

「…………奏多のこと……何か情報はありませんか……?」

「……神崎」


 俯きながら小さな声で聞いた神崎を皐は慰めた。


「悪いな。こっちに来ても何も分かっていないんだ」

「そう……ですか……」

「奏多って?」

「あ、いえ!大丈夫です!みなさん3日後、宜しくお願いします!」


 深々とお辞儀をすると、逃げるように去ってしまった。無理に笑っていた様子はとても痛々しかった。


「ちょっと、皐。奏多って誰よ」

「え?あー……」


 皐はなぜかさくらを見た。すると呆れたような素振りを見せてから、さくらが説明し始めた。


「奏多っていうのは、神崎さんとか皐とかと同じ第1部隊所属だった人のことだヨ」

「へぇ~。行方不明なの??」

「まぁね。皐と一緒にこっちに来たんだけれど、消息不明なんダー。それで神崎さんは今でも捜しているノ」

「そう……。じゃあ、さくらは第1部隊じゃないの?」

「え?あ、私は……そノ……そうだよ!私は、そう!第2部隊だったんダ!ね?皐」

「お、おおう、そうだ。確かそうだった!」


 明らかに動揺していた。


「おめぇら、なんか変じゃね?」

「怪しいわ」


 凌と綾芽は疑った。


「変なんかじゃないヨ~。少し前の話だったから、忘れてただケ!いやぁ~それにしても、ここ懐かしいなァ~!よくここで作戦会議したよヨ~」

「そうだな~!」


 さくらと皐は遠くを見つめた。


「……まぁ、いいけど」


 疑いながらも、綾芽はあまり気にしないことにした。


「さっ、会議も終わったし、帰るか」

「そうだな」


 凌と夏樹は歩き出した。


「あ!私!じいちゃんのところに顔出してくるネ!!」

「おぉ、分かった」


 さくらはあっという間に行ってしまった。


「じいちゃん?」

「さくらがすごくお世話になっていた、機械いじりの天才じいさんだよ」

「へぇ~!」

「俺たちは先に戻っていよう」


 皐は綾芽といづみを促した。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「じーいーちゃーンー」


 地下の倉庫には、整備中の機体や待機中の機体が保管されている。ここから出動するのだ。


「あれ、いないのかナ……。じーいーちゃー」

「聞こえておるわぃ」


 ある機体の下から声がした。


「じいちゃん、こんなところにいたノカ!」

「お前さんが来ると騒がしいのぅ」

「ごめんね。ねぇ…………わかル?」

「分かっておる。どんな姿になろうとわしの目は誤魔化せんぞ。お前さんはお前さんだ。奏多……」


 じいちゃんこと、松平元(まつだいらげん)は、小さく名前を呼ぶと、さくら=奏多の手をぎゅっと握りしめた。


「……じいちゃン?」

「……本当に心配ばかりかけよるのぅ」

「……ごめんね。本当はもう、ここに来るつもりはなかったんダ……」


 さくらも元の手を握り返した。大きくてしわしわで、いつも少し汚れているのが元の手だ。


「そうじゃろうな」

「ねぇ、百合の乗る機体は、どレ?」

「百合ちゃんは……ヒーヴァルだったかのう?ならば、あれじゃ」


 元が指差す方を見上げると、赤ベースの色合いに、背中にはおそらくミサイルを装着するのであろう装置がセットされていた。


「ねぇ……あれ、危なくないノ?」

「ミサイルかぃ?搭乗者には何も影響はない、はずじゃ」

「はずって……百合が乗るんだヨ!!」

「分かっておる、そんなにカリカリするな」

「でモ!」

「大丈夫じゃ。誰が作ったと思っておる」

「……じいちゃン……だけど……」

「それに、お前さんが守るのであろう?今回の作戦とやらは」

「……うン」

「それともなにか?違う部署になったら、もう守らんのか」

「そんなことないヨ!!」

「その気持ちがあれば大丈夫じゃ」

「元さ~ん、この前の話だけど……」


 さくらが元と話をしていると、そこへ百合がやってきた。


「おぉ、百合ちゃんか。百合ちゃんの機体ならもう直っておるぞ」

「ありがとう。すぐには使わないから、時々メンテナンスお願いしますね」

「もちろんじゃ」

「あら……あなた……さっきの会議で……」


(まずいよっ!私がここにいたら絶対に怪しいじゃんカ!)


「え?あ、あぁ!神崎小隊長さン!」

「こんなところでどうしたのですか?」

「えぇ?あー、えーと、その」

「迷子じゃよ」


 慌てふためくさくらを見るに見かねた元は救いの手を差し伸べた。


「そう!迷子になっちゃってさァ~」

「まぁ、そうだったのですか!」

「ついでに立ち話しておるところへ百合ちゃんがやってきたのじゃよ」

「そうだったんですね」


 百合は少し考えた後、閃いたように話し出した。


「そういえば!先ほど隊長たちを見かけました。宜しければ、出口まで案内しましょうか?」

「えぇ!?あー」


(待ってヨ……ここで百合ちゃんと2人きりになるなんて……)


「百合ちゃん、連れてってあげなさい。わしゃ、仕事があるからのぅ」

「ちょ……じい……」

「聞きたいこと、あるじゃろう。遠まわしに聞きながら帰りなさい」


 元はさくらの耳元で小さく囁いてから、また機体の下に潜り込んで作業を始めてしまった。


(なによじいちゃん、わかったような口聞いちゃっテサー)


「では、行きましょうか?」

「あ、うん。ごめんね」

「大丈夫ですよ。ここ、ややこしいですものね」


 笑顔で快く案内を受け入れてくれた百合を横目で見ながら、さくらも歩き出した。元機動部隊だということは百合には伏せてある。


(やばい……何か話さないト……)


 そう思いながらも沈黙が続いた。さくらは歩きながら百合の顔をちらちらと見ていた。久しぶりに会うのだ。少し見とれてしまっていた。


「何か?」


 さすがに気が付いた百合が小首を傾げながら聞いてきた。


「いやっ、なんでもないでス……」


 妙な空気が二人を包んだ。その空気に耐えきれなかったかは分からないが、百合が控えめに聞いてきた。


「あの……、何度もしつこいとは思いますが……。さくらさんも、奏多……いや、暁奏多(あかつきかなた)を、どこかで見かけたり、噂を聞いたりしたことはありませんか?」

「…………」


 今にも泣きだしそうな顔で訴えかけてくる百合に、さくらは言葉を詰まらせた。


(百合……もう、あきらめてくれヨ……)


「……ごめんね。分からないヤ」

「そう……ですよね……」

「……その人のこと、どうしてそんなに捜しているノ?」


 さくらは試しに聞いてみた。


「……本当は、私が宝玉を寄生させるはずだったんです。でも、奏多の方が適合率が上だからという理由で、急きょ決まって……。私、彼に……。奏多に、ありがとうもさようならも言えてないんです」


 2人は出口へと向かいながら話を続けた。


「そっか……」

「隊長と一緒に行ったって聞いたから、てっきり同じところに配属になっていると思っていたのですが、違ったのですね……」

「う~~~~ん、あ!そうだ!思い出しタ!!」

「え?」

「なんか1人、どこかに長期滞在する人がいるっていうのは聞いたことあるヨ」

「本当ですか!?」


 百合の悲しい顔を見ていられなくなったさくらは、つい嘘をついてしまっていた。どうせ自分の存在自体が嘘なのだ。さらに嘘を重ねたところで、結果は同じなのかもしれない。


「……うん。でもね。その人、長期滞在中に行方不明になったとかなんとカ……」

「え………………」

「でもその人の宝玉は戻って来てないんだよネ?」

「はい。白い宝玉でした。それははっきりと覚えています。どこを探してもその宝玉は戻って来ていませんでした……」

「じゃあ、まだ生きている可能性が高イ」

「はい!だから私は捜しています!周りの人たちには呆れられてますけどね……」

「そんなことないよ。信じる気持ちって大事だと思うナ……」


(何をいっているんだろう……。こんなことを言ったって、誰も救われないのニ……)


 さくらは段々心が痛んできた。やはり嘘なんてつかなければよかったのか。最初から名乗り出たらもっと楽だったのだろうか。名乗り出る勇気なんてなかった。とにかく百合さえ無事でいてくれれば、それでよかったのだ。後のことは、後で考えればいいと思っていた。


「ありがとうございます!さくらさんとお話し出来て本当に良かったです。あの……もし、良かったら……また、私のお話し聞いてくれませんか?」

「え?あ、うん!もちろんダヨ」

「あと、私のとこは百合で大丈夫ですよ。私も勝手にさくらさんって呼ばせて貰っているので」

「あぁ、うん。分かっタ。じゃあ、百合ちゃんって呼ぶネ!」

「ありがとうございます!あ、出口はそこを右に曲がったところです。ごめんなさい。私はこっちに用があるので」

「うん。分かった。こっちこそ案内ありがとウ」

「それでは、また」


 百合は出口とは反対方向に歩いて行った。


「さくらさん……カ……」

「何、へこんでいるんだ?自分で選んだ道だろ?」


 さくらが落ち込んでいると、皐が頭をポンっと叩きながら慰めてきた。


「皐!まだ帰ってなかったんダ!」

「あぁ、お前らのことが心配でな。案の定出くわしてたんだな」

「うぅ……。そうなんだヨ」

「バレなかったか?」

「……多分、大丈夫なはズ」

「ははっ、まぁ、もしもバレたとしても、神崎なら受け入れてくれると俺は思うけどな」

「……うン」

「さぁ、帰るぞ」


 さくらはもう一度振り返った。機動部隊の人々が忙しそうに行き交うなか、もちろんもう百合の姿はなかった。今のままでいい、これでよかったのだ。そう言い聞かせながら、さくらは皐の後ろを歩いて行った。



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