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紅蓮のレイズ〜太陽奪還説明書〜  作者: ちよこれいと
第二章
12/22

(1)キセイガタ

『聞コエルカ、龍ノ加護ヲ受ケルモノヨ』

「ん…………?」


(何だ?ここは……どこだ?)


 夏樹が目を開けると、真っ白い世界が広がっていた。そこには何もない、ただ目の前に青龍様が立っているだけで、何もなかった。


『夏樹ヨ。オ主ニコレヲタクソウ』

「どうして……?」

『必ズヤ、オ主ノ役ニ立ツトキガクルデアロウ。ソノトキマデ、シッカリト身ニ着ケテオキナサイ』


 夏樹は青龍から、縦に長い楕円形の青い石が紐に吊るされた、ペンダントのようなものをもらった。それは独りでに夏樹の首にかけられた。

 最後の青龍の言葉がぼやけて聞こえて、青龍の姿もぼやけていた。


(お守りかなにか、なのか……?)


 疑問に思いながらいも、夏樹は再び眠りについた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ちょっと、優しく運びなさいよ」

「あぁ?わかってるよ、んなこと」


 サザンクロスの一件は無事に解決し、LRHに帰還した皆は、自分たちの部屋の準備が出来たということなので、他の部署に所属していたものは、荷物運びに追われていた。

 そして凌は夏樹をベッドまで運んでいた。


「なっちゃん起こさないようにネー」

「わかってるっての!」


 何が起こるか分からない世の中になってしまったため、一人部屋は危険とみなされ、二人部屋が3つ用意されているそうだ。ちなみに部屋割りはすでに決められており、綾芽といづみ、凌と夏樹、そして機動部隊のときからという理由で皐とさくら、となっている。


 ガチャ


「おおー、なかなか広いじゃねぇか」


 凌は部屋に入ると、小声で感想を言いながら夏樹をベッドに寝かせた。


「ふぅ」

「あ、あのぅ…………」

「っ!」


 誰もいないはずの部屋から声が聞こえて、大きな声で叫びそうになった凌だったが、夏樹が眠っているので、我慢した。声にならない声を発し、後ろを振り返ると1人の女性が立っていた。


「あんた!!こんなところで何してんだよっ!!」


凌は静かに叫びながら聞いた。


「す、すみません……。私は、システム課所属の星野茉希(ほしのまき)です。夏樹君の荷物を運びに来ていまして……」

「あぁ……そういうことか……」


 夏樹は以前はシステム課に所属していた。その時によく一緒にいたというのが星野茉希だった。


「よく、一緒にお仕事させてもらってて……。まぁ、私がいつも足を引っぱってばっかりだったんですけどね……」

「そうか」

「夏樹君が、倒れて運ばれてきたと聞いたときは、びっくりしました……」

「大丈夫だ。眠っているだけだからな」

「はい……。安心しました……」


 本当に心配していたのであろう。優しい顔で夏樹を見つめていた。


「あ、いけない!まだ荷物が残っていたんだった!」


 そう言うと、慌てた様子で部屋から出て行った。


「騒がしいヤツだなぁ」


 凌がつぶやくと、夏樹が寝返りをうった。


「ん…………」


 寝返りをうって、横に向きを変えた夏樹は、凌と向い合う形になった。


「…………可愛いじゃねぇかよ」


 凌はまた、つぶやいた。そして、我にかえった。


(って、待て待て待て!俺は何を言っているんだ!よく見ろよ!男だぞ!危ねえ……)


 心の中で言い聞かせて、あらためて夏樹を見た。眼鏡を外しているせいか、起きているときよりも幼く見え、少し丸まって寝ているところはまるで女の子みたいだった。起きているときには想像できない寝顔の夏樹にまた、見とれてしまっていた。


「へぇ~、刑務所戻りだと、そっちも対象になるのか」

「っ!!」


 部屋の片づけが一通り終わった皐がいじわるそうな顔をしながら言うと、凌はすぐに夏樹から離れた。


「やだぁ、そういうことなノ~??まぁ、毎日むさい男共と生活していたら、そうなるのかなァ~?」

「この部屋割……不安ね」

「おおお、おめぇらっ!いるならいるって言えよっ!」


 慌てふためく凌を見て、さくらと綾芽はさらにからかった。


「みんな~、そんなにからかわないの~」


 夏樹の様子を見ながらいづみが凌をフォローした。


「え~、だって~。ちょー慌ててるシ」

「うるせぇっ、ちょっと驚いただけだろうが!」

「でも、夏樹を見すぎだっただろ?」

「……それは、まぁ……」

「……やっぱり、この部屋割……不安ね」

「オイ、コラ。綾芽、いいかげんにしろっ」

「はいは~い」

「いづみ、夏樹の様子はどうだ?」


 綾芽と凌の喧嘩はいつものことなので置いといて、皐はいづみに聞いた。


「大丈夫よ~。よく眠っているわ~」

「そうか、よかった」

「あっ、みなさん、お揃いで」


 最後の荷物を運び終えた茉希が、挨拶に来た。


「あなたは?」

「私は、システム課所属の星野茉希と申します。以前夏樹君とよくお仕事をしてまして……。今回、夏樹君が倒れたと聞いていたので、夏樹君の荷物を運んでいました」

「そうなんだ~。ご苦労サマ!」

「あ、いえいえ、私にはこれくらいしか出来ないので……。それよりも、みなさん。お疲れでしょう?お風呂が沸いていますよ。ゆっくりしてきてはどうでしょうか??」

「そうだな。帰って来てから荷物運びで動きっぱなしだったしな」

「あぁ。ゆっくりさせてもらうとするか」

「そうね」

「う、うン……」

「では、行きましょうか~」

「さくら?どうしたの?」


 あまり乗り気ではないさくらを綾芽が気づかった。


「いや、私は、まだいいや」

「……どうして?」

「あの~そノ~……ほらっ!なっちゃんの見張り番いるでしょ?なっちゃんにもしものことがあったら、さ!いけないシ!!」


 まるで自分に言い聞かせるようにさくらは言った。


「……それもそうだけど」

「わかったわ~、じゃあ、私が戻るまでなっちゃんのこと見ててくれるかしら~?みんな、行きましょう~」


 何かを悟った様子でいづみは頼み、みんなを風呂場へと促した。


「うん!まかせて~!ゆっくりしてきネ!!」


 少し不思議そうにしていだが、茉希を含むみんなと一緒に綾芽も風呂場へと向かった。


「ふゥ……」


 みんなが部屋を出たのを確認してから、さくらはため息をついた。


「危なかったな」

「うん、そうなんだよ……って、あレ!?」


 夏樹が目を開けて、さくらに話しかけていた。


「なっちゃん起きてたノ??」

「あぁ。このやかましい中で寝られる人はそうそういないと思うがな」

「……ごめんネ」


 さくらは苦笑いをした。


「別に大丈夫だ、それよりも……」


 夏樹は少し間を開けてから話し出した。


「さくら、お前α寄生型なのか?」

「ギクッ。何故それヲ」

「いや、風呂を嫌がる理由はそれしかないかなって」


 寄生型には3種類ある。1つはα型と呼ばれており、宝玉を体内に寄生させることによって、性別が変わってしまうという特徴を持っている。女ならば男に、男ならば女に。2つ目はβ型と呼ばれており、年齢が変わってしまうという特徴を持つ。簡単に言うと、子供なら大人へ。大人なら子供へ。お年寄りから子供へ、とういう風に適合者個人によってさまざまなのだ。そして、3つ目はX型と呼ばれており、α型とβ型の両方の特徴を持つ、性別と年齢が変わってしまうのだ。体への負担が一番軽いのがβ型、次にα型、そしてX型となる。世間一般的には、α型かβ型の適合者が多い。

 つまり、宝玉を体内に寄生させてしまうと、自分が自分ではなくなってしまうということだ。寄生させる時点でもう死は確定しているのだが、本当の自分という意味では、この時点でもう死んでいるも同然なのである。


「……なっちゃんも、だよネ??」


 さくらは恐る恐る聞いた。


「あぁ、まぁな」

「なんか、わかっちゃうよネ。寄生型同士ってサ」

「そうだな」


 性別が変わってしまうα型は、お風呂に入ることさえ容易ではないのだ。


「バレなきゃ問題ないけどさァー。後でバレたら、綾ちゃんに何言われるカ……。想像しただけで、恐ろしいヨ」

「確かにな」


 あからさまに怯えているさくらを見て、夏樹は苦笑した。


「なっちゃん、笑いごとじゃないかラ!」

「はいはい、悪かったよ」

「それよりも、体は大丈夫なノ?」

「あぁ、問題ない。寝たら大丈夫だ」

「そっカ……」


 そう言うとさくらは何か聞きたそうな素振りを見せた。


「……なんだよ、その目は」

「いや……その……」

「何か聞きたいならはっきり言えよ」

「……うん。あのね、寄生型ってサ、宝玉発動させたら、髪の毛と宝玉を寄生させているところが、宝玉色に変色するでショ?サザンクロスでなっちゃんが町を守ってくれていたとキ、変色していなかったなぁ~って思っテ……」

「あぁ、それは、寄生型ってばれないようにしているからだ」

「ばれないようニ?」

「そう。寄生させているところは隠しているし、少し変わった方法で寄生させているから、髪の毛の変色はないんだ」

「へ、へェ~」


 少しの間沈黙が続いた。


「まぁ~、なっちゃん起きていたの~」


 すると、お風呂を終えたいづみが、夏樹の様子を見に部屋へやってきた。


「あぁ、もう大丈夫だ」

「そう~。それならよかったわ~。さくらもありがとう~」

「え?あ、ウンっ」

「さくら、多分、いづみにはばれているぞ」

「え…………」

「ふふふふ。寄生型のことかしら~?」

「なっ!!なんデ!?」

「特徴を知っている人には分かるよ」

「そうね~」

「そうなんだネ……」

「さぁさぁ~、みんなもお風呂終わったし、2人も入ってきなさ~い」

「あぁ」

「そうだネ」


 夏樹とさくらはお風呂場へと向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 綾芽、皐、凌の3名お風呂を終え、部屋へ戻ろうと歩いていた。


「あ~!さっぱりした!やっぱりお風呂は最高ね!」

「そうだな」


 皐は同意した。しかし、その直後、皐の顔色が変わった。


「皐……?」

「なんだぁ?どした」


 皐の見つめている方向に目をやると、そこにはたくさんのボディーガードを連れた1人の男性が葦井さんと並んで歩いていた。


「おぉ!お前たち!丁度いいところに」


 綾芽たちのことに気がついた葦井は、呼びかけた。


「なんですか?私たちもう休みたいんですけど」


 綾芽は、思いっきり嫌な顔をしてみせた。


「オイオイ、この方の前でそんなことを言わない」

「はっはっは、構いませんよ。口答えできるのは、元気な証拠ですから」

「いやいや、しかし……」

「大丈夫です。君が、長谷川綾芽さんかね?」

「……はい、そうですけど」

「綾芽、この方は、今度一緒に合同作戦を行う機動部隊の総司令官様だ」

「その言い方はやめたまえ」

「総司令官!?」


 綾芽と凌の声が揃った。総司令官と呼ばれている男は、白髪混じりの短髪に、目鼻立ちがはっきりとしている。体型は筋肉がしっかりとついていることが服の上からでも分かるほどにガッシリとしている。胸には機動部隊の総司令官である証のバッチがついていた。


「君達が今回の…………」

「はい!第202期生リーダーの長谷川綾芽です!」


 綾芽は態度を改めて、自己紹介をした。


「そうか、まぁせいぜい、命を落とすことのないようにな。そんな若い年でご苦労なことだな。何もココに来なくても、世の中には他にも楽しい仕事があるというのに」

「……はい、確かにそうですが、私はこれを仕事だと思ったことは一度もありません」

「ほう、では何だと思っているのかな?」

「まだ私たちは、仕事が出来る、普通に生活が出来る環境で生きているわけではありません。まずは、自分たちの住む世界を手に入れることからしなくては。仕事のことを考えるのはそれからです」

「………………葦井くん」

「………はい」

「この娘さんは、おもしろい子だねぇ」

「……ありがとうございます」

「では、私はこの辺で、詳しい作戦等は、また連絡させるから」

「はっ!」


 葦井は敬礼した。それを見た総司令官は、葦井の肩をポンと叩きながら、綾芽たちのいる方向へ歩いて行った。綾芽と凌の横を少し微笑みながら通り過ぎ、そして皐の横で止まった。


「………………」

「っ!」


 皆には聞こえない声で何かを囁き、再び歩き出した。囁かれた瞬間、皐の顔は青ざめた。そして振り返り、そのまま歩き出した総司令官の背中を睨み付けていた。


「あの人、何?」


 総司令官の姿が見えなくなると同時に、綾芽が口を開いた。


「感じ悪っ」

「笑ってっけど、目が全然笑ってねぇな」

「そうね。……皐?」


 愚痴をこぼしながらも、皐の異変に気が付いた綾芽は、声をかけた。


「あぁ、大丈夫だ」


 こんな皐は見たことがない。明らかに怒りをあらわにしていた。


「葦井さん、次は機動部隊と、いえ、あの人と何か合同作戦があるのですか」

「…………あぁ、残念ながらな」

「そう……ですか……」

「何?皐、総司令官のこと知ってるの?」


 綾芽は疑問に思った。


「あの人は、雛罌粟総司令官。つまり、俺の父親だよ」

「えっ!?」

「親父かよ!」

「あぁ、会うのは久しぶりだったよ」

「ねぇねぇ!じゃあ、さっきは何て言われたの??」


 綾芽は親子睦まじい会話でもあったのかと、ドキドキしながら聞いた。


「ははっ、残念だけど、綾芽が期待していることは何もないよ」

「え?そうなの?」

「まだ生きていたのか、死ぬなら、親の顔に泥を塗る前に死んでくれよ、だってさ」


 皐は自嘲した。


「何よ……それ……」

「本当に親父さんなのかぁ?」

「ああ、実のな」

「ありえなくない?自分の子供に向ってさー!」

「あの人は、適合者を良く思わない人間だからな。だから違う形で、適合者を、宝玉を排除しようとしている。俺が機動部隊にいた時は、もう少しまともな父親だったよ」


 皐は遠くを見るように目を細めた。


「でもっ……」

「いいんだ。俺が親父を裏切ったから……。それに、物心ついたときからあの人のことを父親だと思ったことは一度もない。これで、いいんだよ」


 自分の代わりに今にも怒り出しそうな綾芽をなだめるためか、自分に言い聞かせるためなのかは分からないが、皐は諦めたように笑って見せた。



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