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スキルテイカーとチート売りの魔女  作者: 鰤/牙
episode 2 スキルテイカーと模造された天才
13/31

投稿間違い跡地

『かんぱーい!!』


 アイリスブランドのギルドハウス前では、祝勝会が開かれた。だが、そんなことはスキルテイカーにはまるで関係がない話である。その頃、スキルテイカーは魔女がある男に与えた『キノコ狩り』のアビリキィを奪取するべく、山奥で死闘を繰り広げていたのだ。

 神業チート化した男の戦闘能力は予想外に高く、さしものスキルテイカーも苦戦を強いられた。それでもなんとか相手を叩き伏せ、いつもの説教をしてからアビリキィを奪い取り、泣きじゃくる男を引っ張ってスキルテイカーは下山した。


「くそっ……! 腹が減った……!」


 別に腹が減るのは今にはじまったことではないのだが、スキルテイカーは悪態をつく。


 ところで、慢性的な金欠に悩まされているスキルテイカーだが、この日ばかりは懐にそれなりの余裕があった。川で溺れている子供を助けたところ、警察より金一封をもらえたのである。お金も大事ではあるが、スキルテイカーは人に褒められたり礼を言われたりすることが滅多になかったので、結構嬉しかった。

 そんなわけであるから、スキルテイカーも自分にご褒美をあげたい。ましてや、キノコ狩りの神業チートを叩きのめした後とあっては、空腹も増し増しであるというものだ。紅い双眸をした異形の怪物はギョロリと周囲を見渡した後、ようやく一件のレストランを見つけた。


 少しばかりこじゃれた外観の、洋食屋といったところだろうか。こうした店の相場がいくらなのかは知らないが、まさか懐に収めた5万円より高いということもあるまい。スキルテイカーはやかましい音を立て続ける腹を抑えながら、レストランの扉を開けた。


「頼もう」

「あぁ、お客さんすいません。今日はもうおしまいなんですよ」


 中にいたシュッとした姿のウェイター(イケメン)にそんなことを言われる。


「外の看板には、夜22時まで営業ってあったんだが……」


 スキルテイカーは、時計を見ながら抗議する。時刻はまだ20時すぎだ。店じまいには早すぎるのではないか。


「うちの店長が寝込んじゃいましてね……。自分一人ではさすがに店を回せませんし」

「そうか……。仕方がないな。久々に肉を食えると思ったんだが……」


 その時のスキルテイカーの落ち込みようは、なかなか見ていられないものではなかっただろうか。ボロ切れをまとった背中には哀愁が漂う。


「すいません」

「気にするな。巡り合わせの悪さというのはどこにでもある」


 スキルテイカーが外に出ていこうとしたとき、厨房の方から声が響いた。


「長治、お客さんか……?」


 ひょっこり顔を覗かせたのは、おそらく白人の血が混ざっているであろう彫りの深い顔立ちの男である。ただ、背はそんなに高くはなかった。しょぼくれた雰囲気が、余計に男を小さく見せている。

 長治というのはおそらくウェイターの名前だろう。イケメンウェイターは男に振り返ってから、再びスキルテイカーを見て、もう一度男の方に視線をやった。


「そうだけど、帰ってもらうぞ。セルゲイ、おまえはまず心の傷を癒せ」

「いや、せっかく来てもらったんだ……。食って行ってもらえ。一人分くらいなら、なんとか作れる……」


 察するに、この小さい男が店長といったところか。ウェイターとの関係はだいぶフランクなものであるらしい。

 長治と呼ばれたウェイターは、小さくため息をついてから、手近なテーブルの椅子を引いた。


「店長がああ言ってるんで、お客さん。どうぞ」

「なんか、悪いな……」

「いいんですよ。ただ、見ての通りかなりヘコんでるんで、変な料理が出てくるかもしれませんよ?」

「そのときはそのときだ。料理はなんでもいいから、とりあえず肉を出してくれ」






 およそ2時間後。


「そいつは酷い女だな、セルゲイ!」

「わかるか、スキルテイカー! 何も人がロールプレイを楽しんでるのにそこを突っ込んでくることはないだろう!?」


 ウォッカの入ったグラスを片手に、すっかり意気投合した二人の男がいた。店長セルゲイ自ら作ったビーフストロガノフはすっかり冷めてしまっているが、彼らは気にした様子もない。店内の片隅では、イケメンウェイター長治がため息をつきながら、本日の売り上げを計算していた。


「俺の知り合いにもな、一人ヒトの心をえぐるのが上手い女がいるんだよ。こーんなに小さいナリをしてだな……! 〝あなたは人の心がわからない(声マネ)〟とか言い出すんだよ! 人が一番気にしていることをだなぁ!」

「スキルテイカー、おまえは人の心がわからなくなんかないぞ。現に俺の心をちゃんと理解してくれている!」

「セルゲイ!」

「スキルテイカー!」


 小柄な白人ハーフの男と、全身にボロ切れをまとった異形の男は、互いにひっしと抱き合って感動にむせび泣いた。

 おそらく、彼ら自身溜め込んでいたものがあったに違いない。スキルテイカーもセルゲイも、それぞれが怒りをぶつけている対象はまったく異なっていたが、彼らは互いにそれを重ね合わせることによって、相手の気持ちと深くシンクロしていた。


 傷の舐め合いだと言えば、そうである。


 その晩、スキルテイカーは、ビーフストロガノフをカッ喰らいながら、魔女の愚痴を言いまくった。セルゲイも、誰のことかはわからないが、とにかく彼にトラウマを植え付けたであろう少女の愚痴を言いまくった。


 けっこうスッキリした。

誰だって間違いをするんだよ。そうだろ?

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