夢見る力
無数の雨粒が私の体に降り注ぐ。夏なのに雨粒は異様に冷たくて、私の体は芯から冷え切っていた。
きっと私はこのまま死んでいくのだろう。誰にも気付かれず、誰も悲しむこともなく。
それでいい。……そう思った。
短くはあったけど、それなりに楽しい人生だったと思う。特にやりたいこと、やり残したこともないし、会いたい人もいない。このまま死んだって別に構わない、そう思った。
そうして目を閉じた。
気が付くと、何だか体が暖かかった。ふわふわしたものにくるまれて、雲の中ってこんなかなって思ったりして。
微睡みの中、頭に感じた温もりに軽く身じろぎすると、優しい声が降ってきて。私はそこで目を覚ました。
目に飛び込んできたのは見知らぬ部屋で、黒と白がいっぱいな世界だった。驚いてキョロキョロと見渡せば、耳をくすぐる笑い声。
ふと顔を上げた先にいたのは、優しい瞳をした男の人で。彼は優しく私の頭を撫でた。
触れられた瞬間、ビクっと体が固まった。でも何度も撫でられると、だんだん気持ちが落ち着いてきて、同時に瞼が落ちてきた。
起きあがろうとした体の力もだんだんと抜けて、私はまた眠りに誘われていく。
朦朧とする意識の中、見上げた先にいた男の人に向かって、私は一言だけ言葉を発すると彼の膝の上で夢の世界へと旅立って行った。
【END】