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七撃目

 『金剛地秋宗(こんごうじあきむね)を抹殺する。その協力をお願いしたい。』

 金剛地というとこのパーティーの主催者であるあの恰幅のいい男のことだろう。その男を抹殺するとは随分穏やかじゃない。誕生日を血で染めるのも縁起が悪いだろうに。

 「今日のパーティーがどこか慌しい様子なのにはお気づきですか?」

 「慌しいというよりはきな臭い。

 それに―――、会食の場に相応しくない血と硝煙の臭いがする。これについては月見里月子(やまなしつきこ)も同じ事を言っていたんじゃないか?」

 「はい。つっこもここは危険だと言ってました。」

 月見里月子が気付いていたことは予想通りであるが、益々麗華の下を離れたことが理解できない。

 「危険だと知っていて何故月見里月子は麗華の元を離れた? 君を守るのが彼女の役目だろう。」

 俺の言葉に麗華(れいか)は首を振って首肯する。

 「つっこには成宮様の護衛をしてもらっています。陽光さんをお借りしている間にあの方の身に何かあってはいけませんから。」

 成る程。律儀にもあの小物(シンジ)の護衛を代わってくれているらしい。そう易々と死ぬ輩ではないのだから放っておけば良いのに。

 「なら、手早く済ませよう。俺は何をすればいい?」

 (つとむ)は話題に似合わぬ柔和な笑みを浮かべている。

 「抹殺とはいったが、あの豚(こんごうじ)の企みを阻止するだけだ。数は把握していないが、相当数の私兵が紛れ込んでいる。というよりもこのビル自体が奴の支配下にある。

 そこで君にして欲しいことは、事が起こった際に速やかに制圧して貰うことだ。

 事が事だ。先手を打つわけにはいかない。だが下手を打てばわたしたち全員皆殺しだ。

 わたしにも数名の護衛は付いているが、どうも心許ない。手を貸していただけるか?」

 「俺の仕事は成宮真二郎(なるみやしんじろう)の護衛だ。その対象が出席しているパーティーで流血沙汰が起こるというなら、言われずともやってやるさ。」

 「そうか。ありがとう。」

 「感謝は必要ない。礼も不要だ。」

 話は終わった。急ぐこともないが、何時までも主賓を独り占めしていては不審に思われる。

 サロンを出ようと立ち上がると麗華に呼び止められる。

 「あの、陽光さん。少し良いですか?」

 「何だ?」

 振り向くと麗華は顔を赤くして頬に手を当てている。一見すると羞恥を顔に表している様に見えるが、それがフリであることは理解できた。この少女は淑やかに見えて強かだ。その辺は東方譲治(ひがしかたじょーじ)の種から生まれただけあって清濁を飲み込むだけの度量がある。

 「えーーっとですね、この後あるダンスで御相手を御願い出来ませんか? いろんな人にせがまれて辟易していたんです。」

 「―――構わない。」

 彼女の申し出に何の意味があるかは分からないが、断る理由もない。


 それに月見里月子がいない手前、麗華の護衛はしなければなるまい。そのことに思い至った俺は甲斐甲斐しく麗華の手を取った。折角のパーティーだ。淑女をエスコートするのも悪くはない。

 手を添えた麗華は一瞬だけ(まばた)きをするが、すぐに微笑んで俺に身を委ねた。

 「中々お似合いですよ御二人とも。やはり美男美女は画になりますね。」

 麗華は微笑み、俺は呆れる。

 力の冷やかしには答えずサロンを出る。

 最上力と東方麗華という有名人と並んで会場に戻るのは少しばかり億劫だった。




 会場に戻った時に俺が第一に感じたのは不躾な視線と、そこに混じる射止めるような殺気だった。殺気の発生元はもちろん月見里月子であり、その視線は俺の腕を真っ直ぐに射抜いている。そこにあるのは麗華に絡められた左腕である。

 麗華の顔を一瞥すると彼女は更に微笑んで腕に身を預けてきた。それに比例して月見里月子の殺気も鋭さを増す。

 それに萎縮するような小さい肝っ玉は持ち合わせていないのだが、如何せん居心地が悪い。

 俺はそれとなく麗華の腕を解く。

 この後の護衛は月見里月子の仕事だ。俺が首を突っ込むべきじゃない。

 「それでは東方様、失礼いたします。」

 俺は麗華に礼をし、視界の隅に写ったシンジの下へ足を運んだ。よく見ればシンジが誰かを口説いている最中らしい。見た所まだ成人も迎えていない少女だ。高校生か、大学に入ったばかりといった所だろうか。父か母の付き添いで来たのかもしれない。

 それが上手くいっているのならば見逃したのだが、どうにも旗色が悪い。流石に友人を性犯罪者にするのは気分が悪いので二人の間に割って入る。

 「申し訳ありませんお嬢さん。わたしの連れが御迷惑をお掛けしました。」

 「い、いえ、迷惑などと、とんでもないです。」

 「それならよいのですが。何か困った事があれば御相談を。

 ほら行きますよ。」

 少女に詫びてからシンジの襟を掴んで引き摺っていく。

 「あ、あの! お願いがあります。」

 少女の声に俺は、シンジが余計な口を挟まないように、首を窒息しない程度に締め上げながら振り返る。

 「この後ダンスがあるのは御存知ですか?」

 「ええ、知っています。それで何か?」

 「もし宜しければ、わたしの相手をして頂けないでしょうか?」

 「ふむ、先約がいるのでその次になりますが、構いませんか?」

 「はい、お願いします。あ、わたしは最上識(さいじょうしき)と申します。わたしのことは識と御呼び下さい。」

 「星野陽光(ほしのようこう)と申します。わたしのことも陽光で構いません。

 もしや貴女は力さんの妹君ですか?」

 「はい。最上力はわたしの兄です。」

 「そうでしたか。彼に会ったらよろしく伝えておいて下さい。

 それではまた後ほど。」

 「はい、また後でお会いしましょう。」

 今度こそ識からシンジを引き離す事に成功した。十分距離を開けてシンジを解放する。

 隣で咽返るシンジは放っておいて先の会話を思い出す。尤も会話の内容ではなく、識と話す度に全身を刺すような殺気が飛んで来たことである。

 言わずもがな月見里月子の殺気であり、俺は大層目の敵にされていることが理解できた。

 麗華は月見里月子が俺のことを認めているとは言っていたが、あくまで実力を認めているだけで俺が憎らしい人間だということに変わりはないらしい。俺としても望むところだ。

 今回ばかりは護衛の仕事で互いに協力し合う形になっているため勝負はお預けだが、いずれ絶対に決着をつけてやることは決定事項だ。


 不意に笑みが零れた。

 偶然視界の端に月見里月子を捉える。あの女も笑っていた。

敬語が可笑しい点はスルーして頂けるとありがたいです。

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