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五撃目

 約束の日、俺はシンジに連れられてパーティーが行われるホテルへ参上した。警備員がそこかしこに見受けられるのはいつも通りだが、やけに慌しく連絡を取り合っている様は、シンジが言うように何処かきな臭い。

 そんな警備達を観察しながらシンジと並んで会場へ進んでいく。


 全体的に装飾過多が過ぎるこの建物は実に居心地が悪い。どうして金持ちはこうも飾り立てるのが好きなのだろうか。金メッキの皿とか成金趣味にも程がある。

 俺から言わせれば十分成金趣味のシンジも、度を越した装飾にげんなりしている。所々に、たぶん有名なのだろう画家の抽象画も飾られているが、統一性がなく、高い絵画を買い集めたという印象がひしひしと伝わってくる。

 自然と歩調は早まるが、シンジも同じようについてきた。

 「ひでぇモンだぜこれは。」

 誰もいないことをいいことに、シンジはいつも通りの口調で悪態を突く。

 それには同感であるが、それ以上にシンジがボロを出さないかが気になった。へまをした所でその帳尻合わせは自分でやるくらいの責任感は持ち合わせているはずなので、気にすることもないのだが、この口調のまま誰かに話し掛けでもしないかと期待している所だ。

 すると背後で人の気配がする。近くはないがそう遠くもない。これはもしやと思う俺の横でシンジは口調を直さず、大きめな声で独り言を言っている。もしかしたら独り言ではなく俺に話しかけているのかもしれない。

 「いや、ホント主催者は何考えてんのかねぇ。もう少し品位とかそーいうのを大事にしてだな―――。」

 足音は近付く。

 シンジは気付かない。

 俺は笑う。


 そして、足音の主が背後で微笑んだ。

 「本当にその通りでございますね成宮様。」

 「やっぱ、そう思うだろ? いい物といい物とを合わせたらもっといい物になるって訳じゃねぇんだ。大事なのはバランスだよバランス。

 ―――アレ?」

 漸く気が付いたのかシンジは足を止めて俺に視線を向けた。自然と俺の頬には笑みが零れる。

 「今の、お前だよな?」

 疑問というよりは懇願に近いものがあった。今の話に相槌を打ったのは俺であると信じたいという顔をしている。

 俺は微笑んで首を横に振る。シンジの顔が青褪める。

 錆び付いた歯車のようにぎこちなくシンジが背後に振り返った。

 シンジの顔が更に青くなる。俺の顔は血色を増していく。

 「御機嫌よう、成宮真二郎様。」

 そこにはドレスの裾をちょこんと摘んで御辞儀をする東方麗華(ひがしかたれいか)が立っていた。年相応のあどけない表情は実に愛らしく庇護欲を掻き立てるものがあったが、俺が真に興味を示したのはそちらではない。

 その隣に立つ黒髪の女。

 あの女だ。

 見間違えるはずがない。何度スコープの中に捉えたのかも数え切れないほど見つめていたのだから当然だ。

 無論、それはあの女も同様だろう。あの女の視線に一瞬だけ殺気が混じる。シンジや東方麗華などは気が付かないほどの極僅かなものだ。それでも、互いに理解しあうには十分すぎるアクションだった。


 シンジは挨拶を返すことも出来ずに口を間抜けに開けているだけだ。

 「初めまして、東方麗華様。わたしは成宮真二郎の友人の星野陽光(ほしのようこう)と申します。

 東方様は噂以上の御美しさで御座いますね。」

 「ふふふ、星野様もお世辞が御上手ですこと。

 こちらの彼女はわたしの友人の月見里月子(やまなしつきこ)です。どうぞよろしくお願いしますね。」

 東方麗華の紹介に合わせて月見里月子は頭を下げた。その間に俺から視線を切ることはただの一度もなかった。

 「お先にどうぞ、わたしは彼が落ち着くまでここにいるつもりですから。それと、今回のことはどうか内密に。」

 「ええ、構いませんよ。

 ご丁寧にどうもありがとう御座います。月子、行きましょう。」

 「はい。」

 未だ固まったままのシンジを置いていく訳にもいかず、先に二人を通すことにした。

 東方麗華はもう一度頭を下げると会場に向かって歩を進めていった。

 月見里月子は彼女の後を追わずに俺を見つめたままだ。

 「貴方にどんな目的があるのかは知らない。でも、彼女を傷付けようというなら容赦はしないわ。」

 そう忠告した月見里月子は東方麗華に呼ばれてその場を早足で後にした。

 やはり、思った通り退屈せずに済みそうだ。

 青褪めた顔で頭を抱え始めたシンジを尻目に、今後の展開に胸を躍らせた。

 それはきっと愉しいことになるだろう。

 逃げ出しそうになるシンジを引っ張って会場入りを果たしながら俺はそっと夢想した。

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